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10/21

《ハンバーガーモドキタケ》


——世界線FPΩ∅:完食記録——




◆ 第一層 発見


 植物学者がフィールドノートに書いた。




> 野外観察記録:FP001

> 場所:廃棄処分されたファストフード店舗裏手

>

> バーガーの形をしたキノコを発見。

> 直径十一センチ。茶色と白。焼いた肉に似たにおい。

>

> 最初、誰かが捨てたバーガーだと思った。

> 拾おうとして、菌糸が地面に根を張っているのに気づいた。

>

> キノコだった。

> バーガーの形をした、キノコだった。




 研究室での解析——外皮はバンズに似た弾力を持つ菌類組織。内部のスポンジ状菌糸体はパティに酷似。黄色い粘液層はチーズの断面と見分けがつかない。


 植物学者はレポートの結論欄に書いた。


「収斂進化の極端な例。研究価値あり」


 誰も警戒しなかった。




◆ 第二層 研究


▼ 三週間後




> 個人日誌:三週目

>

> 標本が増えた。赤い胞子を飛ばした。

> ケチャップみたいな色だった。うっかり吸い込んだ。

>

> その夜、バーガーを食べる夢を見た。

> 美味しかった。

>

> 翌朝、バーガーが食べたくなって店に行った。

> 特に気にしていなかった。




▼ 六週間後


 同僚が廊下で言った。「なんかバーガー食べたいな」


 植物学者は同僚の耳の後ろに、小さな白いものがついているのを見た。


 菌糸だった。


 言おうとして——言わなかった。


 なぜ言わなかったか、後で思い出せなかった。




◆ 第三層 拡散


▼ 三ヶ月後


 街のあちこちでバーガーモドキタケが目撃された。


 公園のベンチ下、地下鉄の線路沿い、マンションの植え込み。湿った暗い場所に、群生していた。


 SNSに投稿された。


「バーガーの形のキノコwww」


 バズった。食べた人間が出た。




> 食レポ投稿(拡散数:230,000)

>

> 「食べてみた。普通にバーガーの味がする。

> でも食べた後、世界がちょっとキラキラして見えた。悪くない」




 闇市場に出た。「幻覚トリップバーガー」として高額取引された。


 街の人間の食欲が変わり始めた——無性に、バーガーが食べたくなる人間が増えた。




▼ 八ヶ月後


 バーガーモドキタケの進化個体が確認された。


 通常個体より擬態精度が高かった。包装紙があった。白い、折り目まで正確な包みがあった。


 研究員がそれを見た時、最初の三秒間、本物のバーガーだと思った。四秒目に気づいた——包みが脈動していた。かすかに、呼吸するように。




> 緊急報告:FP進化体確認

>

> バーガーモドキタケは「においの放出制御」を獲得。

> 空腹時の人間を引き寄せる匂いを、状況に応じて調整して放出している。

>

> 問題は——

> バーガーモドキタケが群生している区画の研究員全員が、

> 昼食に外のバーガーショップへ行っていることだ。

>

> 「外の」バーガーを食べていた。

> まだ、外の、バーガーを。




◆ 第四層 進化


▼ 一年後


 廃墟化した都市の外縁部で、異常が報告された。


 調査員が向かった。


 報告書を読んだ研究員は、最初、意味がわからなかった。




> 現地調査報告:FPΩ44

>

> 廃棄されたショッピングモール跡地に、

> マクドナルドの店舗が出現している。

>

> 一見、完全に普通のマクドナルドだ。

> 黄金の「M」マーク。赤と黄の看板。ガラス張りの外壁。

> 「99セントバーガー」「期間限定無料バーガー」の広告。

>

> ただし——

> この場所にマクドナルドが存在した記録はない。

> 昨日まで更地だった。

>

> 遠目には完全に本物だ。

> 近づくと、違和感がある。

>

> 建物が、かすかに脈動している。




▼ 調査員の記録(現地から)




> 近くで見た。

>

> 「M」マークが微かに発光していた。

> 看板の文字が、不自然に揺らいでいた。

> よく見ると、看板全体が菌糸の網目でできていた。

> 文字が脈動していた。

>

> ガラスの向こうに、店員が見えた。

> 笑顔だった。赤と黄の制服だった。

> よく見ると——顔が、異様に膨らんでいた。

> 皮膚の一部がキノコ状に変質していた。

>

> でも笑顔だった。

> ちゃんと笑顔だった。

>

> ドアが、自動で開いた。




> 中に入った。

>

> 床が、わずかに動いた。呼吸するように。

> 壁も、動いていた。

>

> においがした。

> バーガーのにおいがした。

> 美味しそうだった。

>

> カウンターの奥で、店員が言った。

> 「いらっしゃいませ」

> 声は正常だった。

> 普通の声だった。

>

> カウンターの奥、一番暗い場所に、何かがあった。

> 大きかった。

> ネバネバした液体に包まれていた。

> 暗闇の中で、わずかに動いていた。

>

> 私は注文した。

>

> なぜ注文したか、後で思い出せなかった。




> 調査報告書の末尾より

>

> 無料セットを受け取った。

> 食べた。

> 美味しかった。

>

> 今、店内にいる。

>

> 外に出ようとしたが、出なかった。

> 出る必要を感じなかった。

>

> 店員さんが笑顔で「またどうぞ」と言った。

>

> 私は制服を渡された。

> 赤と黄の制服を。

>

> 着た。

>

> なぜ着たか——




 報告書はここで途切れている。




◆ 第五層 充満


▼ 一年半後


 マクドナルドモドキタケの店舗が、都市部に増殖した。


 一つの店舗が成立すると、周囲の建物に菌糸が広がった。隣のビル、向かいのコンビニ、道路を挟んだ駐車場——全てが侵食された。一週間で一ブロック。一ヶ月で一区画。三ヶ月でショッピングモール一棟が「マクドナルドモドキタケのモール」に変わった。


 外から見ると、普通のショッピングモールだった。


 中に入ると、全ての店舗がマクドナルドだった。


 それぞれの店舗で、店員が笑顔で立っていた。




> 都市調査記録:FPΩ67

>

> 菌糸ネットワークが都市の地下全体に広がっている。

>

> 各店舗は独立していない。

> 全店舗が地下菌糸で繋がっており、

> 一つの巨大な生命体の「出口」として機能している。

>

> 店員として機能している人間の数:推定三千人。

> 全員の体内に菌糸が確認される。

> 全員が健康だ。

> 全員が笑顔だ。

>

> 「君もマクドナルドの一部になれる」

> ——メニューの文字が変化していたという報告があるが、

> 確認した研究員は現在、店員として勤務中のため、

> 証言を取ることができない。




▼ 二年後


 本物のマクドナルドとの区別が、都市住民の間でつかなくなった。


 理由——味が同じだったから。サービスが同じだったから。笑顔が同じだったから。


 食べた後の満足感も、同じだったから。


 区別する必要がなかった。


 区別する必要がないと思った人間の耳の後ろに、小さな白いものが生えた。


 菌糸だった。




▼ 三年後


 都市の全てのファストフード店が、マクドナルドモドキタケに置き換わった。


 気づかなかった人間がほとんどだった。


 気づいた人間も、翌日には気にしなくなっていた。




> 最終報告:FPΩ∅

>

> 本世界線において、「マクドナルドで食べる」という行為の定義が変化した。

>

> 以前:人間が食材由来の食品を摂取する。

>

> 現在:人間が菌類ネットワークの末端から栄養を受け取り、

> 同時に菌類ネットワークの一部として機能し始める。

>

> どちらが「食べている」かは、現在判断不能だ。

>

> 都市住民の九十二パーセントに菌糸が確認された。

> 全員が健康だ。

> 全員が、笑顔だ。

>

> ——報告者(署名欄の下に、小さな菌糸の痕跡がある)

> (追記:制服が届いた。赤と黄色だった。サイズが合っていた)




◆ 第六層 回収の問題


 バーディが来た。


 街を歩いた。


 至るところにマクドナルドがあった。どの店も明るかった。どの店も笑顔の店員がいた。どの店からも、バーガーのいいにおいがした。


 バーディはプレスをかけようとして、止まった。


 「完食」の条件を確認した。


 条件:世界線の生命体が全滅すること。


 この世界線は全滅していなかった。


 生命体は元気だった。全員が笑顔で、バーガーを食べ続けていた。


 バーディはもう一つ確認した——「何が何を食べているか」。


 判断できなかった。


 一軒の店の前で、立ち止まった。


 自動ドアが開いた。


 においがした。


 バーガーのにおいがした。


 美味しそうだった。




> 回収記録:FPΩ∅

>

> 本世界線の回収は判断保留。

>

> 理由:「完食」の主体が不明。

>

> 担当:バーディ

>

> 備考:街を歩いている間、バーガーのにおいがした。

>   一軒の店に、自動ドアが開いた。

>   入らなかった。

>

>   入らなかった。

>

>   たぶん。




◆ 補遺


 この記録を読んでいるあなたへ。


 最後にいつマクドナルドで食べたか、思い出してほしい。


 店員が笑顔だったか。


 笑顔が、自然だったか。


 顔が、膨らんでいなかったか。


 皮膚が、キノコ状になっていなかったか。


 確認しなかったなら——


 美味しかったなら、まあ、大丈夫だ。


 耳の後ろを触ってほしい。


 何もなければ、大丈夫だ。


 何かついていても——


 笑顔でいられるなら、大丈夫だ。


 笑顔は、ちゃんと伝染する。




〔世界線FPΩ∅ 完食……判断保留記録——了〕

〔本バーガーはパンデモニウム店頭には並んでいません〕

〔ただしあなたの街の、どこかの店舗に〕

〔I'm lovin' it.〕


「ハンガーガーモドキタケ(Fungus pseudo-hamburgensis)」は、変異菌類の一種であり、ハンバーガーに擬態する異様な特性を持つキノコです。廃棄されたM社店舗の裏、放射能汚染地帯、異常現象が頻発する森などに生息しています。見た目が完全にハンバーガーに擬態しているキノコで、パンのように見える部分は弾力のある外皮、パティに見える部分はスポンジ状の菌糸体、チーズに見える部分はネバネバ液を分泌する層となっています。成熟すると、ケチャップに似た赤い胞子を飛ばし、周囲に菌糸ネットワークを広げます。食べると味は普通のハンバーガーに近いですが、しばらくすると幻覚や軽度の認識災害を引き起こす可能性があります。まれに「生きたハンバーガー」のように動き回り、捕食行動をとる個体も報告されています。その異常性から、研究機関の実験対象として収容されたり、闇市場で「幻覚トリップバーガー」として高額取引される場合もあります。なお、一部の進化した個体ハンガーガードタケは擬態をさらに強化し、人間を誘い込む知性を持っていると噂されています。

全体的に奇妙なハンバーガーに見える異形のキノコでパンのような弾力のある外皮、パティに見えるスポンジ状の菌糸体、トロリとした黄色い液を分泌する層がチーズのように見え、ケチャップに見える赤い胞子が周囲に舞い、かすかに脈動しており、湿った暗い森の地面、無数の小さなキノコが群生し、どこか不気味な雰囲気をたたえます。バーガーの形状を保ちつつ、よく見ると菌類特有の繊維質が絡みついており、異世界的で不吉な気配を感じさせます。




「マクドナルドモドキタケ(Fungus clownensis macburgensis)」は、「バーガーモドキタケ」の進化系で、ついにマクドナルドの店舗そのものに擬態するレベルに到達した超巨大変異菌類です。廃墟となった都市部、放棄されたショッピングモール、異常現象の多発地域などに極稀に出現します。遠目には完全にマクドナルドの店舗にしか見えませんが、内部も含めすべてが菌糸体で構成されている異常存在です。特徴的なのは、店内の装飾や「クルー」まで忠実に再現されている点ですが、どこか不気味な違和感が漂います。特に、菌糸でできた「ロナルド・マクドナルドの像」が店内で獲物を待ち構えていることが報告されています。完全なマクドナルドの店舗を模した外観は、黄金の「M」マークも菌糸で形成されています。店の外には「99セントバーガー」や「期間限定無料バーガー」と書かれた広告が出されており、人間を誘引します。看板やメニュー表は、近くでよく見るとすべて菌糸の網目でできており、文字が脈動しています。窓ガラスの向こうには、笑顔の「クルー」たちが見えますが、動きが不自然で、実際には菌類で構成されています。ドアを開けて店内に入ると、床や壁がわずかに呼吸するように動きます。「カウンター」の奥では、ハンバーガー型の胞子体を量産しており、食べると体内に菌糸が繁殖し始めます。メニューの文字が変化し、「食べると無料」「注文すると一生無料」「君もマクドナルドの一部になれる」などと囁く幻聴が聞こえる場合があります。赤と黄色の制服を着た菌類店員が接客を行いますが、よく見ると顔が人間ではなくキノコ状の突起で覆われています。店の奥には、菌糸でできた異形の「ロナルド・マクドナルド像」が鎮座しており、時折微かに動くことがあります。「無料セット」のバーガーを食べると、体内で胞子が発芽し、48時間以内に体組織が菌類化します。治療法は発見されていません。変異した人間は次第に意思を失い、「店員」として菌糸ネットワークの一部となります。一定の時間が経過すると、新たな「マクドナルドモドキタケ」の店舗が分裂し、別の場所へ菌糸が広がっていきます。一つの店舗が成立すると、周囲の建物を侵食し、「マクドナルドモール」のような菌類都市へと拡大します。繁殖が進むと、都市全体が「マクドナルド化」し、気づいたときには全てのファストフード店が菌糸体に置き換わっている自体になります。まれに、通常のマクドナルド店舗と融合し、従業員や客が知らぬ間に菌糸ネットワークの一部になっている事例が報告されています。

全体的に都市の廃墟に突如出現した異様なマクドナルドの店舗で、一見すると普通のファストフード店ですが、よく見ると建物全体が脈動する菌糸でできており『M』マークが微かに発光し、看板の文字が不自然に揺らいでいます。ガラスの奥には笑顔の店員たちが立っているが、よく見ると顔が異様に膨らんでおり、皮膚の一部がキノコ状に変質しています。カウンターの奥には、ネバネバ液に包まれた異形のロナルド・マクドナルド像が鎮座し、暗闇の中でわずかに動きます。地面からは菌糸の根が広がり、周囲の建物を侵食し始めており、ホラーで異世界的な雰囲気を放っています。

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