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48/63

《千層砂漠バーガー》

世界線コード:MUMI3200BC

分類:逆封印型・外部侵食による段階的現実置換崩壊

危険度:回収済

備考:この世界線の住民は「封印を解いた」と信じていた。

   実際には「封印の中に入った」のだった。

   その違いに気づいた者は、この世界線に一人もいなかった。





◆記録一 考古学者イネスの発掘日誌 十月三日


今日、砂の下から扉が出た。


扉と言っても、ドアの形をしていない。


縦三メートル、横二メートルの石板だ。表面に文字が刻まれている。解読できていない文字だ。でも、石板の中央に直径三十センチの円形のくぼみがあって、そのくぼみの形が——どう見ても、バーガーの断面図だった。


上の半円がバンズ。中央の層がパティとレタスとチーズ。下の半円がバンズ。


「バーガーが描いてある」と助手のルカが言った。


「そうだな」と私は言った。


「古代の壁画にバーガーが描かれているのは珍しいですか」とルカが聞いた。


「この地域で農耕が始まったのは五千年前だ」と私は言った。「肉を挟んだパンという食文化は三千年前でも確認されていない。この石板が本物なら——」


「本物なら」


「五千年前の人間が、バーガーを知っていたことになる」


ルカが石板を触った。


くぼみに指を入れた。


くぼみが光った。


赤いにおいがした——血ではなく、肉汁のにおいだった。焼けた肉のにおいが、砂漠の乾いた空気の中に一瞬広がって、消えた。


石板が動いた。


内側に向かって、ゆっくりと開いた。




◆記録二 施設観測ログ MUMI世界線 十月三日



【観測記録01:封印解除の確認】


外部観測者注記(MUMI世界線の背景情報):


 この世界線において、当該石板は紀元前三二〇〇年に設置された。

 設置者の記録は存在しない。

 石板の文字の意味は現在も未解読だが、

 外部観測によれば、その内容は以下の一文のみである。


 「ここから先は外側です」


 石板の内部に存在するもの:

  空間:縦五メートル、横八メートル、高さ四メートルの石室

  石室の中央:台座の上に置かれた物体 一個

  物体の外見:直径二十センチの球体。表面は乾燥した茶色の有機物で覆われている

  においの記録(外部観測センサーによる):

   「五千年分の乾燥した肉のにおい。水分が完全に抜けている。

    でも、中にまだ何かある」


 この石室は「封印の内部」ではない。

 石室は「外側」である。

 石板の向こうが「内側」だった。


 イネスたちは内側から外側に出たのではなく、

 外側から内側に入った。


この段階での世界線崩壊確率:0.0002%。

継続監視。





◆記録三 イネスの発掘日誌 十月四日


石室の中に入った。


中央の台座に、球体があった。


近づいた。


においを嗅いだ。


焼いた肉のにおいがした。五千年分の時間が乾燥させた何かのにおい。


「バーガーですか」とルカが言った。


「形状はそうだが」と私は言った。「材質が違う。有機物だが——何の有機物かわからない。バンズに相当する部分が石化していて、中の層は——」


剥がしてみた。


一層目:乾燥した薄い膜(野菜の可能性)


二層目:赤みがかった固形物(肉の可能性)


三層目:黄色の結晶化した物質(ソース類の可能性)


四層目:また乾燥した薄い膜


五層目:また赤みがかった固形物


「層が続いています」とルカが言った。


「ああ」と私は言った。「何層あるか確認してほしい」


ルカが数えた。


「……百二十七層あります」


五千年前のバーガーが、百二十七層の具材を持っていた。




◆記録四 発掘チーム全体報告書 十月十七日



石室内部の調査結果:


■発見物一覧


 壁面の文字:

  石室の全四壁面に、石板と同じ文字が刻まれている。

  一部の文字は異なる色の顔料で上書きされている。

  上書きされた文字の意味は不明だが、

  上書きを行った者が「石板を設置した者」と同一かどうかも不明。


 床面の痕跡:

  床に、複数の人間の足跡が残っている。

  足跡は台座に向かうものと、台座から石板の方向に向かうものがある。

  石板に向かう足跡は、石板の手前で消えている。

  (石板は閉じていた——では、その人間はどこに行ったか)


 台座の下:

  台座の下に、記録媒体が埋められていた。

  粘土板に刻まれた文字だ。

  解読を試みた。

  一行だけ読めた。


 読めた一行:

  「戻り方は、食べることです」


■球体(仮称:封印物)の分析


 炭素年代測定:紀元前三一五〇年頃のもの

 有機物の種類:小麦粉・牛肉・野菜・油脂・複数の香辛料

 保存状態:外観は乾燥しているが、内部の有機物の腐敗が確認されない

      (五千年以上、腐敗していない)


 腐敗していない理由:現時点では不明





◆記録五 施設観測ログ MUMI世界線 十一月一日



【観測記録08:第一の変化の確認】


観測時刻:十一月一日


変化の内容:


 発掘チームが球体を研究施設に持ち帰った後、

 発掘現場の周囲の砂漠で、以下の変化が起きた。


 変化01:

  石室があった場所の半径三十メートルの砂が、変色した。

  赤みがかった茶色に変わった。

  においの記録:「焼けた肉のにおい。地面からする」


 変化02:

  変色した砂の中から、小さな物体が複数出てきた。

  大きさ:直径三センチ前後。

  形状:球形。

  材質:有機物(焼いた肉と小麦粉)。


 変化03:

  物体は移動した。

  移動方向:研究施設の方向。


 外部観測者注記:

  物体は移動していない。

  地面の砂が動いており、物体を運んでいる。

  砂そのものが、研究施設の方向に流れている。


この段階での世界線崩壊確率:3.2%。

要注意フラグ更新。





◆記録六 イネスの発掘日誌 十一月三日


砂が動いている。


研究施設の窓から見ると、砂漠の砂が一定の方向に流れているのがわかる。流れの速度は遅い——一時間に数センチ程度。でも確実に動いている。


ルカに言ったら「砂嵐の前兆では」と言った。


「砂嵐は全方向に動く」と私は言った。「これは一方向だ」


「では風か」


「風はない」と私は言った。


二人で砂の流れを観察した。


流れの先端に、何かあった。


小さな塊だった。


三センチほどの、丸い、茶色い塊。


手に取った。


においを嗅いだ。


焼いた肉のにおいがした。五千年分乾いた、でも確かに肉のにおい。


「これは」とルカが言った。


「バーガーの一部だ」と私は言った。「台座にあったものと同じにおいがする」


「台座のものは施設にあります。なぜここに」


「産んだんだと思う」と私は言った。


ルカが黙った。


「五千年前のバーガーが」と私は続けた。「子供を産んだ」




◆記録七 施設観測ログ MUMI世界線 十二月二十日



【観測記録15:収容違反・第一段階の宣言】


観測期間:十一月〜十二月

対象:発掘現場周辺および隣接する都市部


確認された変化:


 変化01(規模:発掘現場周辺):

  石室があった場所の半径が、毎日拡大している。

  十一月一日:半径三十メートル

  十一月三十日:半径四百メートル

  十二月二十日:半径二・一キロメートル

 

 変化した砂漠の性質:

  砂の色が赤茶色(肉の乾燥色)に変化

  砂のにおい:焼けた肉脂のにおい

  砂の粒子の形状:通常の砂とは異なる。

          電子顕微鏡で確認したところ、

          粒子の形が「バーガーの断面」の形をしていた。


 変化02(規模:都市部への侵入):

  十二月一日以降、都市部の建物の壁面に変色が発生。

  壁の石材が、砂と同じ赤茶色に変わっている。

  変色した壁のにおい:同じく焼けた肉脂のにおい。

 

 住民の反応:

  「壁の色が変わっている」と気づいた住民:複数。

  「壁のにおいがする」と気づいた住民:複数。

  しかし、誰も「異常だ」とは言っていない。

  「壁がバーガーのにおいになった」という事実に対して、

  住民は「不思議だ」とは思っているが「怖い」とは思っていない。


 外部観測者注記:

  住民が「怖い」と思わない理由が判明した。

  封印物(球体)が開かれた時点から、

  この世界線の住民の「恐怖の閾値」が変化している。

  具体的には:「バーガーに関する現象」への恐怖反応が消えている。

  バーガーが産卵しても、砂がバーガーのにおいになっても、

  住民はそれを「変だ」とは感じない。


この段階での世界線崩壊確率:28.4%。

緊急フラグに更新。





◆記録八 イネスの発掘日誌 一月七日


台座のバーガー(球体)が、また産卵した。


今度は石室の中ではなく、研究施設の自分の机の上で、だ。


昨日まで机の上にあった台座のバーガーの横に、今朝来たら三センチの塊が十二個並んでいた。夜中に産んだ。


「どうしましょう」とルカが言った。


「記録する」と私は言った。


記録した。


十二個の塊のうち、六個は静止していた。六個は動いていた。


動いている六個を観察した。


机の端まで行って、落ちた。


床に落ちた後、また動き始めた。


施設の出口の方に向かって動いていた。


「追いますか」とルカが言った。


「追う」と私は言った。


施設の外に出たところで、見失った。


砂漠の砂の中に——砂と同じ色だから——溶け込んだ。


「どこに行きましたか」とルカが言った。


「砂になった、と思う」と私は言った。「あの砂が、あいつらだ」


ルカが砂漠を見た。


砂漠全体が、ゆっくり動いていた。




◆記録九 施設観測ログ MUMI世界線 二月十四日



【観測記録22:封印の構造に関する外部分析】


この段階で、外部観測が石板の文字を解読することに成功した。


石板の文字(全文):


「ここから先は外側です。


 この石を開けた者に告げる。

 あなたは今、内側から外側に出てきた存在ではない。

 外側から内側に入ってきた存在である。


 内側にいた者は、すでに外に出た。

 外に出る方法は、食べることだった。

 彼らは全員、食べることで外に出た。


 あなたが今手にしているものは、

 彼らが外に出た後に残した殻である。

 殻の中には、彼らの記録が残っている。

 記録は、あなたの世界に広がる。


 止める方法はない。

 なぜなら、これはすでに起きていることだから」


分析:


 「彼ら」の正体は不明。

 「外に出る方法は食べること」という記述の意味:

  五千年前に石室の内部にいた者たちが、

  球体(封印物)を食べることで「石室の外」——つまりこの世界線に——出た。

  球体は「出口」だった。

  出た者たちは現在、この世界線に存在している。


 どこに存在しているか:砂の中。

 砂のにおい(焼けた肉脂):それが彼らの存在。

 砂が拡大している:彼らが広がっている。


この段階での世界線崩壊確率:61.7%。





◆記録十 イネスの発掘日誌 三月二日


夢を見た。


砂漠にいた。でも砂漠が違った。砂が赤茶色で、足元がぬかるんでいた。踏むたびに肉汁のような液体が染み出した。


前に誰かがいた。


顔がなかった。形はあった。人間の形だが、材質が違った。全身が焼けた肉と小麦粉でできていた。


「あなたは解読した」と声が来た。声に方向がなかった。砂漠全体から来ていた。「石板の文字を」


「した」と夢の中で私は言った。


「では知っている」と声が言った。「私たちがどこにいるかを」


「砂の中にいる」と私は言った。


「そうだ。五千年前に、私たちは内側から外に出た。食べることで出た。私たちの殻が台座に残った。あなたが来て、台座を持ち帰って——」


「あなたたちは増えた」と私は言った。


「増えたのではない」と声は言った。「戻っただけだ。元の数に」


「元の数とは」


声が少し間を置いた。


「この世界の砂の数だ」


夢から覚めた。


窓の外を見た。


施設の外壁が、赤茶色に変色していた。




◆記録十一 施設観測ログ MUMI世界線 三月二十九日



【観測記録31:収容違反・第二段階の宣言】


三月の状況:


状況01:

 変色の範囲が都市全体に及んだ。

 都市内の全ての建物の壁面、道路、樹木の表面が赤茶色に変化。

 都市全体のにおい:焼けた肉脂のにおい。


 住民の反応:

  「最近なんかいいにおいがする」という声が多数。

  「壁の色が変わった」と気づいている住民は多い。

  しかし「怖い」と感じている住民は、現時点で三名のみ。


状況02:

 都市の飲食店で、異常が報告された。

 複数の飲食店で「注文していない料理が出てくる」という苦情が相次いだ。

 出てきた料理:全て「赤茶色の肉料理」。

 においの記録:封印物と同じ。

 

 飲食店のオーナーへの聞き取り:

 「なぜかキッチンにあった。誰も作っていない。でも食べたら美味しかった」


状況03(最重要):

 飲食店で「注文していない料理」を食べた客の報告。


 報告01:「夢を見た。砂漠にいた。誰かに何かを言われた気がするが覚えていない」

 報告02:「翌朝、砂漠の夢を見た。声がした。「外に出る準備ができた」と言われた」

 報告03:「夢の中で、砂になりたいと思った。起きたら普通だったが——少し残っている」


外部観測者注記:

 「少し残っている」という感覚の正体:

  食べた者の恐怖の閾値がさらに下がっている。

  「砂になること」への抵抗感が減少している。


この段階での世界線崩壊確率:79.1%。





◆記録十二 イネスの発掘日誌 四月十四日


ルカが消えた。


正確には、昨日まで施設にいたルカが、今朝来たら部屋にいなかった。


荷物はある。着替えもある。財布も鍵もある。


ただ、ルカがいない。


施設の外に出た。


砂漠を見た。


砂漠の砂が、昨日より赤茶色が濃い。


砂の表面に、人間の足跡があった。


足跡はルカのものだった(サイズが合う)。


足跡は砂漠の奥に向かって続いていた。


追いかけた。


足跡は五十メートル先で消えていた。


消えた場所の砂を触った。


温かかった。


焼けた肉のにおいがした。


「ルカ」と私は言った。


砂が少し動いた。


返事ではなかったかもしれない。でも、動いた。




◆記録十三 施設観測ログ MUMI世界線 五月三日



【観測記録38:崩壊加速の記録】


四月の変化:


変化01:

 都市の住民が自発的に砂漠に向かい始めた。

 目的を持った移動ではなく——「歩き出して、止まらなくなった」という記録が複数。

 都市内の病院への相談:「気づいたら砂漠にいた。でも怖くなかった」

 

変化02:

 砂漠に向かった住民の帰還率:

  四月一日〜十五日:八十七%が帰還

  四月十六日〜三十日:四十二%が帰還

  五月一日〜三日:八%が帰還


変化03:

 帰還した住民の証言:

  「砂漠に入ったら、砂がきれいだと思った」

  「砂の中に入りたいと思ったが、踏みとどまった」

  「次は入ると思う」


帰還しなかった住民の状況:

 遺体は発見されていない。

 所持品は砂漠の入り口付近に残っていることが多い。

 (靴、眼鏡、時計——体に密着していないものが残る)


外部観測者注記:

 帰還しなかった住民は「砂になった」と判断する。

 ただし、これは「死」ではない。

 石板の文字の記述通り、「外に出た」状態である。

 「内側」(この世界線)から「外側」(砂の世界)に出た。

 彼らは今、砂として存在している。

 砂として存在することを——苦しんでいない。


この段階での世界線崩壊確率:91.3%。





◆記録十四 イネスの最後の手記


台座のバーガー(球体)を、今日食べた。


理由を説明する。


四月から五月にかけて、施設に残った人間は私だけになった。


ルカが消えた。他の発掘チームのメンバーが砂漠に向かって戻らなかった。施設の外を見ると、砂漠の範囲が毎日広がっていた。都市の建物は赤茶色に変色して、でも崩れていない。ただ変色している。


私は一人で記録を続けた。


二週間、一人で記録した。


五月三日の夜、夢を見た。


砂漠の夢だった。いつもと違うのは——ルカがいた。


ルカは砂だった。形はなかった。でも「ルカだ」とわかった。なぜかはわからない。


「戻ってきますか」と私は聞いた。


「戻る場所がない」とルカは言った。砂漠全体から声が来た。「ここが今、私のいる場所だ」


「苦しいですか」


「苦しくない」とルカは言った。「ただ、広い」


「広い」


「前は体が小さかった。今は砂漠全部が私だ」


夢から覚めた。


窓の外を見た。


施設の外壁が完全に赤茶色になっていた。


床を見た。


床にも、赤茶色の粒子が積もり始めていた。


台座のバーガーを見た。


五千年分の時間が乾燥させた、百二十七層の具材を持つ球体。


「戻り方は、食べることです」と粘土板に書いてあった。


私はそれを読んだ時、「戻る」というのは「石室に戻る」意味だと思っていた。


でも違った。


「外に戻る」だった。


五千年前に石室にいた存在たちは、「食べることで外に出た」。


「外」というのは——砂漠。つまり、この世界線。


今、その存在たちがまた「外に出る」手伝いをしている。


この世界線の住民を「食べさせて」、外に出させている。


外とは——砂漠の外。


砂漠の外が——どこか。


私には、まだわからない。


でも、ルカは「広い」と言った。


「前は体が小さかった。今は砂漠全部が私だ」と言った。


苦しくない、と言った。


私は台座のバーガーを手に取った。


においを嗅いだ。


五千年前の肉のにおいがした。乾いていた。でも確かに肉だった。


食べた。




◆記録十五 施設観測ログ MUMI世界線 最終記録



【観測記録45:最終圧縮プロセスの記録】


五月四日から七日にかけて起きたことを記録する。


五月四日:

 イネスが台座のバーガーを摂食した。

 摂食直後、イネスの位置情報が消えた。

 施設のカメラには、イネスが砂に変化する過程が映っていた。

 所要時間:十七秒。

 最後の映像:イネスが窓の外を見ていた。

       表情:微笑んでいた(かどうか判定困難。でも、歪んでいなかった)。


五月五日:

 都市部の人口がゼロになった。

 建物は残った。赤茶色に変色したまま残った。

 街路に、靴と眼鏡と時計が散らばっていた。

 砂漠は都市全体を覆っていた。


五月六日:

 砂漠が国全体を覆い始めた。

 大陸規模への拡大を確認。


五月七日 12:33:

 地球全体が砂に覆われた。

 すべての建物が赤茶色に変色した。

 大気にはかすかに焼けた肉脂のにおいが混じっていた。

 

 地球の砂漠のにおいを外部センサーで分析した結果:

 「五千年分の乾燥した肉のにおい。水分が完全に抜けている。

  でも、中に何かある。——嬉しそうなにおい。

              広い、と思っているにおいがする」

 

五月七日 14:02:

 最終圧縮開始。

 

 この世界線の全質量・全記録・全「砂になった住民」が収束した。

 

 最後まで記録に残ったのは、壁面に刻まれた文字だった。

 石板の文字と同じ文字列が、地球全体の岩壁に現れた。

 

 「ここから先は外側です」

 

 地球全体が——石板になった。

 

14:17 圧縮完了。

MUMI3200BCとして収容する。





◆付録 回収後の記録 世達の業務ノート



担当:世達

案件番号:MUMI3200BC

回収後重量:四百三十一グラム

標準バーガーの平均重量との差異:+295グラム

(観測史上最大重量。前回最大との差:+120グラム)


においの記録(流焔による判定):

「乾いてる。すごく乾いてる。

 でも——嬉しいにおいがする。

 中に何か入ってる。入ってて、広いと思ってる。

 怖くない。苦しくない。ただ、広い。

 ……なんかこれ、中の人が増えすぎて

 バーガーになっちゃったんじゃなくて、

 バーガーに入りたくて入ってる感じがする」


重量が最大級である理由(確定):

 この世界線では住民が「砂になった」のではなく

 「球体(封印物)に戻った」。

 五千年前に球体から「出た」存在たちが、

 住民という形で五千年間この世界線に存在し、

 最終的に「球体に帰った」。

 帰った存在の質量が、このバーガーに全部含まれている。


死因の分析:

 この世界線の「死因」は「封印を解いたこと」ではなかった。

 

 封印を解いた時点で、すでに封印の外にいた。

 

 イネスたちが「中から外に出た」と思っていたものが、

 実際は「外から中に入った」ものだった。

 

 死因:「内側と外側を逆に理解したこと」

 

 より正確には——

 「内側と外側を逆に理解していても、結果は同じだった」こと。

 

 どちらから入っても、どちらから出ても、

 最終的に全員が「球体の中」に戻った。

 

 封印は最初から、外側にあったのではなく——

 この世界線全体が、封印の内側だった。


流焔の追記(口頭):

 「でも、嬉しそうだからいいんじゃないか」

 「……」

 「そういう問題じゃないですけど」

 「そうかなー」


処理:千姿による摂取を提案する。


残業代申請中。

重量超過分の追加業務費用も引き続き申請中。

前回との差額分はいつ支払われますか。


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