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オリガさん、《パン屋のゴロゴロ》へ行く! ―前編―


 トラムが高校近くの停留所にとまる。善弥は定期券を運転士に見せ、軽い足取りで下りるとオリガもまたそれに続いた。

「え? 大学に行くんじゃないの?」

「はい、大学にいきます。私が通っている大学、ここです」

 そう言ってオリガが指さしたのは高校の真向かいにある大学だった。話によると寮は大学からやや離れた場所にあるらしい。

(この大学の女子寮ってご飯が美味しいって噂だったな)

 善弥が大学を見ながら考え込んでいると、オリガがぽん、と手を打った。

「よかったら、一緒に帰りませんか? それならお弁当箱、回収できます」

「いや、洗ってから返すよ!」

「大丈夫、大丈夫!」

 オリガの提案に、善弥は気恥ずかしさから首を振る。だが、オリガは笑って取り合わない。彼女はスマートホンを見、小さく悲鳴を上げる。

「時間、大丈夫? そろそろ授業始まらない?」

 そう言ってスマートフォンに記された時刻を見、善弥は顔が引きつった。


 ダッシュしないと、遅刻する!?


 * * *


 4時間目が終わり、善弥がオリガから借りた弁当箱をひらくと……、愛らしい俵型おにぎりが3つ入っていた。その他にも野菜の煮しめに卵焼き、鶏のから揚げにたくあんがきれいに詰められている。

 オーソドックスなお弁当ではあるが、とても丁寧に作られているな、と見るだけでわかった。それを毎朝作ってくれる寮というのも、凄い。

「美味そう……」

 いただきます、と手を合わせ購買でもらった箸を行儀悪く口にくわえて割り、さっそく野菜の煮しめから口に入れる。

「うっ?!」

 だしの香りに惹かれたが、あとからほどよい醤油の味がした。ほんのりとした甘みはみりんと砂糖による調節の賜物だろう。口にしたシイタケの滑らかな食あたりを楽しむと、次々に口へと運んだ。

 量は、もしかしたら一般的な女子大生が食べる量に比べ若干多いかもしれない。だが、食べ盛りの男子高校生が食べる者にしては、若干量が足りなかった。

 無我夢中で食べつくし、お弁当は米粒一つも残っていない。善弥は「はぁ~……」と感嘆の息を一通りつくと

「……足りねぇ……」

 と机に突っ伏した。


 * * *


 結局許可をもらって家庭科室で弁当を洗った善弥は、下校の際何気なく大学へと向かう。そうしながらも「アドレス交換していた方が良かったか」など考えていると、見覚えのある女性が手を振っていた。瑠璃色の瞳が可愛いオリガである。

「ちょうどよかったです! オーリャですよ!! 今朝はあんパンごちそうさまでした!」

「こちらこそ、お弁当、ごちそうさまでした。美味しかったです」

 洗った弁当箱と未使用の箸が入ったポーチを渡すと、オリガは笑顔で「ありがとう」と受け取った。彼女はいそいそとお弁当をしまい込むと少し躊躇いがちに「あの……」と口走る。

「どしたの?」

「実は、ちょーっとお願いがありまして……」

 善弥が不思議そうに問いかけると、オリガはちょっとドキドキした様子でこう言った。

「夕食まで時間があるので、よかったら《パン屋のゴロゴロ》に連れて行ってください!」

「……ま、マジ?」

 善弥の言葉に、オリガは勢いよく何度も頷いた。にっこにこの笑顔が眩しいが善弥はとても嬉しい気持ちでいっぱいになる。

「あのあんパン、凄く美味しかった、です! ほかのパンも食べたくなりました!」

「喜んでもらえて嬉しいよ。きっと親父も喜ぶし」

「! おやじ……ん、お父さん、ですか?」

 善弥が少し照れた様子で頷けば、オリガはきゃー! と黄色い声を上げた。目をキラキラさせちょっと興奮気味になるオリガに、善弥がたまらずぽつり。

「恥ずかしいっすよ、オリガさん」


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

次回、オリガさんが本格的に《パン屋のゴロゴロ》に襲来!!

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