5日目 世界樹の息吹き
本格的な協力の言質をとった雷太は、今までなんとなく遠慮していた対象への調査許可を頼んでみた。
「うん? 別に切り倒すわけでもないのだろう? 勝手に調べればよいではないか」
返事はじつにアッサリしたもので、これならこんなに段階を踏まなくてもよかったかもしれないなと今更ながらに思う。ともあれこれで心置きなく、この高地の中央にそびえ生える巨大な樹木に調査装置をあてられるようになった。
巨大な樹木。雷太がこの高地に上りきった時、まず真っ先に見入ってしまったものだ。その生態には今のところ謎しかない。魔法という至極便利な技術が存在する世界だとしても、あれほど巨大な樹木が本当に存在しえるのだろうか、と。目の前にたしかにあるにも関わらず疑ってしまうほど、よく言えば幻想的、わるく言えば現実味がない。
「根元に立つと、でかすぎてスケールかよくわからなくなるな」
近づけば近づくほどその現実味のなさは増した。雷太はだんだんそれが気持ちよくなってくる。
「もともとこれはカークィッシュという種類の樹だった。カークイッシュはもとより魔力との親和性の高い植物でな、この大きさまで育つように魔法をかけるのは、アルフェーイたちと協力すればかなり簡単にできた」
「え!?」
頼まずとも解説を始めてくれたカッシェルフ。雷太はその事実を聞いて改めて驚いた。
「これ、もともとここに生えてたんじゃないの?」
逃亡生活の末にこの地にたどりついたカッシェルフとアルフェーイたちが、自然の神秘ともいえるこの大樹の庇護にあずかるべく安住をはじめたのだと、勝手に想像して思い込んでいた。ところが真実は違うらしい。
「こんな標高の高い場所で植物が自然に発芽するわけがなかろう。芽を出すまでは成功するかわからなかったが、思いのほか一度の挑戦でここまで育った。それどころか、未だに大きくなっておる」
そういうカッシェルフの顔はどこか得意げだ。何を当たり前の事を、とでも言わんばかりに小さく鼻で笑ったのを雷太は幸い聞き逃していた。そのくらい、その真実は雷太にとって衝撃だった。
しかし、改めて考えればなぜ今までありえないと切り捨てていたのだろう。ポイントゼロからここへ来る途中、ダンゴムシが巨大化して金属をまとったような生物と、明らかに動物のような挙動をする植物とであっていた。魔法を、魔力を使える生物が知性体だけであるという考えははじめから捨てておくべきだった。
魔法とは、この星に住む者が皆少なからず自然にあつかっているものなのかもしれない。
「なるほどなあ……」
自分のなかで納得を得ると、先ほどまで気持ちよさを感じていた違和感がなくなってしまう。それはそれで残念だったが、雷太がこの世界のありようを受け入れた証拠でもあった。
「っと?」
雷太が心変わりした瞬間、まるで見計らったかのように雷太の脳天に何かがコツンと落ちてきた。一度自分の頭の上で跳ねて地面に落ちたそれを拾い上げ、眺めていると、カッシェルフが珍しそうに声をあげる。
「ほう! それはこの樹の種子だ。珍しい。わたしもこいつとは八百年ほどつきあっているが、未を落としたのはたったの四回しかないぞ」
単純に計算して二百年間に一つしか種を残さないらしい。
「そんなものがピンポイントで俺の頭の上に落ちてきたのか」
まるで奇跡だ。雷太は握り締めたドングリをそのまま大きくしたような種子を見て感動した。
「へへ。認められたのかね」
樹木が動き、気体でできた生物が感情を示す世界なのだから、樹齢がたった八百年しかないというのに地上五百メートルもの高さにまで成長したという目の前の大樹が意思をもっていても何も不思議はない。
そして、自分より大きな存在に認められたかもしれない、というのはなんとなく心地よいものだった。
これだけの稀少物質ならば、にべもなく調べつくすのが本来の雷太の役目なのかもしれないが、そうするのはとてももったいない気がした。
「よし。じゃ、ちょっと調べさせてもらうかね」
種子は、情報化せずに物体のまましまうポーチに入れた。だいぶスペースを取られるがそれだけの価値がある気がした。あとはいくらでもとれそうな、葉、枝、樹皮、樹液など、樹の命を削らない範囲でできる限り採取し解析にかけていく。
とりわけ、樹液からの収穫は大きかった。
「すさまじい酸素含有率だ。イリュートロンと結合した酸素ばかりだが、普通に考えれば硫酸と同じレベルの酸性値だぞ……」
イリュートロンの新たな形態の発見だ。万能物質、という可能性すら出てきた。イリュートロンが魔法の媒体になっている事はほぼ確定なので、イリュートロンを何と結合させるかは思念のみで操作できるという事になる。
もしも、この物質を技術として体系化できたとしたら。可能性は広がるばかりだ。雷太は一人で不気味な笑みをうかべてしまう。周りには何体かのアルフェーイたちが居はしたものの、その笑みの真意を理解できるものは一体もいなかった。
一通りの調査も終え、ついでにピストル型ではなく設置型の大きめのビーコンを太めの枝にくくりつける。この場においてできる事をすべてやり終えると、雷太は樹のてっぺんまで登り、そこから見える景色を堪能していた。
標高は少なくとも、一万とんで五百メートル地点。これほどの高さであるにも関わらず、地平線はさほど丸くみえない。やはりこの天体は地球とは直径が違うようだ。こちらの方が、はるかに大きい。
これだけ大きいにも関わらず、重力が地球とあまり変わらない。いろいろと謎は残るが、やはり詳しい事はあとから来る研究員にまかせようと雷太は思う。
その研究員だって、今後の雷太の行動しだいでは来ないかもしれない。雷太の行動に関わらずとも、この星の開発に着手するメリットが、開発にかかる費用に見合わないと判断されれば、その時点でこの平行宇宙への干渉は打ち切られるだろう。メリットに見合うだけの宇宙を見つけることは、今の地球の技術力でも時間さえかければいくらでも可能なのだから。
何を考え、何を謀っても、この宇宙に骨をうずめる気のない雷太には取らぬ狸の皮算用になる。だから雷太はただ、今この瞬間を楽しむと決めた。
もうすぐ日が沈む。東の空には既に無数の星が浮かんでいる。標高が高く、塵が少ないおかげだろう。いまだ恒星の光は途切れないというのに、そこには薄青い遠くの銀河すら見えた。
大きく息をついて雷太は思う。
「この世界が、欲しい……」
帰還可能時刻まで、約192時間。
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まだ文章が硬すぎる、かなぁ?




