9-02.デ・エスカレーション対応
秋季第一週での後輩フォローアップ・ダンジョン活動に関する反省会で、尾行に関しては様子見とした。
実際問題、狙いや背後関係がわからないと動きようがない。
たしかに、『なめられたら殺せ』は暴力集団の鉄則ではある。
だが、監視・観察にとどまっている相手を処すのは、明らかなやりすぎ。
むしろ、『殺られたから殺ってやる』の引き金になってしまう。
エスカレーションには際限がない以上、一線を越えるか実害見込みのないうちは抑制的対応という選択だ。
暴力というものは、笑顔に添えているときが一番効果的なのだから。
「気がついたのは、今回初めてなんだよね?」
「直近で探られるようなネタといえば、後輩君ちゃんの新卒採用かオークション出品?」
ユイの問いかけにマリエルが推理を重ねる。
探索者組合の汗拭きおじさん情報だと、第五層で活動する探索者はきわめて稀らしい。
だから、第五層産品である魔力が付与された武具類の出品圧を、影に日向にかけてくる。
「オク関連はありそうだな。出品者に注目した、組合からの調査の線」
「どの組合か、まで推測できる根拠はないな」
第三層を片手間にうろつける程度の実力者で、目立たない、特徴のない、何かしらの魔道具も所持かも。
条件的に、各種組合のなかでも大手でないと抱えられない人材だろうとはなるが、それ以上の手がかりがない。
「順当に考えれば我らが探索者組合だろうね」
「第四層に入ってこなかったということは、後輩さんたちの動向調査でありましょうか」
腕組みクリスの傍らには、想い人のウィスタリア。
急に話題にあがった後輩4人は身を固くする。
「気にするな。新人を加え、自分たちがどう動くのかの確認ってところなら、2~3回付き合えばいいか?」
「探索者組合からの調査、内偵なら、そんなものでしょうね」
☆
シュビっと手を挙げて、身も乗り出して、オルレアが疑念を口にする。
「ねえねえ、あのショートカットを探られてるのは?」
後輩4人共通の疑問でもあったのだろう。
ジャルマリスやフィアフの耳もピンと立っている。
ヨッシーが軽く手を振った。
「俺たちが大断崖でショートカットしてるのは、組合にはバレてるぞ、多分」
「え、そうなんですか」
アドルフ君大げさに驚いているが、各ゲート拠点で張って通過を記録すれば『通っていない』ことがわかるもん。
受付のお姉さんは普通に優秀だから、旧14号パーティが一般的な探索者よりも多めに産品を得ていることにはすぐに気づく。
それはつまり、特定階層での滞在時間が長いことを意味する。
第四層に長く滞在し、かつ途中の拠点に通過記録がない。
これでピンとこないような人材は、組合の顔、花形の受付業務など任されない。
「ダミーのほう調べてたのは知ってる」
「こないだも、ロープを掛けた痕跡があったわね」
第一層の発着場、偽装ルート向けに用意している鉄の輪に、真新しい擦り傷があったとヴィオラ。
大断崖のロープ降下は手間暇危険度のわりに見合わないと捨てられた方法ではあるが、つまり、できなくはないってことでもある。
なので、現にやっている……ぽい証拠、みたいなものをわざと残してある。
最初期に作った足場は、秘密基地拠点につながらないよう途中から破壊ずみだが、それとは別に。
横移動時に掴むためのロープ、打ち込んだままのくさびなど。
転生三人組にしてみれば、他者の都合で負担を強いられることがイヤなのだ。
最低限の偽装・攪乱工作はしておこう程度のノリである。
☆
反省会はそのままクラン運営会議にスライドした。
秋季で年度の始まりにあわせ、クラン体制のプレ運用も一段階引き上げの確認。
後輩たちは【鉄札級】として、クラン費に部屋代・食事代とあわせても年に正銀貨8枚の徴収。
第三層でも余裕で稼げる額だ。
「すぐに【青銅級】にあがると思うが、まあ、この一年はプレゼントってことで」
「あざーっす!」
三人組には土地税の支払いもあるが、組合口座から引き落とされる。
残高、金貨1枚以上を維持しとけばいいだろう感覚で特に気にしていない。
使用人関連では、まずお賃金を年額金貨1枚に。
次に、セバスの両親は家督を嫡男アルバートに譲っているので、通いから住み込みへの移行。
すでにセバス持ちの一軒屋に引っ越し済みだ。
ついでに、使用人4人では維持管理キツイと怒られてしまったが、誰でもいいという訳にもいかない。
「俺んち、クリスの両親住まないか?」
「父がまだ、職を退く気がなくてね……」
ヨッシーだけでなく、ラッドの持ち家も現状空き家。
ラッドの母親はすでに通いの使用人だが、父親は木工職人としてお仕事中。
「うちのお母さんも、針子仕事続けたいって。わたし、もう一生分のたくわえあるんだけどなあ」
続けられる限り仕事を続けたいものなのかもとユイ。
それも当然の話で、過半数の庶民って、生涯現役でないと生活費が出せないの。
「クランハウス内でよその仕事ってのは、なしだなあ」
「でありますなあ」
あくまでクラン(予定)の宿舎であり、その関係者の住まいだ。
よその仕事を続けるなら入居を認めるのはダメだろうと、クリスの原則論にウィスタリアも同意する。
ただし、セキュリティ的に、関係者を固めておきたい気持ちが転生三人組にはある。
集約を考えると、早々に家族寮建てて一軒家は潰してしまうかとラッドが言って散会になった。
☆
大断崖ショートカットに使うロイヤルサルーン(命名:ヨッシー)は、中の人が落ちないように安全重視の箱枠囲いだ。
しかし、乗り降りに高さ80cmもある手すりをまたぐ必要があり、特に降着シークエンスで展開が遅れる問題がかねて指摘されていた。
そこで、より実戦重視のエコノミックボード(命名:ヨッシー)が開発された。
要は足場板と飛行中に掴まる手すりがあればいいのだと根本から機能を再定義。
上から見るとI字型、前後と中央部にのみ手すりがあり、横向きに搭乗し片手で保持。
このとき手すりには、安全帯に結わえたフックを引っかける。カラピナはないのが残念。
理想上の最終目標は、ヘリボーン的なホイストだそうだ。
幅60cm・長さ225+15cm・手すり高80cm、もちろん砂時計はめ込みBOX付き。
最後尾のでっぱりに、追加で2人がつま先乗りできることで、定員は10人+2人。
大胆な軽量化がなされたため、【念動手】も調整を行い、最大荷重1000kgで3分稼働がMP30、6分稼働でMP35。
従来のロイヤルサルーン運航では通常用MP55だったので、かなりの負担軽減だ。
高低差400mちょいの大断崖を降下・上昇するだけなら、片道1分あればイケルイケル。余裕は十分。
なおマリエルも【念動手】を使えるようになったが、一気に大量のMPを放出することができず、いずれのサルーンも運航できない。
「だって、MP30って高等魔術階梯を超えた大魔術階梯クラスよ」
むしろマリエルは、すでに高等魔術階梯クラスの魔力放出に指先をかけているのが凄いのだ。
「えっへん」
「魔力放出量問題は他人事じゃないのよねえ」
「ですねえ」
ヴィオラとユイも悩まし顔。
ここまでは放出して大丈夫という感覚を魂で覚えるまで、ひたすらの研鑽しかない修羅道だ。
☆
尾行、監視は、納得したのか警戒バレして引いたのか、はたまたすべては誇大妄想のみせた幻であったのか。
第二週のメインメンバーでのアタックの際には感知できず、以降も確認できていない。
もやもや感を残しつつ、後輩フォローアップの第四層アタック、メインメンバーでの第五層アタックを予定通り消化。
秋季の終わりにはアドルフたちのレベルは11から13に。
収入も金貨で5枚をこえた。
「すごい、稼げてる……」
「第三層でも十分と思っていたのに……」
でも、盛大に溶けるんだ。
武器も防具も、今のままじゃ足りてないって実感があったようだし、先輩ズも金貨1枚分くらいは残しておけよと忠告するのみ。
そんな後輩たちにも、無事に【青銅級】昇格の案内があった。
「サブパーティというわけでもないようですね?」
「うちって女子が多いんだ。察して」
「あっ、はい。失礼いたしました」
受付のお姉さんは優秀なので、将来的なメインメンバーの入れ替えを予測した。
お姉さんにとっても婚期がどうこうは他人事ではない。
優秀であればあるほど結婚が遅れるという、恐ろしいジンクスも受付嬢界隈に伝わっている。
旧14号パーティにとって幸いだったのは、彼らがまだ14~15歳と半人前世代であったこと。
お姉さんのハンティング対象はもうちょっと上の世代だからね。
ともかく、メインメンバー側は、転生三人組がレベル23、ほかは24でそろい。
ヨッシーの個人倉庫、今回も容積拡大。一辺50mと、どんなビルだい状態。
3回の出撃とはいえユイとクリスが横這い。
過去の経験より、第五層の頭打ちはレベル25付近かと推測する。
オークションには12点出品。
分配は1人頭金貨13枚で端数はクラン資金行きだ。




