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第五話 【追憶の航海 -前編-】

『天のイグナクト』 第二幕は[政治編]と位置付けていい流れになります。

日本は普段生きてると、社会システムの中に身を置きながらあまりにも政治関連へ関わることのないまま、過ごしてしまいます。

意識するしないに関係なくわりと適当に【政治】と距離を置いて生きてしまう、そういう意味で政治編をリアルに書くと必然的に日常触れない


【謎単語】【謎ロジック(永田町の掟みたいなの)】


これらに直面してしまいます。

その観点から尺を前編/後編としつつ、でもお楽しみ要素も交えつつ、進めたいと思います。

どこかのタイミングでイグナクトの全景も出せればと思いますが、この辺りは私のリソース次第なのでご容赦をばお願いします。

では今回もよろしくお願いいたします。

第五話 追憶の航海 -前編-


6月10日

午前7時30分

前日の事前告知もなく当日になり報道各社に官邸よりの報、その内容を見た各マスコミへ衝撃が走った。

12時00分より【銀の柱防衛とグラードル/外宇宙侵略的飛翔体(がいうちゅうしんりゃくてきひしょうたい)】に関して重大発表がある。


これまで事態発生への対策的な発表は複数あったが具体的に呼称としての【グラードル】への言及はされていなかった。

時刻制定含めかなり大掛かりな【ナニカ】が発表されることは確実、各社大慌てで永田町へつめかけることになる。




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

同日11時00分

永田町/総理官邸


その地下に広がる危機管理センター

2000年当時、広大なシールドルームとして構築されたその場所。

居並ぶ内閣の面々。


冨樫が感じたままの疑問を誰に呈するでもなく呟いた。

「いつもの場所(記者会見室)で会見しないこと、国民にはどう届くものかね?」


「概ね記者会見室で発表することが政府の意思表明との認識は一般的に強くありますが...少々古い見識という気がしないでもないです。」

須崎が答える。そして重ねるように、

「ただ今回のような事態です、危機の表明に官邸の表へ出て事を示す、これは不退転として団結を強めるものと信じます。」

事実ここを使わずに公の会見を行ったことは聖政権時にも幾度か発生していた。

全てが銀の柱に伴うことであったため、今回、冨樫が官邸外で記者発表を行うことは必然性がある。


そういうものかと、冨樫はかつて聖政権時にその場に居合わせたかつての自分自身の姿を思い返していた。

冨樫は若いころから聖に付き従ってきた政治家だ。

やれ総理のカバン持ちだ、金魚の糞だと揶揄されながらもただひたすらに巨星ともとれる者の背を必死で追いかけていた。

気が付けば今度は自分がその位置に立っている。

そのような感慨にふける冨樫へ声をかけたのは法務大臣/犬埼冬至(いぬざきとうじ)59歳


「須崎君のいう通りですよ首相、古来後漢の祖、光武帝の故事に倣うならこれはまたとない機会、ぜひ前に出ましょうや。」


「なんだいそりゃ?」


「大事を成そうと旗のもと下った者含め人を集めたはいいが元々互いは無関係だった者たち、皆、疑心暗鬼、そんな殺気立った連中の只中(ただなか)、中核の人物が丸腰で訪れ説得に応じた。故にみな各々の警戒を解いたという話です。」


光武帝/劉秀の逸話の一つである。

推心置腹(トゥイ シン チー フー)(中国語ピンイン:tuī xīn zhì fù)、人に覚悟を見せるために己を無防備で晒すこと、そうすることで人心掌握の路を拓き大局を形成する。それを説いたのである。


「ほう、中々豪胆だね、そんな話があったのか。大したもんだね、俺がそれをやれと?まぁ記者さんは別に殺気立ってもないし、他にできることもないんだがな、(がはははは)」


こう割り切れることこそが冨樫という政治家の器なのであろう。

周囲の評のとおり何もしないのは確かな話なれど、それは何もすることがないからという側面もある。

たとえ置物の盃であれど、危急存亡、それを前に希望を満たす器であれば輝くのもまた必定、冨樫という為政者は自分が今、その役割を天命として受けたことを自覚していた。





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

同日

12時00

都内では号外が出ていた。

内閣総理大臣、防衛大臣、以下内閣(国務大臣)全員の署名捺印は元より拇印(ぼいん)まで押された連判状とともに刷られたそれらは瞬く間に拡散される。

政府の覚悟が垣間見えるこの手法はかつて聖内閣が重要事案を決定する際にとった党の伝統。

その覚悟を引き継ぐ者たちの意思の表れとして公開直後のSNS含む言論界隈は騒然となった。


そして発表された重大事項。


【日本の勝利を導いたのは銀の柱がもたらした超テクノロジー/イグナクト!】


防衛大臣ほか全閣僚同席の下、日本国首相より発せられた衝撃の事実。

一色区上空での劇的勝利の興奮冷めやらぬ中、日本より発せられたその報は全世界を駆け巡る。



防衛大臣/須崎宗喜(すざきそうき)の提案した策はあまりにも大胆なモノだった。

民間人である真鎖人と旭柰の存在を隠そうとするから二人へ負担が生ずる。

イグナクトに意思があり人語を解す。

そして思考的思索を人類と共有でき共通の価値観を持つことができる。

その事実は


『言葉を発することが可能ならばいっそイグナクトを前面に押し出し操者など最初から存在しない体で公表してしまえばいい。』


という逆転の発想に事態解決の活路を見い出した。


首相官邸、この発表の直後上空より深紅のライトニングボルトが音もなく飛来、その無音の様に官邸周辺は色めき立つ。

上空で停止したライトニングボルト。

微細な駆動音とともに、全身各所にその機体の深紅よりも更に強い輝きの幾何学、赤い光の線を機体全体へ引いた。

そして静かにゆっくりとその形を航空機から人型のソレへと変えていく。

イグナクトの形態へと変貌したその姿に陽光が重なり機体各所が光を反射する。

イグナクトは輝きを背負いそのままゆっくりと降下、官邸広場中央へと舞い降りた。

それは35年前、突如銀の柱が宇宙より飛来、多くの者が見守る中、沖合、海面へと静かに舞い降りてきたその姿を想起させる。

大きさは違えどプロセスはそれと同質のもの。


銀の柱、深紅のイグナクト、姿、形状(かたち)の異なる両者が由来を同じくするであろう存在、

それは誰の目にも明らかな光景だった。


群衆は固唾をのみ、舞い降りた深紅の巨体へ視線を固定されている。

この最中、視線を逸らすことなど誰にもできない。

人類が未だ知りえない未知の物理現象の様々、その叡智が凝縮した輝きに魅了されない者がいるだろうか?


首相官邸は騒然としたざわめきから歓声に代わる。

正面の国道、道路を挟む向かいに位置する国会記者会館の建物、そして北側の議員会館。

外の人の群れに周辺の建物の窓、全ての人々が歓喜に満ち溢れている。


イグナクトには心がある。

その光景を目にしなんとしてもこの星の文明を守らなければならないと決意していた...




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

この情景はあらゆる角度からの日本政府公式画像/動画に、民衆の収めた私的なもの含め軽く億を超える視聴が無数に発生。

一気に世界世論がイグナクトの話題で埋め尽くされた。


一連は須崎の推し進めた法網の隙と、大衆心理を突く、極めて大胆な政治的奇策。

首相/冨樫敏弘(とがしとしひろ)はじめ、内閣での検討の末にこれを採用、政府の総意として公表。

結論としては、イグナクトの協力を得ることが最も二人の安全を担保できる、との見解にたどり着き、冨樫内閣はこの一世一代の大勝負へ打って出たのである。

この大胆な演出で世界世論は一瞬でイグナクトに魅了、世界はグラードルの脅威に対する鮮烈な希望を目の当たりにしたのだ。


須崎自身もこの策は一種の博打であろうことは否定していない。

だが、この一手により稼げる時間的アドバンテージは二人の操者、真鎖人(まさと)と旭柰(あさな)にとっては計り知れない恩恵となった。


須崎の見立てでは世間がイグナクトに目を奪われている間に



【イグナクト絶対操者『橘真鎖人(たちばなまさと)』『銛旭柰(もりあさな)』二人の最大バックアップ体制】



ここへ、おおよそ考えられるすべての手が構築できるとの算段が完結していた。

法的知見豊富な須崎はこの事態は、【戦時下という事を最大限利用する】形で二人の保護へと繋がる枠組みを構築、イグナクトを対グラードルの救世主として速やかに世界へ認知させるのが鍵と理解。

無理に隠そうとするから漏れ出る、暴かれる形で後々存在が露見するよりもイグナクトを隠れ蓑として利用し、その隙に法的枠組みで操者含む包括的な事態のコントロールを図ったのだ。


何も枠組みのない現時点、衆目を逸らすことは全体のリスクコントロールの観点からも圧倒的優位になる。

仮に法ができた後(のち)に操者の事が露見したとしても、事態の経緯から地球のヒーロー/ヒロインとして扱われるは必定。

その注目が逆に二人の危険に対するシールドとして機能することにも繋がる。

警備体制への物量投入は必須だが、警護対象として取り組む分には警察にも多くの知見がある。

二人にかかる危険に対しての対応、その他の突発的な ナニカ への対応リソース含め格段にハードルを下げられると踏んだ。


須崎はこの施策に対し同党/法務大臣/犬埼冬至(いぬざきとうじ)と事前に法的な側面からの巧妙な枠組みを担ぎ上げていた。


衆議院、議員会館、犬崎の事務所。


「これなら誰からの文句も躱(かわ)せるで。しかしお前さんも元検事とはいえ中々に合法的エグ味満載の手を作ったな。」


二人の前には閣議決定前の草案/草稿案の段階からの書類束が山積みになっていた。

法務官僚と政策秘書の不眠不休の産物、法はそれを運用する場では法文その物の内容より、いかにこじつけで実務と整合をとるのかという非常な現実がある。

犬崎も元弁護士という法曹界出身の政治家、現場の実務は身に染みて理解している。


「法は人を救うモノにあらず、されど人を救うための精神を忘れては畜生と化す、ってことやな。」


「人は律法の行いによってではなく、信仰によって義とされる、ですか?」


「あははは、それそれ。まぁ家はお釈迦様~南無阿弥陀仏で方向違うけどね。概ね真理みたいなもんはそうかわらんやろしな。」


法を生かすも殺すも、その扱う場と体質を改善しなければならない、それを身をもって知る二人の生々しい会話は今手元にある書面に集約されていた。


「ともあれ、これなら騒ぐだけが取り柄の連中も黙らせることができます。」


「そうだな...人権やどこどこの国がー、とかアホの一つ覚えみたいなのはこの非常時でもお構いなしで騒ぐからな。」


「これで国内への手は終わりとみていいでしょう。不穏分子の炙り出しに統制、これで概ね押し通せます。」


須崎の言葉には確信めいたものが宿る。

検事を辞め為政者への路を進むと決めてから秘していたモノを存分に振るう覚悟がそうさせているのだろう。

解決へ腐心し続けた二人だからこそのロジックハックがここに結実していた。

そしてその眼光はさらにその先を見据えている。

それを犬埼も理解していた。


「次は世界...外務大臣本領発揮というわけか。壇(だん)君の出番は見ものやな。」


「はい。データの鬼の異名、見せて頂きましょう。」


危機に際して動けぬことは誰しもがある。

だがこの内閣はそこで勇を馳せる志を持つ者が揃っていた。

事態は加速度的に【危機】に対する体制を構築していく....




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

二人が構築/提案し内閣で閣議了承を得たものは以下


①戦時下における重要民間人材の安全確保および事業継続に関する緊急特例法(時限立法)』

「既存の法律を一切触らない(改定はしない)またはそれらを過剰に上回る枠組みを用いない」「戦時下での市民生活への新しい防壁と利益に関することのみ追加」「戦後すぐに自動失効。継続/復活の可否は再審議とする」このような3つの縛りをつけて審議にかける。


②「戦時下においても、日本の経済・技術をストップさせてはならない」という大義名分を掲げる。

「重要民間人がテロや誘拐、その他戦時災害、係る事案の全ての恐怖に怯えず、通常日常業務に専念できる環境を国家が全般にわたり保証する」との建付けで

「特定重要インフラ・産業維持のための人材安全確保法」

これを成立させる。


③「官民連携警護措置」の制定

現行の国民保護法に裁量を持たせる観点から、国家が民間企業と契約を結び、「企業の最重要アセット(人材)を国の予算でバックアップする」という条項を閣議決定で追加。

これにより、警察や自衛隊の予算ではなく「経済対策費」や「インフラ防衛費」の名目、場合によっては「機密費」からも、対象者の通常日常生活を支える莫大な警護費用をカモフラージュして捻出可能になる。


この建付けならば今後イグナクト操者の存在が露見したとしても、真鎖人と旭柰に発生するあらゆる事態に大義名分が立ち、与野党どころかかかる全ての反発をも実質無効化できる。

特に②は二人の操者、特に旭柰の環境保護への最大の防壁となる。


これらの策は政府最大の利点として 緊急時の独裁 だという批判を回避し、法を盾にできる。

その法そのものが誰が見てもこの緊急時に必要であろうと判断できる枠組み。


この巧妙に真意を隠す内容、それはまさに須崎という男の経歴を物語っている。

この手の『発生した事態』に対し、おおよその関心の裏をかくような策は須崎が検事時代に知能犯相手の取り調べで散々やりつくしてきた常套手段。

調書を作成する上で狡猾な被疑者は黙る、そして証拠の可能性を示す事柄には雑談にすら応じない。

特に詐欺や談合関係の事案に多く関わっていた彼の経験がそういった人の心理的なモノを法へ求めた際に導き出した必然だろう。


須崎はこれと並行し、外務大臣/野ノ浦壇(ののうらだん)56歳 と共にイグナクトの発信を主題とした偽装国際会議



『国際サプライチェーン強靭化に関する主要国実務者緊急円卓会議』

International Supply Chain(国際サプライチェーン)東京ラウンド会議



通称/ISC会議構想を立案、政府了承の下各国へ打診した。

表向きは戦時下での経済対策会議。

その実、世界の要人が一堂に会する場を世論へ影響少なく合法的に抑え、世界市場の動揺を回避し水面下でのイグナクト(真鎖人/旭柰)を中心とする連携強化のインフラ整備とした。


野ノ浦は学生時代からフィールドワークに励み様々な体験を通した実測データをもとにした政府提言を行ってきた生粋の政治家。

世襲でもないのに物心ついた時からの全ては【政治家になる】を起点とした珍しい人物である。


「一応は 外相会議 という建付けにして組み立ててるが、上った物はイグナクトを餌にしてるみたいな側面は否定できないな...」


「そのお陰で各国首脳が集まるのであれば是非もないのでは?」

須崎の言はもっともである。益もなしに国家元首を集めるのは困難極まりない。


「それを狙っての餌というのが個人的には強引だなと。ま、大事の前の小事と割り切るくらいの腹はあるさ。なにより特機からのイグナクトデータはこの時勢ならどの国も最優先事項になるしな。」


野ノ浦が手にしているのは【特殊先進機械兵装技術研究所(とくしゅせんしんきかいへいそうぎじゅつけんきゅうじょ)】のまとめたイグナクトのデータ。


「このデータは人類にとって未知の技術ばかり。オマケに人類の現用技術の改善によるグラードルへの対抗手段足りうるモノの存在が含まれている。その仕様の一端とイグナクトご対面なら来ない方がどうかしてる。」


二人の前にしたデータは、このグラードルへの驚異の前には宝の山どころの話ではない。

野ノ浦はこの会議に人類存亡の分水嶺を見ていた。

自身の些末なプライドにも満たない意地などかなぐり捨て、撒き餌としてイグナクトの存在を事前に各国へ通達、会議を組み立てることの重要性は理解している。


顔を立てるために被害当事国、それらをコアメンバー主要17か国として設定。

だが緊急時サプライチェーン構築を混ぜ込むことで、事実上国家元首全員が同様の参加資格を持つという形に落ち着く。

会議に際しては東京都一色24区/銀の柱の会場を確保、事前資料として参加各国へイグナクトの覚醒、その経緯の二つを主軸とした詳細な報告書が提出された。


「俺としてはこのまま管理を銀の柱へ丸投げてしまうことは少々気が引けるな。やっこさん意識があるとはいえその使命感は半端じゃないからな。年甲斐もなくここで人類がつまらない小競り合いでも始めたら申し訳が立たん。」


「情報管理に関しては彼(イグナクト)の方が圧倒的に優位でしょう。仮にイグナクトに悪意があれば地球のネットワーク、メインフレームの掌握など容易い。その辺りは貴方の示したモノで各国、嫌でも理解せざるを得ない。もうそれぞれアクセスして状況は理解してることだと思います。」


「そりゃあな、あちら(イグナクト)はフル開示で自由にしていいって話で、中に入ったら自分の国の履歴が建国から今に至るまで機密まで含め全部丸見え保存されてれる。もうお手上げでしょ。」


「人類文明のメインフレームなど意味をなさない...それに彼達(イグナクト)の闘いの記録は今、我々が最優先で共有しなければならない現実。」


「皮肉なもんだな。まるでグラードルとやらを前に目覚めろと言われてる気すらするよ。」


「ええ。我ら人類がこの宇宙でどれほど幼いかを身に沁みて感じます。」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

須崎にとって野ノ浦は政界での盟友と呼ぶに相応しい相手。

その共感は双方が経緯は違えど似た形での経験を積んできた点にある。

須崎は自身の親の仕事に大きな疑問を抱きながら育った。

日本の畜産を取り巻く環境の不条理は過酷なもので、働くことの利益が現場へ還元されないばかりか未来への投資を削ぐことで今を維持するような側面がある。

彼はその悪循環に憤りを感じていた。

思索の末に彼は世界にその解を求める。

海外の大規模農家とそれを取り巻く法体系、その現場の見聞を広めるために司法試験に合格した直後、自身の就職/実務経験よりもまず視野を広げるための見聞が必須と世界放浪の遊学を経る。

彼が学生時代も繁忙期に実家農場や周辺でのバイトに明け暮れたのはその資金調達のためでもある。

それを路銀とし彼が回ったのはアメリカの穀倉地帯、主に中西部に広がる「グレインベルト(穀物地帯)」や、中央平原からグレートプレーンズにかけての広大な平原地帯。

世界の大規模農家とその法での囲い込みの体系を学び帰国したのは26歳だった。


帰国後検事の職に辿り着いたのも相応の意味を持つ。

何故検事?という疑問は当然に周囲の者達が抱いた疑問だが、彼の中では熟考の末に出た明確な意味を持つ。

根幹はそれぞれの法職務の視点の違いに起因する。

原則として


・弁護士は法を使い救済を目的とする。

・裁判官は法を使い事を公正に判断する。

・検事は法を使い罪を図り判断を求める(裁判所へ)。


このように彼は解釈した。

その前提から現場では法がどのように運用されているのか?その実務を知る上で弁護士や裁判官よりも実情が把握できるとの見地で選んだのが検事だった。

裁判官でこれを知る道は最高裁判事を目指すようなモノなので手っ取り早く実務の壁にぶち当たる(折れて腐る)者が出やすそうな検事を選んだ格好。

彼は 検事職 を最初から自身の本懐へ至る踏み台としてしか見ていなかったのである。

法はその立法趣旨がいかに崇高であろうと施行後は現場の解釈運用で本来救うべきが虐げられるなどという真逆の結果となることは多々ある。

概ねこれらは頭でっかちな 【学はあれど志なき愚者】 の所業。

それらが幅を利かせている日本司法の実態を感じていた須崎はその内実を深く知り、それと一応の対立軸にある検事を選んだのだ。

かつては悪しき【判検交流】などという制度があり互いの仕事の理解を深めるというお題目の元、内実談合汚職の巣窟と化している悪魔のような制度が存在した。

それを文字通り完全に粉砕したのが聖清蔵元首相、その聖の拓いた道を須崎が歩んで今に至る。

司法の忖度や形骸化を許さぬために実務を学ぶ。

その知見を持ち為政者となり抜け道を完全に潰す法を作り上げる。

畜産含む一次産業への直接の助けとなる法の制定を見据え、決して現場実務に歪められない立法、それが彼の目指す道。


野ノ浦も須崎同様に自身の親の背を見て育った経緯がある。

函館市・南茅部、彼は水産の現場をその起点とする。

定置網漁の盛んなこの地域出身者の現実。

それはとても深刻な実態と共にある。

日本の法体系とその運用実務の狭間で起こる悲痛な様、それを顕著に表しているのがこの定置網漁法。

2010年代、世界的な漁業資源の制限の中で日本は様々な苦境に立たされていた。

特にWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)などを筆頭とする枠組みは日本の水産現場にとっては死活問題となるような事態まで巻き起こす。

マグロのような広範囲を移動する回遊魚は、特定の国だけでなく海域ごとに設立された組織


----------------------------------------

「地域漁業管理機関(RFMO)」

太平洋の西側(日本近海、韓国、台湾、オセアニアなど)


主な参加国・地域

日本、韓国、台湾、米国、中国、豪州など

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----------------------------------------

IATTC(全米熱帯まぐろ類委員会)

太平洋の東側(メキシコ、アメリカ西海岸、南米沖など)

主な参加国・地域

メキシコ、米国、EU、中南米諸国など

----------------------------------------


これらが双方がルールを策定しており、太平洋のクロマグロはこの2つの国際機関が東西で分担管理していた。

ここでの駆け引き(利権の叫び合い、各国の殴り合い)が結果として末端の漁業現場へ深刻なダメージとなってしまった。

現実問題として現場単位では買う側も売る側も互いを尊重している。


・漁師/採ってきたものを買ってもらう

・仲買人/いい魚を譲ってもらう


この国際会合での「利害の対立」はそれを反映していない。

日本など長年の漁獲制限により資源量が劇的に回復したことを背景に、定置網などの沿岸漁業者を救うためにも「30kg以上の大型魚の漁獲枠を25%拡大したい」と提案。

これに対し太平洋の東側を管轄するメキシコが「東側の漁獲枠も同時に増やすべきだ」と主張、米国なども慎重な姿勢を崩さなかったため、最終的な調整がつかず決裂した。

この結果として全国の定置網の盛んな地域でクロマグロが大量に入網(混獲)することによる被害(通称「豊漁災害」)が多発、北海道内でも特に「函館・南茅部地区」や「日高・新ひだか町周辺」で深刻なダメージが顕在化する。

国際的な資源管理によって太平洋クロマグロの数は激増する現実がある反面、漁師達が持っている「漁獲枠」には厳しい制限が残される。

そのため、


「網に山ほど入るのに、売ることはできず、泣く泣く海へ返さなければならない」


という歪んだ状況が、漁場に大きな打撃を与える結果となった。

漁師からすればお金にならない魚(漁獲枠の制限で獲れないマグロ)が商売道具の漁網だけズタズタにしていく様は悪夢以外の何物でもない。

悲惨なのはこうした実態を無視した歪な枠組みがあるため混獲で得たマグロを売ってしまう事例がある事。

この場合、警察組織はその仕組みに従い最悪、思考停止で逮捕へ動かざるを得なくなる。

結果、不要な漁業関係者を複数逮捕、書類送検(送致といい警察→検察へ書類を送ること)が発生し社会問題化していた歴史がある。


野ノ浦はこの様で苦しむ親の背を見続けていたことから問題の根本解決にはより広範な法整備の必要性を感じていた。

そのため学生時代から関連へ熱心に取り組み


【定置網内のクロマグロの挙動と他魚種への被害データ】


を日本で初めて完全数値化。

学内や国際学会で発表し、それらの活動からも地域漁師の支持を集め為政者の道を歩み始めた。


結果として須崎と野ノ浦は全く違う産業を背景に持ちながらも共通の問題意識を持つに至る。

国の体制のお粗末さと法整備の後手。

双方、思想としても、現場へダメージを残すことへの問題意識で強い共感を持ち、その取り組みを通し互いの信頼を得てきた。


担い手が減る産業は=未来へ夢が描けない、へ直結してしまう。

極端な言い方をすれば成功者がたかが知れてる程度の金持ちにしかなれないようではそこに光はない。

その認識が二人には強くあるのだろう。

若者が飛び込んでくれた時にせめて好きな車に乗り、好きなものを食べ、愛する相手と未来を描ける世にすべきだという為政者としての矜持。

それをこの二人は互いへの敬愛と共に持っている。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

首相官邸

冨樫首相は様々挙がってくる報告書に目を通しながら秘書官の説明を受けていた。

多くは野ノ浦の画策した (国際サプライチェーン)東京ラウンド会議 という名の、各国へのイグナクトお披露目会議関連。


「須崎君に野ノ浦君といい、この非常時にこれだけ優秀なメンツが揃ってるのが心底ありがたいな。」


「一色区への移動は通常通り羽田を使います。」


「例の鯨の飛行機は?あれ乗れるの?」


「既に羽田に配置済みです。」


冨樫のいう鯨の飛行機というのは、政府専用として製作された垂直離着陸大型輸送船をベースに開発された政府専用機の事である。

基本、こういった首相の移動には羽田の専用ゲートからの移動が中心。

その場合に使用する航空機は


・国内/民間航空

・海外/政府専用機


このように訪問先で分けられていた。

だが国内移動にまで正規のルートとはいえ予約を入れ、専用VIPルートに必要以上にコストを割くのは負担が大きい。

その流れから自衛隊→国防軍再編の際に国内移動は別の専用機を用意、可能であれば離発着も民間空港を経由せずに国防軍機基地からとし、警護全体の負担を減らす政策が取られていた。

今回はタイムスケジュールの兼ね合いで羽田発となる。


事態は加速度的に【対グラードル】へ向けた視点を持ちつつある。

イグナクトという存在が護る者がなんなのか、それを理解するにはまだ人類の見識は追いついてはいない。

だが、存亡をかけ足掻くことが生命の本質であるならば、それに従い知を得てきた文明がその理解へ辿り着くのも進化の一つなのだと思う。

舞台は再び東京都/24区 一色、銀の柱へと向かう...



次回『天のイグナクト』

第六話 追憶の航海 -後編-


2026年9月11日13時00分公開


※夜にちょこっと設定『5.5話』が公開されます。

2026年9月4日、本日19時00分




■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


■Xアカウント■

【下駄のイグナクト】

(取材/ロケ/備忘録※すいません、各地取材移動しながら行進準備で遅れております。近いうちにドカっと出します。)

https://x.com/getanoignact

ぜひフォローお願いします。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

■□◆【関連『なぜなにイグナクト』リンクリスト】◆□■

https://ncode.syosetu.com/n0144mo/14

https://ncode.syosetu.com/n0144mo/16

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

勢いが乗ると

あ、という間にラフだったモノにペンが入ったり、ミチミチ密度の線画にパス切ったり、というのはあるんですよね...


ということで、暫定版ではありますが


2026年9月4日、本日19時00分



『イグナクト』 



デザイン画稿を公開いたします。

主役メカなんだし、ということで


『天のイグナクト 5.5話(なぜなにイグナクト-本編出張版-)』  


としてこちらで公開いたします。

次いで放置気味だったライトニングボルトのAI僚機も公開いたします。

赤いってなんかそれだけでワクワクしませんか?

シャー!って来る感じしますよね?しませんか?

そういう気分です。

ではまた本日よろしくお願いいたします。

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