8-09.環境を整備する探索者
春分祭週の締めを飾るのは、恒例となった誕生日おめでとうの会。
「年度中でみなさん14歳。16歳まで残り2年。うっ……」
「元気にやっていこー」
「「おー」」
頭を抱えるジュスティーヌの猶予期間は残り2年。
彼らは卒院をもって成人とみなされているが、一般に成人年齢は15歳くらい。
ジュスティーヌの父が設定した16歳という期限は、婚活リミットだぞという脅しにも解せる。
一応、年寄りの後妻だの妾だのではない、歳と爵位の近い相手を見繕ってはいたらしい。
「さんざん私のことを愛人の子だの庶子風情がなんて見下してきた人のところに嫁ぎたいですか?」
「それは、まあ……」
王都にも学院はある。
なのに、わざわざ遠く離れたアクヤまで来たのにはワケがあるってことなのだ。
「なぁに、建国王だって英雄王だって、ダンジョンで強くなったんです。力さえつければこっちのものなんです」
「それも、まあ……」
ジュスティーヌは据わった目でやられモブ的なことを口走っているが、絡まれているセバスともども、ヴィオラは生暖かい目で見守っている。
「騎士長のクソオヤジは私だけ剣を用意しないとか昔っから嫌がらせばかり。あんなのに負けたくない!」
「そっかぁ……」
女のクセに剣などいかがなされるおつもりか。とは、忠言としても慇懃無礼ではある。
雇われ騎士風情が正妻様の監視の下で、妾腹、離れ住まいの子の相手などまともにできるかと言われれば、同情の余地はある。
とはいえ、ジュスティーヌの恨みつらみが不当というものでもない。
「時には愚痴の吐き出しも必要だが、いいのか?」
「ごめん。ティナの好きにさせてあげて」
尋ねたラッドに、ヴィオラお姉ちゃん諦観の極みであった。
☆
第四層の地図はあらかたできている。
組合に提出すれば、いくばくかの報償は得られる。というか催促されている。
情報の更新と確認は、組合資料部の大切な業務なのだ。
「ま、出して困る情報じゃないだろ」
旧14号パーティにとっては、大断崖ショートカットと秘密基地に横やりが入らなければ問題ない。
第五層、そして第六層の情報も集めた。
学院時代の講義メモもあるし、改めて学院図書館で調べもした。
アクヤ・ダンジョン第五層、通称は『死者の国』。
おおよそ半径10kmの空間で、ほぼ円形の都市遺跡となっている。
偽物の空に昼夜はあるが、カラり快晴ということはないようだ。
通称の通り、出現する魔物はいわゆるアンデッド系。
ゾンビにしろスケルトンにしろ二足歩行の人型だが、ツノがある。ゴブリン系鬼族と推測されている。
ゴースト等の霊体魔物が物理障壁をすり抜けてくるため、休憩に使える拠点はない。
第四層側のゲート部屋で休んでいた探索者パーティがそう言っていた。
第五層内での第四層ゲート・第六層ゲートは、ともに建造物の中にあり、両者の場所はそれほど離れていない。
聖水撒きながら第五層をスルーして第六層へピンポンダッシュ。
格上相手におそるおそるのレベル上げが定番だそうだ。
第六層は『花園』。
おおよそ半径30kmの空間に密林が広がり、同業者情報では薬草類を集めるならココが一押しだそうだ。
同時に、第六層までこれる採取家がどれだけいるかという、笑えない笑い話でもある。
植物と昆虫・動物系の魔物が出現し、第三層で出会えなかった木の魔物トレントが雑魚という、順当に強い、そしてヤヴァイと評判の階層になる。
第五層とのゲートはマップ内の朽ちた建物に、第七層とのゲートは外周部の岩壁にある洞窟の奥に存在する。
☆
収入が一般労働者程度に安定するのが第二層から第三層。
庶民の考える富貴に手が届きだすのが第四層。
一般探索者の大多数は、このあたりで歩みを止める。
さらに深く潜るのは、通称・攻略級を目指すプロ探索者か、はたまたダンジョンに魅入られた者か。
同業者として尊敬はされるが、『特別な人』カテゴリになる。
探索者組合の内規でも、『特別な人』銀級への昇格には、第五層以降での相応の活動実績が要求されている。
各種データにおける第五層の推奨レベルは14ないし15からとなっているが、これは但し書き付き。
魔法の武具でゴースト等の霊体にダメージを与えられることが必須条件。
じゃあ、魔法の武具ってどこで手に入るのかといえば、最寄りは第五層。
第五層の魔物を倒すのに、第五層でドロップする魔法の武具がいる。
先祖伝来の宝剣持ちとか、親父がオークションで手に入れてくれたとか、そういう特別な存在ではない一般探索者にとっては詰んでいる環境が第五層。
怨嗟か諦観か。数多あるダンジョン攻略の壁の一つと称される階層だ。
「そりゃ聖水撒きながら駆け抜けるわ」
そうでなくとも、魔物は階層相応に強くなっている。
物理の効くスケルトン系も、あからさまに魔法的理屈で動く骨だけに、倒すのは骨が折れる。
いや本当に。
肉をちょっと切れば出血や内臓ダメージが期待できる生き物系と違って、骨だけって、確実に芯に当てないと壊せない。
旧14号パーティにはアンデッド特効な光魔術士のユイと、光魔法も扱えるすけこましがいる。
でも主力として運用すれば早々に息切れするわけで、切り札扱いの非常用戦力。
結局、先例に倣った第六層を目指す方針を立てていた。
ただし第六層の推奨レベルは25以上。
第五層を飛ばすと、おそろしくきつい。というかヤヴァイらしい。
情報を読むかぎり、第四層でレベル20付近まで上げてからのピンポンダッシュが安定解だ。
しかしクリスの事例から、第四層はレベル15付近で頭打ちとの感触がある。
一回ユイ頼りでアンデッドランドな第五層を覗くにしても、全員のレベルを15以上にすることとし、春季の間は第四層徘徊と修練、環境整備に注力することとした。
☆
環境整備とは、クランハウスの食器棚に前世ワンコインショップで売っていそうな陶器類やステンレス製カトラリーを並べるとか。
綿入りの敷布団をメンバーに配布して藁のベッドから卒業するとか。
転生方面の先輩に感謝な井戸の手押しポンプのところに大きな樽を用意し、配管を引っ張り、サイフォンの原理を利用してキッチンと洗い場の桶に水を引き込むとか。
つまりはそういう話である。
ラッドの【通信販売】の品ぞろえは、つい先日ホームセンター級から大手通販サイト級にランクアップ。
死後に怨霊化しかけた何者かの未練を供養するために、某漫画全巻セットをお供えすることだけが大手通販サイト級の威力ではない。
ジャンルを問わない豊富な品数がその真価と言えよう。
第四層への大断崖に作られた秘密基地でも環境整備は進められた。
人目を気にする必要がない秘密基地では、むしろ地上よりも設備を充実。
手回し充電LEDランタンやアウトドアチェアといったキャンプ用品類を配するに留まらず、DIY精神であれやこれや。
広間中央には囲炉裏。
気温の安定する洞窟内だが、若干の肌寒さと湿気が気になるからね。
壁際にセバスが【坑穴改】で上と下に適当な穴を掘り、下穴にクッション材として砂を撒いた後に柱をはめる。
柱同士を横つなぎする見様見真似のホゾ組みを、L字などの接合金物で補強。
「Foooo! やっぱり電動工具はMキタだぜ!」
無線器用ともども、充電のためのソーラーバッテリーは地上でこそこそ運用中。
柱には腰のあたりまで板を張り、壁面との間は砂と小石でうめる。
同様に砂利と砂を薄く撒いて均し、簀の子を敷き詰めることで、地面の冷気が直接上がらない床面を作った。
その床面下では崖に向かって溝と通気・排水穴を増設し、穴あけ塩ビ菅を連結して走らせる。
これは排水・排気のみならず、囲炉裏に新鮮な空気をお届けする役割も担う。
天井面は、中央部分の頂点に向けてドーム状に掘ったため、直接柱と板で押さえることが難しい。
とりあえず梁をかけてネットを張ってみた。
これらのDIY素材はラッドの【通信販売】で調達。
地上で調達できる品揃えの問題と、調達品から目的を探られても面倒という妄想的警戒心ゆえに。
「寝室もこんな感じでよろしくね」
女子方面からの強い強い要望に、またしても施工期間が延長され、完工は春季にずれ込んだ。
ついでに第五層へのゲートのある小部屋も少し拡張した。
拠点ではないが休憩場所ではあるので、すこしでも過ごしやすく。
「おっ、いいじゃんいいじゃん!」
掘り崩した土砂を麻袋に詰めているところで遭遇した探索者の諸先輩方には、土嚢をその場でお買い上げいただいたくらいに好評。
「第五層のダッシュ路脇によし、第六層ゲート周りによし。こんなんなんぼでもこうたるでぇ」
「持ってくるのは手間過ぎるが、ここで作ってるなら活用させてクレ!」
もちろん、小部屋空間の拡張自体も大歓迎されたよ。
☆
春季も6回の第四層アタックで、女子組に不参加回があるのもいつも通り。
三人組およびジュスティーヌとヴィオラがレベル15にあがり、クリスが16になった。
他のメンバーはレベル15で横這い。やはり頭打ち感がある。
収入は三人組で金貨7枚余り。
これには第四層の地図提出への報償および土嚢収入も含む。
各自、暫定クラン費として春・夏の半年分、正銀貨9枚を拠出。
この中から使用人費と消耗品代を賄った。
なお、資金プールを先行させるため、土地代等の支払いは年度開始の秋季よりとなる。




