8-11.ガチャに挑む探索者
アクヤ・ダンジョン第五層の通称は『死者の国』。
物理攻撃の効かない魔物を倒せるならばの但し書き付きで、レベル14から行けなくもないとなっている。
聖なる光で悪霊を祓う光魔術【聖浄光】先生の出番ですと、おっかなびっくりユイの背を押し見学会に出かけ、棚ぼた事案でセバスの【光魔法かっこいいポーズ】が効いてしまった。
「やだ、レベル上がっちゃってる。もう何も怖くない」
「ここをキャンプ地とする!」
1階層違うと得られる霊格量がガツンと増えることは過去にも経験済み。
しかも第五層は一味も二味も違っていた。
経験値デバフが重いはずの転生三人組も、のっけの数時間でレベルが上がるほどの超効率!
さすがに激しいフィーバーは初回だけであったが、2回目以降も順当で、相当の背伸び狩場ということなのだろう。
「腰が、腰がぁ……」
「はい、【治癒】っと。……効いているんですかねえ?」
ユイちゃん首をかしげるが、治癒系魔術は、ただの疲労には気休めだ。
全身に光属性魔力をめぐらす【身体強化】で、疲労回復にも効果のある自己回復が使えるセバスではある。
だが、ロイヤルサルーン(命名:ヨッシー)を飛行させることを考えるとMPの無駄遣いはできない。
セバスのいろいろを犠牲に、今日も旧14号パーティは稼いで稼いで稼ぎまくるのだ。
☆
第五層のアンデッド系魔物は、すべて新顔となる。
第五層が忌避される原因となっている幽霊系は3種。
地縛霊、浮遊霊、そして悪霊。
いずれもフィジカルな実体がないため物理攻撃が効かない。
脳筋物理一直線が旗印の一般通過探索者にとって、天敵みたいな連中である。
壁などの裏からもすり抜けくるので、見通しをさえぎる遮蔽を嫌うのがこの階層。
しかし、都市遺跡ゆえに建物や塀の物理遮蔽に事欠かないのもこの階層。
第六層へのピンポンダッシュ・ロード周辺は、歴代探索者の手により腰高以上の遮蔽物は破壊されている。
逆に、物理の効く連中対策として、腰高までは遮蔽を作る努力もなされている。前線の土嚢売りに感謝しよう。
さて、ホゥンティングは出現位置から僅かの範囲しか動かないのでその名がついている。
ふらふら浮遊するのがゴースト。
ゴーストより細部がはっきりしているのがレイス。
いずれも見た目はあやふやな影で、曇天下の物陰や夜間だと視認も判別も難しい。
ゴーストタッチ/ドレインで精神をかき乱しMPをごそっと削り、足りなければ余力ではない生命力まで奪っていく、恐ろしい敵。
恐ろしいのだが……特効持ちにはおいしい。
仮にセバスが居なくとも、短時間ならユイで十分に対処できる。
ドロップ品もおいしい。
『霊布』は霊糸とよばれる霊力のこもった糸で編まれた布。
大銅貨でのお買取り。匠の手により超高級品に生まれ変わる。
ちなみに、気力も霊力も魔力もすべて生命力の一種。熱も光も運動もエネルギーの一種のようなもの。
『各属性の水晶』は、金貨1枚。
主に魔力適性鑑定に用いられる水晶で、一定確率で壊れるため常に品薄。
そして『鑑定の巻物』。
対象物に巻きつけることで鑑定結果を焼き付ける謎の皮でできた謎のスクロールだ。
『鑑定の巻物』を対象に『鑑定の巻物』で鑑定した結果が『▲●■(読解できない)の皮』で『△○□(形状も怪しい)のスクロール』なので『謎』。
買取は正銀貨1枚だが、探索者により自己消費されることも多い。
窓口のお姉さんもチラチラはすれど、それ以上は言わない。
だって、探索者が勝手に使って鑑定書にするなら、組合が銀貨払わなくてもすむじゃないですか。
前世の骨董品でありがちな、箱と中身が違います的な鑑定書詐欺は売買当事者間の問題。
例えば、探索者組合がオークションに仲介した魔法の武具と鑑定書セットで詐欺が発覚したとしても、それは出品者と落札者の間の問題です。
組合は預かったパッケージの保全には責任を持つが、それ以上は関与しない。
メンツをつぶしてくれたなと、被害者面はするけど。
目利きのできない者にオークション参加は厳しいのだ。
☆
幽霊系と違い物理の効く魔物はいずれも群れる。
ゴブリン系鬼族が素体と推測され、第四層と同様、小隊単位でパトロールをしているのかもしれない。
腐った死体ことゾンビは、移動速度は遅いものの攻撃そのものは素早く、かつ、毒霧という非常に迷惑な手段を持つ。
新顔の中では最弱だが、紙マスクを手放せない環境要因と化している。
そうでなくとも、臭い。
びちょびちゃがはねる。
見た目もグロい。
倒せば体液の類も消えるとはいえ、まともに相手したくない。
必然的に後衛組が遠間から対処するスタイルが早々に確立した。
ここではユイも戦術予備ではなく、大正義【聖浄光】先生を撃ちこむ砲台運用。
ヴィオラの風魔術もノックバック効果含め大活躍だ。闇魔術は……相性がね……。
骨骨スケさんことスケルトン系はカクカクしている。
よく見ると意外と個性があったりする。
スケさんは単純に強い。
リミッターの外れたパワー、きちんと破壊しないと分割した別々に動くなどの非生物仕種も厄介だ。
第四層と同様で、持っている武器や立ち位置でウォーリアかなとかアーチャーだとか判別している。
チーフとリーダーの区別はわからない。区別があるのかもわからない。
魔術攻撃はないのでシャーマンはいないのか、骨では魔術は使えないのか。
ゾンビおよびスケルトン系のドロップは第四層とほぼ同じものに特殊品が加わる。
ゾンビは麻痺毒が抽出できる『腐肉』を容器ごとドロップする。中銅貨2枚。
解毒剤や麻酔薬の作成に使うのとはマリエル談。なので、回収はマストだ。
そして、スケルトン系は第五層の最大の目玉である『武具』をドロップする。
魔力が付与された武具やアクセサリの類で、その性能はものによりけり。
組合では個別の値付けが難しいのでオークション推奨品となっている。
前世ゲームの過酷なレアリティ戦線を知る転生三人組にとっては、2時間狩れば1個は落ちるかなという数読みできるレアだ。
☆
第五層徘徊後の秘密基地の雰囲気は明るい。
「どきどきわくわくガチャたーいむ、はっじまるよ~」
「「「いぇーい!」」」
それにしてもこのメンバー、ノリノリである。
一人セバスだけは、全身に湿布をはって横たわっている。返事はない。ただの屍のようだ。
ちなみに「ガチャ」という言葉は、「I got you!」的な意味合いのスラングとして知られている。
多分、転生方面の諸先輩案件。
ぶっちゃけ、ドロップ武具には当たりハズレがある。
見た目からしてわかる品もある。
スリングショット風なボンテージとか、セバスが名誉会員に名を連ねている某『CLUB』な社交組織なら大当たりかもしれないけど、ダンジョン探索には使えないハズレだよね?
注目の鑑定結果は、「みなぎる」……。
「オークション行きで」
「はい」
女子組が感情の抜け落ちた声で告げれば、ラッドも異論は挟まない。
半分以上はハズレだってさ。
厳しく見ればさらに……ガチャぁ……
自分たち確保以外のハズレはどんどん放出していく方針。
「大量出品で値崩れも嫌だな」
「とりあえず、武器は予備も含めて3本、防具類・アクセサリ類も3点ずつ。これをメンバーの権利基準にしようぜ」
手元保留で出品調整しようというラッドとヨッシーの意見が通る。
誰がどれを取るかは要相談で、モノにより金銭価値に差は出るだろうが、そこは無視する。
「おカネよりも必要のあるなしでありますな」
日常生活の範囲でおカネに困ることはないはずだしね。
「おカネはともかく第五層の遭遇率、体感で第四層の半分程度なんで、ポイント変換が激減だ」
「ポイントはポイントで必要なんだよ」
第五層にはクリンチスライムがおらず、【通信販売】用ポイントの主力になっていた『偽銀塊』が手に入らない。
「ゴブ銀をある程度ポイント化して補うしかないでしょう」
「そうよねえ」
魔法の武具を供出しておけば、受付のお姉さんは何も言わない。
何を地上に持ち帰るのか。限られた運搬力を生かすも殺すも、選別眼次第。探索者の重要なテーマである。
☆
第五層でセバスがひかり輝いた夏季。
後輩たちとの交流のため、第六週と第十週以降はダンジョン活動休止。
そのうえでユイが出れる週に合わせ、第九週までに7回の第五層徘徊を行った。
各自がしがしレベルが上がり、三人組でさえレベル20の壁をあっさり越えて22に到達。
ユイとクリスが24で、ほかのメンバーが23。
ヨッシーの【個人倉庫】は、レベル17で『同期標識』というコマンド追加。
レベル19で各辺10mと、久々に収納空間が拡大した。
「『同期標識』は入出庫のゲート開く場所を特定するっぽいんだが、使い道ないぞ?」
「将来的な布石コマンドか?」
7回全部出撃した転生三人組で、金貨39枚余りの収入。これはオークション分配を含まない。
武具は総数で98点をゲット。
うち81点を暫定の各自で確保・保留品とし、17点をオークションに出品。
時系列的には後ズレするが、各品金貨10枚前後になり、手数料等を抜いて1人頭金貨19枚の分配。端数はクラン資金へ。
受付のお姉さんも、後ろに控えていた幹部さんも、パーティ担当の汗かきおじさんも、みなが幸せな笑顔に包まれた夏季であった。




