事件
辺境で長く人々を脅かしていた上位魔獣が討伐された。
第二王子レオンハルト、火の魔術師ロイド、聖女メイベル。
3人はそれぞれの役目を果たし、王都への帰路についていた。実のところ、それほど危険な任務ではなかった。次代を担う若者たちに華々しい功績を持たせるという、半ば国を挙げての催しのような意味合いが大きかったため、護衛もつけず3人だけで行われたのだ。
実際、討伐そのものは何の問題もなく終わった。
帰還の知らせは先触れによって王都へ届けられており、一行を迎える近衛の護衛団が、街道沿いの宿場町で待機していた。そこで合流し、ともに王都へ入る手はずだった。
だが、約束の時刻を過ぎても一行は現れない。
異変を察した護衛団は、3人が来るはずだった街道を逆に辿り、森のそばでまだ新しい野営跡を発見した。
そして、そこからほど近い場所で――仰向けに倒れている聖女メイベルを発見した。
腹部には、深い刺し傷がひとつ。
白い法衣は流れ出た血に染まり、すでに息はなかった。
その後の捜索で、第二王子レオンハルトと魔術師ロイドは、同じ森の別々の場所で発見された。
2人とも命に別状はなかったが、レオンハルトの鼻から頬にかけてと、ロイドの左手首には裂傷があった。何より、2人ともひどく土埃にまみれ憔悴しきっており、事情を尋ねてもまともに話せる状態ではなかったという。
凱旋を待つ歓迎ムードは一変、ただちに箝口令が敷かれ、保護されたレオンハルトとロイド、そしてメイベルの遺体は、人目を避けるようにして王都の門をくぐった。
本来ならば、3人の帰還は華々しいものになるはずだった。
国の宝とも称される聖女メイベル。
数々の武勲をあげ、その実力を広く知られる魔術師ロイド。
そして、第二王子レオンハルト。
王家には、今回の討伐をレオンハルトの功績として広く知らしめたい思惑があった。メイベルやロイドの名声に比べれば、ともすれば存在感の薄くなりがちな第二王子に、王族として箔をつける絶好の機会だったのだ。
その目論見は、聖女の死によってもろくも崩れ去った。
それどころか、第二王子自身が事件に関与している可能性さえ否定できない。
聖女の死の真相を明らかにしながら、王家を揺るがしかねない事態を慎重に処理しなければならない。
その調査を任されたのが、王宮事務官のオルフェンだった。
王国の第二王子。
国の宝と呼ばれる聖女。
名高い魔術師。
並んだ名前を見ただけで、厄介な仕事になることは分かった。
任命書に目を落としながら、オルフェンは誰にも気づかれないよう、小さくため息をついた。




