第十三話
アステリアは冒険者たちを護衛しながら、プロキオンと共に学園へ戻る。そして到着した途端に馬車に押し込まれ、問答無用で王城まで連行された。
無傷のアステリアは謁見の間へ直行、傷だらけの冒険者パーティーは治療室に運ばれる。そうしてプロキオンと共に、謁見の間に続く廊下を歩いていると、見知った顔に出迎えられた。
「ステラ! 無事で良かった!」
駆け寄ってきたシリウスは、了承も取らずアステリアの両肩に手を置いて、彼女の無事を噛み締めている。
その横をプロキオンが、軽く一礼だけしてさっさと通り抜けて行った。ひと足先に報告をしに行ったのだろう。相変わらず愛想はないが、仕事には忠実な男だ……。
プロキオンからシリウスに視線を移し、アステリアは彼を安心させるべく微笑む。
「この通り傷一つございませんわ。ご心配をおかけして申し訳ございません」
「少し驚いたが、君なら大丈夫だと思ったよ。しかし一体なにが?」
「んー……」
説明して差し上げたいのは山々だが、どうせ陛下にも同じ事を話すしな……。
そんなことを考えていると、案の定謁見の間がある方角から、王族の近衛騎士が現れる。
「アステリア様。陛下のご準備が整われました。どうぞ謁見の間へ」
「ええ。ありがとうございます」
そのまま騎士に先導され、二人は謁見の間へ入室した。
貴重な石材をふんだんに使用され、中央には金糸で刺繍された赤いカーペットが走り、細かい細工の柱がその脇に均等に並ぶ……。いわば王家の権威を謁者に示す、無駄に管理の面倒な素材で作られた広間だ。
奥の一段高いところでは、これまた豪勢な作りの玉座に男が鎮座している。
男の名はルクル・アルヴァノート。シリウスの実父にして、このセレスティア王国の現国王だ。
……因みに、その斜め後方で怖い顔をしているのが、アステリアの父にして王弟のレグルス・レグリオ。
陛下の前まで案内されたアステリアは、シリウスと共に恭しくかしづく。それまで真顔で玉座にふんぞり返っていた王は、途端に柔和な顔つきになってアステリアに声をかけた。
「そう畏まるなステラ~! 伯父さんがさみしいだろ~?」
「まあ陛下ったら。せっかくわたくしが公の場だからと弁えておりますのに」
「陛下! ステラ!」
ふざけた挨拶を交わす二人をレグルスが咎める。
王ルクルは場に国内の重鎮しか居ないと、何かとふざけ倒す傾向にあった。そしてそれにノッてくれるのが姪のアステリアだけだから、自然と二人が揃うとふざけた空気になるのだ。
そしてそれにレグルスが胃を痛めるのも、王城ではよく見られる光景であった。シリウスも慣れた様子で、親戚の内輪ノリできゃいきゃいとはしゃぐ二人を眺めている。
……一通り騒いだところで、満足したらしい王が急に真面目な顔に戻って、アステリアに事の次第を尋ねた。
「して、ステラよ。お前が単独で魔物キマイラを討伐したというのは事実か?」
「はい。陛下。相違ございません」
謁見の間に居合わせる面々がざわめき立つ。
キマイラと言えば中級以上のパーティーが複数でかかる魔物だ。アステリアのように単独……それどころか、たったの二撃で葬り去ることなど考えられない。
「異様に強いとは思っていたけど、本当に……?」
「ええ、まあ。目撃者であれば救助した冒険者も、プロキオンも居りますわ」
シリウスも半ば信じられない様子だ。
アステリアとしては、目撃者を出すつもりは毛頭なかった。できることなら彼らから引き離し、ひと目のない場所で、なんなら勇者魔法も控えて倒したいところだった。
勇者魔法はこの世界の魔法とは理が異なるため、一発でアステリアとハヤトの繋がりが露見してしまうからだ。
だが、もしアステリアの考えが正しいのであれば、今はそうも言っていられない状況にある。
「ふむ……レグルスよ。お前の娘は、そんな度の過ぎたお転婆だったのか?」
「まさか! 娘には手習い程度の剣術しかさせておりません!」
王から暗に「お前の娘がふざけた事を抜かしておるぞ」と言われ、レグルスは慌てふためいている。事実、アステリアとしては週二回の家庭教師と、学園での訓練でしか剣は握っていない。レグルスにはそれ以上のことは言えないだろう。
さて、どこから話を切り出したものかな。とアステリアが頭を悩ませていると、謁見の間にさらにお客が増えた。治療を終えた冒険者パーティーが、目撃者として招集されたのである。
落ち着かない様子で歩く彼らを見て考える。……彼らなら冒険者事情にも詳しそうだ。
「陛下、お父様。申し訳ございません、わたくし実は誰にも打ち明けていない秘密がございますの」
「な、なんだ? この父にもか!?」
最早ここが公の場であると忘れつつあるレグルスが、ぐわっと身を乗り出して吠える。
アステリアは父の勢いを気にした様子もなく、服の襟元からチャリチャリと鎖を引っ張り出す。そして輪っかから頭を抜くと、たまたま近くに居た冒険者の剣士に手渡した。
「へっ? なな、なんですか?」
「確認していただける?」
未だアステリアに怯えているのか、それともこの場の空気に呑まれているのか。挙動不審な剣士は、反射的に受け取ってしまったそれを、言われた通りに確認する。
……剣士が無言でビシリと固まってしまったので、仲間の一人が覗き込んだ。前衛風の男が、剣士の手元のドッグタグとアステリアを「信じられない」と言った形相で交互に見る。
「ステラ! 彼らに何を確認させた? お前は何が言いたいのだ!!」
「……ですって。貴方、答えて差し上げて?」
「えええ!? 俺ですか!?」
剣士が固まったまま動かないので、前衛風の男に頼むと、彼は無茶振りに驚きながらも答えた。
「ええと、ステラお嬢様? は、A級冒険者のハヤトさんと同一人物……って、こと、ですよね……?」
「その通りですわ」
彼が不安そうにアステリアの顔を見て言うので、頷いてやる。レグルスは怒声を張り上げる気力もないようで、口をあんぐりと開け放ち「はぁ~?」と間抜けな声を発した。
確かにドックタグにはハヤトの名が刻まれている。しかしそれを着用していたのはアステリアだ。この矛盾が気になるのか、前衛風の男が戸惑いがちにアステリアへ尋ねる。
「え、でもこれ、どういう……」
「ギルドのドックタグは、遺体がどんな状態でも個人の判別がつくよう、登録者以外は装備することができない。そうですわね?」
「は、はあ」
「登録は魔力によって行われ、魔力が同じ人間は存在しないと言われている。そうですわね?」
「ええ、偽証できないと言いますよね。……えっ?」
いやだからどういうこと? とでも言いたげな彼から視線を外し、アステリアは再び王に向き直る。
王の横ではレグルスが相変わらず呆けていたが、気にせず続けた。
「陛下。わたくしが単独でキマイラを討伐できるのは、この国でトップクラスの冒険者だから、というお話でございます」




