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『昼は温厚な小料理屋マスター、夜は最凶の処刑人。〜現代兵器と暗殺術で、村を脅かす異世界の悪党を完全殲滅します〜』  作者: 月神世一


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EP 2

偽金エルフと財務猫

「ふぅ……。ごちそうさまでした、マスター。大豆から作られたとは思えない、素晴らしいハンバーグでしたわ」

小料理屋『鬼龍』のカウンター席。

世界樹の森からやってきたエルフの次期女王候補、ルナ・シンフォニアは、口元をナプキンで優雅に拭いながら微笑んだ。

美しい金糸の髪と、透き通るような白い肌。

どこからどう見ても高貴な身分のエルフだが、彼女には決定的な「常識」が欠落している。

「お粗末様。……で、お代だが」

「はい。こちらで足りますでしょうか? お釣りは結構ですわ」

ドサァッ!!

ルナがカウンターに置いたのは、輝く純金のインゴット(推定5キロ)だった。

「……」

「……」

「……あ、あの、マスター。これ、羽根パチの軍資金にしても……?」

「待てリーザ! 触るな! 目を覚ませ!」

パンの耳ラスクを食べていたリーザがヨダレを垂らして手を伸ばすのを、キャルルが羽交い締めにしながら絶叫した。

「ルナ! あんたまた『世界樹からのお小遣い』を市場に流そうとしてるでしょ! こんな純金が出回ったら、ポポロ村の経済がハイパーインフレ起こして崩壊するの!」

キャルルはヤンデレの顔から一転、村長としての鋭い顔つきになり、腰のダブルトンファーをガチャリと構えた。

峰打ちでルナの脳天をカチ割る構えだ。

「えぇっ!? だって、お金に困ったらこうしなさいって、世界樹様が……」

「その過保護な樹を今すぐ伐採してやりたいわ! しまう! 早く!」

ギャーギャーと騒ぐ女子三人。

龍魔呂はため息をつきながら、まな板の汚れを静かに拭き取っていた。

そこへ、カランコロンとドアベルが鳴る。

「なんやなんや、外までええ匂いが漏れとるで。……おっ、こりゃまた極上の『金』の匂いやないか」

入ってきたのは、派手な着物を着崩した猫耳族の男。

ゴルド商会・ゴールドランクの商人であり、ポポロ村の財務を担当するニャングルだ。

コテコテの関西弁を喋りながら、手にした煙管きせるをスパスパと吹かしている。

ニャングルはカウンターの純金を見るなり、神眼の動体視力で瞬時に価値を弾き出した。

「村長、こいつはワテが責任もって村の地下室で塩漬けにしときまっさ。ルナはんのツケは、ワテのポケットマネーから払っとくさかい」

「……助かるわ、ニャングル」

「なんのなんの。で、マスター。ワテにも美味いもん、頼むわ」

ニャングルがニカッと笑いながら、カウンターの端に座る。

キャルルとルナ、そして未だにインゴットから目を離せないリーザが奥のテーブル席へ移動し、女子会を再開させた。

店内が再び、賑やかな日常の音に包まれる。

「……ほらよ」

龍魔呂が出したのは、炙った肉椎茸にワサビを添えた小鉢と、冷えた芋酒だ。

「おお、こりゃたまらん」

ニャングルは肉椎茸を一口かじり、芋酒で流し込む。

そして、煙管の灰をトントンと落としながら、表情から「商人」の笑みをスッと消した。

「……マスター。村の結界の周りを、嗅ぎ回っとるおんぼろ犬がおる」

声のトーンが落ちる。

テーブル席のキャルルたちには聞こえない、カウンター越しの密談だ。

龍魔呂はグラスを磨く手を止めず、静かに視線を向けた。

昨日、裏口で感じた「鉄の匂い」と符合する。

「ルナミス帝国の崩れ傭兵団や。魔導ライフルに強化装甲、ご丁寧に戦車まで持ち込んどるらしいわ。狙いは、キャルル村長が作る『月光薬』やろな」

月光薬。どんな傷や病気も治す、ポポロ村の秘伝にして最大の特産品。

三大国が牽制し合う緩衝地帯で、ならず者が一攫千金を狙うには十分すぎる理由だ。

「村の自警団と、リバロンはどう動く」

宰相リバロンの旦那は、すでに手を打っとる。ただ……相手は正規軍の落ちこぼれとはいえ、重武装や。村に被害が出れば、キャルル村長が黙っとらん」

キャルルが満月の力を解放すれば、敵は粉砕できる。

だが、村長自らがルナミスの(元とはいえ)軍人を殺せば、それを口実にルナミス帝国が「平和維持」と称して軍を派遣してくる口実を与えかねない。

ニャングルは芋酒を飲み干し、チャリン、と銀貨を置いた。

「表沙汰にせず、こっそり処理できる『掃除屋』がおれば、ええんやけどなァ」

ニャングルは、龍魔呂の目を見ない。

ただ、探るような、試すような気配だけを置いて、立ち上がった。

「ごちそうさん! ほな、ワテは帳簿付けに戻るわ!」

いつもの陽気な商人の顔に戻り、ニャングルは店を出て行った。

「……」

龍魔呂はカウンターに残された銀貨を手に取り、静かにレジへ放り込む。

キャルルたちに背を向けたまま、右手の『鬼王の指輪』を親指で軽く撫でた。

「……掃除、か」

だが、龍魔呂にとって、ルナミスの傭兵団などただの余興に過ぎない。

彼がこの異世界アナスタシアの果て、ポポロ村に居座っている真の理由は別にある。

明日の昼間、あの「中二病の馬鹿」と「標的ターゲット」の様子を見に行かねばならない。

龍魔呂は再びグラスを手に取り、偽りの平穏な夜をやり過ごした。

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