8-02.青銅級の探索者
マックスたちのパーティ『鋼の咆哮』は、卒院に伴うメンバーの離脱で現在4人体制。
パーティの頭ことマックスと、元養護院三人衆のオルガ、アズクル、グラムだ。
「青銅級へのダシと言ったが、今回は、本当に助かったよ」
驕りだったという。
自分たち4人でも第四層でやれるのではないかと。
今回、転生三人組たち旧14号パーティを誘ったのは、確実を期すための保険のつもりだったと。
「私たち4人で、第四層でやっていけると思うかい?」
「……無理だな」
身近なところで騎士科卒のベンジャミン兄さんも、学院生時代に第四層チラ見はしている。
だが、現在のベン兄さんの4人パーティは第三層を活動領域にしている。
第四層は伊達じゃない。
ベン兄さんが、そしてマックスたちが、青銅級として第四層以降で恒常的に狩りを成立させるためにはメンバーの増強が必要だ。
当然、考えていた話なのだろう。
まずは学院時代のツテをたどってみると言うが、同年次で騎士科3年卒を成功させたのは旧14号パーティのジュスティーヌとマックスしかいない。
なので、メンバーになり得る同年次は、卒院レベル10基準の探索科か魔術科になる。
官吏科などから探索者稼業に進む者はまずいないだろうし。
「魔術士が欲しいなあ。改めてそう思う」
「魔術科は、まず衛視隊に行くんだろ?」
マックスたちのパーティからは、リラが衛視隊の魔術士隊に進んだ。
リラの場合は親と同じ道という事情もあったにせよ、選べるならば衛視隊というのはごく普通の進路。
世間的な栄達の道が見えていて、なおもわざわざヤクザ稼業を選ぶって、そりゃあよほどのことでしょう。
おカネ?
第三層でレベル10だと、最終段階で下層庶民年収の3~4倍相当かな。一切保証なしで。
なら普通に高給取りの衛視隊でよくないですか?
「あるとすれば求道者的に強さを追求するタイプ。あと、カネを稼がないといけない事情アリ?」
「パーティでガッチリ確保しているケースもありますね」
どこかパーティの治癒術士とかね。
セバスのすけこましって呼び名、けっして風評被害じゃないよね。
学院を経由しない一般通過魔術士は、その大半が早い段階で脱落する。
知識の欠如、魔術的な常識の欠如が深刻な事態を引き起こすためだ。
そしてモノになりそうな場合は、大手クランなり商家の専属なりに囲いこまれる。
これは、『使えるように育てる』ことも意味するので、囲われる当人にとってもメリットはある。
ともあれ探索者業界、魔術士は常に人手不足にあえいでいる。
いないものは仕方ないで標準6人パーティ中6人が物理職ともなれば、そりゃあ脳筋戦術にもなるってもんである。
レベルを上げて物理で殴る。
大体の場合で大正解。
脳筋戦術が補正されずに補強されていく仕組みができているのだ。
☆
「だからまあ、これは自分たちのお節介なんすよ」
「俺としても今回の卒院生事情が聞けるのは悪い話じゃないから、そうかしこまるなって」
ベンジャミン兄さんは、三人組の差し出したシャンプー入りの壺をいそいそと仕舞った。
きっとオキニの嬢に渡すんだ。
そう思ってチョイスしたんだけどさ。
「ただ俺は、『無理のない範囲でやっていく』がモットーだ。リーダーを譲るのはともかく、名を挙げて云々には付き合えない」
転生三人組は、ベン兄さんにマックス・パーティとの連携について感触を探る会合を開いた。
むろん、連携を約束する権限もない。
ただのお節介な世間話の範疇だ。
「どちらかというと、ベン兄さんにも青銅級に上がってもらう契機になるかなと」
「むぅ……」
ベンジャミン兄さんは、4年次までの学院生パーティで、メンバーが卒院条件のレベル10で十分、第三層で十分だと言い出したときに無理強いできなかった。
そのツケは5年次で、そして卒院後もメンバー集め直しで支払っている。
もっとも、4年卒チャレンジを強行していた場合、おそらくパーティは分裂・解散していただろうとも言う。
結局、レベル12まで付き合うメンバーを集められなかった時点で、騎士科生としては並み以下の評価になってしまうのだ。
個の力だけではなく、リーダーとしてメンバーを率い、パーティを運営する力。
騎士科の3年卒がエリート、4年卒で優秀とされる所以でもある。
「もし、ベン兄さんが探索科に行っていたのなら」
「もしもし論は未練だぞ。俺にも野心があったんだ。だから騎士科に行った」
それに、今の目線だと失敗に見えても、例えば5年後に同じ評価とは限らない。
禍福とはあざなえる縄のごとし。
☆
第二週には、クリスとウィスタリアがアクヤの街に帰ってきた。
「いやー、めっちゃ気さくでいいご家庭だったわあ」
「だから緊張せずとも、どうせわたくしは次女でございますと言ったのであります」
ウィスタリアは、領地持ちのれっきとした準貴族騎士家の出身。
平民序列で中ほどの下級官吏家の次男なクリスが、お嬢様とのお付き合い云々のご報告で緊張するなという方が無理ではある。
しかし領主様といっても、実態は村長さんな農民一家。
街の学校さ行った次女が婿(予定)を連れて帰れば、あらあらまぁまぁとりあえずおらが畑の豆でも煮るべな、そんなノリ。
マリエルの工房に集い、旅の話など聞きながらのティータイム。
ただし、茶と茶菓子の用意は転生三人組、正確には【通信販売】持ちのラッドの担当だ。
「あぁー、この味のために帰ってきたといっても過言ではないのであります」
意外なことにウィスタリアは羊羹やお饅頭などの和菓子系がイケル。
彼女に合わせて濃い目の緑茶を添えた。
「餡子を失うわけにはいかぬのであります。秘密は守るのであります」
「僕も、恩恵のおすそ分けで、文字通り美味しい思いをしているからねえ」
こちらは塩味のきいたせんべいをかじるクリス。
げに人と人とのつながりを強くするもの、理と利、そして共犯関係なりけるぞ。
ちなみにメンバー内の和菓子派、洋菓子派、どっちもイケル派はモザイク状に入り組んでおり、その時々で主旨を変える変節者まで出るくらいの混沌ぶり。
ウィスタリアはマリエルのところに、クリスは三人組のところに、それぞれしばらく居候することになった。
☆
しっかり休養を取って、第三週に4泊5日で青銅級昇格のための狩り。
休み明けの慣らし運転かつ、ジュスティーヌとヴィオラがいないため、収入は若干落ちて一人頭金貨1枚に届かず。
三人組とウィスタリアはレベル13に上がった。
素数ということで注目のヨッシーの【個人倉庫】、今回もコマンド追加。
「『区画化』、倉庫空間内を分割、仕切ることができるようになった」
「死にステだった高さを仕切って分割できるってこと?」
死にステいうなし。
「……できた。高さを2m、2m、1mで分割したから、25平方mの3部屋だな」
「へたなファミリーマンションより広い」
目安は4人家族で床面積50平方m以上、ボリュームゾーンが70~75平方mの3LDKだそうです。
☆
クリスとウィスタリアも昇格の案内状に名前を記載してもらい、そろって探索者組合本部での説明をへて青銅級に昇格。
タグも鉄片を返却し、黄金色に輝く青銅になった。
青銅級というのは、いわばプロ。ベテラン。組合から一定の信用を得ていることも意味する。
相談等を受け付ける専門・専属の担当職員がつくなどの特典がある。
クラン設立の最低限とされる目安であることも、転生三人組にとっては重要だ。
「……というわけで、自分たちは一代従士爵を得てしまった。
見栄も張れないなどと言われたくはないし、将来的にはクランの設立も考えている。
そのための土地建物の斡旋も頼めるだろうか?」
専属の担当職員といっても、この人にはあの職員みたいな割り当て制。
パーティ単位で同じ職員が受け持つことで、円滑な意思疎通を図る。
「もちろんでございます、従士様。
ただ、組合で押さえている物件は一般の探索者向けが多く、従士様や、現在は王都をご訪問中との騎士様に相応しい物件となりますと、少々お時間をいただきたいのでございます」
爵位持ちの青銅級なので、13歳のコゾー相手でも対応はまとも。
……まともを通り越して、おじさん、なんか額の汗を拭う回数が多いんですけど。
「従士様、これは致し方のないことかと。
組合を責めるようなことはなさらぬよう、わたくしからもお願い申し上げます」
「我が主、ジュスティーヌ様におかれましても、契約の前にご自身の目で確かめたいと思うかと。
お戻りになられるまでに、適当な物件を見繕っていただければよろしいのであります」
クリス君はクランの執事予定として、ウィスタリア嬢はジュスティーヌの侍女予定として、それぞれお仕事モード中。
「いや、そのさあ、自分、爵位振りかざして無理言ってるとかそういうのじゃないよね?」
「ごもっとも、ごもっともでございます。
あくまで組合の、わたくしどもの不備にて、従士様方には一切の責のないお話でございます」
これなにとラッドがヨッシー、セバスを見るが、そっちもお手上げ。
ざっくりの要望を伝えて、進捗確認に来る日取りだけ約束。
クリスとウィスタリアも、なんで組合職員が焦りか怯えかしていた理由まではわからなかった。
お仕事モードについては、従士や騎士だと言ったうえでの案件なんだから、ちゃんとしないといけないでしょと。
それはそうよね。




