コッペパン編 ―襲撃のオリガさん―
善弥の朝は休日でも早い。
基本、お店がお休みの日以外早い。
日曜日でも午前3時45分に起床し、パンの仕込みを手伝う。
清潔が保たれていて、尚且つ白がベース故にちょっと見た目が寒い工房内。善弥は帽子をかぶり、マスクとエプロンを付けて仕込みを手伝う。
その途中でちらり、と父がパンを形づけるのを見たり、祖父が中に仕込む餡やクリームを準備したりするのを見て、手順などを覚えようとする。
《パン屋のゴロゴロ》では土曜だけに出す商品と、日曜日だけに出す商品がある。土曜日は季節の野菜を使った総菜パン。日曜日は生クリームがたっぷり入ったパイ菓子である。
善弥は、この2つを見るたびに世間では休みの日なんだなぁ、と実感していた。
「あぁ、そうじゃそうじゃ。善弥。ちょっと……」
急に祖父に呼ばれたので、近寄ると、祖父の手には焼きたてのコッペパンが握られていた。
「美味しそうだね。何を挟むの?」
「ん。一部はきなこの揚げパンと、イチゴジャムとマーガリンを挟んだものを出すつもりじゃよ。他に希望があるのかい?」
祖父は楽しそうに予定を話し、目をキラキラさせて問いかける。その顔が子供のようで、善弥が思わず笑いそうになっていると祖父は真面目な顔になる。
「こっちは真剣なのじゃよ。お店に並ぶ商品じゃからの」
「わかってるって。ただ、何を挟んだら美味しいかなって考えるだけでも楽しいからさ」
と、苦笑する。
しかし祖父の言う通りだ。今日、店に並ぶ商品を考えねばならないのだから……。
「蜂蜜とマーガリンはどう? 僕、けっこう好きだよ」
「おぉ、それもいいな。さっそく用意しようかの」
そう言いながら、祖父は準備を始めたので善弥もそれにならった。
いつものとおり、残り物のパンとサラダ、インスタントのスープで朝食を済ませるとレジに入る。
開店の時間になると、ご近所さんがちらほらとやってきてパンを買っていく。甘い香りのクロワッサンに、ふんわりの食パンなどが売れていき、時間が昼になっていくにつれて総菜パンが売れていく。
善弥がアイデアを出した蜂蜜とマーガリンの入ったコッペパンもちらほら売れていた。
(喜んでくれるとやっぱ嬉しいなぁ)
にこにこ顔でパンを買っていくお客さんの顔に、つられて笑っていると……栗色の髪を弾ませ、緑のジャケットを纏った女性が入ってくる。彼女は懐から水鉄砲を持ってくると、すちゃっ、と突きつけた。
幸い、彼女以外の客はいなかったからよかったものの、誰かいたならば軽く騒がれていただろう。
「コッペパン! コッペパンを要求します!」
「さもなくば撃つとでもいうんかいっ!」
思わず吹き出そうとした善弥だが、声で気付いた。……オリガだ。一体何があってこんな真似をしたのだろう、と思う一方なんとなく元ネタが何なのかも何となくわかった。善弥は苦笑しながら挨拶する。
「オリガさん、こんにちは。今日は何にします?」
初めて会った日から、時折買いに来るようになったオリガは、もう《パン屋のゴロゴロ》の常連客と言っても過言ではない。そして、来たときは最低3つは買っていく。善弥としてはありがたい客だった。
「さっき言った通り、コッペパンが食べたいです。ありますか?」
「ジャムを挟んだのと、蜂蜜を挟んだのなら」
オリガへそう答えた善弥だったが……オリガは表情を険しくした。
「普通のコッペパン、要求しますっ!!」
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