8-05.資金繰りをする探索者
転生三人組は、将来のクラン化も見越し、かつ一代従士爵の見栄やメンツの問題として、相応の住まいを探していた。
実際に汗をかいて探すのは探索者組合で旧14号パーティの担当になった職員さんだけど、それはそれ。
秋季も半分という第六週に、有力組合の幹部級向けグレードの住宅街に土地建物を購入することになった。
お仕事モードで契約に同行したクリスとウィスタリアには、ユイとマリエルに一連の報告を、もしものときの借金含めてお願い。
転生三人組はといえば、組合を出たその足で家具類木工のマルク親方のもとに向かった。
「おおっ、おめでとうございます従士様」
「親方に様呼びされると、調子狂うっすよ」
慣れてくだせぃと笑われる。
なんなら家名で呼ばれて反応できない三人組だったりもする。
目の前の相手からタイキャスル卿とかグッドマン卿なんて言われても、自分のことだと気が付くまでに時間がかかるのだ。
慣れるしかないんだけどね。
「引き渡しはまだ先だし、何が必要かもわかんないけど、よろしく頼んます」
「お任せあれってとこですわ」
ときに、上物そのままの現状渡しだと、長屋部分は要らないと結論が出ていた。
離れにするにせよ宿舎にするにせよ、見た感じボロすぎてあかんやろと。
「そらまあ、従士様のメンツ的にもあかんでっしゃろなあ」
「やっぱアカンですかあ」
「木戸長屋なんざ、見るまでもなく安普請が相場でごぜーますから」
引き渡しを受けた後の取り壊しやクラン用宿舎の建築など、親方の伝手を頼りたい旨には胸を打って即答をいただけた。
「そん代わりと言いますか、使用人、うちから何人かお雇い願いたいんですわ」
「ああ、そういう人も必要になりますねえ」
爵位持ちのメンツとして屋敷には使用人が必要だし、ダンジョンアタックで不在の間の留守番と考えて誰かしらに住み込んでもらうのもアリだろう。
「あと何年か経てば、嫁に家を任せてってことになるのかなあ」
「そうなるでっしゃろなあ。てぇと、嫁御殿との相性も……」
使用人選抜は嫁候補に任せようかと言えば、マルク親方もその方がいいだろうと、肩を小さく丸めた。
☆
アクヤの街の庶民層の住宅事情は、基本的に賃貸になる。
上物ごと地主が用意し、賃料をとって貸し付ける。
旧14号パーティの面々でいえば、ヨッシーの出身、養護院は大神殿という地主が経営する事業の一つで、部屋住みだったと思えばいいだろう。
ラッドの実家は、マルク親方が用意した工房の従業員宿舎群の一軒。
セバスとクリスの実家は、下級官吏向けの集合住宅。
ユイの実家も庶民向け集合住宅と、ここまでが賃貸組。
ポーション製作を家業とするマリエルの実家と工房は土地ごと自前の地主様。
格差社会の片鱗が見て取れますね。
ちなみにウィスタリアの実家の場合、アクヤの街に上がった時は寄り親たる貴族家のお屋敷に御厄介になる。
そも、都市戸籍に記載されている、いわゆる市民権保有者かそれに準ずる者でないと街の土地を買えない。
爵位持ちは叙爵手続きの流れで、他のメンバーも青銅級昇格時に都市戸籍に登録されて市民様になっている。
昔は十年かそこらの定期借地権で地代が税を兼ねていたものが、代を重ねて既得権益化し地主が誕生、現在では土地所有権に変化している。
借地権から所有権への変化に伴い、毎年の税金もかかるようになった。
街のための税負担をするから、市民権が認められるともいえる。
義務と権利は表裏一体。
税にも種類があるが、探索者に関わりが深いのは取引税と人頭税。
探索者の収入源、ダンジョン産品を探索者組合が買い取る際の値が組合費や税を引いた額。
天引きのため実感がないが、旧14号パーティの面々は大いに納税に貢献する者でもある。
☆
火の曜日にはマリエルの工房に集まってメンバー会。
相手が組合にしてもメンバー内にしても、借金はなるべく好ましくない。
そこで支払い用に最低金貨5枚、できれば6枚を秋季中に稼ぎだしたいとの提案は無事可決。
さっそく、水の曜日から無の曜日にかけて4泊5日の狩りに出る。
出し惜しみなしで行き帰りともにショートカットを使用。
続く第七週から第十週までの狩り三昧、ユイとマリエルは諸事情で不参加ありだが大勢に影響はなく進行した。
クリスがレベル15にあがり、ほかは転生三人組含めレベル14でそろった。
収入は正金貨5枚余り。
「わかっちゃいたが、稼げちゃったなあ」
「1回潜れば庶民の年収。壊れるよなあ」
ラッドとヨッシーが言うように、転生三人組の金銭感覚はもうボロボロ。
メンバーたちも、生活費以外は口座に入れて見ないようにしている。
「こうして、なんとでもなると勘違いして、ケガや仲間割れで稼げなくなって破滅ロードなんでしょうね」
「慣れちまうと、戻せないからなあ」
セバスが浪費に警戒すれば、ヨッシーも一度上がった生活水準を落とせなくなる罠を警戒する。
ありがちすぎて解像度の高い想像が三人組の背筋を震わせた。
ただ転生三人組の場合、収入が途切れるときって、それもう、収入を気にすることもできない状態ともいう罠。
☆
もったいぶるモノでもないので第十一週の頭には残額を支払い、役所にも出向き、書類およびゲンブツの引き渡しを受けた。
現状渡しのため、木戸通りを挟んだ向かい側の分、商業組合側からも人がきて、今にも崩れそうな長屋の内覧や境界杭の確認などを済ませる。
「こちらの両隣なども、ご入用であればぜひ~」
商業組合の人、実ににこやかにお帰りになられた。
ありゃあ不良債権の始末がついて心から身軽になった顔だったなとはラッドの談。
探索者組合の汗拭きおじさんも、商業組合が東西の街路沿い以外の木戸通り側区画を手放したがっていると教えてくれた。
以前、差し上げたハンドタオルではなく普通の手ぬぐいだったので尋ねたところ、奥様に取られたそうだ。
かわいそうだったので、もう一枚渡したところ、喜んで使いだした。
どうやら心付けを素直に受け取る図太さには目覚めたようだ。
もともとそういう文化だからね。
「といって値切れるものでもないことは、ご了承ください」
正確には、簿価を下げることを役場が嫌がるのだ。
かつての間口税のころなら簿価などどうでもよかったが、今は簿価から土地の税を決めている。
簿価が下がるってそれ税収が減るってこと、認められないなぁと役場が認可を出さなければ、売れるものも売れなくなってしまう。
だから、簿価で手放すことが売り手の最大の譲歩になるのが、アクヤの街の不動産業界裏事情。
「簿価は維持しつつも、こっそりキックバックという手もあるはずなんですがねえ」
そこはおじさんの交渉力不足なんじゃないかなと、転生三人組は言わずに済ませておくのだった。
ちなみに住居斡旋は、青銅級探索者に対する組合業務の一環なので、仲介手数料なんかはないです。
☆
ともあれ、物件の引き渡しを受けたのでお引越し。
下宿部屋の賃料は秋季分支払い済みで、割り戻し交渉も面倒だとそのままにした。
宿の主人にとっては、カネさえ入っていればむしろ人なんぞいないほうがいいまである。
ダンジョンや学院に近いのでサテライト的に使うかもしれないし、使わないかもしれない。
借り上げ延長の話と支払いをしなければ、季末で勝手に解約になるので、使うのであればお早めに。
「多分、使わないと思うけどな」
「俺もそう思う」
「歩いて数百メート先に家ありますしね?」
当面は転生三人組の各自の土地と建物のうち一軒を自分たちの住処とし、一軒をクリスとウィスタリアに貸し出し。一軒余り。
そして、長屋を取り壊した後に新築するクラン宿舎に再度引越しの予定。
一軒屋を本格的に使うとしても、結婚以降の話だろう。
「いやー、ガラの悪い人たちが居座って立ち退き料を要求してくるとか、契約書に不備があって、実はここはまだ売っていないから勝手に立ち入った賠償をとか言われるかと」
「……ラッドの想定も、平民のままだったならあったかもしれないね」
クリスも認めたように、立場・身分が上となると途端に強気になるのが今世の傾向。
無知な平民、よそ者相手に詐欺働きなど日常茶飯事めいてありふれた光景ではある。
逆に言えば、仮にも爵位持ちに粗相をして私闘宣告となると、商人にとっては損ばかり。
最終的に裁判で勝てたとしても、ケガ人死人はもちろん、損害も費用も回収できず泣き寝入りを強いられるだろう。
今回の場合、そんなトラブルがあれば仲介の探索者組合・商業組合としても面白いことにはならない。
手土産持って両隣へのご挨拶にも行った。
街区の南側は探索者組合で幹部級職員向けにしているはずで、表通り側は一軒家。
東隣は空き家だったが、西隣には入居しており、住宅地だから夜中に騒ぐようなことは勘弁してねと釘を刺される。
裏通り側の長屋は両隣ともすべてご不在。というか人の気配がしない。
「商業組合側だけじゃなく、探索者組合側でも不人気物件?」
いえ、どこかの騎士爵持ち様用に、住人の移住・集約を推進中なだけです。
どこかの騎士爵持ち様にお買い上げいただけなかったら?
いい加減ボロい長屋ですので、もうちょいマシな集合住宅に建て替える計画もあるとかないとか。




