8-07.帰ってきた探索者
祭週の初めにセバスとラッドの実家に顔を出して、将来的な使用人のことなど相談しておく。
ラッドの母親とかプリムローズの母親とか、勝手に押しかけてきそうな使用人候補への事前説明的な意味合いもある。
家具木工のマルク親方からもクランハウスの雇用について話があったが、まず頼れるもの、頼るべきものは家族親族である。
当面、人数そこまで要らないだろうし。
従士爵持ちとして引き連れる下男についても保留中。
そも従士というのが、騎士なりの取り巻き荷物持ちなわけで、いわば従士の従士は必要なのかと。
「上位者に仕えて公の場に出るならともかく、仮にも爵位持ちなんだし、一人は連れていないとおかしいかなあ」
「で、ありますなあ」
いざという時はクリスと後輩たちを頼るという話になっている。
であるならば、日ごろから後輩たちを懐柔しておくに限る。
制覇をあきらめた屋台巡りで後輩たちを食い倒れさせていた転生三人組のもとに、マリエルから一報が入った。
「え、帰ってきたの?」
「祭週だから宿空いてないし、とりあえずウチで泊めたけど、一軒空いてるとこ貸してあげられない?」
ジュスティーヌとヴィオラ、実に季節一つ分をまたいでの御帰還である。
二人がマリエルを頼ったのは、実家を知っていたから。
卒院の報告だけなら、最短で秋季の第二週には戻れていたはず。
それが待てど暮らせど音信不通ということで、転生三人組や侍女の約束ありなウィスタリアでさえ、これはあれかなと。
現王弟の愛人の子という立場から、自力で一代騎士爵を掴んだジュスティーヌ。
そのまま王都でお幸せに展開も想定していた。
「んじゃ、自分は先に帰って鍵開けとくから、マリエル案内よろしく」
「俺はクリスたちを探してくるわ」
「となると僕はユイか。実家にいるかなあ」
連絡一つ取るのにも、誰かが出向かないといけない。
豚のように膨らんだお腹を、冬至祭の名脇役な山羊につつかれている後輩たちに断りを入れ、旧14号パーティメンバーは各自動き出した。
☆
現在の転生三人組は、それぞれに土地・家屋持ちの一代従士様だ。
うち一軒に三人組が住み、一軒をクリスとウィスタリアに貸出中。
残る一軒をジュスティーヌとヴィオラの当面の宿代わりにと、広間の隅にヨッシーの【個人倉庫】から預かり品も出しておく。
挨拶もそこそこに猛烈な勢いでショートケーキを食し、バナナ一本まるごと使ったソフトスポンジとクリームたっぷりの洋菓子を食し、テーブル中央で切り分け中の季節商品であるベルギーなチョコたっぷりのクリスマスケーキに野獣のごとき鋭い眼光を飛ばすジュスティーヌ。
「少しは落ち着けよ」
「だって、だって、ずっとずっと、食べられなかったんですよぉ」
いつもなら嗜めるはずのヴィオラもしみじみと頷いている。
生クリームたっぷりの洋菓子と分かたれた試練の日々は、よほど苦しかったらしい。
今世の王侯貴族でさえ食べられない品々を、前世の近場のスーパーからお取り寄せ可能なのがラッドの【通信販売】だ。
ジュスティーヌが、そしてヴィオラが、舌と胃袋を調教されていても仕方がない。
さてまあ、案の定というか、ジュスティーヌたちの帰還が遅れたのは結婚問題が絡んでいた。
優秀な血統を、騎士爵を得ることで自ら証明して見せたカタチになってしまったジュスティーヌに、適切な婚約者を見繕おうとしたのは親心ではある。
だがジュスティーヌ、これを拒否。
すでに自分はボーヴァルディ家の当主であり、血縁上の父親と言えど主従関係にない以上、命令を聞く必要はない。
アクヤの街に戻り探索者クランを立ち上げる約束もあると。
しかし、はいそうですかとはならない。
曰く、探索者で英雄級を目指すとはとんだ夢物語だ、と。
「まあ、そうだよな」
「そうでありますな。わたくしが親でもそう言うであります」
クリスとウィスタリアは、いつものように一歩引いたところから静観。
大言壮語を吐く以上、それなりの自負はあるのだろう。
16歳までに、当家の騎士長から一本取れるくらいのな、と。
「騎士長ってどれくらい?」
「最盛期は過ぎていると思いますけど、金級に匹敵すると聞いたことがあります」
セバスが調べものノートをめくると、金級探索者とは第七層到達者であり、最低でもレベル30は必要だろうとなっていた。
「あと2年ちょいでレベル30以上、できれば40台ねえ」
「年平均4~5とすれば、16歳の春だとレベル24。かすりもしませんね」
「諦めたら? そこで試合終了だよ」
「そんな~」
「あたしとしてはねえ、まあ、やるだけやってみてって感じで。主家のこと悪くも言えないし、察して」
転生三人組的には、王弟殿下の要求は明らかに無理難題だが、娘を持つ親の心情としては理解できなくもないところでもあり。
ジュスティーヌは女なのだ。
適当なタイミングで出産・子育てに入る予定のユイやマリエル、ウィスタリアと同様、レベル100まで付き合ってもらう人材としては見ていない。
名目としての主催の地位も、自分たちが従士爵を得てしまったことで、必ずしも必要ではなくなった。
「いっそできちゃった(てへぺろ)してやりますよぉ」
それもう、クランがどうこうじゃなくて、親の決めた結婚がイヤってだけの行動だよね?
その場合、醜聞は隠され相手も始末されるよね?
「てへぺろ……いや、もっとこう無邪気風な」
「ティナぁ……」
ジュスティーヌだって、それくらいはわかったうえでの冗談……だよね?
「でも、皆さんなら勝てそうな気がするんですよねえ」
お姫様を望まぬ結婚から救い出す、私の騎士様的な方面の物語でなら絵になる展開ではある。
だが転生三人組の走っている物語は、ハック&スラッシュなダンジョンアタックものだ。
「僕たちだと、騎士様方が望まれるような勝負ではなく殺し合いになっちゃいますね」
「俺たちの常日頃言ってる効率って、要はいかに手間をかけずに殺すかって話だからな」
でないと、狩りとは言えないというのが転生三人組の見解。
魔物相手に殺るか殺られるかの勝負をしたいわけじゃない。
ルーティンの仕事として、いかに効率よく霊格量を稼ぎだすかが肝なのだ。
「クソ騎士長なんか殺っちゃっていいのに~」
「ティナぁ……」
唐突に闇を溢れさせるのはやめてほしいなあ。
☆
「当面一緒にやるのは自分たちの目的にも合致するが、お家のアレコレは筋違いだ」
与えられた2年という猶予期間中に、ジュスティーヌ自身がなんとかするべき。
転生三人組としては、自分のケツはまずは自分で拭けなのである。
どうにもならなけば、ジュスティーヌ様お幸せにと送り出そうとラッドが結論した。
「お味方は、お味方はいずこ」
「叩き出されないだけ、十分にお味方してもらえてると思うけど?」
落ち込んでいるジュスティーヌだが、ヴィオラの態度を見るに間違った対応でもないのだろう。
ともあれ再結集した旧14号パーティの基本的方針は秋季と変わらない。
季に6週程度をダンジョンアタックにあてるが、女の子の日の都合なども見て弾力的に調整すること。
並行して修練とクランハウスの準備などの環境整備を行うこと。
「当面のダンジョン活動に関しては、第四層の地図の確認と更新、第五層以降の情報収集だな」
第一週で、早速ジュスティーヌとヴィオラの復帰戦。
二人の青銅級への昇格とあわせて、全員で本部へ口座を移し、以降は本部二階の青銅級以上専用の各種受付を利用する。
ダンジョン産品の買取(売却)も今後はこっち。
旧14号パーティ専属の職員となる汗かきおじさんとも顔合わせをし、転生三人組の東隣の敷地を案内され、ご購入。
ヴィオラともども自前の一軒屋に移り住む。
晴れて侍女の肩書を手に入れたウィスタリアだが、ジュスティーヌが払うお賃金はとりあえず年に金貨1枚。
かつ、やることは侍女というよりかはお手伝いさん。
「だって、侍女ポジションにはあたしもいるしねえ」
「ヴィオラ様は、名目上は居候のご友人なのでありますが」
裏の長屋の取り壊しと撤去は、親方衆が適当に処理してくれるそうだ。
ただし、2年後に離脱する可能性があるため、三人組の土地との一体運用はしない。
☆
小事件として、建設中のクランハウスでは、お茶菓子をガッっと確保し持ち帰ろうとする輩が出た。
これには親方・人足衆も裏切り行為だと激昂。
いさかいを避けるため、監視役兼任のお茶出し番が必要になり、クリスとウィスタリアが交互にダンジョンアタックを休んで対応した。
作業内容に関しては、最終的に全責任を負うマルドゥーク親方が随時チェックを入れているので大丈夫だろう。
☆
冬季のダンジョンアタックは都合6回。
転生三人組のレベルは14、クリスは15で変わらず、頭打ち感がある。
ユイ、マリエル、ウィスタリアがレベル15に、ジュスティーヌとヴィオラが14に上がった。
転生三人組の収入は金貨6枚余り。
ここから各自3枚をクランハウス建設代として抽出、支払いを終えた。
現金があれば各種の手配も実にスムーズ。
冬季の間に無事に箱としてのクランハウスは完成した。
また、職人たちへの日々のお茶菓子や、落成式で配ったハンドタオルなどの出費がかさみ、ラッドの【通信販売】累計1000万ポイントを突破、Rank.5にアップ。
品ぞろえは大手通販サイト級へと進化した。




