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ガランドゥ『仮想現代戦記』  作者: 扇屋
赤の火鼠 第2話『銀の歌は故郷に』

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2-5

【9】


 巨大なコンクリートの円柱がそびえ立つ調圧水槽。地下神殿とも呼ばれる場所で、染野と希代は水の司祭を追う。彼に伴走する二人は足元の水に奇襲され、操られて動くそれを跳んで躱すと敵を追った。

 しかし、彼らの足下には雨水が浅く張っており、全方位を水が取り囲んでいる。染野が権能を使うと水の司祭は腕の肉をわずかに抉られ、コンクリートの円柱に隠れると巨大な水の塊で二人を襲う。

「何でこんなに水が残ってる!」

「一昨日は雨だったそうだ」

 淡々と答える染野に対して、希代の方は余裕がない。身体能力では染野の方に分があり、訓練を受けているとはいえ変幻自在の水を全て躱すことまではできなかった。

 頭上から落ちた水に弾き飛ばされた希代が祝詞を唄う。

祭具奉納さいぐほうのう、風吹き風車が回る時』

 そして彼の手に祭具の手斧が握られた瞬間、水の司祭は移動しようとコンクリートの円柱から飛び出した。

調停前線ちょうていぜんせん

 刹那、希代が投擲した祭具の斧は彼の胴を目掛けて一直線で進む。だが、水の司祭は冷や汗を搔きつつも間一髪で水を操り、水を障害物にすることで少しだけ手斧の軌道を変えた。それは彼の脇腹を切り裂いたものの、軌道のそれた手斧はあらぬ方向に消える。

 希代が舌打ちをした。

「一度限りだってのに……!」

 染野が全方位から襲う水の塊に対応していると、それらが離れたかと思いきや上空に昇る。そして、天高く昇った全ての水が板のような形になり、二人に目掛けて落ちてきた。それは回避不能の全体攻撃、対処できるかは神のみぞ知る。

「全体か……!」

 染野が駆ける。希代の方は遠くに行った自分の祭具を拾ったところで、駆けつけた染野に掴まれるとそのまま遠くへ投げられた。投げられた先は水の司祭が居る場所で、その頭上だけは水がなく穴が開いている。それは彼が自滅しない為の安全地帯だ。

「隊長!?」

「避けろ!」

 大質量の水が落下し地面に向かう中、珍しく染野が大声を出す。彼は咄嗟に権能を使ってコンクリートの円柱に穴を開けると、反動のダメージを負いながらもそこに隠れた。次の瞬間、操作された水の塊が地上に直撃し、圧倒的な衝撃が大地を揺らす。海上の時ほどではないがその威力は脅威だ。

 安全地帯でそれを回避した希代が敵に迫る。

「んんッ!」

 希代が振るう手斧の祭具の先から、突如として炎が噴き出す。彼の権能『調停前線ちょうていぜんせん』は炎を出す力だ。概念防御を纏った炎はその高温で全てを焼き切る。水の司祭はそれを間一髪で躱すと水の壁で防ごうとするも、炎は水を蒸発させた。

 形勢が不利だと見た水の司祭は足下に水を集め、波に乗って距離を置く。

「こいつ……!?」

 相性不利な以上、彼が至近距離で希代と戦うのは厳しいだろう。しかし、賢明な判断をしても彼に近寄るもう一人の影に気が付いていない。柱から柱へ跳んでいく染野が彼に迫り、蹴飛ばすと同時に権能で腹の肉を抉った。

 権能の反動で染野も傷を負うが問題はない。

「ぐぼおっ!」

「助かります!」

「気を抜くな希代!」

 地面を転がる水の司祭が着地して減速した瞬間、周囲の水が集まって希代を閉じ込める。大きな水の塊の中では水が渦巻いており、希代の手から手斧が離れた。これでは彼は権能を使うことができず、大量の水から抜け出そうとするも彼の動きに合わせても水も移動する。

「(やられた!俺に合わせて水も動く!)」

「(水には『中心』がない……権能が発動しない!)」

 染野が権能を使おうと手をかざすも、不発に終わり手を降ろす。彼の権能は単に人間の肉を噛み千切る権能ではなく、肉に該当する箇所を噛み千切る権能だ。コンクリートの円柱は中心に鉄骨がある為、彼の権能はそれを骨と認識し肉に該当するコンクリートを破壊できたのだ。

 だが、水にはその『中心』が存在しない。

「希代、酸素を使うな!」

「隙あり!」

 刹那、濁流が染野の姿勢を崩すと水の司祭が波に乗って接近する。姿勢を崩す染野であったが間一髪で跳び上がり、両手で水の司祭の拳を受け止めて吹き飛んだ。希代の方は水中を脱出しようと藻掻くが脱出できない。

 染野は側転の後に着地すると、耳元の無線に手を当て何かを話した。

「希代!……でいけ」

「!」

 何らかの指示を聞いた希代であったが彼は依然として溺れており、遂に泡を吐いて動かなくなってしまう。酸欠になってしまったのかどうなのか。だが、希代に水の大半が集中している結果、染野の方に割ける水は少ない。

 つまり、徐々に水の司祭は不利になる。

「(クソッ!こいつを相手するには水が足りない!)」

層展乱雷そうてんらんらい

 染野が法術ほうじゅつを使った瞬間、放射状に広がる電流が薄い水の盾を分解する。法術が苦手な染野でも初歩的な技だけは使うことができた。彼を前後から襲う水の塊を躱し、層展乱雷そうてんらんらいを連発すると水の司祭を追い込んでいく。

 水が足りなければ彼の性能は染野に劣る。

「(あっちの男の水を持って来れば……でも溺死したのか?)」

「……」

「(駄目だ……確実に死ぬまでは解放できない!)」

 希代を今解放すれば酸素の供給が再開してしまうかもしれない。まずは戦力の片方を確実に排除し、それからもう片方を排除する。水の司祭は性格の割に冷静で的確な判断のできる男であった。

 水の中で希代が揺蕩う。染野の攻撃は止まず、遂に水の壁を貫いて彼の拳が水の司祭に直撃した。もうこれ以上は彼が持たない。

「(あの男は死んでる!これ以上は待てねえ!)」

 水の司祭が腕を振った瞬間、希代を包んでいた水の塊が離れ染野を襲う。大量の水の塊が津波のように一瞬で押し寄せ、彼を巻き込むとコンクリートの円柱を破壊して壁へ向かう。そう、水さえあればこの性能なのだ。

 希代が音もなく起き上がると手斧を掴み、背後から水の司祭を袈裟切りする。斧から噴き出す炎が断面を焼き切り、出血を止めると同時に追い打ちを掛けた。

「ばッ……!?」

「馬鹿だな。法術ほうじゅつ使えんのは隊長だけじゃねえよ」

「希代は俺より法術が上手いしな」

 怪我を負いつつも染野が戻って来る。どうにか生き延びたらしい。

再生術さいせいじゅつで酸欠の体を無理に治すって……凄いこと考えますね」

 それはやろうと思っても躊躇してしまう戦術。法術に長けた希代は水中で酸欠になるも、酸素の供給が途絶えた体を法術を用いて維持していた。つまり、死んだふりをして不意を突いたのだ。

 これが染野が彼に無線で伝えた指示だった。

「経験だけはあるからな」




【10】


 ダマスクがハンマーを投げる。シルバー7もそれに応戦し、自身の祭具であるマイクを投擲して撃ち落した。地下神殿の染野達から離れた場所で二人は戦い、シルバー7が権能を使うと彼の動きが止まる。そして、その隙に迫る彼女が拳を振うが鋼鉄の肉体を破ることはできない。

 彼女の拳が自分の血で染まる中、動き出したダマスクが彼女を蹴り飛ばす。

「ぐっ……かてえ!」

 ダマスクの体は服ごと金属に変化しており、彼女の拳を通そうとしない。その圧倒的な硬度に拳の方が負けていたのだ。シルバー7は蹴りを試すもその硬度の前には無力であった。

 彼女が地面のハンマーを掴んで彼に投げるも、命中し無傷に終わる。

「(私のライ・ディレイ・アイは事象を二秒間遅延させる)」

 弾かれたハンマーが空中で静止し、彼女の跳び蹴りが彼の姿勢を崩す。シルバー7はそのまま空中で回転し、静止したハンマーをダマスクの方に蹴り飛ばすと、静止から二秒経ったところで動き出す。蹴られたことで進行方向が切り替わったハンマーは加速し、彼の胴体に命中した。

 だが、ダマスクに傷はない。

「(とはいえ、私自身にパワーがないしな……)」

 そう、彼女は攻めあぐねている。このまま持久戦をやる場合、耐久で勝るダマスクの方に軍配が上がるだろう。勝負は長期戦にしてはいけないが、シルバー7には『奥の手』以外に有効な攻撃手段がない。

 二人が睨み合う。

「(この女、動きを鈍らせてくる。崩し難いな)」

「(やっぱり短期決戦じゃなきゃ無理……)」

 シルバー7は逆転の一手を見つけなければならない。この孤立無援の状況で。

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