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『昼は温厚な小料理屋マスター、夜は最凶の処刑人。〜現代兵器と暗殺術で、村を脅かす異世界の悪党を完全殲滅します〜』  作者: 月神世一


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第二章 鋼鉄の狂詩曲(ラプソディ)と鬼の掟

無伴奏チェロと鉄の馬

低く、しかし芯のある弦の響きが、ポポロ村の穏やかな午後の空気に溶けていく。

J.S.バッハ『無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調』。

魔導具の蓄音機から流れる荘厳な旋律が、小料理屋『鬼龍』の裏庭を満たしていた。

身長190センチ、体重82キロ。

ワインレッドのタートルネックに、脚のラインに沿うタイトなレザーパンツ。

龍魔呂たつまろは、手にはめたVIKTOSのタクティカルグローブをオイルで黒く汚しながら、一台の『鉄の塊』を無言で磨き上げていた。

アメリカ・ミルウォーキーが生んだ、アドベンチャー・ツーリングの異端児。

愛車『パンアメリカ(Pan America 1250 Special)』。

マットブラックの流線型カウルと、剥き出しの強靭なVツインエンジン。

ファンタジー世界の長閑な村にはどう考えても不釣り合いな、圧倒的な暴力性と機能美を放つその車体は、まるで休息中の猛獣のように静かに佇んでいた。

「……ねえ、キャルルちゃん。マスター、朝からずっとあの『黒い鉄の魔獣』を撫で回してますよ。餌とか、何食べるんですかね?」

「しっ、リーザちゃん声が大きい! ……でも、あんな無骨な鉄の塊にジェラシーを感じる日が来るなんて……っ。私、村長やめてあの馬のサドルになりたい……!」

裏口の影から、極貧アイドルのリーザと、ヤンデレ村長のキャルルが顔を覗かせてヒソヒソと囁き合っている。

そこへ、路地を通りかかった屋台の列が割り込んできた。

「ククク……見よロード! 鬼龍の旦那が使役せし、漆黒の機甲竜! あれぞまさしく『鋼鉄の黙示録』! 拙者の魔眼が、あの鉄馬に宿る一万の魂の悲鳴を捉えているでござる!」

「……やかましく、中身のないドンガラだ。まるで、意味もなく回るこの世界そのものだな」

中二病の牛丼屋、佐須賀良樹が興奮気味にポーズを決め、屋台を引く始祖竜クロノ(ロード)が虚無の瞳で深い溜め息を吐いた。

「……」

騒がしい外野の声をBGMの一部として処理しながら、龍魔呂は車体の磨き上げを終えた。

ウエスを投げ置き、左手首に視線を落とす。

使い込まれて独自のエイジング(経年変化)を遂げた、鈍い黄金色。

腕時計、『TUDORチューダーブラックベイ 58 ブロンズ』の針が、午後の三時を指していた。

「……休憩にするか」

龍魔呂はエンジニアブーツの踵を鳴らして立ち上がると、ポケットから角砂糖を取り出し、無造作に口へ放り込んだ。

ガリッ。

硬い甘味が砕ける音と、無伴奏チェロの静謐な旋律が、昼下がりの平穏を完璧に形作っていた。

     * * *

同時刻。ポポロ村の南門。

「……随分と、のどかな田舎村じゃねえか。空気が生温くて、虫唾が走る」

ジッポライターの蓋を開け、くわえたラッキーストライクに火を点ける男。

鮫島勇護さめじま ゆうご

元・ロス市警(LAPD)SWAT隊長にして、現在は女神ルチアナと裏契約を結ぶ『死狂い』のプロフェッショナルである。

彼はタクティカルスーツの上に薄手のコートを羽織り、深く吸い込んだ紫煙を空へ向けて長く吐き出した。

その鋭い視線は、村の平和な風景を愛でるためではなく、スナイパーの射線、逃走経路、隠し持ったSCAR-Hを抜くまでのコンマ数秒のタイムラグを測るために動いている。

「ヘイ、ユーゴ。そんなしかめっ面してると、可愛い村娘たちが逃げちまうぜ? 仕事ビジネスの前に、美味いコーヒーでも飲みたいところだな」

隣を歩くのは、金髪の白人青年、ニコラス。

軽口を叩きながらも、彼のコートの下にはベネリM4(散弾銃)が吊るされており、足取りには一切の隙がない。

「コーヒーキャンディで我慢しろ、ニコラス。……俺たちは観光に来たんじゃねえ。標的ターゲットは、ルナミスから逃げてきた『汚豚』だ」

鮫島は口の中で、コーヒー味のキャンディをガリッと噛み砕いた。

死蟲機ネクロ・インセクトとの裏取引の嫌疑がかけられ、ルチアナの法を逃れてこの緩衝地帯に逃げ込んだ悪徳貴族。

それを確実に『処理』するのが、二人の今回のミッションだった。

「わかってるさ。……だが、情報じゃあ、この村には美味い飯を出す店があるらしい」

「店、だと?」

「ああ。村の広場の裏手にある、赤提灯の小料理屋だ。……腹が減っては、戦(CQB)はできねえだろ?」

ニコラスがウィンクする。

鮫島は短く舌打ちをすると、吸い殻を携帯灰皿に放り込んだ。

「……五分で食い終わるものにしろ。行くぞ」

剣と魔法の世界を、現代兵器と戦術マニュアルで冷酷に蹂躙する二人の男。

彼らの足が、バッハの旋律が流れる『鬼龍』へと向かっていることを、まだ誰も知らない。

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