第三十三話
「それじゃ、早速本題に入りますかね。まず俺が気になったのは三点。実行犯が他国籍の傭兵だと思われること、指示役の目的が不明瞭であること、洞窟について誰も知らないこと」
ルナがハヤトの最後の言葉をきいて、あ……と小さく声を上げた。それに気づいたハヤトが、彼女へ発言を促す。
「何かあればご遠慮無くどうぞ」
「は、はい。洞窟についてなんですが、聖女教育で勉強したので説明できます。あと、目的も心当たりというか憶測が……。殿下にお会いしたかったのは、それらを共有したかったからです」
「ふむ……それは私が教育を受けていない範囲か?」
「はい。ほとんど記録がなくて、ソレイユ聖教との関わりも、当時から存在する宗教がソレイユ聖教だけだからという理由で……」
ルナの説明によると、あの洞窟は通称『放棄された神殿』、つまり名称は分からないそうだ。
遥か昔……最早いつ建造されたのか分からない時代のもので、同じく昔から存在するソレイユ聖教関係と考えられている。
一応、「神殿内の石碑に刻まれた古代語が、大昔のソレイユ聖教の経典と言語が同じ」という共通点もあるのだが、そもそも古代語自体を解読しきれていないので……。
「なんで洞窟内に神殿なんか作ったんだろうな。崩落とか危険だし、不便な気がするけど」
「古代語の解読できた部分に『後世へ伝えよ』という一文があるので、雨風に晒されず長期維持できると期待したのでは……と言われています」
なるほど、確かに前世でもよくオーパーツや遺物は洞窟から出土してたな。と内心で納得するハヤト。
「ですがある時から、神殿を巡礼した信徒が死亡したり、体調を崩したりするようになったみたいで……」
「えっ? 二人は大丈夫だったのか?」
「全然なーんとも。聖女様は?」
「大丈夫です。まあ以前から神殿には専門家が立ち入ったりしてますから」
シリウスは心配そうだが、ハヤトとルナは冷静そのものだ。
人々の間で信徒の死亡、体調不良の原因が『呪い』とまことしやかに囁かれるようになり、徐々に人足は遠のいていった。
そして『呪い』とか言う聞こえの悪い噂を抱えた神殿を、ソレイユ聖教も認知しないようになっていった。
こうしてかつては信徒で賑わっていた神殿も、今では放棄された神殿と言われ、その道の研究者くらいしか関わらないようになったのだ。
「なるほど。気味悪いし、関わる人間が死ぬかもしれないから、研究も進んでないわけね」
言いながらハヤトは考える。
(待てよ……洞窟だろ? 地殻変動で有毒ガスが出たり、人多すぎて酸素不足とかあんじゃないの?)
この世界は科学・医学方面の研究が前世と比べて遅れている。研究が不足していると言うよりは、宗教が強すぎて「良いことは女神ソレイユの御力、悪いことは邪神のせい」とされるため、研究者がやりづらいらしい。
なので仮にハヤトが思ったことを口にしたら、「有毒ガス?? 空気は空気でしょ?」となり、高校レベルの知識しかないハヤトにはお手上げになる。説明できたとて、どこで知ったかという話になるのは間違いない。
そんな事をハヤトが考えている間にも、ルナの説明は続く。
「ここから話が飛躍するんですが、犯行のタイミングから内部事情を知る人間が関わってる可能性がありますよね? そしたら当然、セレスティア王国での聖女の役割も知っているでしょうから、最終目的は国の滅亡ではないかと思いまして」
「……」
「殿下、大丈夫ですか?」
「へっ、あ、まずい発言でしたか!?」
「いや……そんなことはない……。恥ずかしながら、今ようやく事の重大さを理解して……」
ルナの話で一気に真剣な面持ちになったシリウス。きっと公爵領に来た理由は、純粋なる勢いのみだったに違いない。
いかんせん弁の立つ男だから、周囲が「そこに行ったら、面倒な案件を請け負うことになりますよ」とか説得しだす前に言いくるめて来たのだ。
本来ならば、別に王太子でもなんでもない第二王子が関わる必要はない。
「確かにこのまま調査が進めば、他国との政治摩擦の要因になりかねないっすね~」
「うわぁあ! 言わないでくれ、分かってる!」
こうも取り乱すシリウスを初めて見たのか、ルナは呆けた表情で固まってしまった。
「まあ実行犯がほぼ確実に外国人ですもんね。あ、捕虜の話は聞いてますよね? 今頃ギルドの牢で臭い飯食ってるかな。中々口を割らないそうなんで、王都の腕利きの尋問官を派遣していただけませんか?」
ギルドの業務は多岐に渡り、冒険者が拘束した犯罪者……特に指名手配犯の収容も担っている。単純に、腕自慢の冒険者が常駐する施設に、ついでに収容所も設けてしまえという理由だ。
あとどうせ冒険者が捉えた犯罪者は、一旦ギルドに連れ帰ることになるので……。
レグルス公爵家は自治費の名目でギルドを支援しているため話が通しやすい。極秘の犯罪者を収容するのにちょうど良かったわけだ。
「その捕虜と言うのは……?」
「怖がらせると思って知らせてなかったが、実行犯の一人は生かして捕らえたんだよ」
「あっ、なるほど……」
ハヤトの言い方から、残りの実行犯がどうなったか察したルナは顔色を悪くする。
アステリア側から伝えるのもおかしいし、どうせバレるのだから話しやすいタイミングで伝える方がいいだろう。
「ってことで、お願いしてよろしいです?」
改めてシリウスに向き直って尋ねるハヤトに、シリウスは覚悟の決まった様子で頷いた。
王族として裁量のある人物が来てしまった以上は、その人物に許可を取ったり、仕事を振ったりするに決まっている。シリウスが何も考えずに、アステリアが心配が故に突っ走った自業自得だ。
もうしばらくしたら、陛下の代理人としてアステリアの父、レグルスが領地に戻る予定だったのだが……。
予定変更になったので戻らなくてよし、と伝えたら今度はレグルスが面倒な事になりそうだ。
(身内に仕事振る方が楽だったなー。は~、仕事増えたなあ……)
(やってしまった……。アステリアの事だから、父上の委任状を持った誰かを呼び寄せていたに違いない。私が来てしまったばかりに、実力不足の私が対応するはめに……)
(襲ってきた人たち、最低でも四人は居たよね? 私が目隠しで何も見えないあの時? う、気分が……)
応接室で向き合う三人は、各々の理由で暗い顔をしていた。
それは、所用で席を外していたプロキオンとマイアが戻ってきて、彼らを妙なものを見る目で見つめるまで続いたという。
誘拐編はプロットから手直ししてない(プロットとは?)んですよね。書いててめちゃ楽しかった覚えがある。
という訳で、プロットも切れたので一旦終了。また気が向いたら書きます。




