「二周目のダンジョン」
黒い門を抜けた瞬間、空気が変わる。
冷たい。
重い。
そして――前回よりも“鮮明”だった。
「……やっぱり違う」
ユウは小さく呟いた。
同じダンジョン。
同じ石壁。
同じ青白い火。
なのに、すべてが少しだけ“歪んで見える”。
まるで、世界がこちらを観察しているような感覚だった。
「おい天城」
朝倉が低い声で言う。
「さっきの話、本気なんだろうな」
「ああ」
ユウは即答する。
「仮面のやつが来る。今のままじゃ勝てない」
レナが不安そうに周囲を見る。
「じゃあ……どうするの?」
ユウは一度目を閉じた。
思い出すのは、前回の“死”。
仮面の一撃。
九条の銃すら止められた現象。
空間そのものを折る力。
(正面からは無理)
答えは出ている。
その時、神崎が小さく声を上げた。
「……反応、あります」
「どこだ」
九条が即座に構える。
「さっきと同じ方向……でも、数が増えてます」
ユウは息を吐いた。
(やっぱりな)
前回と同じルートではダメだ。
仮面は“学習する”。
ならこちらも変えるしかない。
「九条さん」
「なんだ」
「ルート、変えます」
九条は一瞬だけ沈黙した。
そして短く言う。
「理由は?」
「前はそのルートで“詰んだ”」
それだけで十分だった。
九条は頷く。
「採用」
「え、いいんですか!?」
神崎が驚く。
「こいつの判断は正確だ」
九条は淡々と答える。
「少なくとも“死んだ結果”を持っている」
朝倉が舌打ちする。
「便利すぎだろそれ」
だが文句を言っている余裕はない。
通路の奥から音が近づいてくる。
カタカタカタ……。
スケルトン。
だが前回とは違う。
数が多い。
「五体……いや、七体!」
神崎が叫ぶ。
「来るぞ!」
九条が先に撃つ。
パンッ!
一体目が崩れる。
だが次の瞬間。
ユウの視界に“未来の断片”が流れ込む。
(右三歩、斜め後ろから刺される)
「朝倉! 右!!」
「おう!!」
朝倉が即座に回避。
スケルトンの剣が空を切る。
「今だ!」
ユウは踏み込む。
前回よりも迷いがない。
身体が覚えている。
死の記憶。
ガァン!!
一本の骨が砕ける。
「……動きが違う」
レナが呟いた。
ユウ自身も感じていた。
同じ敵なのに、“見える”。
未来が少しだけ長くなっている。
(これが進化か……)
戦いながら理解する。
死に戻りはただのリセットじゃない。
繰り返すほど、情報が“蓄積”していく。
「右奥、次来る!」
レナの声。
ユウは即座に対応。
斜めに回避しながら一撃。
スケルトンが崩れる。
「やれる……!」
朝倉が叫ぶ。
だがその瞬間。
神崎が青ざめた。
「ま、待ってください……!」
「どうした!」
「この先……前回と違う反応が……!」
ユウの背筋が冷える。
「何がいる」
神崎は震える指で示した。
「これ……“仮面の人間”じゃないです」
「……は?」
その瞬間。
通路の奥が“開いた”。
前回いなかった存在。
黒いローブ。
白い仮面。
そして――複数。
五体。
仮面が、並んで立っていた。
その中央の一体が、ゆっくりと手を叩く。
「やはり」
あの声だった。
「再挑戦ですか」
ユウの呼吸が止まる。
(増えてる……?)
前回は一体だった。
今回は五体。
“学習しているのはこっちだけじゃない”。
仮面の一体が、静かに言う。
「では今回は――」
空間が軋む。
「難易度を上げましょう」
ダンジョン全体が、再び“歪み始めた”。




