8-01.はたらく職業探索者
ラッド、ヨッシー、セバスの三人は、異世界からの転生者である。
ワケあってレベル100を目指し、ダンジョンで魔物を狩る探索者パーティを率いている。
仲間とは『神託みたいなもの』などの表沙汰にできない秘密を共有。
彼ら彼女らを道連れに、第三者目線だと優秀な卒院生として一代従士爵まで賜った。
それは同時に、半人前の猶予期間を失ったことを意味する。
☆
秋分祭週では、だいたいいつも通りのイベントをこなした。
こんどこその屋台制覇中にセバスが姪っ子にダーされたことと、各自のお嫁さん候補たちに少々言い含めたことが特記事項になるかな程度。
御年数えで13歳とはいえ学院卒でみなし成人扱い。しかも準貴族たる一代従士爵持ち。
そんな優良物件が逃がしてもらえるわけもなく。
ラッドから婚約者の言質をもぎ取ったプリムローズは無邪気に喜ぶ。目標のお嫁さんまであと一歩だ。
ヨッシーの養護院の後輩でもあるオルレアとジャルマリスは、結婚しちゃうと一緒に冒険に行けないと悩みだした。
「いや、別にそうとは……」
「やめようフィアフ。俺たちの勝手な想像で混乱させることはない」
常識的男子アドルフとかわいいフィアフが口をつぐんだため、結婚イコール妊娠、出産、子育て、子だくさん、家の壁の色は白で庭には花壇……な、花咲くオルレアたちの妄想は訂正されることはなかった。
もうちょっと世間擦れし、かつ三人組の秘密の共有者でもあるユイとマリエルは、セバスたちのレベル100ロードにどこまで付き合えるのか、付き合うべきなのかと、やや具体的。
「さすがに20歳過ぎまでは待てないから、最悪、種だけでも」
「マリエルは家業で食べていけるでしょうけど、私はそういうわけにも」
レベル100を脇においても、命はかなき探索者稼業。最悪ケースは想定しておかないといけない。
「何言ってるの。ユイは治癒術士でしょ。神殿に相談すれば施術院でウェルカムカムじゃない?」
「……そうなの?」
なんとなくのイメージなのでマリエルも確言できない。
神殿関連でアンウェルカムだったり生活費も稼げないようなら、マリエルの工房を改装。
ヒーラーも常駐する国家認定薬剤師様の小売店計画もありかなと、妄想の枝は伸びていく。
なお、もし仮に探索者組合などで相談した場合、神殿も悪くはないですがウチはどうですかと強く勧誘されるだろう。
ヒーラー様をあがめよ。
☆
寮から移り住んだ駆け出し探索者向けの下宿にて、転生三人組は学院生活を振り返った。
「予定が大幅に狂って、3年で追い出される羽目になるとは」
「邪魔にはならないとはいえ、一代従士爵なんてもらってもなあ」
「予定は未定にして決定にならずとは、まー、そのとおりなんですけどね」
総括というか、愚痴だね。
予定通りに、思い通りに物事が運ばないって、それだけでストレスになるからね。
「3年ちょいでレベル12。レベル2まで1年近くかかってるが、それを無視して平均年4レベル」
「単純に引っ張ればレベル100まで25年。35歳前後か」
「そこらへんが現役で身体の動く限界だとも思います」
改めて、レベル100は遠いと溜息を吐く。
転生三人組の抱える経験値デバフのわりにメンバーとの差は開かなかったが、これは女子組の稼働率を軸にメンバーで調整した結果。
「前向きにとらえるなら、相応の狩場でならレベルは上がる」
「俺たちにとっての適正狩場は、若干背伸びなのが問題ではある」
「とはいえ装備や技量由来の問題は、ある程度は解決していくはずです」
過去の研究から、次のレベルへの必要霊格量には漸減傾向があるらしいとはわかっている。
厳密な数値化はできていないが、レベル1から2へは2倍が、レベル11から12へは1.9倍のような。
高レベル探索者の体感では、相応の階層をわたっていけるのであれば、レベル50くらいまでは順当にあがるんじゃないかとかなんとか。
アクヤの街のダンジョンにおけるトップ探索者がレベル60台ないし50台と言われるので、どこまで信用できる話かはさておくとして。
相応の魔物を相手にすれば相応の危険を伴うし、相応の階層まで潜るには相応の体制が必要だ。
「自分たちはやるしかないが、メンバーに無理強いはできんしなあ」
「女子には婚期もあるからな。頼れるのもあと数年か?」
やはりメンバーのプールを増やし、都度都度の人員を選抜してパーティを編成していくしかないかと話が進む。
その人員をどう確保するか。
「人材的な意味だと、養護院そのものよりも後輩をたどる方が有効だぞ、多分」
「引き継いだしな。途切れても、それはそれってことだろ」
卒院という区切りでもう十分だろうとヨッシーが言い、養護院との付き合いはフェードアウトの方針。
教育・訓練の程度から、学院に入らない子はアウトオブ眼中でもある。
同じ理由で、ベン兄さんのように一般通過探索者から募るというのも判断留保。
「直近だとアドルフとフィアフ、確実に引き込みたいですね」
「「異議なし」」
後輩女子組はお嫁さん候補として脇に置き、男子組を逃がしてはならないと決議する。
「二人に、いつ、どこまで秘密を明かすかは、現メンバーとも今後の検討とする」
「「異議なし」」
幸いに、現在のところ旧14号パーティのメンバーから秘密が漏れた気配はない。
だが、そう簡単に開示できるものでもない。
秘密というものは、知っている人が少ないから秘密でいられるのだ。
☆
秋季の第一週に、実家への報告旅からマックスとアズクルが帰ってきた。
アクヤの街に残されて落ち着かなかったオルガとグラムもこれで一安心と思いきや、お土産のリンゴとともに3泊4日のダンジョンアタックに誘われた。
「自分たちも開店休業とはいえ、元気だなあ」
旧14号パーティはメンバーの4人が不在。
比較的に近場のウィスタリア実家詣で組はともかく、王都行脚組はいつ帰ってくるか、そも帰ってこれるのか。
アクヤの街と現在の王都とは、馬車で10日~15日程度の距離感。
代官様御一行および便乗同行のジュスティーヌたちは、遅くとも祭週の初めころには王都に着いていたはずだ。
だが、帰ってくる気満々のジュスティーヌにしても、そこから先の予定が立たないと言っていた。
「となると、私との関係は留守中の浮気みたいなものかな?」
イケメンはさわやかに微笑んだ。
マックスの臨時パーティへのお誘いに、ユイは不参加、ひまひーま言っていたマリエルは参加と、総勢で8人。
便宜上のリーダーは主催のマックスなのだが、参謀格待遇のラッドに実際の運用を一任。
セバスがヒーラー兼照明係になり、後衛マリエルはハラスメント攻撃担当。
前衛兼ダメージソースはマックスたちに任せ、中衛ポジで対猪にヨッシー、斥候釣りだしにラッドという編成で第四層を流してきた。
「やはり君たちと一緒だと安定感が違うなあ」
「人数で余裕もって、疲労がたまる前に入れ替えるしな、安定してくれないと困る」
人員配置以外にも、ゲーム的に言えばヘイト・コントロールもしている。
ハラスメント牽制で敵勢の意識のリソースを無理矢理割かせる、気勢のタイミングを潰すなど。
直接的な目に見える効果とは言い難いので、知らないと、何をやっているのか理解できない。
加護においてわかりやすい戦闘スキルが当たりとされ、直接のダメージソースが尊ばれる世情。
デバフや地味なバフスキルがハズレとされるのは、運用の難しさと理解しがたさにも原因がある。
勢い探索者パーティも脳筋戦術になるし、それで片が付くのだから間違ってもいない。
間違っていないがゆえに、搦め手の価値が低く評価されている。
転生三人組にはそう思えるのだ。
「搦め手、か」
「誰も彼もがドツキアイ向きってわけじゃないからな」
組合の窓口にて、正銀貨5枚余りを各自の口座や財布に追加。
改めて青銅級への案内があり、マックスたちは口座等を本部に移すのと合わせ、昇格手続きをするそうだ。
旧14号パーティ側は、クリスとウィスタリアの帰りを待つと伝える。
いつ帰ってくるかわからないジュスティーヌとヴィオラは忘れよう。
☆
実家からのお迎えが待ち構えていたマリエルが連行され、んじゃあ解散かというところでマックスが打ち上げだと言いだした。
「すまない。君たちをダシに使った形になってしまった」
ホイホイとついていった近場のお食事処の個室に着座早々、マックスが頭を下げた。
「一度でも第四層の成果を見せておけば青銅級の案内がされるだろうと」
「ああ、そういう?」
転生三人組は、前回の臨時狩りでオルガとグラムが案内済みだから、当然マックスとアズクルも案内されるだろうとしか思っていなかった。
「青銅級になれば、探索者組合のサポートもより手厚くなる。例えば家探しなども」
マックスは騎士科3年卒のエリートとして一代騎士爵を得ている。
爵位持ちがいつまでも安宿に居るわけにはいかないのだ。
「だから、早期に、確実に、青銅級になっておきたかったのさ」
事情は一代従士爵をお持ちの転生三人組も似たり。
貴賓の見栄というのも大変なのだ。
「気にするなよ。なんせ俺たちは浮気相手だからな」
「……これは一本取られたな」
それはそれとして。
また第四層に付き合ってねと言われれば、二つ返事で応えてしまう。
だってイケメンのお誘いだし。




