第十一話 『また会おう諸君!』
次戦への予感が徐々に見えてくる話です。
くじらくんさん は戦いませんがw
ハードSFは展開をカチコチにしては物語が死んでしまいかねない、それがジャンルの弱みと承知しております。
引き続き追ってやって頂けると幸いです。
第十一話
『また会おう諸君』
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7月26日
15時03分...
東京
品川
自治体の運営する中では日本有数の水族館、しながわ大水族館
その屋上特設イルカステージ。
神との運命的邂逅を果たした旭柰。
彼女は夢にまで見た眼前に広がるその光景にただただ立ち尽くしていた。
だかその胸の鼓動は抑えられない...どうにかして納めなければ...そんな焦燥にも似た感情が交錯する。
同じ東京都はいえ一色24区と品川区は直線距離で300㌔以上も離れている。
遠い距離を離れて暮らす双方、自分は【神】を狂おしいほど知っているのに【神】は自分の事をおそらく知らない。
いや、ひょっとしたら【神】だからなんでもかんでも丸っとお見通しよ♪かもしれない
※おちつけ
そんな妄想とも幻想とも判定できない事象に、強く心をかき乱されながらも正気を保とうと深呼吸する。
震える胸の鼓動が脳内で直接聞き取れてしまうほどにSREIDシステムは彼女と強くシンクロしていた...
『落ち着きなさい私、掌に魚と書いて飲み込むのよ!』
心の中で唱えた言葉は既に混乱の極致に陥っている...
当たり前に考えて有り得ないことを脳内でこねくり回している内に、ステージ前の客席フロアにお客さんたちが集まり始めてきた。
旭柰は急いで自身の特等席となる場所へ急いだ。
目の前に【神】がいる、その現実だけで旭柰の心は【神】を想う気持ちで胸が張り裂けそうになる。
眼前、僅か30メートルほどの前方、イルカプールを挟んだ向かい側に【神】がいるではないか?
私、頭が高くない?
思わずひれ伏しそうになる心を奮い立たせる旭柰。
彼女の心の中では
『今は気持ちに任せて叫んじゃだめ!堪えるのよ旭柰!』
『そう、間違ってもひれ伏しちゃダメ!ただの変な人と思われる!』
そんな自問自答が繰り返されている。
心のエンジンがフルスロットル全速力だ~高鳴りをピークへいざなう。
それに連動するように旭柰の視覚に宿るSREIDシステムは超解像で空間状況を捉え始める。
人類の、旭柰のパトスが宇宙の超科学を掌握しつつある...恐ろしい子、旭柰。。。
同刻
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一色基地
イグナクトラボ
イグナに取り付けられた人類渾身の特注砲身。
中国とオーストラリア、そのサプライチェーンの全リソースが結集することでしか成し得なかった人類の希望、それを納めた機体コックピットには真鎖人が座る。
彼は正面モニターに映るイグナクトの変成ログをリアルタイムで確認していた。
その最中、突然システムアラート警告灯が点灯、サブモニターでナクトの同期率が急上昇しているのを確認する。
続きSREIDシステムのmaximアラートも鳴り始める。
「イグナ! これは、旭柰さんに何かあったんじゃ!」
※ええ、なにかありましたね...
『真鎖人、大丈夫だ。旭柰の周囲、解析した分光スペクトラムは人と水生生物のものしかない。原因はこれだと判断する。』
イグナが提示した画像データは
日本の集得社/月刊誌【フレッシュガーネット(一番売れてる少女漫画コミック誌)】/『ときめきアライブ』著者:二ツ星ホタル
日本で今ブッチギリで一番売れている純愛少女漫画、その直近ハイライトシーン、水族館でのヒロインと幼馴染との急接近、物語の最高潮の数々だった。
「少女漫画?」
真鎖人の超速思考は旭柰とイグナから得られたワード、
【都内へ旅立った旭柰:水生生物と人の存在:少女漫画のハイライトシーン(水族館)】
そして緊急に立ち上がり、最大出力に近い可動のSREIDシステム、だが危険を伴っていない、ここから考えられる事象への最適解を導き出した。
「そういえば仕事とお楽しみ(楽しい事→水族館)があるって言ってた。水族館でその漫画家のサイン会でもあるのかもしれないな。」
※違うぞ真鎖人
『私にはまだ概念だけでしかわからない人の心がたくさんあるようだ。とても興味深いものだと認識する。』
「それは同じ人間にもあるよイグナ、人の感情は伝わりにくいこともある。だからこそ考えて見ていくしかないこともあると思う。」
『うむ。そのようだ。私も注意深く旭柰を見守ることとする。』
絶望的な勘違いなのか、それとも凡人を超越した達観なのかわからない思考領域。
至高を極める天才と、銀河の超科学が一色24区でひとまずの決を得たころ、品川では心の脈動を理性で縛り上げどうにか平静をでっち上げた旭柰が、超科学/SREIDシステムにより【神】の一挙手一投足を逃してはならんとその知脳/煩悩をフル稼働していた。
眼球を万能レンズとして超高解像/超高密度立体データとしてシステムはフル稼働、旭柰の視覚から得る情報の全てを銀の柱のメインフレームは受け止めている。
ここへ蓄えられたデータは後々完全3D立体シミュレートの超高精細画像に変換することも可能なのだが、イグナクトはこのシステムの存在を旭柰には知らせていない。
旭柰の【神】への敬愛が臨界を超えイグナクトの超科学をハックしたのだ。
今の旭柰はその視覚に限り、イグナクトを踏み台とし銀の柱を完全に掌握している。
彼女の網膜を通す全てが銀の柱に最優先で記録されていくのだ...
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旭柰が人生のパトスを滾らせている一方、
千葉県館山、その富士見
【国防軍 富士見 航空救難隊団】
複数ある国防軍航空部隊の航空救難団の一つがここにある。
日本最強の救難専門組織として海と陸の精鋭を集め組織された救難救急特殊ヘリ部隊、これを最小の組織としてパッケージング化したものが航空救難団。
その【首都圏救難第一ヘリコプター団】がここにある。
ヘリコプター団を名乗ってはいるものの、その組織構成には護衛のためのライトニングボルト小隊(4機/予備機含む)が配置されている。先の一色区への応援部隊もこの小隊が出動していた。
このような救助のヘリ部隊と併せたライトニングボルト小隊配置は、先の【航空救難団】として全国16か所に配置されている。
それぞれが中央即応連隊(CRR)としてまとめられ国防軍でありながら全国各地首長からの単独要請で稼働できるようになっている。
そのため各地での災害発生時には国の決定を後回しで、緊急救急への即応が可能な独自の指示命令系統を構築し配置されていた。
戦闘行為、武力行使のみ国の指示待ち、人命優先の災害等発生時はヘリとライトニングボルトの機動力で八面六臂の活躍を見せる。
四方を海に囲まれ、各地域が山岳によって断絶している日本の国土にはこのような兵站に有利な位置に、マルチに対応できる小部隊を複数配置、発生事象ごとに最適な地域の部隊が各首長からの要請で連携投入されることが最良である。
元を辿ると、この構想の根幹は自衛隊時代から存在している。
ただ、自衛隊時代は救難(UH-60JAやCH-47)を専門とする部隊と、それを護衛する戦闘ヘリ(AH-1SやAH-64D)の部隊として組織上は別々の「航空隊」として分かれている点が問題となっていた。
有事の際、必要に応じて現地で臨時の合同部隊を組む形をとっていたため、迅速ではあるがロスが生じていたのも事実。
聖清三が首相として国防軍への改革を行った最大の理由は、国の護りへの担い手が減る流れに様々対策を打ちつつ、現場単位での徹底した負担減、およびその負担そのものの平坦化を進めることにあった。
陸海空の垣根を取り払うぐらいの【国防】への集約。
そのためのいわば組織最適化が根幹にある。
その成果がこの
【航空救難団】
【救難専門組織の中に、護衛用の戦闘部隊(ライトニングボルト小隊)が最初からパッケージされて全国に16箇所ある】
ここにあらわれている。
国民を護るための「国防軍」らしい合理的な思想と結果の最大化、最終形態と言える。
この千葉館山の航空救難団を国内人命救助を除く国防(国土防衛)の面から統括するのが旧航空自衛隊 峯岡山分屯基地を改修拡張した
【国防軍 鴨川峯岡山基地】
房総半島を東西に走る山脈「嶺岡山系」、その頂きにあったこの基地(約0.26平方キロメートル)を0.6平方キロメートルへ拡大、山体の一部を地下施設として増築。
ヘリ部隊も要する首都東の護りとしてライトニングボルト1個飛行隊(20機)を要する形で【国防軍 鴨川峯岡山基地】へと新生させた。
元々、日本の空(首都圏)を24時間体制で監視する「レーダーサイト(警戒管制基地)」としての側面が強かったが、そこに垂直離着陸の欠点であった「積載制限」を大幅に改善したライトニングボルトが登場、その利点を最大限利用する計画でこの基地は整備されている。
峯岡山分屯基地時代からCH-47J(輸送ヘリコプター)の体験搭乗が実施されるなど地域との交流を強く維持する基地でもあったため、再編後はふもと一帯、鴨川観光地域と連携を密とした基地祭が定着していく。
この基地自体が雄大な山々や、下方へ広がる海の景色などを楽しむことができ、輸送機の体験搭乗などは極上の空の旅となる。
基地祭の地域連動時などは一日に1往復ながらも基地と麓観光の要所への航空輸送が行われ基地祭の超目玉として大人気の催しとなっていた。
併せて広大な敷地の露店展開は基地祭の地域連動の核となり最寄りの千歳/千倉駅、 普段の観光中心地/安房鴨川駅などからは臨時直通バスが出るなど全国の基地祭の中でも屈指の集客率を誇っている。
国防軍司令/前田圭史はそんな基地祭に来る孫娘/ほのかちゃんのためにも自身企画の露店にかける意気込みは相当な域に達していた。
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新宿区
西新宿の電気街一角。
今やこの家電量販店街もツノハズカメラ一強となって久しい。
1980年代などは空前のTVゲーム機ブームでこの辺りには複数の家電やゲームソフトを扱う店舗がひしめき合っており、大人気ゲームの発売日には各店舗に行列が発生、それらを映すマスコミの殺到と併せ新宿駅反対、東側の歌舞伎町と双璧をなす、眠らない町新宿拡大の様相を呈していた。
だがそれも2000年ごろからゲームソフトの販売形態がデジタル/DL販売へと移行するにつれ、店舗乱立の群雄割拠にも終焉が訪れてしまう。
店舗数も大手2社に集約され、空いたテナントには西新宿ビル街のビジネスマンの食糧需要を満たすように様々な業態の飲食店が乱立し始めた。
以後は1~3年サイクルで店舗が入れ替わる飲食激戦区と化す。
そしてこの激戦区ど真ん中で新装オープン10年、創業オーナーから数えればなんと100年の歴史を持つ、鉄板調理の名店/パランドランはある。
現店主は先代より店を託された若き女性オーナーシェフ/錦織澪38歳。
「ほら、前田さん、そこでコテにご飯乗せとかないと。」
「おお、そうだった。(慌てて飯をコテで左右から掬う)」
前田に鉄板調理指導しているこの錦織澪、元々は10代から千葉で鉄板修行の果てに新宿に流れ着き先代オーナーに拾われ今に至る。
先代オーナーの隠居に伴いその腕を見込まれたことから店を引き継ぐことになった。
先代曰く
『澪を女だと思ってなめんなよ、こいつの技は俺より上だ。』
そう言われて、当時から常連だった前田は引き続き通っていたところに基地祭の模擬店の話が浮上、澪が前田の師匠として鉄板指導を買って出たのだ。
澪は新宿界隈のテキ屋では名の知られた女傑。
また新宿は学生も多く、学際の模擬店指導などにも積極的。
前田の技術指導には最高の先生だった。
ここで大切なのはテキ屋と模擬店の違いであろう。
テキ屋は、お祭りや縁日、初詣などの催事場を回り、露店で食品や玩具を販売することを職業(生業)としている専門業者。
その意味では澪は飲食店経営をしながら地域のお祭りに積極出店しているテキ屋兼飲食業という立場になる。
模擬店は、学校の文化祭、地域の市民祭り(地主としての神社仏閣の主催は別)、企業の社内イベントなどで、本来の商人ではない人たちが「見立ての店」として臨時で作ることを指す。
そして澪の主戦場はお祭り、縁日での出店となる。
以外に思う人も多いが新宿には数多くの神社仏閣がある。
歌舞伎町エリアに隣接する花園神社、西新宿の大手不動産会社の本拠地、都庁のお膝元の新宿中央公園角に鎮座する十二社熊野神社、東には東京四谷総鎮守 須賀神社に赤城神社・善國寺。
これらは開村や産業、多くの伝承と深く結びついた存在として地域住民の祝い事などとも結びつきが深い。
当然それらはお祭りとして地元文化とも結びつきが強い。
商店街を含む一帯巻き込む形の縁日など、地域活性とも大きな相関関係を持つ。
そして4年に一度は毎年の祭りを総括するように【大祭】として普段より規模の大きなものとして開催する。
これら地域の歴史や伝承を背負う形の祭りはその賑やかしとしてのテキ屋文化も孕んでるのが常。
相当な歴史と共にその地域ごとの文化を含む地場産業の特色が息づいている。
幾分利権化して新規の立ち入りが難しい、地域によっては事実上不可能に近いケースが存在するのも事実だが、理を持って説くことでこじ開けた事例も存在する。
「東京都神農商協連合会」や「東京都縁日協業組合」、大きく分けてこの組織の組合員がテキ屋(街商)としての身分を保証する形で各縁日の出店場所割り振りを決定する。
そもそもこの組合員への道が外からはよくわからないこともあり、また一度組合員になった人が引退以外で抜けることもなく組織としての新陳代謝は悪いのが実情である。
ただ、それらは大きく公表してないだけで伏せているわけではない。
逆の見方をすればそこへ熱量を注げない者には任せられないし続けられないという側面もある。
錦織澪はそんな狭き門を突破して新宿界隈の祭りでも鉄板屋台「めしうま」を出店し続けていた。
「前田さん筋はいいのに慣れたからって手順ハショっちゃダメだよ。いい、鉄板調理に限らず調理は科学の理詰めを頭で理解して追い込むものなの。感覚でやれるのはその先だから。」
「いかんいかん、どうも卵に集中してそっち(ごはん)がおろそかになってしまった。申し訳ない。」
前田が取り組んでいるのは鉄板焼きでの焼き飯調理。本来焼き飯は超高火力で一気に仕上げるのが鉄則だが前田はそれを鉄板焼きでやろうとしている。
これは実のところかなり無謀な科学的ロジックがある。
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【中華厨房のバーナー(中華鍋)】
・発熱量(1口あたり)15,000 〜 22,000 kcal/h
・火力の比率【最強】 鉄板バーナーの約3〜4倍
【鉄板焼き・露店のバーナー(グリドル)】
・発熱量(1口あたり)4,000 〜 6,000 kcal/h
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数字で一目瞭然なのだが純粋に扱う火力に差があり過ぎるのだ。そして決定的な点がここ、中華鍋は直接熱(瞬発型)、鉄板は蓄熱・輻射熱(安定型)という食材への火のアプローチ、過熱方法が全く違うのである。視覚で例えるならばバーナーでの直火と焼きゴテに相当する。
食材に対しての火の威力とアプローチ、そして科学、先達はこれ(科学)を味覚でどちらが適しているのか判定してきたのだ。
飯は食材への直接の火を起点とした料理である。
焼き飯調理、鉄板からの放射熱、このアプローチは決定的、致命的な味の違いとして出てしまう。
鉄板調理での焼き飯の仕上がりは見た目に味、双方で中華鍋に遠く及ばない。
端的にまとめると鉄板焼きめしは
①「パラパラに仕上がらない(ベチャつく)」
②「焦げ付き」
③「提供スピードの低下」
この三点に集約する。
調理をしない者には意外と思われるかもしれないが鉄板に油を引き高温になると食材は焦げ付きにくいのだ。焦げ付く(焦げるではなく焦げ付く)原因は主に火力不足が原因。
澪はこの三点を徹底排除する手法を前田に伝授している。
まず①
鉄板調理前の徹底した事前対策。
これはあらかじめ濃い出汁で炊いた米を冷ますところから始まる。冷えたら金属ボウルに入れて少量の塩をまぶし冷蔵庫で寝かせる。調理前は冷蔵庫から出して常温にする。この過程で塩の浸透圧作用で米内部の余計な水分が表面に出てくる。冷蔵庫はその内部が乾燥しているため水分を蒸散させる作用が見込める。本来の中華鍋調理はその火力で米の水分を瞬間的に飛ばすのだがこの工程を戦場(テキ屋屋台)よりも前に仕込みの段階で済ませてしまうのだ。
味付けと不要水分飛ばしが完了している米に次は卵の黄身とブタの油を混ぜ込む。黄身とラードで米をコーティングし焦げを回避する下準備。
②の対策としては使用する油を米油に限定する。
米油が焦げ付きにくい最大の理由は、天然の抗酸化成分が豊富で熱に強く、加熱しても酸化や重合(油がドロドロになる現象)が起きにくいためだ。また米油の発煙点は約230℃〜250℃と他の食用油に比べて非常に高いのが特徴。鉄板に薄く引いた米油をバーナーで20秒ほど加熱し事前に高温状態を作り焦げ付きを回避する手法も取り入れる。
③焼き豚は角切りではなく細切りにし事前に常温醤油につける。あらかじめ醤油もこうやって風味を損なわない手法で少し温度を上げておく。細切りにする理由は主に二つ。
・のちの工程に向けて醤油を多く吸わせる必要がある。
・吸わせた醤油の温度を常温放置より少しでも上げておくため。
仕込みとして全ての下処理を終えこの状態で調理に入る。
これら事前仕込み食材をテキ屋鉄板の前に並べて配置しておくことで現場での調理時間を大幅に短縮できる。
中華鍋焼き飯の妙は大火力の中への食材時間差投入にある。食材ごとの火に対する耐性、それを僅かの時間差での食材投入タイミングで調整し一斉に仕上げ(一番旨い火入れ加減)へ持っていく。この調理完了と火入れタイミングの合致にその極意がある。
それを工程ごとにパート分けして事前の仕込みへ落とし込んでいく作業が鉄板調理焼き飯の極意なのかもしれない。
鉄板焼き飯の調理法の胆はその鉄板上での卵の処理にある。
ある程度米が焼けた(火が通る)状態で溶き卵を鉄板に投入するのだがこの間に米をコテの上に退避させないと火が通り過ぎてしまうのだ。
コテの上に米を避難させコテが熱せられる、まだその上の米に熱が届かないタイミングで別のコテで卵を仕上げ醤油につけた細切りの豚肉を投入する。
ここで飯を乗せて熱せられたコテの再登板。
熱々のコテを飯ごと鉄板の上で卵/細切りチャーシュー(焼き豚)と一気に混ぜ込む。この時にコテが熱々だと豚肉についている醤油を焦がすことができる。全体にその香ばしい醤油の香りを抱き込む。
あらかじめ米についている下味に追贈する形で熱々のコテが豚肉の醤油を焦がす。
「焦がし醤油(アミノカルボニル反応)」効果にメイラード反応のコンボが米に加わる。
仕上げに焦がし醤油の「煙」をくぐらせることで鉄板焼き飯は完成する。
この一連の動きの間にある無駄を徹底排除、熱々のコテで一気呵成に食材を【混ぜる】仕上げ作業が鉄板焼きめしの極意。
目標タイムは一食調理~提供に115秒。それを前田は体得するためにしごかれている。今は168秒...頑張るんだ前田!!
※澪は余裕で100秒を切ります
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場面は再び都内...
それぞれが各々のターゲットと直面し死力を尽くし戦線を維持している。
そしてここ、北緯 35度35分29秒、東経 139度44分15秒 付近...
人類が誇るスーパーコンピューターは単純な処理の面で1エキサFLOPSを超えるようになってはきている。だがその駆動には1000億円規模の巨大施設と、数万世帯分の電力(約21メガワット)もの超大電力を要するなど実用化はしたが汎用/利便の面からは現実的にいくつものハードルを抱えていた。
だがここにそのスーパーコンピューターを圧倒的に凌駕する汎用性と電力換算で僅か20ワット以下という恐るべき超極低消費電力で稼働する無敵の演算ユニットが爆誕した。
そう、我らが人類文明の希望の一人
銛旭柰...
彼女の脳はスーパーコンピューターを時代遅れの過去の遺物と断ずるが如く、凄まじい超速度で稼働していた。
眼前の状況を空気感まで数値化し記録、遠く300㌔離れた海上に位置する銀の柱をただの外部記憶端末としてしまう圧倒的な支配力。
それを可能とする SREIDシステム の赤い光が瞳を薄っすらと照らす。
その視線の先には【神】がいた。
【絶対神】の催しはこの水族館で飼育されているイルカたち
・雄/バーニー、アル
・雌/クリス、ドロレス
の紹介から始まり、実際にショーの進行指示出しまでやって見せた。
丁寧にイルカたちの説明もこなしつつ進行するイルカショー。
「バーニー」はカマイルカ、他はみんなバンドウイルカであること、館内で産まれたのは「アル(雄)」と「ドロレス(雌)」で「バーニー」は遠く離れた青森で港に迷い込んでいたのを保護されたこと。
「クリス」は横浜でケガしていたのを保護されこの水族館でバーニーと仲良しになり、そのままここで生活することになったことなど、個々の今に至る経緯まで丁寧に説明してくれた。
その語りは、事前の仕込み程度ではない、元々みんな知ってるよクラスの深い愛情に溢れている。
【神】のその知識は【芸人のトークショー】の域をはるかに超えていた。
一言で言えば親愛、存在を慈しむ域に到達する者が得る慈愛オーラで満ち溢れていたのだ。
イルカたちに接してるその姿は【種を超えた親】のようですらある。
【神】はイルカたちへ餌を与える手つきも神々しい。
所作の全てにもそれは現れており、イルカたちが餌を求め開けた口に丁寧に魚を与える様は神々しいまでのオーラを放っていた。
そしてその餌へフォーカスした旭柰に激震走る!
≪ホッケ≫
なんと餌に与えていた魚はサバやイワシではなくホッケだったのだ。
ホッケというとイメージとしては干物の印象があるが、実は産地では刺身もあり煮つけにもされる。
過去ある為政者がホッケの煮つけ発言で炎上したことがあるが、実のところそれは実情に照らし合わせ、当たり前に産地では食される調理法、郷土料理の一つなのである。
ホッケは字で「魚花」(魚へんに花)と書き、魚の群れが海中でエメラルドグリーンに輝き「北方の海に咲く花」のように見えたことから「北の花」が訛って「ホッケ」になったという説がある。
江戸時代の北海道(松前藩)では、伝統的な郷土料理である「三平汁」などの具材として親しまれているなど広く民衆に食されてきた歴史は有名だ。
しかし、ホッケは「非常に足が早い(傷みやすい)」という致命的な欠点(魚体に水分が多い)があったため、本州へ流通することはなく、長らく北海道周辺だけで消費されるローカルフード的な側面があった。
そのため煮つけや刺身で食べられていた事を地域外の人が知らないまま、長らく食文化としての調理法が地域限定に収まってしまっていたのだ。
ところが明治になるとホッケは当時最盛期を迎えていたニシン網に大量に引っかかる「邪魔者(外道)」扱いとなる。
ニシンに比べて価値が低く、あまりに獲れすぎたため、食用としてよりは畑の「肥料」として処理されることすらある始末。
そんな不遇の時代を過ごしたホッケの歴史が大きく動いたのは、昭和の戦争とその後の食糧難の時代。
主力だったニシンが激減(不漁)したため、政府は年中大量に獲れるホッケに目をつけ、全国への配給物資に指定。しかし、当時は冷凍・冷蔵技術や輸送インフラが未発達のため、北海道から本州の山奥まで運ばれる間にホッケは完全に鮮度が落ち、アンモニア臭のする劣悪な状態で国民の口に入ることになってしまった。
このため、当時の人々にとってホッケは「飢えをしのぐための、生臭くてまずい魚」という最悪の記憶として定着してしまった。
その打開策としてホッケを干物にして流通させる流れが拡大、多くの人の認識が
ホッケ=干物
という形で固定されてしまったのだ。
だがこれは功の側面も大きく「北海道のローカルな魚」から「日本の戦後を救った救世主」、そして「居酒屋の定番王座」へと登りつめた、ある意味では波乱万丈のシンデレラストーリーでもある。
皮肉なのはホッケが辿ったその歴史が多くの人へ事実誤認を引き起こし、そのイメージは近年もまだ魚食へ興味の薄い層には先入観として残っているのが実情。
旭柰はそんなほっけの歴史を知っているため、あえてわざわざイルカの餌へその足の速いホッケを選び、なおかつ客席からもわかるほどのピカピカの鮮度でイルカたちに与えていることに感激したのである。
そしてなによりその所作、特に「バーニー」へホッケを与えるしぐさの慈愛に満ちた様が旭柰には深く刺さったのだ。
「まさか【神】はそこまで!」
一瞬、旭柰の脳裏にその思いが走る。
「バーニー」が保護されたのは青森の津軽半島西海岸...
そこは青森でもホッケの水揚げの多い地域...【神】は「バーニー」が育った地で豊富にあったであろうホッケをわざわざ餌に選びそれを与えていたのだ...
なんという愛! 圧倒的慈愛! もはや絶対神!
旭柰はその衝撃と抑えられないあふれ出る神の母性に感極まってしまったのである。
もはや【絶対神】を見る瞳に涙を禁じえない旭柰。
徹底して焼きつけなければ、この一分、一秒、刹那の全て! この慈しみの極致をッ!
その想いだけが旭柰の理性を支えていた。
15時30分から開始された 『くじらくんさん』特別イルカなんでも講座 は予定を少し押す形で16時35分、無事終了した。
そして鳴り響く終焉コール、その去り際【絶対神】は確実にその視界中心に旭柰を据え、観客たち全員に届くように、だが旭柰にはさらに一段深く
『また会おう諸君』
そう言い残し会場を後にした...
そう、絶対神は悟られていたのだ!
旭柰だけがこの会場でイルカたちの餌にホッケを選んだ意味を理解したこと、それに気が付いておられたのだ。
旭柰にはもう抗う手段なんて1ナノミクロンもないんよ...
旭柰がそんな人生の最大パトスを渾身の決意と共に結実させている同時刻。
東京/永田町では、予定業務を終えた 防衛大臣/須崎宗喜 が、残務への指示を出し終え赤坂への移動の途にあった。
「次節到来となるか、風雲急を告げるか... どちらにしろ今取れる手は尽くした。」
須崎の開いた手帳には内閣でここ数十年、特定秘密とされていたモノいくつかの走り書きが記されていた。
機密内容には触れない程度のメモ書き。
そこに記された皇鯨という二文字...
事態は希望と共に不穏な空気を孕みつつ動き始めていた。
次回
天のイグナクト
第十二話 刎頸の契り
2026年10月23日13時00分公開
■Xアカウント■
【下駄のイグナクト】
(取材/ロケ/備忘録)
https://x.com/getanoignact
『なぜなにイグナクト』
https://ncode.syosetu.com/n0144mo/
次回以降、新たに登場する人物もあり、物語の深度は次戦へ向けて展開していきます。
Xでの取材記録も増えていくかと思いますので補完コラム
『なぜなにイグナクト』
https://ncode.syosetu.com/n0144mo/
と合わせてご覧いただけると幸いです。
■Xアカウント■
【下駄のイグナクト】
(取材/ロケ/備忘録)
https://x.com/getanoignact




