8-10.ひかり輝く探索者
夏至祭週を迎え、転生発覚から5年目に入る。
後輩第一陣のアドルフたちは、卒院に伴って一緒に組んでいたパーティメンバーとはお別れになる。
「官吏科さんは役場に内定だって」
「魔術科さんは迷ってるけど、今からでも衛視隊って行ける?」
わかんないのでわかんないと返す。
それだけだとなんなので、元マックス・パーティで現在衛視隊にいるリラ嬢とベルナルド、ゴートに宛てた紹介状を作成。
ついでに季節のご挨拶で訪ねるというていで、紹介先の当人たちにも伝えておく。
「面倒見がいいわねえ」
「そうか?」
アドルフ、フィアフ、オルレア、ジャルマリスの4人は転生三人組たちに合流予定。
クランハウスがあるため、卒院後の部屋探しに走らなくていいのも気楽なのだろう。
第二陣のジョゼフたちや、ようやく1年が過ぎるといった感じの第三陣の2人ともども、屋台巡りを楽しんでいた。
なお来年度は、養護院からは1人、拡大マルク工房コミュニティからは2人が探索科に行く予定となっている。
拡大しちゃったのはマルク親方のせい。
クランハウス建設に関わった大工のマルドゥーク親方や左官のマーレダック親方、ついでに井戸掘り組合所属のマルチェラビュート親方に調子こいて自慢しまくったから。
もとより次男坊三男坊の行き先として探索者稼業はあった。
そこに、学院卒という輝かしいエリートロードが示されたのだ。
親心としても、跡継ぎじゃないからとただ放り出すのではない。我が子のために学費拠出、手は尽くしてやったと言い張れる。
木工・大工系職人コミュニティに、オラがとこでも学院さ人送るべ熱がじんわり浸透。でもって、学院に子供を送ったノウハウのあるマルク親方が窓口にという流れ。
輝かしい成功事例、我らが英雄、コミュニティの星、ラドクリフ・ティル・タイキャスル従士様を称えよ。
いや本当に、一代とはいえ爵位持ちがでるとか、そりゃ自慢するよね。
だからマルク親方は悪くない。多分。
☆
アクヤ・ダンジョン第五層、『死者の国』。
昼時間であっても偽の空はどんより曇りで薄暗い。
だが、都市遺跡の一角には、優しい光が満ちていた。
(アッアッアッ)
(アッ)
【光魔法かっこいいポーズ】から放たれる聖なる光がすべてを浄化する。
(アッアッアッ)
驚異の消費MP1。消耗するのは体力か、それとも心か。
(アッアッ)
まるで吸い寄せられるかのように集まり、昇天していくゴースト、ゴースト、ゴースト、たまにレイス。
(アーッ)
否、吸い寄せられているのだ。浄化の光に。
魔物とはいえそのサガは救いを求める者。聖なる光に導きを、癒やしを求めてもおかしくはない。
「……という感じでしょうか?」
「否定はできない」
ユイが首をかしげなら尋ね、ヨッシーも唸りながら返答する。
そのそばには、マルク印のトングでもって腰のビク巾着に魔石を回収していくヴィオラがいた。
「楽なのはいいけど」
(アッアッアッ)
「遮蔽あっても関係なくすり抜けてくるからなあ。だいたい半径100mは集まってる感じか?」
「そうだね。それくらいがゴーストたちの索敵圏なのかもね」
建造物の上に立ち、背中合わせに双眼鏡を手にしているのはラッドとクリス。
目立つはずのそんな二人を無視して、霊体魔物は光り輝くセバスに一直線だ。
(アッ)
リアル眼で物事を見ているわけではないことは、その姿かたちから明らかではあるが、まるで好物に引き寄せられるかのように的確にセバスを目指している。
「マリエルー、通り道になるから左によってー」
「はーい」
本隊の左手では死んだ魚のような目をしたジュスティーヌと、平静に見えるウィスタリアが護衛の任についている。
(アッアッアッ)
「待っていればいだけだから本当に楽なのに……なんなの、この胸のもやもやは」
「それは恋かもしれないぞ」
「そんなわけないでしょう!」
ヨッシーの軽口にヴィオラお姉ちゃんお怒り。
「あ、スケルトンが来たぞー」
「数6、20mほど後方にゾンビも2」
輝くセバスと最終護衛のマリエルを除き、地表組は見張り番から指示された方向に陣形を組み直す。
ジュスティーヌは少しだけ生気の戻った目で口元のマスクを引き上げた。
「ようやく出番ですね。後衛は先にゾンビをお願いします」
「スケさんカクカクしてるなあ」
(アッアーッ)
(ゥアーッ)
ゾンビの臭気と毒霧対策に、第四層に引き続き不織布マスク(箱入り50枚)が大活躍中。
(アッアッアッ)
☆
春季中で全員がレベル15になったため、夏季はじめに光魔術士ユイを頼りに第五層を覗こう計画が実行に移された。
気分まで重くなるようなどんより空のもと、恐る恐る移動する。
幽霊系には意味のない建物や壁で、見通しが遮られるのがいやらしい。
「朽ちかけの都市遺跡って雰囲気あるだろ」
「文字通りの幽霊屋敷ストリートだものな」
ラッドとヨッシーのいつものバ会話はともかく、発端は、手元が暗いから、地図を見るのに明かりが欲しいと誰かが言ったこと。
だけど、魔術の光にしろランタンにしろコストがかかる。
まあ、暗くて敵を見落としましたじゃ洒落にならないので、ケチるところではないのだが。
「しばらく動かず様子見だろ? セバス、例のアレでいいんじゃね」
「……まあ、いいですけど。【光魔法かっこいいポーズ】」
消費MP驚異の1。
かっこいいポーズを輝かす、どこか清々しい後光が周囲を照らし出す。
(ェアッ!)
「え!?」
浄化(?)されてしまうゴースト(?)さん。
地面には、『魔石(中)』と『霊布』が落ちており、倒したことは間違いないようだった。
今にして思えばゴーストではなく地縛霊だったのかもしれない。
出現位置からわずかの範囲しか動かない彼ならば、襲ってこなかったことの説明がつく。
それからは、わらわらと拠ってくる浮遊霊たちが、次々に謎の呻き(?)とドロップを残して消えていく怪現象がしばらく続いた。
その間、メンバーの行動はわりとパニック気味。
通常武器では倒せないから避けるべき。
そう評されている霊体魔物が次々と集まってくるのだから、完全に想定外の事態である。
クリス、ウィスタリアは手持ちの聖水を撒いてしまった後は空気と化し、ラッド、ヨッシーはカウンター【発勁】に成功したり失敗したり。
ジュスティーヌが実戦初の護剣術の防護障壁を張ったり。
ユイが光魔術中級階梯【聖浄光】の発動に8割失敗したり。
ヴィオラが風魔術中級階梯【暴風】を成功させてしまい、味方ごと範囲ノックバック効果を生んでしまったり。
マリエルが【見えざる手】で霊体をひっぱたいたり。
繰り広げられた泥仕合がひと段落、ご新規の霊体が寄ってこなくなってから、ゴーストタッチ・ドレインタッチ系の攻撃を受け、やや錯乱気味のメンバーに、ヴィオラが発動率を無視し、闇魔術中級階梯【精神安定】を連発してなんとか回復。
「すまない。即時撤退を指示すべきだった」
「……いえ、半端に何とかなりそうだとは、私も感じていました」
「ごめんなさい、MP使いすぎです」
なおその間、セバスはずっとかっこいいポーズで聖なる後光を放射し続けていた。
とにかくその日は第五層を逃げ出して秘密基地拠点に戻り、そして、レベルが上がっていることに気が付いた。
☆
秘密基地拠点にて、予定キャンセルで浮いた時間も使って検討を重ね、翌日改めて実験。
(アッアッアッ)
(アーッ)
「……効いてるよね?」
「効いちゃっているであります」
セバスの【光魔法かっこいいポーズ】に、おびき寄せられるように霊体が集まり、勝手に浄化(?)されていくことを確認。
周囲一帯の霊体が片付けば、あとは物理の通るゾンビかスケルトン集団だ。
順当に強いが、戦えないことはない。
もちろんゾン&スケにも【光魔法かっこいいポーズ】の聖なる光は効くので、釣りだし戦術でスリップダメージを負わせながら戦うのもアリ。
☆
そして今に至る。
「付近に霊体のかげなーし」
見張りのラッドの声にセバスは倒れこんだ。
「『栄光の剣』(命名:ジュスティーヌ)、地味に体幹にくるんだよなあ」
「次は『俺様キラリ☆彡』(命名:マリエル)ですよ!」
「待って、休ませて……」
【光魔法かっこいいポーズ】はかっこいいポーズをたもつ限り、謎の後光が輝き続ける超ハイパフォーマンス光源……だけじゃなかった恐るべき魔法!
酷使の末に、意識してポージングするだけで発動する、発動句ではなく発動モーションという、なんちゃって無詠唱技が成立してしまう。
「無詠唱って、こういうものなの……」
「違う……こうじゃない」
「諦メロン」
ヴィオラとセバスは肩を落とすが、ヨッシー、ラッドは大笑いである。
ちなみに、かっこいいポーズはみんなで考えた。
だって、待っている間って暇じゃない。
『躍動する埴輪』(命名:ヨッシー)、『ヒーロー着地』(命名:ヨッシー)、『アディオス・ダンディズム』(命名:ラッド)、『I Want You』(命名:ラッド)は、前世の影響大。
『祝福の大樹』(命名:ユイ)、『俺様キラリ☆彡』(命名:マリエル)、『栄光の剣』(命名:ジュスティーヌ)、『勝利の咆哮』(命名:ヴィオラ)は、それ、貴女方の好みですよね。
クリスとウィスタリアは、そっと目をそらした。
『躍動する埴輪』(命名:ヨッシー)、埼玉県熊谷市野原古墳出土の『踊る人々』モチーフにセクシーさをプラス
『ヒーロー着地』(命名:ヨッシー)、ヤの字っぽいやつ
『アディオス・ダンディズム』(命名:ラッド)、二本指の敬礼っぽい仕種、ニヒルに決めろ
『I Want You』(命名:ラッド)、米軍募集ポスター
『祝福の大樹』(命名:ユイ)、顔と両てのひらを天に向け頌栄賛歌を捧げましょう
『俺様キラリ☆彡』(命名:マリエル)、壁ドン
『栄光の剣』(命名:ジュスティーヌ)、剣捧げ立ち・剣柄合掌立ち
『勝利の咆哮』(命名:ヴィオラ)、いわゆるガッツポーズ




