「チュートリアルの嘘」
ゴン。
杖が床を叩いた音が、通路全体に響く。
その瞬間、空気が“変質”した。
「……っ!?」
ユウは息を呑む。
さっきまでのダンジョンとは違う。
壁の模様が微妙に動いている。
石が“生きている”みたいに。
「空間改変系か……」
九条が低く呟く。
仮面の存在は、ゆっくりと首を傾けた。
「正解です。さすが覚醒者」
その声はどこか楽しそうだった。
「ここは“試験場”ですから」
「試験場……?」
神崎が震えた声で繰り返す。
「そう。門は単なる入口ではありません」
仮面は軽く手を広げる。
「選別です」
空気が冷える。
「生き残る者と、素材になる者を分けるための」
朝倉が歯を食いしばる。
「ふざけんな……!」
だが仮面は動じない。
「では、試験を続けましょう」
その瞬間。
通路の床に、赤い線が走った。
ビキビキ……。
地面が割れる。
そこから――“無数の腕”が伸びてきた。
「っ!?」
ユウは後ろへ跳ぶ。
地面から生えてきたのは、人間の腕だった。
いや、人間“だったもの”。
骨と肉が混ざり、まだ動いている。
【《失敗体サンプル》】
「なんだよこれ……!」
朝倉が叫ぶ。
腕が一斉に伸びてくる。
レナが叫ぶ。
「右! 左からも来る!」
ユウは反射的に動いた。
未来視の断片が頭をよぎる。
(このままじゃ絡め取られる……!)
「九条さん!」
「分かってる」
九条が連射する。
パンッ! パンッ!
だが腕は撃たれてもすぐ再生する。
「再生速度が異常だ」
九条の声に焦りが混じる。
仮面は遠くで見ているだけだった。
「安心してください」
静かな声。
「これは“基礎訓練”です」
「ふざけるな!」
朝倉が腕を引きちぎる。
だが次の瞬間、床からさらに腕が増える。
増殖している。
無限に。
「……まずい」
ユウは気づく。
これは戦闘じゃない。
時間稼ぎだ。
そして――
(別の何かが来る)
未来視の断片が、再び頭を刺す。
今度はもっと強烈だった。
九条が“消える”。
レナが膝から崩れる。
神崎が叫ぶ前に潰される。
朝倉が血を吐く。
そして。
仮面の存在がユウの前に立つ。
「っ……!」
ユウは息を止めた。
断片の中で見た“死の位置”が、今と重なる。
(来る)
確信。
仮面の存在が、ゆっくり一歩踏み出した。
「あなたには期待していますよ」
その声と同時に。
空間が歪む。
九条が叫んだ。
「ユウ!!避けろ!!」
だが遅い。
視界が跳ねた。
仮面の手が、ユウの胸元に触れる。
冷たい。
その瞬間――
世界が“割れた”。
――そして、ユウは気づく。
死んでいた。




