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第六話 【追憶の航海 -後編-】

追憶の航 -後編-

後半は世界との折衝という流れです。


当初は前半/後半という区切りはなかったのですが2万字を超えていたのと情報密度高いので分割しての公開となりました。

どうぞお楽しみ頂ければ幸いです。

第六話 追憶の航海 -後編-


6月14日

夕刻


まだ日のある時間帯に閣僚たちは一色空港へ降り立った。

各副大臣を本土/都内へ残しての全閣僚の移動。

永田町/国会以外で大臣が集結ということがそもそも異例中の異例。

銀の柱がここに固定されてからでも初めてのことである。


日中は梅雨の晴れ間と言って差し支えない晴天、夕刻の風も爽やかな空気を纏(まと)い、緩やかに流れていた。

それに合わせるように、夕凪の海面は鏡のような静寂を湛(たた)え静かに陽光を反射する。

一色基地から見た銀の柱は、沈みゆく陽の光を受け聳(そび)え立つ巨大な半身を朱(あけ)に染めていた。

その姿は先刻、首相官邸での深紅のイグナクトを想起させる。


「どうした、えらく感慨深げだな。」

野ノ浦が須崎の肩をたたき声をかけた。

確かに周囲からも見て取れるほどに、銀の柱を見上げる須崎の瞳は熱を帯びていた。


「検事を辞め政治家になろうとした時、一度ここへ来たことがあります。この国で為政者を目指すのであれば一度は見ておかなければならないと、それを思い出していました。」


「はは、やっぱり今のメンツが皆ここに何からの憧憬(しょうけい)抱くのは当然か...聖さん、あの人の影を追う者の宿命といったところだろう。」


「そうですね。今、世を見渡しても彼以上の存在を感じない。あの方こそ巨星というのでしょう。」


皆がそれぞれ為政者としての決意、その一端を銀の柱に置いている。

銀の柱がこの場に固定されてから【日本】という国はまるで寝ていた子が起きたかのような脈動を辿り今に至る。

その躍動の中核は誰だと問われれば、100人が全員 聖清蔵(ひじりせいぞう) の名を挙げるであろう。

人類という文明に前例のない事態、発生する困難、その全てを力技と奇策を駆使し切り抜ける様、それは須崎達の世代へ【政治家って格好いい】という憧れを植え付けるほどにインパクトのある出来事。

それほどに2040年代の日本という国の立ち振る舞い、為政者達の活躍は鮮烈であった。

その舞台となった銀の柱は 【聖清蔵(ひじりせいぞう)】の存在と共に、近代日本にとってのある種の象徴として刻まれている。

それより30年以上の月日が経過、世界は再びこの柱を軸に大きく動き始めていた。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

同日

一色区/一色基地

基地内で暫定的にイグナクト専用区画として宛がわれている一角。

急ごしらえとはいえ、アラートハンガーとしての機能を十全に持つ設備が構築されていた。

弾薬運搬車(ジャムトラック / ミサイルローダー)、弾薬台車(ボムカート)、通常のライトニングボルト用装備一式から整備班待機所まで設置されたハンガー、そこにライトニングボルト形態で配置されたイグナクト。


「国際会議でしょ?そんな場に私が行くのって大丈夫なのかしら...」

少し不安そうな表情の旭柰。それを見て真鎖人が口を開く。


「多分、大丈夫ですよ。公(おおやけ)の場であればあるほどイグナクトが情報統制含め場を仕切ってくれます。」


「そういうもの?」

技術的知見のない旭柰には、真鎖人の穏やかな表情の真意が汲み取れないでいた。


『私の情報統制は須崎防衛大臣の示すモノと同じ方向だ。君や真鎖人への防壁(プロテクト)は人類文明では突破できないように組み込んでいる。安心してくれ。』


「今回は、あくまでも銀の柱(イグナクト)の情報共有と技術供与がメインになる話です。他のことは要人には伝わっていても具体的な動きとしては取れませんし、何かあればイグナクトが感知できますよ。」


『そのとおりだ。』

イグナクトも頷く。


イグナクトは操者である二人と様々なシステム上の相性に確実な手応えを感じていた。

特にSREID(エスレイドシステム)は旭柰自身の職業的な技能である【目利き】由来であろう、色彩色覚判定などの相性が突出していた。

それはそのまま、イグナクトの旭柰への危険感知感度の向上を意味している。


「うん。信頼はしてる。なんだかね、正直なところ、貴方(イグナクト)のことは自分の中で色々整理がついちゃってるのよ...貴方(イグナクト)を作った人達の想いに触れてしまったから、私としてはもう決心ついちゃったのかも。」

彼女の中には、ソルトライデントを振るった際のイグナクト創出文明人たちの記憶の残滓が想起されていた。

それは無念の思いを怒りや激情へ変えることなく【祈り】へと昇華し、その果てにイグナクトへ宿った純粋な希望の光。

この一連は旭柰の意思を決意へと変えるに足るトリガーでもあった。


「じゃあ、あとは場への慣れですね。」


「うん....それ、それなのよね。頑張る...」


旭柰は自身が放った光の矢の一撃に込めた想い、それを後押ししたイグナクト創造主たちの【誓い】ともとれる感情に自身との共通項を見ていた。

彼女が感じた創造者たちの想い、それはグラードルへの怒りや憎しみのような負の感情の介在が一切なかった。

触れた気持ちの全てが正の感情を起点とし【護る】へ集約される。

自身の信条と共感/共鳴、その発露として【ソル・トライデント】の形成、この意味を彼女は強く自覚している。


「表向きの会議中はすることもないので果報は寝て待てですよ。」


「真鎖人くんってわりとそういうところ神経図太いよね...」


指摘に対し キョトン としている真鎖人。


「考えても仕方ないことを頭で理解してても、こうなっちゃうと落ち着かないものね。真鎖人君はどうなの?」

純粋な疑問だった。

旭柰は自身が触れてしまったことでイグナクトとは魂の響きあうような音すら聞いてしまっている。


「同じものに触れて考えさせられました...宇宙にどれほどの文明が存在していたのか、その内のいくつがグラードルの脅威と直面したのか、そして滅んだのかと。」


事の核心部分を前に二人は揃って沈黙してしまっていた。

心の核を共有し得ることで放つ力、真鎖人も旭柰と同様にそのイグナクトの【心】に触れていた。

テクノロジーは突き詰めれば物理現象の積み重ねでしかない、そう定義している真鎖人にとってイグナクトの駆動原理は、自身のその根底へ疑義を投げかける大きな衝撃でもある。


【心や意思、【人の想い】も物理現象の積み重ねの一つの解なのでは?】


その感触から自身に欠けているモノの一端をイグナクトの中に見た真鎖人、一方の旭柰はソルトライデントを形成するほどの共感と共鳴を得ている。


変化する環境に対しての足掻き、進化とは【命】のそういった局面を打開する行為に他ならない。

地球では人だけがそこに明確な【心と意思】を示すことができる。

だが、心という無形のモノが産み出す力を、人類科学は解明することができていない。


イグナクトを創造した者たちは、それを解き明かしたのかは不明ながら、現実に 【無機物である銀の柱】 に【イグナクト】という心を宿すことに成功している。

旭柰の直感は【ソル・トライデント】を振るうことで、それを自身の羅針盤と同期するものだと感じ取ってしまっていた。

イグナクトの創造主たちの想いと自身の心。

護りたいモノを前にした時に出した結論が同期(シンクロ)した時点で、彼女の中に迷いはなくなっていた。

だが、真鎖人はまだそこへ答えを出せていない。

イグナクトはここにきてようやく自身の操者として、二人の意識への差異を感じ取ることができていた...




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6月15~17日


一色区、空港より東の区画には、銀の柱への観光として整備された商業ゾーン / エアポート・プラザがある。

この区画を抜けた先は正面に太平洋、後方に銀の柱というロケーションで、東側一帯が一色区の観光拠点となっている。

一色区はこの観光業整備の過程で、大型の商業施設に箱モノも建築、それらの幾つかは、国際会議に必要なMICE(マイス)対応力の全てを満たしていた。

これら強固なインフラ基盤のもと、予定通り表向きの


『国際サプライチェーン強靭化に関する主要国実務者緊急円卓会議』


は開催された。


そして会議最終日 表題ISC(国際サプライチェーン)会議が終了したその足で、全ての参加国首脳が東京一色区/一色基地へ集う。

大型商業区画の箱モノは、乗っているメガフロートユニットそのものがかなり強固に設計されている。

必要とされる電源規模の大きさから、その点検口は大型となりこれらを通用路として利用することで、要人たちの会議場から一色基地への移動を秘密裏に完遂することができた。


会議、裏の本題は当然ながら


【対グラードルに対しての銀の柱/イグナクトとの情報共有】


現実には戦闘当事国、直接被害/関係国のみ対象としているが、それ以外の国であっても国家元首/要人であればオンラインでの参加は可能という枠組み。

このためほぼ全世界の全ての国家が集うという異例の会議となる。

会議の中継は銀の柱を介して行い、日本含む全ての国が平等に議論/協力/対応を図る旨が徹底。

参加する全ての国が対等に情報を共有し、共同防衛体制を敷く方針が示された。

いかなる通信傍受や情報工作を仕掛けようとも、人類の技術を遥かに超越する銀の柱のテクノロジー(クライン・ディテクト等の超科学)の前では一切の介入が無意味であるという、冷徹な物理的事実を世界に突きつける。


この辺りの事前情報は、須崎や野ノ浦が各国へ示した資料等で通達済み。


「ここまで事前協議が無風の国際会議も珍しいでしょうね。」


「要人の安全保障担保に超科学のお土産付き、目の前には正体不明で対処法の検討すら付けられない代物(グラードル)が鎮座、なにもかもが前代未聞だ。脅威と参加リターンがハッキリしてるだけに船としては乗りやすかったんだろう。イグナクト様々といったところだ。」


野ノ浦としては国際会議の体を成したところで、この問題自体が人類の存続危機であるということを各国へ理解させないことには、何の意味もないと感じていた。

そのためには情報の出し惜しみはしてはならないと、全情報開示と銀の柱への自由アクセスの提案を盛り込んだ。


各国要人の反応を見るにその選択は功を奏している。

情報のやり取りの基礎技術に光子を用いる銀の柱/イグナクトのテクノロジーは人類の遥か先をゆく。

イグナクトにより各国が銀の柱へのアクセス権を付与され、実際に様々試み、身に染みて理解したのだろうと推察される。


「別に日本(にほん)としては他意はないんだが。米国(あちらさん)の視線は険しいよな~」


「メインフレーム関連では仕方ないでしょう。自分たちが作った、その当たり前の矜持があってしかるべき話ですから。」


「米国(あちらさん)は腹の立つ話にもなりかねんしな。立場は日本(こっち)も一緒なんだが微妙に風当たり強いんだよ(苦笑い)。しばらく仕方ないがこれも仕事だ。」


人類文明の情報インフラはかつて米企業の構築した 【メインフレーム】 という情報処理の柱が中核となっている。

人類が情報処理の端末を持ち始めた初期、それぞれの機器とジャンルごとに専用設計を取る状態が長く続いた。

それは結果として多様な規格乱立と相互での互換性を排した仕様となる。

そこへ【アーキテクチャ(共通の設計思想)】という概念を持ち込んだものが人類文明のメインフレーム。


1980年代にこのメインフレーム事案は日米間の熾烈な覇権争いとなり、逮捕者まで出す国際問題、果ては後の貿易摩擦に発展する大きな問題が発生していた。

企業スパイに複数の逮捕者という経緯の果てに構築された地球文明のメインフレーム。

電子マネー、あらゆる端末での決済行為、それらを休むことなく365日フル稼働する最強のインフラシステム。

この全てを銀の柱メインフレームは既に管理下に置きつつ 


『なにもしない』


という状態を維持している。

他国はその管理状態(ステータス)までしかわからないが、アメリカなどは自国発システムなので実態としての【いつでも掌握可能】な構造まで見えてしまう。

これは各国が小細工を弄したところで、まったく意味をなさないほどの力の差を見せつけられた格好だ。

逆にヘタなナニカをすれば、このフルオープンな状況からは、行使しようとした行為の全てを他国に晒すことになる。

恥晒しの上に恥の上塗りという、国家としてはメンツ丸つぶれ以外の何物でもない。


日本はこの銀の柱、メインフレームの前に立場上は他国となにも大差がないのだが、その柱の使者ともいうべき操者の二人が日本人であることが特別視されていた。

イグナクトとの接点からの恩恵は実際のところないのだが、アメリカとしては気分のいい話ではないのも事実だろう。



17日、日本時間17時00分...

一色基地

その地下面積の約10%を超えようかという広大な空間。

四方約300m/約9ヘクタールのその敷地の一角。

理路整然と整えられた中継設備は軍事基地のそれとは違う様相を呈していた。

洗練された大規模コンサート会場の様な空間、複数の連結型モニター配置と空間レイアウト。

その中央には大きなステージが誂(あつら)えられていた。


イグナクトはそこに膝をつき座していた。

傍らには日本の首脳陣が布陣、後方イグナクト近くには真鎖人と旭柰の姿も見える。


「なんだか凄い見られてる気がするんだけど...」


「でしょうね。イグナクトは元よりそれに乗り込んでいた人間、それも女性ということなら注目の的になりますから。」


「真鎖人くんなんでそんなに平然としてるのよ...」


「諦めました。色々とイグナクトの技術仕様を眺めていると人類との技術水準の土台が違い過ぎている。正確にはその状態なら人類側の小細工は意味のない話だろうと。イグナクトを信頼できるという感覚、旭柰さんもそれを信じていいと思います。」


「わかった、わかんないけど信じる。」


技術的なことはさておき。イグナクトへの信頼のもと彼女も真鎖人同様、深く考えるのは止そうと落ち着いた。

二人の様子を見て冨樫が声をかけてくる。


「慣れない場に引っ張り出してすまんね。本来なら我々政府側が国民を護るためやらねばならんのに。誠に申し訳ない。」


「我々もできることを尽くします。どうか引き続きお二人ともよろしくお願いします。」

向かって左に座する須崎もフォローを入れる。

普段、ともすれば一生会うことのない国の中核メンバーたちが二人に配慮を見せるという場、二人はそれも経験だと、ここで起こることをしっかりと記憶に留め、事態を見つめることとした。


イグナクトの声で場は開かれた。

人類文明が直面した事態が、そのまま【地球の危機】となる事態への説明。

そして人類文明だけではこの危機へ無力だという現実。


イグナクトは宇宙文明の発展度を示す指標として、1964年にソ連の天文学者ニコライ・カルダシェフが提唱した【カルダシェフ・スケール】を提示し始めた。

これは「文明が利用できる総エネルギー量」を基準にした宇宙的な物差し。

大別すると


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【タイプI 文明(惑星文明)】

定義:自らが属する「惑星に降り注ぐすべてのエネルギー」を100%制御・活用できる文明。

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【タイプII 文明(恒星文明)】

定義:自らの母星のある星域「恒星(太陽など)が放出するすべてのエネルギー」を100%回収して利用できる文明。

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【タイプIII 文明(銀河文明)】

定義:自らが属する「銀河系全体(数千億の恒星)のエネルギー」を完全に掌握した文明。

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地球文明はこのカテゴライズの【タイプⅠ】にすら到達していない。

タイプⅠを1とするなら0.6~0.7が現在の立ち位置と言われている。

銀の柱/イグナクトを創出した文明は技術的に【タイプⅢ】へ到達している可能性すらある。

それほどのテクノロジーをもってしても、グラードルは脅威として最優先特記事項となる存在。

人類だけでは到底太刀打ちができる相手ではない。


イグナクトの要望で銀の柱のメインフレームは各国に過去の記録映像を提供している。

それは真鎖人と旭柰がイグナクトとの邂逅時に観たもの。

イグナクトはグラードルに関する事情の全てを世界に伝えていた。


グラードルとは元々太古の文明が開発した自立式資源採集システム。

それが独自進化を遂げた形。

宇宙へ拡がる中でシステムは状況対応の形態の一つとして文明を滅ぼしてまで資源簒奪をする個体が発生、自己増殖(群れが一定規模になると分離する。ミツバチの分蜂のようなもの)しはじめたこと。

創出した文明はグラードルによって滅びたがその記録は断片的にしか存在しない。

生き残りが存在するのかすら把握の術がない。

イグナクトを創出した文明も、グラードルの個体が係留していた残留物から得られた範囲でしかグラードルの情報は持ち得ていない。

誰もその全容は把握できていないのだ。


そして驚愕の事実はイグナクト創出文明が確認している範囲に限定しても、グラードル、その危険個体(文明を滅ぼす可能性のある攻撃的侵略個体群)は1000を超えている。


この事実はイグナクトの示した記録含め各国が驚嘆するに十分な衝撃であった。

まだ宇宙の一部を【見る】ことしかできていない人類にとって、その広い宇宙には意思を持つ生命、手を取り合えるかもしれない他者が多くいることは希望として映った。

だが同時にその希望と共に【脅威(グラードル)】も存在する。


イグナクトを創出した知的生命文明はかつてグラードルに母星を滅ぼされた存在。

グラードルに対抗するために自分達は植民可能な星を求め宇宙放浪する立場となり、その旅の最中、約1万年に一機の割合でイグナクトを創出し宇宙へ解き放っている。

創出困難な理由は柱の基幹、中核コア、S/Nのペア・モノポールの製造に起因する。

双方が出会い接触することで空間ごと消滅してしまう危険な物質。

それを絶対的安定隔離とする処理、それにより得られる自律的無限航行でグラードルを滅ぼす存在、イグナクトシステム。


今、地球にいるイグナクトは同一個体(仲間)と共闘し八機のグラードルを相手に戦ってきた。

その最後の一機との激戦映像が今世界へ提供されているもの。

グラードルが資源としての地球の存在に気付き、それを察知した自分達(イグナクト)が共闘、地球到達を阻止しようとしたのである。

だが戦端が地球に及ぶのを回避できないところまで来てしまった。

殲滅することの困難さはその個体が規格外という他ない巨大さと堅牢さを誇るため。

仕方なく一機を足止めとし戦闘を継続、創造主の規定通りに地球文明にグラードルと戦えるLVまでの技術供与をし、殲滅のため共闘する手を取った。

それは計算上確実なアドバンテージを得る作戦として動いていた。

一機のイグナクトが地球へ先行、もう一機は戦闘継続のまま地球圏へ移動、その時点でのシミュレーションは約20~30年の時間的アドバンテージで迎え撃つ体制が取れるとの計算。

だがグラードルはその予想を超えて早期の地球到達を成したばかりか、もう一機のイグナクトは消息不明となっている。

おそらくグラードルは何かしらの加速(スイングバイ等)を得たのではないかと推察。

そのためイグナクトは自身の修復を達成しておらず緊急時という事も含め真鎖人と旭柰二人の協力(生体融合)で自身を補完、覚醒したことを説明した。

二人との生態的結合に触媒となったモノポール因子は二人から分離できない。

自分達三人は三位一体となる事で完全な力を解き放てることも伝えた。


『私は自身の使命を果たす過程で、真鎖人と旭柰、二人の人間を私との運命共同体のようにしてしまった。そして人類への協力を得なければならないところまで来てしまっている。すまない。』


イグナクトからの謝罪の言葉を前に世界各国の沈黙を破ったのは第57代/アメリカ大統領/スタン・ヴィンセント。

彼の発した

『あなたがふがいないなどと、他の誰が言おう?ここにいる私たちは絶対に認めません。絶望を前に立ち尽くす我々(じんるい)へ希望を示したのは他ならぬ貴方達(イグナクト)ではないですか!謝る必要なぞどこにありますか?どうかご自分を責めないでほしい。我々(じんるい)はあなたを誇りに思っています。貴方という偉大な先駆者よ!その胸を張ってください!』

※原文

"Who else could possibly say that you are disappointed in yourself? Everyone here will never accept such a thing!When we, humanity, stood paralyzed in the face of despair, it was none other than you, the Ignact, who showed us hope!Why on earth should you apologize? Please, do not blame yourself.We, humanity, are proud of you. O great pioneer! Hold your head high!"


突然のスタン大統領の発言、実際の脅威と直面するロシア、中国、東ヨーロッパ圏の国々から拍手が起こり、それは瞬く間に会場を埋め尽くす歓声と賛辞へと変わる。


結果としてイグナクトの情報提供は、各国の問題意識への大きな警鐘となるばかりか、世界への共通危機(グラードル)を可視化することにも成功した。

少なくとも地球人類、その文明存続には団結以外の路はないと決意させるに十分な発言をスタン大統領が成したのである。


「流石やな、世界相手の攻め方は大統領には叶わんよ。」

冨樫が完敗だと認め漏らす。


「美味しいところは持っていかれましたね総理。(少し笑う)」


「まったくだ。でもこれで野ノ浦君の本懐も達成かな。今日くらいは祝杯行くか?」


「そうですね。お願いします。」


この会議はイグナクトが地球人類への説明に地球側の持つ概念を提示、銀の柱の持つテクノロジーの一端を知らせるため、野ノ浦が盛り込んだ柱メインフレームへの自由アクセス権、そしてアメリカ大統領/スタン・ヴィンセントの後押しで成功を収める。

これらの相乗効果が与えたインパクトは世界各国に共闘以外に道は無いと理解させるに十分な結果を引き出した。


その後イグナクトからは地球文明への具体的な技術供与が打診される。

地球の生産技術/設備に追贈することで作成できる、グラードルに対して有効な武器の提案。

そしてその量産体制への日本側からの提案。

この提案は生産拠点として日本の愛知/刈谷、トウマ重工 ライトニングボルト関連の部材生産ラインをリファレンスとしたモノがパッケージング化され各国へ配置されることが決定した。


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同日19時頃


愛知、知多半島。


その半島、南知多の丘の上に建つ高層の社屋。

今や日本の重工業(ヘビーインダストリー)の主要一角、最重要とまで言われる【トウマ重工】の本社がある。

西に伊勢湾、東に三河湾を望み、北西に東海最大の空港/中部国際空港 セントレアを要する日本の要衝。


世界を相手に立ち回るトウマ重工としては必然ともいえる立地に本社を置く、その英断に踏み切ったのは2042年。

日本の工業が世界の潮流に吞まれることなく生き残るには、国内だけでなく世界のハブとなる他国との連携は不可欠。

その相手、いわば盟友を台湾に求めたのだ。

そのための刈谷に工場を残し セントレア へのアクセスと先を見越した用地を半島に求めた。


本社、最上階の社長室、約15メートル四方の全方位をガラス張りにした特異な仕様のフロア。

短髪細身の長身男性、長髪でやや小柄ながらも凛とした佇まいの女性。

社の秘書課、室長/柏木縁(かしわぎえにし) に 副室長/角筈祥子(つのはずしょうこ)


そしてその二人を前に社長の席へ身を置く、現トウマ重工 /代表取締役社長/皇(すめらぎ)統真(とうま)/33歳


一色区での会議を中継で見ていた三名。

会議で言及されたトウマ重工の関連、機密などの縛りを放棄してでも挑まねばならない事態、そこへ指導力を発揮したのは今その眼前で社長の席に座る三代目社長/皇統真(すめらぎとうま)である。


ライトニングボルトの開発主体となったこのトウマ重工は創業から三代続いてトウマ(初代/透真 二代目/斗真 現三代目/統真)という名の者が社長を務める一族経営の新興ヘビーインダストリー企業体。

始まりは2000年代の中国・インド・東南アジアを中心とするアジア圏の爆発的な台頭にバタバタと日本企業が倒れた時期に遡る。


爆発的な製造スピードに加え「圧倒的な低コスト」「リープフロッグ(カエル跳び)による最新IT・AIの一斉導入」という猛威の前に、完全に押し潰され、事実上「殺される」形になった日本の伝統的なヘビーインダストリー(重工業)。

これらの台頭は次第に台湾へ「世界のサプライチェーンの心臓部」、最先端半導体やAI、技術イノベーションが集積する中心地(世界の頭脳)へとゲームチェンジャーの地位を与えていく。

その最中に早くから台湾企業との連携を強める勢力として頭角を現したのがトウマ重工である。

創業者/皇透真(すめらぎとうま)は自社の得意とする産業用メカニカルアームの制御へ積極的にAI導入を推し進める傍ら、それらの作業現場で必須となるバッテリー関連への開発投資を続けた。

その最たるモノが


【構造体個体電池技術/ストラクチュラル・バッテリー】


である。

発電に液体を必要としない個体電池、それを更に構造フレームとしてコンポーネント化、その組み合わせで複雑な形を容易に組み上げ、それに懸架する形でメカニズムを構築する。

この技術はトウマ重工の生産ラインに劇的な変化をもたらした。

モーター式の自動車両、産業用機械、その他様々な機械形態への応用への道を拓く。


二代/皇斗真(すめらぎとうま) の時代には航空会社買収を獲て軍需産業にも進出。

2060年代には現日本主力戦闘機/ライトニングボルト(SX-VF110S)の開発へと繋がる。


ライトニングボルトへレールガン搭載を可能としたのはこの

【構造体電池技術/ストラクチュラル・バッテリー】

の存在が大きい。

圧倒的電力効率にCNT(カーボンナノチューブ)の集中使用と重量物であるバッテリーをその躯体フレームに組み込む手法はレールガンの大電力要求仕様を満たし始めた。


「さてと、ここからが人類の~大勝負だなっと。(決裁印を押す)」


重要な書面なのだろう、書面には箔押しの印が施された重厚な装丁が施されていた。

バタッ!

全てに判を押し、封をするようにそれを閉じ、重厚な箱に収めた。


「これでよしっと、やっぱ電子契約は味気ないな。社運を乗せて~っとなるとこっちの方が趣(おもむき)があっていいや。」


その様子を複雑な面持ちで見守る二人。

統真はその視線をなめるように見返し、やれやれ、という表情とその真意を理解し言葉をかけた。


「二人ともどうしたよ、なに?また親父からなんか言われたの?」


「いえ、社長の判断、あいつのすべきことに従えと。ただ...」


「どした?」


「社是としての引き継いだら放任、それとの狭間みたいな顔してましたよ。」


「なるほど、そうなるか。まぁでも二人が気にすることじゃないよ。散々やりあって出した結論。爺ちゃんに至っては笑って見てたぐらいだ。それにな、ここで勝負できなければ家の未来に大した光はないさ。」


社長室から見渡せる伊勢湾、そして南東、地平線の先にかすかに見える銀の柱。

「親父はあれが降りてきて結婚を決めた。時代が変わると感じたらしい。」


「それがきっかけで航空産業へ進出と聞いております。」


「ああ、結果としてそれが俺と真鎖人へ繋がって、ライトニングボルトなんて代物が産まれた。俺は俺が感じた因果に全振りすると決めてきた。あとは出たとこ勝負さ。みんなもよろしく頼む」


無言でうなずく二人。


湾内へ届く光が、北側のセントレア国際空港から飛び立つ航空機と重なり逆光として部屋を照らす。

その光が室内の展示物ケースに反射する。

医療用小型機器アームの初号機、ストラクチュアルバッテリー、初のバッテリー駆動航空機とライトニングボルトの模型、そしてそのライトニングボルト内部を映したの大型のタペストリー。

夕日が社の歴史を巡るように流れゆく。


「さてと、次は台湾だな。」


「21時に迎えを回します。」


「了解。それまでに飯だ飯だ!二人もしっかり食べとけよ。」


この人類文明の未曽有の危機に際し、トウマ重工/三代目/皇統真(すめらぎとうま)はライトニングボルトを機密ごと全て曝け出す決断を下した。

ライトニングボルトには日本の誇るCNT(カーボンナノチューブ)関連の技術も多数含まれている。

その素材織り込み技術による圧倒的な高密度編組強度獲得は従来の溶接等のパーツ結合強度を圧倒的に上回る。

日本の伝統品でもある【真田紐】、紐でありながら達人刀剣の一閃を防ぎ切る強靭な糸の織り込み密度、戦場へ赴く武士が防具に武具、そして身を預ける馬への馬具の支えとして多用したそれ、いわば命への切れてはならぬ【たずな】。

それを応用したこれらCNT技術まで世界へ晒す決断をしたのだ。

危機に臆することなく切れるカードの全てを切る、ただ人類文明存続、その一点のため。

だが、それ以上に大きな可能性を孕んでいることも理解しての決断。


2075年6月


トウマ重工のこの決断は、世界のサプライチェーンに新たなパワーバランスを構築し始める。

有史以来最大の危機を前に、銀の柱を中心とした世界連合が現実味を帯びはじめ、その中核の技術を世界は共有することとなった。

宇宙からの脅威と絶望、そしてもたらされた希望。

旭柰(あさな)の放った光の矢は天(そら)へ描いた軌跡と共に世界へ強い想いを刻んだ。

人類はその輝きの下、存亡の危機へ抗う路を辿り始める...




次回 『天のイグナクト』

第七話 センチネル・リダウト(Sentinel Redoubt)

2026年9月18日 13時00分 公開



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【下駄のイグナクト】

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後半終わりました。

プロットでの政治編というくくりで見るとここまででその3割強になります。

ここからもしばらく、政治含む各キャラクターたちの物語として続きます。

その最中、少し他国の戦闘も絡む形で次戦へ向け進行。

舞台はどこになるのかはお楽しみということで、しばらくはキャラクターたちのドラマをご覧頂ければ幸いです。

次回以降は切り分けるとしたら【政治編/国防軍基地祭】という流れになります。

首都圏の防御態勢や配備の実態、世界の動きを映す流れかと。

しばらくその流れが続き、そこからシームレスに次戦へ突入。


ちなみに調べてみたらそこへ至るまでのプロット文字数が


゛8万字超えておりました((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル....´´


圧縮しても4~5話になる見込みですかね。

どうか今後とも引き続き


『天のイグナクト』『なぜなにイグナクト』


をよろしくお願いします。

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