第十四話
娘の爆弾発言の衝撃で、レグルスはハッと正気を取り戻した。
「待て待て待て待て……我が家にだって冒険者の伝手はあるぞ。名前を変えた所で、お前が冒険者登録したならば伝わってくるはずだ」
「魔法で姿も変えておりますから」
「……じゃ、じゃあ、どこにそんな時間が!? 上位冒険者ともなれば、長期に渡る仕事もある。お前がいつ、どうやって家を空けていたと!?」
「幻を作り出す魔法で、隠れて外出しておりましたわ。あと単純に、わたくし長期遠征のクエストは受けておりません」
どうやら娘が冒険者、それも上位の冒険者などと信じたくない様子だ。しかし当のアステリアが決定的な証拠を既に出しているのに、今更それが覆るはずもない。レグルスはどうにか反証を探しているが……。
そしてアステリアとしても、勇者魔法のことを掘り下げられると話が面倒だ。レグルスが頭を悩ませている間に、あえて話題を逸らすことにした。
「自分で言うのもなんですが、ハヤトは有名な冒険者ですから……。概要は彼らもご存知かと思いますわ」
「なにっ? そうなのか!」
「え、俺らですか?」
冒険者パーティーも、まさか自分たちに火の粉が飛んでくるとは想像していなかったようだ。しかし彼らも場の空気に慣れてきたようで、最初よりいくらか平静を保っている。
たまたまレグルスと目が合った剣士が、失言がないよう言葉を選びながら答えた。
「確かにA級でハヤトさんと言えば、一人しか居ないですね……。巷では名誉S級冒険者と名高いソロ冒険者です」
「名誉S級……?」
聞き覚えのない言葉に、陛下がきょとんとしている。剣士はそのまま説明を続けた。
――冒険者は人間よりも強い魔物に立ち向かうため、相互補助のため、パーティーを組むのが鉄則となっている。
個人に与えられるランクは『パーティーを同じランク帯で組むため』の識別子でしかなく、パーティー内で優劣がつきすぎないように、個人ランクには何も特典はない。
特典があるのはパーティーランクのみだ。そしてパーティーランクはS級~E級、個人ランクはA級~F級と、存在するランクにズレが存在している。つまり、この国のギルドでソロ冒険者なんてのは、自ら不利益を被りに行くようなもの。
「ソロって本当にデメリットしかないんですけど。ハヤトさんは絶対にパーティーに加入しなくて、けどあまりに強すぎるから、ついたあだ名が『名誉S級』と……」
アステリアは周囲からの視線を一身に受けながら、
(だってシェイプシフト、一晩も持たないからな……)
と心のなかで誰に言うでもなく呟いた。
パーティーを組むということは、野営などで長時間行動を共にするということ。しかしシェイプシフトは持って六時間なので、仲間には正体を明かすことになる。
だから仕方なく孤高の一匹狼を貫いていたが、経歴が華やかすぎて逆に「富と名声を捨ててでもソロに拘るには理由があるんだろう」「戦闘スタイルに理由があるのか?」「功績も充分だし、もうソロでもS級でいいだろ」「実質S級」「名誉S級」だなんて言われだした。
パーティー、組めないだけなのに……。
とまあ、そんな話はどうでも良い。人を使ってわざわざ自分を褒めさせたのは、本題にアステリアが関わるための布石でしかない。
「陛下、キマイラの件に話を戻してもよろしいですか?」
「ん? なんだ、まだ何かあったのか」
まるで終わった話を蒸し返しているかのようだが、アステリアにとってはこちらが本命。なんせこれが事実であれば、誰も気づかないうちにセレスティア王国が滅びかかっている事になる。
「はい、陛下。わたくしの見立てが正しければ――魔の森から王都を守る巨大魔法障壁。聖結界が解けかかっております」
「……!」
アステリアの言葉に、カッと目を見開き驚く王。しかし取り乱すことなく、顎に手を当て考える素振りを見せる。少しして、納得した様子で口を開いた。
「……なるほど。キマイラは弱まった聖結界を抜けてきた魔物だと申すか」
「ええ。あのクラスの魔物は、魔の森の周囲では自然発生できません。聖結界を越えてきたとみて間違いないかと」
「おお、そうか……。三百年に一度が私の代で来るか……」
王は嘆きながらも仕事は忘れず、レグルスを通して聖結界の専門家を呼ばせた。
まず王都から徒歩一日圏内に、魔の森と呼ばれる魑魅魍魎が跋扈する恐ろしい森がある。この国が他国からの侵略を、長い間ま逃れてきたのは、この魔の森の存在のおかげだ。
広大な魔の森が陸路を妨げているため、セレスティア王国は攻めづらく、旨味も少ない……。そしてセレスティア王国には、魔の森の脅威を退ける『聖女』が居る。
聖女が張る魔法障壁のみが『聖結界』となり、この世界において唯一の瘴気を遮断する手段だ。
瘴気を遮断するということは、瘴気と魔力により生まれる魔法生命体である魔物を通さないという事。元々、瘴気の含有量が少ない魔物は通してしまうが、それは対処が容易なので問題ない。
だが聖結界が弱まると、徐々に聖結界よりも強い魔物から、結界を越えて王都まで来てしまうのだ。
この聖結界の弱まる周期が、大体三百年に一度程度だと、セレスティア王国では言い伝えられている。
「陛下。聖魔法の使い手の宮廷魔術師を連れてまいりました」
「ご苦労」
騎士に連れられて、高級感のあるローブをまとった男がやって来た。王城で魔法の専門家として重用される存在、宮廷魔術師だ。
中でも希少な聖魔法の使い手は、回復、聖魔法の専門知識、聖女伝承の専門知識と、とにかく要求事項が多くエリート中のエリートと言える。
「聖結界の様子はどうだ?」
「は、はい。聖結界は……」
王に問われ、宮廷魔術師は答えづらそうに言い淀む。やがて意を決した様子で口を開いた。
説明回が続きすぎて嫌になってきた。
もっと情報を小出しにすべきでした。プロットを書いた時の自分がにくい。




