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6日目 調査活動、再開

 一通りの魔法を学び終え、雷太はこれだけ使えれば十分だとカッシェルフからの授業を打ち切った。生徒のほうから授業を打ち切るというのもえらそうな話だが、説得というか、交渉というかの後で二人の立場は侵略者の尖兵と原住民という冗談のような関係でかたまってしまったため、もっともっと教えたい事があったらしいカッシェルフは実に残念そうにその打ち切りを受け入れた。


 被侵略者が侵略者に対して教えたがりというのもおかしな話ではあるのだが。


 魔法の授業を打ち切った雷太は、もちろんそこで魔法を学ぶのをやめたわけではなく、一人でできる範囲で訓練を続けていくつもりだ。データベース化した資料にはまだ手を出せない高度なものが数おおく残っている。それに、対面での授業を打ち切っただけで、カッシェルフから教わる事はまだまだ残っていると雷太の方でも思っていた。


「ふむ……やっぱり通信魔法というのはまだ高度なのか。座標の特定、波長の把握、いろいろとできるようにならないといけない事が多い」


 座標の特定はともかくとして、波長というのは念術を行ううえでもっとあとに身につける技術だった。魔力というのは個々人でそれぞれ独特の波長を持つものらしく、熟達した魔法使い、特に念術使いはその波長を探知し識別する事に長けているらしい。


 手のひらで自分の魔力を感じ、もてあそびながら今できる限界の魔法を模索する。


 そして唐突に、感情が弾ける。


「あぁ、俺この世界好きだわ」


 ナノマシン技術や準人工脳など、テクノロジーによって生物としての機能を拡張できるようになってから、人類は数だけでなく質も向上させてきた。完全記憶能力や絶対音感など、特殊能力と呼ばれるもののなかでも受動的なものであれば、小さな外科的手術のみか、そこに一定の訓練を重ねることで後天的に完全再現が可能になっている。肉体の強さも、不老不死こそまだ叶ってはいないが、西暦時代と比べればずっと丈夫で長持ちするようになった。


 さらに、太陽が不安定な挙動をしめすようになってからというもの、サイコキネシス、テレキネシス、パイロキネシス、テレパシー、といった能動的特殊能力を扱える人間も増えてきた。ESPとも呼ばれるそれら能力を後天的に身につけるための研究も地球ではなされている。


 雷太はかつて、そういった超能力にも憧れていた。


 地球圏統一以前、日本やアメリカといった娯楽大国がすさまじい量作り出したアニメやコミックの影響だ。


 それらの中で語られる主人公や宿敵たちは、なんの技術の助けもうけずに生身だけで空を飛び、目から光線を出し、火を吹き空気を凍結させて雷を発した。


 技術の進歩によって限りなくスマートに身につけられるようになったオモチャのような機械で、擬似的にだが誰でもそれらを再現できるようになったあと、雷太のその憧れは少しずつ薄れていったものの、いざ魔法という少し違った形でなんの科学技術の助けもなくかつて憧れた魔法を自ら使うという感覚は、かつて抱いていた強い憧れを呼び覚まし、そして満たすには十分だった。


 魔法を使えるというだけでも雷太はこんなに気持ちよくなれるというのに、この世界にはまだまだ、夢物語の中でしか語られなかったような物事が数多に眠っているというではないか。興奮せずにどうしろというのか。


 もはや調査など二の次でもいい。この世界固有のものと思われる新粒子も発見できたし、その新粒子の様々な形態も知れた。まだ他の形態があるという可能性も暗示されている。


 この宇宙への開発がはじまるかどうかはまた少し外れた話になるが、調査の成果だけ見れば十分すぎる。あとは生きて帰るだけで雷太の調査は成功とみなされるだろう。だったら、もう自由に行動してもいいじゃないか!


 雷太は決意し、その決意をカッシェルフに伝える事にした。



「ふむ。出発すると、いうのかね」

「うん。思わぬ大収穫があったから長居しちゃったけど、もともとビーコンを置いたらまた降りる予定だったんだ。その主目的も果たしたし。ただ、まだココには何か色々と収穫物が眠ってるような気がするんで、ちょっと置き土産を残して行きたい。いいか?」

「ん? フフ。わたしは植民地の原住民なのだろう? わざわざことわる意味があるのかね?」

「あー、んー」


 雷太としてはもののたとえだったのだが、意外とノリノリでそんな事を言ってくるカッシェルフに困って頭をかいた。既に何度かやっているやり取りだが、どうにも慣れない。


「そうだな。じゃあ勝手に置いて行くから、勝手に使い方をおぼえてくれ。いちおう、マニュアルにはこっちの言葉に翻訳したものも追加しといたから、さわりかたもわからないなんて事はないだろう」


 そういって雷太が取り出したのは、10センチ四方ほどの見事なキューブだった。素材の質感は雷太の着ているスーツが一番近いだろうか。黒の濃いグレーで艶がなく、角だけ丸められている。


「でもとりあえず、最初だけは教えよう。こうして、『起動』」


 軽く握って、起動の合図だけは雷太の母国語だった。すると、上部の一面がパカッと開いて空中に光を投影する。周囲のアルフェーイはその光景にはじめは自分たちの仲間でも閉じ込められていたのかと思いわずかに動揺をみせたものの、キューブの中からそれらしき気配は感じられず不思議そうに首を傾げて、いるようなイメージで揺れている。


「一度起動してしまえばアルフェーイたちにも使えるかもしれん。いいか? まずここに触れてだな……」


 投影された映像は見慣れたものには完全におなじみのパーソナル端末のものだ。スタートメニューから、最低限のショートカットアイコン。ゴミ箱まで。だが現状の機能は限られており、使いやすさを重視した設定になっている。雷太は空中に投影された画面に直接ふれて操作している。


「とりあえずマニュアルだけ出しておく。持ち運びもできる据え置きだから取り回しはよくないが、サバイバル用の超省エネ型でな。これ単体でネットワーク経由せず地球から太陽はさんで反対側にある火星と……つってもわからないか。とにかくこれ一つもってれば離れててもいつでも会話できるようになる」

「ほう……魔力波通信のようなものだろうか。だとするとおまえも同じような形のものが必要となるのではないか?」


 どうやら似たようなモノを知っていたらしいカッシェルフ。なかなか的を外さない質問をしてくる。雷太は首元に触れるとヘルメットを展開した。


「俺のはこの中に入ってるんだ」


 コツコツと指先でヘルメットを叩いて示す雷太。カッシェルフは感心するばかりだ。


「便利なものだ」

「まあ、離れてれば離れてるほど、最初の呼び出しにちょっと時間がかかるのが難点だが、この星の大きさを考えたら一週間やそこらじゃ反対側にだっていけそうに無いからなあ」


 高機能でもテクノロジーだ、難点もあるがこの環境下では難点止まりで障害にはならないだろう。


「途中で拾うものもあるし、思い立ったら吉日って言葉もあるんでな、俺はさっそく行かせてもらう!」

「お、おい、もう少し詳しくっ! ああ、行ってしまった。なんてせわしない……いや、活動的な奴だ」


 よほど旅が楽しみで仕方なかったのだろう。雷太は常人離れした脚力で、しかも器用に魔法まで使って、足元の草花を踏み荒らさないよう丁寧な猛スピードで走って行く。そのあとを何体かのアルフェーイが追っていったのをカッシェルフは見逃さなかった。


 晴れ晴れとした表情のカッシェルフ。雷太についていくアルフェーイたちを止めるような事はしない。見事な速度で雷太の背中から氷の羽を展開され、飛び立っていく。その背中を見送りながら彼と過ごした時間を思い返し、そして驚く。


「彼が来てから、まだ二日も経っていなかったのか……」


 恐ろしく濃い時間だった。一ヶ月はかかる内容の学習をたった一日で収めたうえに、何百年もの間もカッシェルフを縛り付けていた過去をいくらかブチ壊していった。


 そんな人間が何人もいて、もしかするとそいつらが大勢でこの世界にやってくるという。カッシェルフも少しずつ若かりし頃を思い出す。


「わたしも、もう旅立ってもいいのかもしれないな」



 

 帰還可能時刻まで、約178時間

 

 文章が、かたすぎるでしょうか? 個人的にいちばん筆が、というか指が乗る調子がこのくらいなのですが。


誤字・脱字などのご指摘もお待ちしております。

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