表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『昼は温厚な小料理屋マスター、夜は最凶の処刑人。〜現代兵器と暗殺術で、村を脅かす異世界の悪党を完全殲滅します〜』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

EP 4

忍び寄る鉄の匂い

深夜。『鬼龍』の入り口に「準備中」の札が掛けられ、村が深い静寂に包まれた頃。

カラン、と控えめにドアベルが鳴った。

「……鍵は掛けていたはずだが」

カウンターで包丁の手入れをしていた龍魔呂が、視線を上げずに言う。

「失礼いたします。いささか、裏口の立て付けが悪かったようですので」

滑らかな声とともに現れたのは、一切のシワがない燕尾服を纏った男。

ポポロ村の宰相であり、キャルル村長に絶対の忠誠を誓う人狼族の執事、リバロンだった。

彼はただの従者ではない。ルナミス帝国の執事検定1級を持ち、マキャベリやホッブズの哲学を実務に落とし込む冷徹な「怪物リヴァイアサンの管理者」だ。

「コーヒーでいいか」

「お気遣い痛み入ります。ですが今夜は、優雅に香りを嗜んでいる余裕が少々ございません」

リバロンはカウンターの前に立ち、白い手袋に包まれた手で、スッと一枚の紙切れを差し出した。

ポポロ村の周辺地図。その北東の森の一部に、赤いインクで印がつけられている。

「先ほど、ニャングル殿が手配した監視網から報告が上がりました。ルナミス帝国の崩れ傭兵団……約30名。重武装の彼らが、村の緩衝結界を一つ、物理的に突破したとのこと」

「……仕事が早いな、執事殿」

「主の安眠を守るのが、私の務めですので」

リバロンは恭しく一礼するが、その眼の奥には猛禽類のような鋭い光が宿っている。

「キャルル村長は?」

「現在、村長邸でスヤスヤとお休みになられています。……ですが、このまま奴らが村の居住区に踏み込めば、お目覚めになるでしょう」

それが、リバロンにとっての最大の懸念だった。

キャルルが目覚め、村を荒らす悪党を認識すれば、満月の力と圧倒的な脚力で一瞬にして敵を粉砕してしまう。

だが、それでは困るのだ。

一介の村長が、元とはいえルナミス帝国の正規兵たちを惨殺すれば、それを大義名分として帝国本軍が「自国民の保護」を理由に軍事介入してくる。

力(暴力)は最終手段ではない。使わずに盤面を制圧することこそが、リバロンの信条とする『戦争論』の真髄だった。

「主人の手を汚させるわけにはいきません。ポポロ村は、あくまで『中立で無害な顔』を保ち続ける必要があるのです。……外交上の『存在しないゴースト』による処理が、最も望ましい」

リバロンはそこで言葉を区切り、静かに龍魔呂を見つめた。

この男がただの料理人ではないことなど、リバロンの眼にはとうの昔に看破されている。

「……」

龍魔呂は研ぎ終わった包丁を布巾で拭い、静かに鞘に収めた。

小皿から角砂糖を一つ摘み上げ、口に放り込む。

ガリッ、ガリッ。

硬い砂糖が砕け、甘い痛みが脳を刺激する。

(……この村は、悪くない)

龍魔呂は思考する。

目的である『始祖竜クロノ』を監視するためとはいえ、このポポロ村は余所者の自分をすんなりと受け入れた。

店を構えさせ、キャルルやリーザたちが笑いながら飯を食う空間を与えてくれた。

彼には、一つの絶対的な『龍儀ルール』がある。

自分が居座らせてもらった地域テリトリーは、己の庭として守護する。

そして、その平穏な日々の『宿代』は、金ではなく――その地を脅かす悪党の命で精算する。

「……執事殿。あんたは、随分と耳が遠いようだな」

「はて?」

「村の結界が破られたというのに、俺には何の報告も聞こえなかった。そうだろ?」

龍魔呂の言葉に、リバロンはふっと、口角だけを吊り上げて完璧な笑みを作った。

「ええ、左様でございますとも。私は今夜、極上のコーヒー豆を分けていただきに上がっただけです」

「豆なら、勝手口の棚に置いてある。持っていけ」

龍魔呂はカウンターから離れると、壁に掛けてあった深紅のジャケットを羽織った。

「俺はこれから、少しばかり『ゴミ出し』に行ってくる。今夜は燃えないゴミが多くてな。手こずるかもしれない」

「お気をつけて。……夜道は、冷えますので」

リバロンの深く優雅な一礼を背に受けながら、龍魔呂は『鬼龍』の裏口から暗闇へと身を躍らせた。

空には、薄雲に隠れた月が妖しく光っている。

右手の『鬼王の指輪』が、主の静かな殺意に呼応するように、ドクンと赤黒い脈動を打った。

――さあ、宿代の精算(ツケ払い)の時間だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ