EP 8
無慈悲なる鬼神(フルOS・蹂躙開始)
長大な銃身を持つ九九式魔導ライフルは、遠距離の面制圧には向いているが、一歩踏み込まれた『近接戦闘(CQB)』においてはただの取り回しの悪い鉄パイプに成り下がる。
集団のど真ん中に浸透した龍魔呂に対し、傭兵たちは同士討ちを恐れて引き金から指を外した。
「殺せェッ! 銃剣で突き刺――」
傭兵の一人が銃剣を構えて突進する。
その鈍重な突きを、龍魔呂は左の手甲で軽く弾き落とした。シラット特有の、円を描くような柔らかい受け流し。
体勢を崩した傭兵の顎の下に、Korthの漆黒の銃口がピタリと押し当てられる。
ドォンッ!!
くぐもった爆音。頭蓋骨の中で炸裂した.357マグナム弾が、傭兵のヘルメットを内側からカチ割り、脳漿を夜の空へと噴出させた。
「ひ、ヒィィッ!?」
両脇から二人の傭兵が大剣を振り下ろす。
龍魔呂は弾け飛んだ死体の襟首を左手で掴み、強引に引き寄せて『盾』とした。二本の剣が肉の盾に食い込む。
その瞬間、龍魔呂の身体がフッと沈み込んだ。
古流柔術と八極拳の融合。予備動作の一切ない『無拍子』の踏み込み。
「シッ!」
鋭い呼気とともに、肉の盾ごと右の傭兵の懐に潜り込み、肩から背中にかけての強烈な体当たり(鉄山靠)を叩き込む。
ゴバキィィィィッ!!
ルナミスの強化装甲ごと肋骨が粉砕され、背中から内臓が飛び出す。壁に激突した傭兵は、二度と動かなくなった。
同時に、龍魔呂の右手が閃く。残った左の傭兵の顔面に向け、ブラインドで引き金を引く。
タンッ! タンッ!
「アバッ!?」
眼球から脳髄を撃ち抜かれ、死体が崩れ落ちる。
これで八発。Korthのシリンダーが空になった。
弾切れを悟った傭兵たちが、恐怖で引き攣った顔に歓喜を浮かべて群がってくる。
「弾が切れたぞォッ!!」
「細切れにしてやらァ!!」
龍魔呂の表情は、一ミリも動かない。
左手で腰のポーチから円筒形のスピードローダーを引き抜きながら、右手でシリンダーのラッチを弾く。
チャキッ。
シリンダーがスイングアウトし、熱を持った空の薬莢が八発、石畳にチャラチャラとこぼれ落ちる。
「死ねェッ!」
大上段から斧を振り下ろしてくる男の膝関節に、龍魔呂は無慈悲な前蹴り(サバット)を突き刺した。
「ギャアアッ!?」と逆関節に折れ曲がって絶叫する男の顔面に、空のシリンダーをそのまま叩きつける。
顔面を陥没させながら、左手のスピードローダーをシリンダーに押し込み、装填。手首の強烈なスナップだけで、カチャリとシリンダーを元に戻す。
流れるような、1.5秒の殺人リロード。
ドォンッ!!
至近距離からの発砲。顔面を叩き割られていた男の胸に、風穴が開いた。
そこから先は、戦闘ではなく『解体作業』だった。
赤黒い闘気を纏い、あらゆる魔法と物理攻撃を透過させながら、龍魔呂は路地裏を亡霊のように舞う。
クラヴ・マガの急所打撃で喉笛を潰し、
キャッチ・アズ・キャッチ・キャンの関節技で首の骨を捻り折り、
システマのリラックスした打撃で心臓を止め、
倒れゆく死体の隙間を縫って、Korthの銃弾が次々と命を刈り取っていく。
「あ……あああ……っ……!」
右肩を失い、地面に這いつくばって血だまりの中で震えていた隊長のザックは、信じられない光景を目にしていた。
三十人の精鋭が、たった一人の男に、まるで雑草を刈り取られるように解体されている。
剣が届く前に腕が折られ、魔法を詠唱する前に喉を撃ち抜かれる。
「化け物……いや、悪魔だ……っ」
ザックは残った左手で地面を這い、ポポロ村の出口へ向かって惨めに逃げ出そうとした。
路地裏はすでに、むせ返るような血の匂いと、硝煙の香りに支配されていた。
転がっているのは、文字通りの肉塊。
静寂が戻った夜の闇の中で、コツン、コツンと、革靴が石畳を踏む足音だけが近づいてくる。
「……ま、待て……! 命だけは……ッ!!」
ザックが振り返ると、月明かりを背負った処刑人が、冷たい銃口をこちらに向けて見下ろしていた。
龍魔呂の深紅のジャケットには、返り血一滴すら付着していない。
「……命乞いか?」
底冷えのする、虚無の底から響くような声が、ザックの脳髄を直接凍らせた。




