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第九話 『覚えておくがいい、俺のお名前はくじらくんさんだっ!』

謎のタイトルかもしれませんが...

重要です。


では今週もよろしくお願いします。

第九話

『覚えておくがいい、俺のお名前はくじらくんさんだっ!』


7月2日、夕刻 


旭柰は早めの夕食を終えると、冷蔵庫から一升瓶を取り出した。 

赤子を愛でるかのごとく、瓶の淵を労わるようにそっと指先で触れる。

生まれたばかりの乳飲み子のほっぺたに触れ、そこに宿る【命】を体感するような、慈愛に満ちた眼差しが酒瓶へと注がれる。

酒飲みとしてある種の到達点とも言えるその姿は、端から見れば【アホ】であると言われれば確かに【アホ】であろう。

だが、それは酒を慈しむその路の果てに、確実に存在するロマンの一つなのだ。

「酒好きの女はアホ」などという普遍的な法則は存在しない。

だが、酒を愛する女が酒に溺れる様にワクワクしてしまう、おっさん達のロマンというものは確実に存在するのだ。※ねぇーよ。 


旭柰は、あらかじめ冷やしておいたお気に入りのマスを机に置いた。 

それは、鯨の被り物をかぶったムキムキ筋肉のキャラクターが、目も眩むような精緻な螺鈿(らでん)によって表現された、職人の技の光る見事な升だった。

若狭塗(福井県)の螺鈿升の限定品であり、人気芸人「くじらくん」さんと、若狭の伝統工芸最高峰を誇る漆器店・工房『酒向(しゅこう)漆器』による公式コラボアイテムである。


「奇麗……」 


そう小さく呟きながら、旭柰はまだ何も注がれていない升を、宝物を愛でるように掌の上でゆっくりと回転させていた。 

この升は「研ぎ出し(とぎだし)」という、過酷な工程を経て作られる漆器の中でも最高峰の一品。

升は元来、檜(ひのき)で作られることが多く、その表面を削って整えるだけの仕上げが主流である。

安価なモノにいたっては、メラミンやABS樹脂製の品も多い。 


しかし、旭柰の手にしているこの升は違う。

木材の表面にアワビや夜光貝の殻(螺鈿)、卵の殻(卵殻)、さらには金箔などを贅沢に散りばめた後、その上からさらに何度も色漆を塗り重ねて、一度完全に塗膜の中にそれらの装飾を閉じ込め、封入する。

その後、表面を極限まで平らに研ぎ(削り)出すことで、漆の層の奥からキラキラとした螺鈿や金箔の模様が、まるで神秘的な海底の景色のように浮かび上がってくるという、極めて手の込んだ品になっている。 


元来、これら伝統職人の技というものは、季節を彩る草花、風光明媚な風景を表現することが多い。

だが、この品はあえて人気芸人『くじらくん』さんのイラストを大胆に採用。

そのイラストを描いた似顔絵画家ハリース=直(なお)氏と、くじらくんさん本人の二人が監修のもとで仕上げられた、究極のコラボアイテムなのだ。 

そこへ静かに注がれる酒は、同じく福井の誇る名門酒造・覇龍酒造の大吟醸、その名も『百龍閃(ひゃくりゅうせん)』。 

くじらくんさんの出身地である福井の総力を挙げた、地域復権の商品群の決定打として限定販売されたこの【升+日本酒+くじらくんさんレプリカ鯨帽子(なんと、くじらくんさんの手作り!)】のスペシャルセット。

わずか限定30セット限定品である。

彼女のこの一品へ賭けた熱量は、もうそれはそれは、例えようのないほどに凄まじく、そして熱かった。


----------------------------------------

時は遡ること約二週間ほど前

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世間はイグナクトの話題一色の過熱報道に沸いていた。

「地球の危機に宇宙からの希望だ!」と、全ての注目がイグナクトに注がれている最中のことである。


一色漁港は、早朝の競りからの人の流れが移り替わる時間帯を迎えていた。 

梅雨の晴れ間の朝日が差し込む漁港の一角で、その騒動――否、死闘は繰り広げられた。


⇓【場面BGM】⇓

https://soundcloud.com/toma-saeki/6v6q70juakap?si=ed8e0d196da84e849ebae0d5870df249&utm_source=clipboard&utm_medium=text&utm_campaign=social_sharing

おっさん二人の悲鳴、そしてそれを追うしなやかなフォームの女性。

漁港の人間ならば基本装備である長靴を、まるで最新のランニングブーツの如く見事に履きこなして疾駆するその姿は、一流アスリートのそれであった。

逃げ惑うおっさん二人がコンテナ群の角を曲がる。


「逃さないっ!」


それを見た女性はすかさず反転、廃棄用に置かれていたターレットトラックを踏み台にしてコンテナ上へと軽やかに駆け上った。

一直線にコンテナ上を駆け抜け、おっさんたちの目の前へと華麗に舞い降りる。 


「うおっ!」


「ひぃっ!」


袋小路、完全に逃げ場を失う、デカいおっさん(魚住)と、丸いおっさん(星野)。

ヒタヒタと確かな足取りで距離を詰めてくる女人。

二人は華奢な女傑に完全に追い詰められ、決断を迫られることとなった。


ビシィッ!

獲物へ放つ気迫が迸(ほとばし)るッ!


『ここが私の人生の山場なのッぅ!』

(エッジの効いた関節角度と、バレエで鍛えた体幹によるイケてるポーズ)


追い詰められているおっさんたちの正体は、現在この一色漁港で働く、元・魚★(ぎょせい)芸人コンビの二人――星野八郎(ほしのはちろう)と魚住淳二(うおずみじゅんじ)の二人である。


迫る如傑は銛旭柰(もりあさな)。

普段のにこやかな笑顔とは異なる鬼気迫る勢い、シャープで切れのあるその一挙手一投足からは、獲物を見据えた捕食者の如きオーラが放たれている...

恐るべき目利きの達人が放つそれは、まさしく【眼光】としか言いようのない眩い鋭さを秘めていた。

さしずめ二人は蛇に追い詰められた蛙である。

旭柰のあまりの熱量に圧される星野。

『ヤバいでこれはしかし!』とその巨体を亀のように丸め相方を生贄とし、逃げに撤する魚住。


「星野さん!!貴方は嫌がる私をダシにしてポスターを刷りまる話を総会で通しましたっ! ですが私は漁業の未来のためにと泣く泣くそれを承諾したのですっ! そのツケを今、ここで払いなさいッ!!」


『おっ、おう...お、落ち着け旭ちゃん、くじらくん ?さん?は昔売れてない時に世話してやった恩もあるから聞くだけ聞いてみる...わ...な、それで勘弁してくれ...』


と、白熱スパークした女の放つ眼光に折れる星野。


くじらくんさんといえば、今や飛ぶ鳥も落とす勢いで、ちびっ子からお年寄りまでを虜にする大人気芸人である。

そのスター、というか、現在の彼女にとっては「神」そのもの。

その神と繋がりのある、身内のような仕事仲間が目の前にいるのだ。

旭柰の覚悟は、この時点でキマりにキマってガンギマリなのであった。


《くじらくんさん【俺の魂】コラボ》


そもそも、このくじらくんさんのコラボ商品は絶望的な抽選倍率を誇っていた。

妹に母も動員し、親族中を駆けずり回って挑んだ【購入抽選】という名の負け戦。

結果は当然、敗北の嵐であった。

全国の親族、知人から届く報は、「討ち死に(抽選ハズレ)」の容赦ない報告ばかり。

そして彼女は、ついに最後の手段に打って出たのである。


【禁じ手】

関係者から手を回して品を確保する、文字通りの最終手段。 

どうしても敬愛する神(くじらくんさん)の魂(グッズ)に雫(コラボ日本酒)を手中に収めるため、自身の最高火力を放った魚屋、その圧倒的な熱量を前に、おっさん二人は抗うことを完全に封じられたのだ。

 

喉元を抑えられ、後のない星野の決死の交渉の結果、限定30本とは別枠である「関係者に配るための枠」を一つ、正規品として回してもらうことになり、適正価格(25万円)で見事に譲り受けたのだ。 

ちなみにその後、市場での反響の凄まじさから日本酒だけは四合瓶サイズでの限定再販が決定したのだが、それすらも四合瓶1本で12万円という高値がつき、升と帽子にいたっては追加販売もないため完全なプレミア品と化してしまっている。


このような経緯を得て手元に届いた至高の品。

酒瓶を恍惚の眼差しで見つめる。それは最早、酒飲みとしては礼儀であり当然の所作である。


この日本酒、なんと精米歩合1%、つまり米粒の99%を削り落とし、残った粒をかき集めて酒を醸したという、文字通り、常軌を逸した酒である。

工程もかなり凄まじくダイヤモンドロール式精米機という機械を使い、半年以上の期間をかけゆっくりゆっくり精米した米を使用している。

※ゆっくりしていってね~にもほどがある

機械を長時間連続稼働させては摩擦で米が熱を持ってしまう。

それを避けるため、丁寧に時間をかけ、機械を休ませながら、米粒を磨くように削り落とす、気の遠くなる作業...

そして集められたコメの中心核の更に中心点、心白(しんぱく)。


白山から九頭竜川(くずりゅうがわ)、伏流水として湧き出た清水、水だけでも極上のそれが超一級の酒米の超絶技法で磨き上げられた心白と合わさる。


極上の超心白(しんぱく)。

霊峰白山(はくさん)から黒龍川へ注ぐ雪解け水。

受け継がれた職人の技と杜氏の長年の経験。

醸(かも)された酒は極上の輝きを放ち、吟醸香をオーラのように纏う。


【酒名/百龍閃(ひゃくりゅうせん)】


張ったりでも虚勢でもない。

ふさわしいその名が天から降りてきたのである。


トドメがこの酒は日本酒なので長期保管すればたちまち風味が落ち味が悪くなってしまう。

つまりいい酒なのに早く飲んでしまわなければならないというジレンマが発生する。

旭柰は、その父親同様酒飲みなので、一升瓶で用意されたこの酒も瞬く間に五臓六腑に溶かし込んでしまう。。。

丁寧に毎日の晩酌で味わいながら、今日その最後の一合を注いだのだ。

ただ無為に、この最後の一合を消費してはならん、そんな想いが旭柰に[くじらくん さん帽子]を被らせた。

敬愛の一つの表現なのだろうが中々に人に見せられる絵面とはならない。

一見すれば歌舞伎町や新橋の飲み屋の酔っ払いと同一の人種にも取られかねない。

だが…旭柰は…そうせざるを得ない感謝と祈りに心をやつしてしまったのだ...


企画を立ち上げてくださった くじらくん さんが用意した鯨帽子をかぶること。

この儀式にも似た所作と共に様々な想いが脳裏を駆け巡る。

福井の方角を向き、深き祈りをささげる。

手配してくれた星野や魚住(逃げただけ)、升を作った職人様達、酒を醸した杜氏を筆頭とする酒造関係者様。

その全てへ祈りを捧げこの最後の命の水を飲みほした...


『ありがとう、ございます...』


滴り落ちた本当の最後の一滴を腹に収めるのと刻を同じく、その瞳からは涙が溢れていた。

正規のルートで抽選に外れた哀れな酒飲み、その意を酌んで手を尽くしてくれた人々、非正規のルートでこの酒に辿り着いたことに対し、抽選で散っていった多くの全国酒飲み達への懺悔、そんな様々が旭柰の脳裏を駆け巡り瞳を覆う大粒の涙となってあらわれたのである。。。


おお神よ愚かな私をゆるしてたもれ...そんな心境で空になった升を眺めていた...

酒を味わうことでその後ろにいる作り手の存在へ思いめぐらす。

酒飲みの習性、禅でいう所の『阿頼耶識(アラヤシキ)』(全酒飲みの経験・記憶が蓄積された超巨大な酔っ払いデータベース)※信じないでください

旭柰は今その集合的無意識へアクセスしているのだ。※引き続き信じないでください


酔い覚ましにお茶を飲もうと冷蔵庫を開けたのに、何故かハイボールを持ってきてしまったのも人の業のなせる所業の一つ。※これは真実です


明日は水曜日、市場はお休みの日で自身も休日。深酒したっていいじゃない、そんな気持ちがあったのは事実であろう、結局、旭柰は鯨帽子を被ったままハイボールの後も、ストックしてある普段飲み用の四号瓶/日本酒を空けて爆睡してしまったのである。


茶に道があり茶道として完成を見たことは多くの者が知るところ。

だがその路が道となる狭間に酒道というモノも存在した。

何故その道が完成することなくすたれたのかというと


 /(^O^)/~酔うと作法なんてわかんねぇずら~ 


という元も子もない理由、これ一択であった。

それらは結果として、持て成しの懐石の場、酒類提供として茶道に取り込まれる形で歴史から姿を消した。

だがその本質は脈々と全ての酔っ払いの魂に刻み続けられている。

人が火を手に入れ文明を作り、水を利用し足掻く日々、その最中で酒は産まれた。

偶然の発酵現象から得られた明日への命を繋ぐ液体。

酒道とは命の灯それそのものなのである。

※うっせーばかそんなことより酒だ



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

旭柰がそんな日があってもいいじゃない♪と酔い潰れていたころ一色基地の執務室で国防軍司令/前田圭史(まえだけいし)は7月中旬にかけて関東地域で行われる国防軍の基地祭の予定表を唸りながら眺めていた。

2075~2076年は国防軍結成十周年として各基地がそれぞれの地元での催しに連動する形で基地祭の開催が企画されている。

関東近辺の基地も、複数が地域連動企画で動いているため、周年のソレよりは規模含めてかなり大掛かりな催事となっていた。

戦時という事で見直しの声もあったのだがそこは政府の強い要望


【戦時であろうと困難な中でも国民と楽しみを共有できてこそ活力となる】


この意向を受け実行にGOサインが出ていた。

そして前田にとっては自身の初孫(前田ほのか/3歳)が基地祭でお祭りデビュー!という記念の日ともなる。

国防軍発足に合わせ、千葉/勝浦には首都防空網の東を担う新基地が建設されている。

その基地祭に孫娘が来る。

前田は国防軍のトップながらこの新基地で自身渾身の【鉄板焼き飯屋台】を企画しているのだ。

忙しい合間を縫っては知り合いの鉄板焼きパランドラン/オーナーシェフ/錦織澪(にしきおりみお)/38歳の下で腕を磨き、テキ屋としての客の捌き方レクチャーを受けてきた。


錦織は勝浦のホテルで腕を磨いた後、独立。

東京/新宿にて鉄板焼き/パランドランへ身を据えた。

新宿で鉄板焼き店舗経営の傍らこの地域最大、新宿歌舞伎町/花園神社の酉(とり)の市でテキ屋/屋台の出店も仕切る剛の者。

新宿歌舞伎町/花園神社のテキ屋は各地に当たり前にあるそれとは激戦の度合いの桁が違うことで有名。

土地柄その様はさながら不夜城のようでもある。

通常のテキ屋が17~21時を主戦場とするが、花園神社は客が途切れることなく深夜日が変わっても営業が続く。

激烈な人の密度、難儀な客(酔っ払い+ヤクザ)、時折発生するストリートファイト、黄色い野人こそいないがインド人はいる。

その場は正に、俺より強い奴はどこじゃ!と怒号飛び交う戦場。

その中を女でありながら鉄ベラと腕っぷしでゴリゴリ捻じ伏せてきたのだ。

前田は今その武の者、現代のいくさ人からの教えを脳内シミュレーション、来たるべき激戦へ頭をひねっていた。


『ふぅ・・・慣れないことを頭の中でシミュレーションするのは堪えるな...』

※脳内でどんな戦いを演じていたのかは誰にもわかりません


飲食店でのオペレーションなど、高校生の時にハンバーガーショップでのアルバイト経験しかない前田。

多くの人が集まるお祭りのテキ屋、その脳内演習など勝手が違い過ぎて当たり前なのだが、愛すべき孫娘のために知恵を振り絞っていた。




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

翌朝

7月3日

真鎖人は早朝よりイグナクトのラボにいた。

自身のイグナクト操者としての適性に一抹の不安を抱えていることを、まだイグナクトですら深くは感じ取れていない。

彼は事象をロジックとして理解しなければ【対応/適応】できないと考える傾向があり、その意味でもイグナクトへの理解が足りていないと感じていたのだ。

そしてその個人的な傾向とは別にギミックとして日々変遷を重ねるイグナクトへ、知的好奇心から目が離せなくなっていた。


橘真鎖人、彼の特殊な生い立ちと歩みに対してはまだ殆どの者が全体を把握していない。

南雲と皇統真、この二人だけがライトニングボルトの開発を通してその経歴を彼の言葉でもって承知している。

履歴というだけの文字では見えてこない人生、特殊な道を歩いてきたが故の葛藤もある。

だが誰かとそれら一種の悩みを相談、共有するという点に置いて彼はおそらく他者より劣っている。

本人もそれと理解しないまま、結果としては劣等感に近いものを感じているのかもしれない。

もっともその辺りにも鈍感なのが彼の性格的特徴でもある。


「分離している時のコアはイグナ側にあるがリミッターがかかる形になるのか。」


真鎖人の見ているのは分離しているイグナとナクト双方の各種出力、推力比較図。


+---------------------------------------------------------------------+

| [C4I COMP-LINK] PROPULSION MONITOR SYSTEM: ON 02     |

|=====================================================================|

| 【 UNIT-01: IGNA (イグナ) 】     

| ├─ 1.実効推力 (THR) ... [ 72% ] ├─ 6.偏向角 (VEC) . [ 89% ]|

| ├─ 2.出力比 (POW) ..... [ 78% ] ├─ 7.磁場強度 (FLD) [ 73% ]|

| ├─ 3.同期率 (SYN) ..... [ 70% ] ├─ 8.微振動 (VIB) . [ 80% ]|

| ├─ 4.コア温度 (TMP) ... [ 88% ] ├─ 9.冷却循環 (CLN) [ 96% ]|

| └─ 5.消費率 (FLW) ..... [ 90% ]                

|---------------------------------------------------------------------|

| 【 UNIT-02: NACHT (ナクト) 】     

| ├─ 1.実効推力 (THR) ... [ 69% ] ├─ 6.偏向角 (VEC) . [ 88% ]|

| ├─ 2.出力比 (POW) ..... [ 71% ] ├─ 7.磁場強度 (FLD) [ 49% ]|

| ├─ 3.同期率 (SYN) ..... [ 63% ] ├─ 8.微振動 (VIB) . [ 72% ]|

| ├─ 4.コア温度 (TMP) ... [ 80% ] ├─ 9.冷却循環 (CLN) [ 91% ]|

| └─ 5.消費率 (FLW) ..... [ 88% ]                

|=====================================================================|

| [SYS_LOG] NACHT: OUTPUT DROPPING / SECTOR 03 CAPACITOR DEGRADE |

+---------------------------------------------------------------------+


平均して戦力的にはライトニングボルト形態時より約30%低下している。

旭柰の乗るナクト側はそれよりもまだ約7%ほど低下している。

だがこれでも大量に展開するグラードル機に後れを取ることはない。

イグナクトが通常展開している対G対策や対物障壁シールドの防御関連のシステムの出力は維持されている。

イグナがコアを保持している分、展開時間に制限がない利点はあるが地球程度の範囲であればナクトのそれら防備のタイムリミットが迫るより早く合流できる。

守備の面では万全と言って問題ないだろうことを真鎖人は理解した。

ただ一色区での巨大質量の突入に対しては破壊する術がないのも事実。

イグナクトとして三人がフルにその知覚を共有している時のエネルギーの奔流、それが今のこのように可視化されていれば、表示される数値はこの10倍でも到底足りないであろうことは容易に想像がつく。

それほどまでに先の激戦で旭柰が放ったソルトライデントの一撃は強力なモノ...

真鎖人は自身に果たしてそれができるのだろうか?そう感じていた。


「分離形態の状態確認かね?」


早朝のラボに自分より早く誰かがいることに軽く驚いた様子で入ってきた久留生。


「久留生さん、おはようございます。すいません勝手に乗り込んで。」


「なにを断る必要があるよ。君たちは三心同体といっていいんだ。私が許可を出す話じゃないよ。それよりどうだい今日の彼(イグナクト)は?」


「変成が落ち着いてきているみたいです。もう以前の様な一日で劇的に入れ代わっているような感じでもない。」


イグナクトが状況を知らせる

『真鎖人の言う通りだ。私の内部変成は完了し今は調整を繰り返している段階だ。』


「我々が君に提示する物が揃うまでは一休みという所かな。地球の恩人(イグナクト)からの要請だからね。君の支援になるモノは万全で準備させてもらうよ。」


『よろしく頼む。』


イグナクトは技術供与のそれとは別に既に人類側にいくつかの提案をしていた。

それは大別すると二つ。


一つはライトニングボルトのハードポイントを利用した人類とイグナクトの共通規格武装の提案。

これはイグナクトの技術供与により、人類側の多くの航空機に搭載可能なレールガンの開発が達成されようとしている今、イグナクトもその兵装を組み込む意図があるからだ。

イグナクトは自身に取り付けられた兵装の変成が可能となる。

技術供与により人類側が作成した武装をただ取り込むだけならばこの措置は不要となるが、ハードポイントを介して編成作業を行えばそのまま搭載した兵装を人類側に最適化/ブラッシュアップして手渡せる。

それを雛形として量産すればより精度の高いものを人類側が迅速に配備できることになる。

基本技術の提供だけして、それを人類が真似たところで、結果、歩留まりの悪い形になるのは自明。

不確実な物の量産は、数を要する今後の戦いで、決定的に不利となる可能性がある。

そのための必須措置として提案されている。

柱からワンオフのようなものを提供するよりは、人類が自分たちで量産できる体制構築の方が利となる、そういう判断だ。

銀の柱の余力はイグナクト自身の維持管理と、世界が新しく構築する【グラードル対抗の装備生産設備】へ投入とするのが最適との判断だ。


二つ目はイグナクト自身の武装の開発依頼。

人類への技術的供与の概念とは別の切り口による提案。

イグナクト自身が武装を0から創出するには銀の柱のリソースを多く使用する。

現実として、既に世界の複数個所にグラードルの試掘コアが放たれてしまっている。

だがこれらはイグナクトが人類へ示した過去のデータからもわかるように、本格侵攻までは然したる動きは見せない。

今は人類そのものに、対グラードルの対抗手段を少しでも多く持たせなければならない局面。

点(イグナクト)の強化より、面(人類全体)の強化を優先し、イグナクトの兵装は機構概念だけを人類が作成、それをイグナクトが自身の一部としてナノマシン変成するのが文明全体への負荷が少ない。


「君からの頼まれ物はトウマ重工の連中がやってくれてるよ。連中、鼻息荒く張り切ってるから週末には仕上がるだろう。」


イグナクトが人類へ依頼したモノは銀の柱の構成材料モリブデンを主体とした全長22mの砲身、その内側をパラジウムコーティングした代物。

当初、これを聞いた久留生は、そんなものは弾頭の素材関係なく、発射時に完全に内部からの強烈な熱膨張で、砲身内側から破裂(爆発)するだけだと困惑した。

だが、イグナクトから呈された技術仕様を見るなり、感嘆とともにこの案の有用性を理解した。

この機構が成立するのなら、それは人類の切り札となるかもしれないと直感する。

問題はこの異常なまでの大量のパラジウム筆頭とした、希少金属のフルコースをどうすべきかという課題にぶち当たる。

ここで名乗りを上げたのは中国とオーストラリア。


特に中国は自国領土/黒竜江省と甘粛省にグラードルの試掘コアを撃ち込まれている。

度々、グラードル機との交戦を繰り広げているが、固定のレールガンでは有効範囲も狭く、撃破と敵物量の開きに打つ手を見い出せていない。

銀の柱からの技術供与は、そんな中国にとっては死中の活、自国航空兵力への大量のレールガン装備提供への礼だと言わんばかりに早々と大量供与を決定した。

地球文明の存亡の危機、それを肌で感じている国、故にそこへかける熱量と物量は凄まじいものがある。

両国の協力で、イグナクトの要求を満たしたものが不眠不休で準備されつつある。

全てが人類の生き抜く覚悟のもと集約していく。

そこに確かな希望がある事を世界中が理解し始めていた。




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

同日昼過ぎ


旭柰は昨晩の泥酔からの復活を果たし、久しぶりの休日でとりあえず ボー っとしていた。

突然のグラードルの進行、自身の環境の激変、イグナクトとの邂逅、そして世界と相対する狭間にいる一民間人という誰も体験したことがないであろう立場。

その怒涛の日にようやく一息をついた格好。


そんな時に国防軍司令/前田圭史よりの連絡が端末に届いていた。

以前渡した書簡と防空体制の簡潔な資料に対しての追加データだった。

内容は基地祭の案内資料/PV動画データ。


「そういえば私の予定に組み込む形で基地祭周るスケジュール案内が来てたわね...」


普段の旭柰のスケジュール管理は基本自分一人で組んでいる。

ただ社内の通常業務以外は広報課の旭柰専属秘書チームが担当している。

各地での水産関連の講演やメディア出演、その他の特殊な打ち合わせの日程などはココが行うことになっている。

ある程度の規模の法人ならばよくある秘書業務の一つ。

ただ国政/国防関連への話は秘匿扱いなので先に旭柰へ一報の後、改めて広報課→秘書チームで国/行政のからの依頼として予定を組み込んでいる。

そして今回は国防、特に首都防空の体制を理解してもらおうと、事前に旭柰の横浜での講演の日程に合わせた周遊ルートの提案があった。

概要を把握した旭柰は、スケジュール的にも特に問題ないことから了承。

当然ながら操者という同じ立場で真鎖人も同行することになる。

朝倉あゆみ含むイグナクトを中心とした、ここ最近の知った顔も同行している点では、やや気持ちが和らぐ側面もあった。

その流れから、イグナクトへ乗る事の覚悟とは別に、基地祭というお祭りに合わせた夏季休暇の一環と考えることにした。


少し張りつめていた緊張をなんとかするよい機会かもしれないと、前田から送られてきた資料に目を通す。

千葉の基地祭のパンフレットにはイルカの写真が複数レイアウトされている。

周辺にある連動する施設にはイルカにシャチの研究に特化している施設もあり、その案内を眺めながら


「研究対象とはいえ真鎖人くんがまさかイルカやクジラの生態に興味あるなんて思わなかったわ。昆虫の人だと思ってた。」


様々催し物がある中に千葉勝浦地域の周辺地図データ、催しのリンクを開いた旭柰に激震走る!!!


【勝浦シーサイドランド! くじらくんトークショー!!】


衝撃の文言。

基地祭は地域住民との連携による国防意識醸成の側面からこの10年積極的な連携が図られている。

特にこの千葉は現代に残された日本商業捕鯨の拠点の一つとしてクジラとの縁は深い。

中でも【南房総市和田町(和田浦)】は くじらくん さんとのコラボでも多数の取り組みがなされ地域ローカル番組


【魚(うお)っちんぐ!くじら先生!(旧番組名/魚っちんぐ魚★(ぎょせい)一番)】


などは星野八郎/魚住淳二が現役時代にスタートした番組でその知名度はとても高い。

二人の引退に伴い二代目MCに くじらくん さんが就任、番組の引継ぎ後は関東圏から全国ネット放送になるほどの躍進を見せている。


そのくじらくん さんが基地祭の催しの一環で【勝浦シーサイドランド】に来る!!

シーサイドランドは複数あるクジラ/イルカの生態研究でも世界トップクラスの学術総本山。

そして日本で唯一イルカではなく、シャチの複数乱舞ショーがみられる場所としても有名。

シャチはその巨体と飼育環境のシビアな側面、規制前の日本の飼育個体が雌ばかりだったことに起因し、水族館での飼育は減少から全滅の流れへ傾いていた。

そこへ日本の水産資源研究データの鬼、現/外務大臣/野ノ浦檀(ののうらだん)が爆弾データを投下、シャチの個体推移と海産資源を「食害(デプレデーション:漁具からの獲物の強奪)」として体系的にまとめ上げ、各地の漁獲枠の管理的制限の行き過ぎを白日の下に晒した。

結果として世界は実情に沿う形の資源管理/漁獲枠の制定へ舵切をせざるをえなくなり、その産物としてシャチの捕獲/飼育への道へ希望の灯がともったのだ。

このシーサイドランドでも国内最後の【雄飼育個体/アース】の意思を継ぐものとして二頭のオスを迎え入れていた。

ホープとガイア、この二頭は日本の飼育シャチ繁殖に多大な貢献をもたらし、今もこのシーサイドランドのシャチショーの主役として君臨し続けている。


「なんてこと...このお祭りは天国(パラダイス)じゃないの!」


全身にゾクゾクッ!、と、歓喜にも似た感覚が駆け巡るのを知覚する。

旭柰にとっては子どもの頃、一時抱いていた飼育員の夢があったため、このシャチをめぐる一連は鮮明に記憶している。

その思い出深い地に敬愛するくじらくん さんが訪れる!!


震える手でPVのリンクをタップする旭柰...


シャチやクジラのダイナミックな映像が流れる。

そのバックではくじらくん さんテーマソング


≪俺の魂はクジラと共に!≫

https://soundcloud.com/toma-saeki/gemini_generated_video_961ac57

挿絵(By みてみん)


そしてズームからのカットイン、シャチにまたがるくじらくん さんが現れイベントをPR。

逞しい肉体に硬質レザーの衣装。

シャチの上で力強く腕組をし、仁王立ちしたくじらくんさんをなめるようなカメラワークからの力強い飛翔!


『覚えておくがいい、俺のお名前はくじらくんさんだっ!』


勝浦シーサイドランドで俺と握手ッ! というテロップと共にフェードアウト...


もはや旭柰には抗う術など何一つ残されてはいないんよ...



次回

天のイグナクト

第十話

『神との邂逅』

2026年10月9日13時00分頃公開予定

『天のイグナクト』

それは、宇宙の先人文明の遺した脅威と、それに抗う命の結晶[イグナクト]が地球人類と共に共闘する美しき魚屋の軌跡をたどる物語である!!


一応、再度述べておきますが、ちゃんと完結しますよ....

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