8-03.修練をする探索者
パーティ専属の組合職員が、やけにへりくだった態度だった理由はあっさり判明した。
「数年前、無礼討ちとして職員が斬られた事件があったそうだよ」
マックスいわく、ちょっとばかり問題な職員でもあったそうだ。
男爵家の三男が、学院官吏科を経て組合に就職。
身分上は平民落ちしている。
だが、騎士科4年卒の一代従士相手に、むしろお前が後輩で成り上がりなんだから、我が高貴な血を敬え的な。
「裁判では従士側の無罪だったけど、男爵家にもメンツがあってねえ、板挟みにされた組合が双方に謝罪させられたとか」
「ひでぇなあ」
マックスは肩をすくめた。
身分制度社会における身分には、見栄やメンツが付きまとう。
それこそ転生三人組やマックスの家探しだって、爵位相応の見栄のためでもある。
謝罪程度の圧力・横やり・理不尽で済ませたのなら、男爵家としても本当にメンツだけ立てばよかったのだろう。
なんなら裏で、男爵家側が組合や従士に頭を下げた可能性まであるという。
しかしまた、件の一代従士は河岸を変えアクヤの街を去ったとか。
もしかしたら、男爵家の手で最果ての地へ旅立たされたのかもしれない……。
「組合として面倒はごめん。なら、徹底的にへりくだるくらいはしてやるってか」
「振りかざすこともできるのが爵位。怖いものだね」
力ない笑みを浮かべたマックスだが、権力を使うべき時には使うのだろう。
だってイケメンだし。
☆
組合に頼んだ家探しは時間をおくしかない。
直近で取り組むべきは、学業から離れた今、探索者という稼業を、どういうリズムで行うべきなのか。
転生三人組と居候のクリスは、やらなければならないことをリストアップし、短・中・長期で切り分け、暫定スケジュールを立てた。
秋季の第四週、在アクヤの旧14号パーティメンバーは学院のグラウンドの隅っこに集合した。
聴講生として本科生の邪魔にならない範囲でならグラウンドも使えるのだ。
☆
転生三人組は錬気術の検証から。
【発勁】は無属性魔法だと主張するセバスに対し、ラッドとヨッシーはあくまでも錬気術のワザとの主張。
「だって俺たちには【無属性魔法使い】の表示はないぞ」
「魔法使いか否かの境目、魔力の体外放出ってのがハードル高いんだろ」
命の根幹に関わることだからね。
魔術士、魔法使いというのは、ある意味で『壊れている』から体外放出ができてしまうだけで。
「自分たちは、勢いでドッカンでしか体外放出できないんだと思う」
「勢いでドスコってるって感じ、みたいな?」
「そっかぁ」
ラッドとヨッシーの魔法使い化を目指した魔法使いTaiプロジェクト、敗北確定のお知らせである。
「じゃあ、体内で魔法効果を発揮する、いわゆる自己バフ的なことってできません?」
「ありがちなのは認める。こう、魔力を目に集めればスーパービジョン的な……」
「的な? どうしたヨッシー」
「……スーパービジョンだわ」
体内魔力の集中運用で、無属性の魔力を目に集めれば視力が、耳に集めれば聴力がなどの部分的強化から、全身にめぐらせる全体強化など。
【身体強化】できてしまった。
「思ってた魔法使いとは違うんだが、これはこれで王道な自己バフ魔法展開でもあり、ぐぬぬぬぬ」
魔力の限界まで全身を強化するスーパーヨッシーモードで3分間を戦い抜く的なこともできるだろう。
ヨッシーは悶えている。
なおヨッシーの適性は闇の方が強いはずなのだが、こちらの魔力はピクリともうごかない。
「たぷたぷぅ」
「やめろって。まああれだ、俺は腹の底に闇を抱えた男ってことなんだろ」
「かっこいい感じに言ってるふうだけど、それって陰の者ってことだよな」
「やめろよラッド。みなまで言うなよ、恥ずかしい」
日々の瞑想で体内での魔力循環を訓練している面々には、そこに魔法効果のイメージを上乗せするだけ。
やってみたら「あ、できた」程度の難易度だったらしい。
説明を受けたマリエルも【身体強化】を扱えるようになった。
「多分なんだけど、【ポーション製作】で使うのも無属性の魔力よね。わたしが出せるんだから」
「色もないし、無属性って、一番根本的な魔力なのかも」
ユイの場合は、光属性で継続的な体力回復、いわゆるリジェネレーション状態に入れるようだ。
もちろんリジェネってるときは魔力を消耗していく。
「疲労回復な治癒魔術はないので助かりますぅ」
「魔力属性によって効果が違う?」
無属性は自己バフ、光属性だと自己回復。
それ以外は要検証で持ち越し。
クリスとウィスタリアはそもそも論の自分の魔力を認識できない。
一般には才能の一言で切り捨てられることであり、諦めている。
メタなことを言えば、クリスの加護【冷静】はいわゆるパッシブ型、常時発動で無意識に魔力がじわじわ減るので自覚が難しい。
ウィスタリアの加護【コクーン】は発動に触媒が必要なため、数回試して「使う価値はない」と判断して以降放置。
建前上、加護に当たりハズレはないとはいえ、使い勝手や当人の気質なんかも含めると、どうしてもね。
☆
通常スキルの修練では、現状で伸ばすべき武術に向き合う。
たとえば遠隔攻撃手段は、投擲術か弓術か、メンバー内でも割れている。
セバスは拠点でのみ使用と割り切り弓術を選択。
今はいないがジュスティーヌ、ヴィオラもこの方向。
ヨッシーは盾を持つので必然的に投擲術。
ラッド、クリス、ウィスタリアは、斥候・釣り役の必須技能として投擲術。
無属性魔法使いでもあるマリエルは、強いて言えば投擲術なのかなあ程度。
そしてユイもまた、かつてのマリエル同様、戦闘参加していないという意味でストレスを抱えていた。
マリエルは無属性魔法によるハラスメントに、パーティへの貢献を見いだしました。
ユイちゃんは、わりと負けず嫌いな子なのです。
しかし、MP消耗で肝心のヒーラーとして役立たずでは意味がないため、原則として攻撃魔術は使わない。
弓は洞窟内では扱いにくい。
そこで投擲術、時代はこれだね!
投擲術の【Lv.1/初心者】であるラッド、ヨッシー、クリスが教師役になり、基本をレクチャー。
まずはグラウンドに作った小山から、手ごろな小石を集めて小袋に入れる。
次にその小石を特別な道具を使わず小山相手に投げる。
いわゆるピッチングフォームの基本を何種類か覚えて、肩やひじを壊さない程度に投げ込むことで【Lv.1/初心者】表示まで。
その先、投げる物のバリエーションの拡大や器具を使う場合は、それぞれに慣れと習熟がいる。
投げるほうで、そこら辺の石から鉄球、ナイフにダーツ、矢などなど。
器具としては、投石棒あるいは投石紐、投槍器などなど。
「クリスとウィスタリアは流石というか、体幹がしっかりしてるなあ」
ユイちゃんは、まあ、ユイちゃんなので。
ハラスメント目的だから、味方に当てない最低限のコントロールさえできるようになればいいんじゃないかな。
☆
休憩、食事時間も、魔術士・魔法使い組は休めない。
身体は休ませても頭は動かせと、座学のお時間だ。
セバスは魔法にパラメータの考え方を持ち込んでいる。
特殊な例を除いて、作用機序から作用・効果を分解してパラメータ化。
【念動手】の場合、重要なのは最大負荷と稼働時間。
このほか待機時間や手の数、大きさ、右手なのか左手なのか、無負荷時の移動速度、最大負荷時の移動速度なども、パラメータとして扱うこともできる。
「これらのパラメータ毎に設定やつっこむMP量を変えることで、バリエーションが生じます」
「ほぇ~」
ただし、パラメータを設定すると基礎消費的なMP量も増える。
「ばっさりやってしまうのも一つの方向です」
セバスの【力弾改】の場合、設定してあるパラメータは『速度』のみで、MP5だと拳銃弾(亜音速)、MP10でライフル弾(音速の2.5倍)くらいかなとなっている。
弾の大きさや形状、回転方向など、いじろうと思えばいじれるが、基礎MP10となれば、それはもう中等魔術階梯。当時のMP事情では意味がないと切り捨てた。
「なるほど。私の【力弾】も、その『速度』や何かのパラメータを加えることで【力弾改】になるのね」
「ほぇ~」
ユイちゃんは、自分に関係がないと思うと聞き流すからなあ。
「でもって、パラメータ化をほぼしていないのが【小癒改】で、つっこむMP量とその時のイメージ次第になっちゃってる」
「え、なんでパラメータ化しないんですか」
「うわっ、起きてたのユイ?」
だって、傷って千差万別じゃん。
あらかじめ対象や効果について、量的に設定しておくのに向かないのよ。
「うーん、それはそうですね。その場その場で『治れ~』って感じですもんね」
ただし、それだと術者のイメージによりけりすぎる。
そこで、MP消費や効果等を固定化し、いわばできあがった型として提供。
例えば【小癒】と【小治癒】は傷をふさぐだけ、【治癒】で骨折や切断に対応する。
【造血】は完全に別呪文として仕分け。
「魔術と魔法の違いって、そのへんなのかしらね」
「ほっほぇ~」
あ、オーバーフローした。




