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第三十話


 アステリアでは使用する魔法に制限が必要だが、勇者の魔法を無制限でつかえるなら何とかなる。

 とは言えワープの魔法は、あらかじめアンカーを設置した場所でないと飛べない。王都へ向かう馬車の通り道、かつ領地を出たところ……。西の橋の関所か。


「取り敢えず行ってくる。他の対応は任せていいな?」

「心得ております。ご武運を」

「ああ」


 アンカーは何れも人目のつかない場所に設置するようにしている。ワープするたびに悲鳴を上げられてはたまらないからだ。

 関所の建物の影に出現したハヤトは、いつぞやの様に足裏に気を溜めて力を込めた。五メートルほどの川幅を飛び越え、猛スピードで平原を駆け抜ける。

 すこし行って林に沿う道に入ると、道の端に見覚えのある馬車の籠が横倒しになっていた。


 側まで近くと革鎧を纏った男が、馬車の近くで地面にうつ伏せになっている。装備を見れば王都所属の騎士である事はすぐに分かった。

 肩口を掴んで仰向けにし、無駄だと知りつつ首筋の血管で脈をとった。……すでに脈はない。

 残念だが、こうなっては回復魔法でもどうにもならない。ハヤトはほんの一瞬目を閉じ、心ばかりの黙祷を捧げた。


 目を開いたところで、護衛の腕についた切り傷の異様さに気がつく。ハヤトは腕の布地を力付くで裂いた。


「変色してる……毒か?」


 鋭いもので切り裂かれた傷にも関わらず、まるで硬いものを打ち付けたかのように、肌が赤黒く変色している。よく見れば護衛の顔色は、外傷の割に血色が悪すぎるように見えた。


「死を悟って捨て身になったのか……」


 もう一人の護衛、それと御者を逃すために命をかけたのだろう。彼のおかげでルナの誘拐がいち早くハヤトまで伝わったのだ。


 ――とは言え、事態の発生からはそれなりの時間が経過している。急がねば。

 ハヤトは気を自身の鼻周りに集中させた。


 気によって嗅覚を強化すると、犬を超えた探査能力を手に入れることができる。ルナの体臭は目立つものではないが、一週間ほど公爵家に滞在した今であれば、自分と同じ匂いを辿ればよい話だ。

 気を分散させる以上、最高速で走ることは出来ないが、そもそもルナを追跡できなければ話にならない。

 どうやらルナは林の奥に連れて行かれたようだ。ハヤトは匂いを頼りに走り出した。



 一方、馬車での移動中に襲われたルナは、目隠しと手足の拘束という、身動き一つ取れない状態で荷馬車に揺られていた。

 幸い拘束具は硬い素材ではないが、それでも解けないほどに縛られた手足が痛む。

 荷馬車は公爵家の馬車とは作りが異なり、サスペンションの発明の素晴らしさを感じさせる乗り心地だ。要するに車輪が小石などに乗り上げるたび衝撃がひどい。


(護衛の人たちは無事かな…)


 関所を通り過ぎ、ちょうど人目の切れた辺り……。物陰から飛び出してきた、ローブで身を隠し武器を構えた集団にルナ達は襲撃された。

 最初は山賊や追い剥ぎの類かと思ったが、どうも様子がおかしい。集団は御者と馬に向けて矢を射掛け、身軽なものが樹上から馬車の屋根に飛び乗り、乗口をこじ開けたのだ。まるで制御を失った馬車がどうにかなる前に、迅速にルナを手中に収めようとする動きだった。


 ルナは襲撃者が弓を引く動きから、瞬時に御者を守る魔法障壁を展開していた。だが聖女の魔法障壁は瘴気に強い一方で、物理耐性は弱い側面がある。挙げ句、今のルナでは御者と自分の両方や、一瞬で馬車ごと覆う障壁を張るスピードもない。


 乗り口は左右両側にあり、襲撃者は二人が呼吸を合わせ同時に乗り口をこじ開けた。

 護衛のうち一人はルナと共に籠に乗っており、一人の襲撃者がその護衛に刃を向け抑える。

 もう一人はその逆から、大きな麻袋の口を広げてルナを襲った。


 なんとなくすぐには殺されないと察していたルナは、抵抗せずに頭の天辺から麻袋を被せられる事を受け入れる。……というより、抵抗する間など毛ほどもない、いやに手際の良い集団であった。


「追っ手は?」

「今のところはないが、御者は取り逃がしたからな……」

(御者さんは逃げられたんだ。ってことは、護衛の人は……)


 どこからか聞こえてきた男女の会話から、ルナは御者の無事を知る。

 だが「御者"は"取り逃した」と言う事は、それ以外は始末したというニュアンスを感じさせた。

 ルナが大人しく捕まったのだから、他の人間の命は助かるのでは……。そんな甘い考えはいとも容易く打ち砕かれた。むしろ本来であれば目撃者を残すべきではない状況で、一人でも助かったのが奇跡と言えよう。


 しかし……。


(なんでこの人達、私が王都に戻るタイミングを知っていたの? いや、それよりも何で聖女を?)


 ルナとてここ数ヶ月に渡り聖女教育を受け、古来からこの国にとって聖女がどういう存在なのか知っている。

 聖女、つまり聖結界はこの国の要である。聖女には何が何でも聖結界を張らせないと国が滅びるのだ。にも関わらず聖女に害をなそうとする理由が、ルナには一つしか思い当たらなかった。


(それってつまり、近いところに国を滅ぼそうとしてる人が居ることになっちゃうんじゃ?)


 聖女の動向を知れる立場にいて、尚且つ聖女を誘拐する人間の目的とはなんだ?

 暗い視界と荷馬車の揺れが、ルナの恐怖をより一層駆り立てた。自分の命の問題だけではなく、もっと大きな何かを動かそうとしている人がこの国に居る――!


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