「断片予知・発動」
――世界が、白く弾けた。
音が消える。
感覚が消える。
ただ一瞬だけ、“自分が壊れた”という確信だけが残る。
そして。
「……っ!!」
ユウは息を吸い込んだ。
床に膝をつく。
さっきまでの痛みはない。
だが、全身に冷や汗が張り付いている。
「戻って……る」
時間は数秒前。
仮面の存在が一歩踏み出す直前。
“死者帰還・断片予知”。
その効果。
死ぬ直前の未来を、強制的に見せる能力。
「ユウ!」
レナの声。
まだ全員生きている。
だが――
(次は死ぬ)
確定だった。
あのままなら、九条も、朝倉も、神崎も全部巻き込まれる。
仮面の存在は“遊んでいる”。
そういうレベルじゃない。
観察している。
実験している。
「どうした天城!」
朝倉が腕を振り払う。
床から伸びる腕を叩き潰しながら叫ぶ。
「顔色やばいぞ!」
「……聞け」
ユウは低く言った。
全員が一瞬動きを止める。
「次の瞬間、俺は一回死ぬ」
「は?」
神崎が固まる。
「何言って……」
「いいから聞け!!」
ユウは叫んだ。
自分でも驚くほど強い声だった。
「仮面のやつが来る。一瞬で終わる。全員バラバラに殺される」
空気が凍る。
九条だけが、静かに目を細めた。
「……見えたのか」
「未来の断片だ」
その言葉で、九条は理解したように頷く。
「なら対処できる」
即答だった。
ブレない。
それが逆に怖いくらいだった。
「どうするんだよ!」
朝倉が叫ぶ。
その瞬間。
仮面の存在が、ゆっくりと手を持ち上げた。
「そろそろ時間ですね」
空気が変わる。
重力が増したような圧力。
ユウの視界が再び歪む。
(来る)
確信。
だが今度は――
「今だ」
九条が呟いた。
パンッ!!
銃声。
だが狙いは仮面ではない。
床。
爆ぜる。
その衝撃で“空間の軸”がズレる。
「えっ」
神崎が目を見開く。
九条が叫ぶ。
「ユウ! 今見えた“死ぬ位置”から一歩右だ!!」
ユウは反射で動いた。
次の瞬間。
仮面の手が空を切る。
「……ほう」
初めて、仮面の声が少し変わった。
興味。
それだった。
「見えましたか」
仮面が小さく笑う。
ユウは息を切らしながら睨み返す。
「……あんた、何なんだよ」
「私は“管理者の試験官”です」
静かな声。
「あなたたちは“被検体”」
その言葉に、朝倉が怒鳴る。
「ふざけんな!!」
突っ込もうとした瞬間。
仮面の指が軽く動いた。
――空間が、折れた。
「っ!?」
朝倉の身体が吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられる。
「朝倉!!」
レナが叫ぶ。
神崎が震える。
「解析……無理です……これ……レベルが違いすぎる……!」
九条が一歩前に出る。
「ユウ」
短く言った。
「“核”を見ろ」
「核……?」
「こいつは何かを“媒介”してる。完全体じゃない」
ユウは歯を食いしばる。
視界を集中させる。
未来視の断片が再び走る。
仮面の背後。
空間の奥に、“心臓みたいな光”。
(あれか……!)
「そこだ!!」
ユウが叫ぶ。
九条が即座に動いた。
パンッ!!
銃弾が空間を裂くように飛ぶ。
だが仮面が手を上げた。
弾が止まる。
空中で。
「……残念です」
仮面がゆっくり言う。
「まだ“合格”ではありません」
その瞬間。
ダンジョン全体が鳴いた。
ゴォォォォ……!!
世界が“再構築”されるように揺れる。
ユウの視界が再び白く染まる。
そして最後に聞こえたのは。
仮面の声だった。
「次はもう少し“楽しませてくださいね”」




