8-08.運用を開始する探索者
クランハウスの完成に前後して、家具木工のマルク親方に金貨3枚の範囲であれこれ見繕ってもらった。
かねて準備していたのであろう大テーブルや豪華ないす、食器棚などがダイニングに運び込まれ、落成式では控室として活用された。
そのダイニングはじめ応接室、執務室といった脅しが必要なところ重点で相応な品を。
2階の個室には机とベッド、物置き棚だけで、あとは入居者がやってくれ状態。
「金貨3枚って、結構な額のはずなんだがなあ」
「応接セット、あれだけで正銀貨12枚だそうだぜ」
「お高いものは際限なくお高いんですよね」
ちなみに正銀貨16枚が金貨1枚。
モノの値段については、銅貨メインの庶民と、銀貨以上・金貨決済普通ですの富貴層とで、別の経済圏だと思えばいい。
富貴の差が激しく、一言で庶民と言っても年収金貨1枚程度は下の方。
それでも十分に生活はできる。
下を見ればキリがない。上を見ると果てしない。
転生三人組の年収は計算上金貨20枚を超えるが、それでもまだ、庶民に毛が生えた程度のおかわいい成金にすぎない。
☆
クランハウスには、転生三人組とクリスとウィスタリアにユイが移住。
マリエルは家業のポーション製作があり、ジュスティーヌとヴィオラはクランハウスから歩いて1分の自宅住まい&同居人。
「自分たちの結婚云々の次には、アドルフたち用の集合住宅も必要になるな」
「家族寮か。木戸通り沿い、売ってくれるうちに押さえちまうか?」
「稼いでも、稼いでも追いつかない。ぢっと手を見る」
労働哀歌で有名な石川啄木さん、実生活は放蕩三昧だったとも聞きますが、三人的には無駄遣いしているわけではない。
ただ単に、稼ぎが右から左へ消えていく。
ダンジョンストリートを駆け抜ける自転車操業状態なのだ。
☆
春分祭週の始まりに、内輪の完成披露パーティを開催した。
招待したのは各自の身内と半ば身内である後輩たち。
そしてマックスとオルガたち『鋼の咆哮』に、ベンジャミン兄さんたちの『静寂の鉄光』。
両パーティは転生三人組のお節介もあり、現在は合同パーティというカタチで合流中。
第四層を主戦場とし、ベン兄さんも無事に青銅級に昇格している。
アライアンス体制は存外うまくいっているらしい。
合計8人という人数的余裕に、ベン兄さんが先輩相談役ポジションに入ったことで安定感が増したという。
「目標まで稼いで嫁とって引退だ!」
「まだしばらくはお付き合い願いますよ、先輩」
名を上げたいマックスと、ほどほどでいいベン兄さんの音楽性の違いだから、いずれの別れは既定事項。
「こんなお屋敷ぶったてやがってよぉ、おまえら稼いでるなぁ?」
「稼ぎが残るわけないだろぉ」
「だよなぁ」
ヨッシーとオルガたち元養護院組が肩をたたき合いながら笑っている。
第四層直通の旧14号パーティは外れ値としても、オルガたちだって季節に金貨3枚は超えるはず。
だが、それくらい簡単に溶けるのが探索者だ。
「かねがねカネがねぇ」は彼らのあいさつ言葉のようなもの。
発言者の顔色が普通なら、前世における関西方面人の使う「ぼちぼちでんな」とほぼ同義と思っておけば間違いない。
マックスたちも第五層・第六層の情報を集めて頭を悩ませているという。
「第五層が特殊過ぎる」
「といって第六層はヤヴァイときたもんだ」
「君たちならあるいはと思ったが」
「俺たちだって結局は力押しだからなあ」
できるだけレベルを上げ、装備を固めて挑むしかない。
タイムリミットのあるジュスティーヌはあぅあぅ言っているが、焦って大けがをしては元も子もない。
転生三人組の、安全重視の姿勢は一貫して変わらない。
☆
一代騎士爵の見栄とメンツのために相応の住まいを探していたマックスは、集合住宅を一棟買いし、各部屋を貸し出す形でパーティの宿舎にしたそうだ。
「だがよう、個室って持て余さね?」
「モノが増えるとそうも言ってられないぞ」
オルガたち養護院出身者は、ずっと共同生活だったからね。
炊事・水場・トイレ共同は今世では一般的。
水と火を戸別に配するのが難しく、危険でもあるからだ。
「部屋に余裕はありますかな?」
後輩第二陣のジョゼフとカールに尋ねられ、マックスはおやという顔をした。
「私たちにはどうも、マクシミリアン様のほうが相性がよさそうな気がするのですよ」
「先輩方の言う音楽性ってヤツが、僕たち、ニヤーストラ様に似ているのかもね」
「あー、確かになあ」
マクシミリアン・シル・ニヤーストラ。
とっさにマックスのフルネームを思い出せなかったラッドも頷く。
野心家な腹黒双子は、転生三人組を操ることは諦めてマックスに取り憑こうというのだろう。
といっても、寄生と共生が似て非なるものであるように、マックスと腹黒双子の野心の共鳴が悪いとは言いにくい。
反対することでもないと、婚約者プリムローズに取り憑かれたままのラッドは判断した。
後輩第一陣、半年後には卒院予定のアドルフたちは転生三人組のクランへ取り込みが内定。
後輩第三陣の養護院からの2人はまだなんとも。
どこかの傘下に入るにせよ独立独歩にせよ、現段階ではヒヨコ未満だ。
☆
クランハウスのお披露目に続き、クラン運用体制の構築もはじめた。
クラン申請はまだだが、プレ・クラン運用を行うことで問題点を洗いだすことも目的の一つ。
まず使用人について。
クランハウスと空き家の維持、炊事・洗濯・掃除が主たる仕事となる。
検討の結果、家政科卒なセバスの母が事実上の女中頭、ラッドの母とプリムローズの母を下女枠として採用。
それぞれの旦那様の世話もあるので通いだが、泊まり込み用に2階の小部屋を1つ、使用人部屋として確保。
採用のご連絡の際、長男アルバートに家督を譲り職から退いたセバスの父もこっちを見ていた。
40過ぎたらいつ死んでもおかしくない時代だが、しれっと80、90まで生きる人もいる。
親の面倒を見るのは跡継ぎ嫡男の役割ではあるのだが、単純な稼ぎ頭でいえばセバスになってしまい、現に人手が必要。
男手ということで、外回り庭いじりを主たる仕事として下男枠で採用。
書類仕事は大した量もないうえに金勘定メインになるので、セバスの親といえど任せるわけにはいかない。
4人ともに、まずは季ごとに正銀貨2枚でお願いした。
雇用賃としては渋々だが、そこまでガチガチの仕事量ではないパートタイムかつ身内ということで。
身内枠で言えば、下級官吏用宿舎ご夫人会仲間のクリスの母もこっちを見ている気がするが、増員候補ということで。
ユイのお母さんはお針子仕事があり、代替できるだけの収入をまだ提示できないので、今回は見送りとなっている。
執事枠にはクリスが入るが、お賃金はない。
転生三人組と同様に、クリスもお賃金を出す側であり、雇われ使用人ではないというねじれ構造になっている。
ウィスタリアはジュスティーヌの侍女なので、クラン運営とは別の枠。
☆
「人員まわりは以上。年度は学院に合わせ秋からで、そこまでの半年間のプレ運用だ」
ダイニングでお誕生日席に陣取るラッドに対し、皆頷く。
今回はパーティメンバーのみの会議、ダイニングでの開催となっている。
「大前提として俺たちは、素人を一から育てるクランではない」
「英雄級、レベル100を達成するための人材確保と育成は必要ですが、秘密をどこまで開示できるのか」
パーティ内には、限定的にだが転生三人組の情報を開示されている。
では、アドルフたちにはどうするか。その先は。
「外向きに、ヨッシーの【個人倉庫】は偽装魔法鞄で通すが、自分の【通信販売】は漏れたら終わりだ」
知る人が増えるほどに、秘密は秘密でなくなっていく。
「秘密を守れる、信頼できる人間が大前提」
「少数精鋭方針でありますな」
クリスとウィスタリアのまとめの通り。
信頼と同じ目的を目指せるのかが重要で、人数を集めることが目的ではない。
続いて、クラン運営の経費と、そのための資金徴収について。
経費の大枠は3つ。
①土地建物代
クランハウスの部分のみ三人組への支払い分として、金貨24枚を8年償却で、年に金貨3枚。
②雇用費
使用人1人につき年に金貨1~3枚は出すべきだろう。
現在の4人に金貨1枚ずつだと4枚必要になる。
③消耗品費・維持費
メンバーおよび使用人1人につき年に正銀貨4枚で計算。13人で52枚となる。
これで朝夕の食事に週1の洗濯、季ごとの寝藁交換、共用スペースでの明かり・燃料費ほかの消耗品費と維持費を賄えるかどうか。
合計で、年に金貨7枚+正銀貨52枚。
徴収名目は2つ、ないし3つめに特別徴収。
①部屋・食事等の代金
年に正銀貨4枚。クラン側の持ち出し大になるが、営利事業ではないのでそれはいい。
部屋だけ、食事だけはとりあえず認めない。面倒だから。
②クランのメリット・看板代
鉄札級が正銀貨4枚、青銅級で金貨1枚とした。
合計で、年に金貨9枚+正銀貨36枚。
「まあ暫定だ。適宜、かかった費用に対し、メンバーから集めて辻褄を合わせることになる」
「クランの帳簿と出納管理は僕とクリス……クリスティアン執事との二重チェックで」
「あとはやってみて改善だな」
そういうことになった。




