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道連れ転生  作者: 凡鳥工房
8章.はたらく職業探索者編

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8-06.発注する探索者


 今世の引っ越しでは、よほどお気に入りの家具でないと持ち出さない。

 運搬の手間が前世とは比較にならないからだ。


 さらに、大物家具は作り付けで動かしようがない場合も多い。


 そういう事情でほぼ居抜きめいた住居を眺め、マルク親方は口をへの字に結んだ。


「まあ、ありもんの家じゃあな」

「すいません。親方の出番はもうちょっと先になります」


 まあいいさと、マルク親方は、連れてきたマルドゥーク親方とマーレダック親方を紹介してくれた。


 マルドゥーク親方がマルク親方の知故で大工組合所属。

 マーレダック親方がマルドゥーク親方の知故で左官組合所属。


 いや、覚える必要はないのだけれど、要するに、新しい宿舎を建てるのに必要な伝手の紹介。

 間取りや予算なんかをマルドゥーク親方たちと相談してねということになる。


「ま、そのまえにぶっ壊さないとな」


 裏手に回って木戸通りを挟んだ長屋群を前に、親方たち、すごくいい笑顔でなんか物騒なこと口走ってます。


「まだ使える材なんかあったらもったいないなって」

「うーん、見るからにやっつけな安普請だしなあ、ろくな材なんざ使っちゃいねぇだろう」


 マルク親方、担いできた大木槌でバシコーンと一発で柱をへし折った。

 嫌な音があちこちに伝播し、やがて一角が崩壊する。


「ほらよぉ、肝心かなめの芯柱がこれじゃあよ、焚きつけにするしかねーよ、こんなモン」

「わぉ、マルク親方こっちの業界でも一線張れるじゃん」


「へっ、おだてるんじゃねーよ」


 そう言いながら大木槌を構える親方、どう見ても本職のソッチ系のお方です。本当にありがとうございました。



   ☆



 廃材の山を背景に、気持ちいい汗かいたぜとにこやかにほほえむ本職がアッチ系のお方々。


 親方業というのもなかなかに大変だそうで、日ごろストレスがたまる事ばかりだとか。

 焚きつけ用に廃材くれるならこんな仕事ロハでいいとまで。


 言う前にぶっ壊し始めたのはいまさら触れないでおこう。


「明後日には更地にしとくがよ、そっから先は要相談ってヤツだな」


 表側の一軒屋でお茶をしばきながら予定と計画を話し合った。


 まず、木戸通りの北側の商業組合から買い取った方はとりあえず簡単な囲いだけしてひとくくりの空地に。


 木戸通りの南側の、それぞれの表の一軒家とつながる土地にクランハウスの建設。

 三人分の敷地を存分に使う、南を正面とした幅20m、奥行12m程度の本体に、南北にベランダを付ける。


 設計は奇をてらわず、1階に共有・共同部分や幹部執務室、2階に個室、3階というか屋根裏に、地下もアリ。


 木戸通りをまたぐ渡り廊下的な橋をかけて北側の空地に行けるようにするというのが、唯一の面白み。


 ざっくりの間取り図を示したところ、親方衆からもわかりやすいと評価をいただいた。


「手堅いのはいいが、面白みはねーな」

「面白みといっても、スカベンジスライムトイレなんか作れないしなあ」


 ダンジョン内ではご活躍のスカベンジスライムさんだが、地上では影もない。


 というのも、ダンジョンの魔物は原則としてゲートを越えられない。

 例外はあり、大層苦労して汚物処理用にとスカベンジスライムを持ち出させた貴族がいたらしい。


 『探索者のためのゴミ・汚物処理(スカベンジスライムの利用)』講座で、ダンジョン小話として披露された古物語である。


「スライムトイレかあ、成功していれば汚物処理の革命になったかもしれない幻のアレなあ」

「都市伝説じゃあ、下水に生き残りがいるっていうが、ねぇよなあ」


 理由は単純。生態系に負けた。


 なるほど一般探索者がスカベンジスライムを倒すのは困難だ。

 だが、ニュービーであっても叩き続ければ倒せることも事実だ。


 では、ドブネズミやコバエ、Gな虫などに寄ってたかってかじられればどうなるのか。


 当然、倒されてしまい、ちょっと霊格量が上がって微妙に強くなったドブネズミなどが残る。


 だが失敗した貴族様を笑ってはいけない。

 成功とは、数多の失敗の果てにこそありけるぞ。



   ☆



 予算は相談。

 最低限必要な額というものはあるが、そこから先はどこを削るか盛るか次第となる。


「自分たちも余裕ないっすから」

「俺たち、ここの土地買ってすっからかんなんだ」

「あれこれやりくりして、合わせて金貨9枚から12枚は確保する予定ではいるんですが、どんなもんでしょうか」


 第四層に1回出撃で金貨1枚を皮算用しているが、さすがに今季は疲れた。


 たしかに転生三人組はレベル100を目指しているが、それはそれ。無理は続かない。


 ダンジョンアタックは、季の半分、6週が限度かなと。

 そうなると転生三人組で合わせて金貨18枚が限界なので、余裕を見て12枚で提示。


「貴族の館としては脅しが足りないが、クランの宿舎としてはまあ」

「欲を言えば金貨15枚で、外壁を漆喰塗で固めーの、屋根を天然スレートでふきたいところだわなあ」


 大工のマルドゥーク親方と左官のマーレダック親方が、お茶うけの一口桜餅をひょいひょい口に入れながら検討を重ねる。


 和菓子派のウィスタリアの頬も、同士の発見にほころんでいる。


「このほかに、外構と中身のカネもかかるんだよなあ」

「おう、中身は俺の担当だな」


 マルク親方はクッキーハムハム勢。


 石垣積むのでなければ、板塀はマルク親方のほうでやるかと、目の前で談合が始まる。

 いやまあ、紹介者にゼニになる仕事をふるのは必要なことだし、外構は特に大工の領分というわけでもないし。


 専門家に任せるのが一番と転生三人組も口を出すことなく、あの仕事は誰それに回すかとかどこの問屋で仕入れるかとか、さくさくと口約束が積みあがっていく。


 結局、館本体と外構まわりで金貨15枚。

 手付でもって手配を開始し、都度の入金でできるところまで進める段階的進捗工事を行うこととなった。


「じゃあ、自分たちと一緒に探索者組合まで御足労願うっすよ」

「おうよ! 金払いのいい依頼人は大好きだぜ」


 中身の家具・調度品類は別枠でおいおい。


「しゃーない。俺の仕事は最後の最後だもんな」

「すいません、マルク親方にワリを食わせるようで」


 なお世の中には仲介手数料なる概念があるという。

 はたしてマルク親方は本当にワリを食っているのだろうか。疑念は深まった。



   ☆



 転生三人組各自が、口座の残りの金貨2枚ずつを絞りだし、合計で6枚。

 発注額の半分には届かないが、手付としては十分以上の額に親方たちもニッコリである。


「こんだけもらえりゃ資材の手配は先回しでいけるな」

「追いかけ銭次第じゃあ、冬季の半ばには落成式だ」


 現金なものというか現金があれば動けるのだ。

 翌日には配下衆が廃材を綺麗に片付け、土の曜日にはマルドゥーク親方が縄張り、闇の曜日には起工式と、とんとん拍子に事が進んでいく。


 施工主になったマルドゥーク親方が、必要なイベントを盛り込みつつ建設スケジュールを組み、資材と職人集団を手配して落成まで引っ張っていってくれるだろう。


 はっきり言えば、施主の転生三人組には状況が把握しきれない。

 起工式では参加者に謎の記念品まで配ったが、いつ手配したのかもわからない。


「腐るもんじゃないなら、定番品には在庫があるのよ。馴染みの商店に言えばそれで済む」

「流石だなと俺でも思うんだ」

「マルク親方でもですかあ」


 まさしくオーガナイズとマネジメント、そして幅広い分野への人脈がないと勤まらないのが施工主だ。発注者たる施主とは字面以上に立場もやることも違う。


 一工房の親方であればいいマルク親方も、一職人で数人の弟子を見ればいいマーレダック親方も、棟梁大工マルドゥーク人脈の一部としての知故なのだろう。


 休日の無の曜日にも親方衆がなにやらちょろちょろし、お茶とお茶うけを楽しんでいかれた。

 いや、何をやっているのかわからないとそういう表現になっちゃうだけで、親方たちはそれぞれに必要なことをしているのよ。


 第十二週にさっそく基礎工事開始。


 工事費低減のための策として約束したことでもあり、地下室用含め穴掘りにはセバス筆頭に男手とマリエルが協力した。


 掘り崩すのはセバスの土魔法【坑穴ディグ改】でできるのだが、のけた土砂を運び出すのに人手がいる。


 ここでマリエル、初等階梯の無属性魔術【見えざる手インビンジブル・ハンド】の訓練にもってこいだと参加。その先には【念動手サイキック・ハンド】修得の野望もある。


 【見えざる手】では、50kg程度ものを5分くらい動かせる。

 袋詰めされた土砂を地上に持ち上げるだけでも十分にお手伝いだし、いかにもな魔術士様の登場に現場連中も大受けである。


 見た目のはったりの大切さは家業のポーション製作でも伝承されているそうで、古びたとんがり帽子も家伝の品だとか。


 ウィスタリアとユイはお茶くみ&軽食係でこちらも好評。

 やはりクッキーはハムハムされるし、和菓子系もイケル人にはイケルっぽい。


 いやまあ、単純に甘みというだけでぜいたく品だしね。


 なぜか翌日には人足が倍近くに増えており、マルドゥーク親方も苦笑していた。

 何人連れてきても支払いは変わらないぞと、各親方や職人たちに告げてまわるお仕事が追加されたのだからさもありなん。


 ともあれおかげさまで穴掘り&基礎工事はさっくり終了し、資材待ちで祭週明けまで休工となった。


 なお、仕事がないから明日から来なくていいと言われた人足たちは、絶望のあまりラッドが用意しておいたお茶うけをすべて食べつくしてから帰っていった。





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