EP 7
空からの箱
「な、なんだアレは……!?」
「城か……!? 魔法陣もなしに、鉄の箱が空間から湧き出しやがったぞ!?」
路地裏の石畳を砕いて着地した漆黒のコンテナ。
それが花弁のように四方へ展開していく様を、ルナミスの傭兵たちはあんぐりと口を開けて見上げていた。
プシュゥゥゥッ! という圧縮空気の排気音とともに、内部の全貌があらわになる。
壁一面にズラリと陳列された、鈍く黒光りする銃火器の数々。予備の弾倉、各種タクティカル・ギア、そして殺戮のためだけに最適化された地球の兵器群。
魔導をベースとするアナスタシアの技術体系とは根本的に異なる、純粋な『物理的破壊』の結晶体だった。
「ひゃはははっ! さァ、選び放題だぜマスター! 5.56ミリから対物狙撃銃、なんならグレネードも装填済みだ!」
インカム越しに響くガジェットの狂った笑い声。
だが、龍魔呂の顔には一切の感情が浮かばない。
彼は銃弾の雨を降らせていた傭兵たちの横を、まるで散歩でもするように無防備に通り抜け、コンテナの武器ラックへと歩み寄った。
「ば、馬鹿野郎! ボサッとしてるな! 撃て! そいつを撃ち殺せ!!」
ザックの絶叫で我に返った傭兵たちが、再び九九式魔導ライフルを乱射する。
しかし、背後から放たれた魔力弾の群れは、龍魔呂の背中から立ち上る赤黒い闘気に触れた瞬間、パァンッ! と弾けてただの光の粒子へと還元されていく。
『鬼王の指輪』による絶対無効化領域。
彼らに、龍魔呂の背中を傷つける手段など最初から存在しない。
龍魔呂はコンテナ内のラックから、漆黒のタクティカル・ホルスターを引き抜き、深紅のジャケットの内側に素早く固定した。
そして、無数にある重火器には目もくれず、中央のベルベットのクッションに鎮座していた『一丁の拳銃』を手に取る。
ドイツの至宝。世界最高精度のリボルバー。
【KorthNXS / Ranger】。
ガジェットの手によって異次元の改造が施されたそれは、8発の.357マグナム弾を装填した、黒鋼の悪魔だ。
カチャッ、とシリンダーを振り入れ、手首のスナップで完璧にロックする。
その冷たく、重みのある金属音が、路地裏に響き渡った。
龍魔呂はゆっくりと振り返る。
右手にKorth。その銃口が、三十人の傭兵たちに向けられた。
「……ッ、剣も持たずに、そんな鉄の塊一つで、俺たち重装甲の部隊とやれると思ってんのかァ!!」
ザックが恐怖を怒りで塗りつぶし、自ら大剣を抜いて突進してくる。その後ろから、三人の傭兵が援護の魔力弾を放つ。
龍魔呂の体勢が、沈んだ。
両手でKorthを顔の正面、極端に体に近い位置で構える。銃を斜めに寝かせ、左目でサイトを覗き込む独特のフォーム。
狭所戦闘における拳銃射撃の極致、【C.A.R.(センター・アクスィス・リロック)システム】の構え。
ドゴォォォォンッッ!!!
路地裏の空気が、爆発した。
ルナミスの魔導ライフルとは違う。火薬が爆発し、音速を超えた鉛玉が空気を引き裂く、地球の『銃声』。
「が、あ……っ!?」
突進してきていたザックの足が、ピタリと止まる。
ガジェット特製の徹甲マグナム弾は、彼らが絶対の自信を持っていた強化装甲を、まるで濡れた紙のように容易く貫通していた。
ザックの右肩が根元から爆け飛び、赤黒い血飛沫が夜の壁にぶちまけられる。
「ひッ!?」
援護に回っていた三人の傭兵が、その異常な威力に息を呑んだ。
その一瞬の硬直を、龍魔呂が見逃すはずもない。
タンッ! タンッ! タンッ!
流れるような三連射。
魔導障壁ごと頭部を撃ち抜かれ、三人の傭兵の頭部が熟れたザクロのように弾け飛んだ。
首無し死体が、ドサリ、ドサリと石畳に崩れ落ちる。
「あ……ああ……」
たった四発。
時間にしてわずか二秒。
それだけで、傭兵たちの心は完全にへし折られた。
目の前にいるのは、人間ではない。呼吸をするように命を刈り取る、死神そのものだ。
「……次」
無機質な、ひらがな二文字の声。
シラット特有の、低く滑るような足運び。
龍魔呂の姿が、闇に溶けるようにフッとブレた。
次の瞬間、彼は絶望に固まる傭兵たちの集団の、文字通り『ど真ん中』へと浸透していた。
圧倒的な蹂躙劇が、幕を開ける。




