7-11.旅立つ者と残る者
卒院の翌週、第十一週の火の曜日には、それぞれに旅立つ人たちのお見送り。
油断はよくないが、レベル10超えの戦闘慣れした面々である。
アクヤの街を出るといっても、便乗できそうな隊商など特には探さず、自分たちの都合を優先した。
まずはクリスとウィスタリア。
ウィスタリアの実家へ、卒院の報告とお付き合いのご挨拶的なサムシングでご一緒に。
「そんなに緊張せずとも、どうせわたくしは次女でございますし、念願かなってジュスティーヌ様にお仕えする約束も得ております」
「むむむぅりりりりりぃ」
ウィスタリアの実家は騎士爵もちの地方領主家。
いかに村一つといえど、その小さな世界の王様をやれるのが領地貴族。
なんちゃって一代従士爵の転生三人組や一代騎士爵のジュスティーヌとはおどしが違う。
クリス君、転生三人組なんかとつるんでいたせいで目立っていないが、例年であれば一代従士爵の当落線上の成績は残している。
転生三人組なんかとつるんでいたから残せた成績かもしれないが、そこはそれというもので。
そのクリスの好みにドンピシャだったせいでパーティに誘われ、パワーレベリングを受け、4年卒予定から3年卒へ履修計画修正に苦労したウィスタリアだが、こちらは普通の優秀。
クリスや三人組には普通に恩義もあるし、普通に縁故でジュスティーヌの侍女も内定し、普通にお付き合いして、普通に結婚すればいいやくらいの、ごくごく普通に優秀ロードを歩んでいる。
☆
距離を稼ぐために朝一での出発となった二人を見送り、その足で今度はマックスの見送りへ。
マックスも地方騎士家の出身だが、こちらは庶子。
卒院と一代騎士爵、マクシミリアン・シル・ニヤーストラの名乗りなどを報告をしに実家へ。
「戦商売には一発があるから傭兵団も考えた。しかし、探索者として大成、名をあげるのも魅力的だった」
強力なライバルもいるしねとウィンクされて、ヨッシーまたしてもイケメン堕ち。
セバスが後頭部から闇魔法【安息】で心を鎮めさせる。
まったく、イケメンとは存在そのものが罪なのだ。
パーティ『鋼の咆哮』は、探索者で身を立てる方針でいくそうだ。
オルガたちも、でけぇことやるでけぇ男になるんだと意気込んでいる。
騎士らしく、今回の帰省旅には学院から馬を借りていた。
「騎士になった騎士様はやっぱカッケえぜ」
映えるってヤツなのかな。
馬上のイケメンを見上げるグラムもうれしそうだ。
従者的なポジションとして筋肉質のアズクルが同道し、リメル男爵家に帰るドゥーレンも途中までは一緒。
「貴様らにも世話になった。いつでもリメル男爵家に俺を訪ねてくれ」
「何かの折にはぜひ」
一期一会の精神で、ドゥーレン君のもみあげにお別れを告げた転生三人組であった。
☆
水の曜日にはジュスティーヌとヴィオラが報告かねて王都へと出立。
王都までの距離と、なにより生来の立場ゆえに、アクヤの街の代官様の王都詣でに便乗するためこの日取り。
なお旅の荷物以外はヨッシーのコンテナ箱4つに詰められ、預かりをお願いされている。
「帰ってこれないかもしれないけど、その時は適当に処分しちゃって」
「ええー、私は絶対に帰ってきますからね」
ジュスティーヌは現国王の弟の愛人の娘ってな地雷ポジション。
王都で何があるかわかんないもんとヴィオラ。
「一代騎士爵を得たってことで、じゃあ、適当な貴族家から婚姻相手を探すかってなってもおかしくないじゃない」
「そんなー」
それでも貴族的価値観なら、適当な富豪か貴族家の後妻とか愛妾とかに押し込むか、よりはグレードアップしている。
そういうのがイヤで、半ば出奔してきた当人にとっては大差ないけど。
そもそもが、平民な愛人とはいっても、街などにお忍びで出かけて引っかけたというものでなければ、現王弟の近くにいた女性なわけで。
その場合、ジュスティーヌの母が、それなりの身元保証のある人物だったのは間違いない。
それこそどこぞの貴族の庶子とかね。
爵位はなくとも、血統は重視される要素だ。
転生三人組には、家の存続に養子縁組当たり前な前世日本の戦国知識が、かえって理解の邪魔になっている。
ものすごく単純に言えば、今世の三人の生きている王国社会では、家名は血統の付属品。血筋を重視する価値観だ。
「うーん。それはそれでお幸せに、なんですかねえ」
「ひどいです。皆さんなしでは生きられない体にしておいて!」
ジュスティーヌはわざとらしい泣き顔を両手で覆った。
「誤解を招くようなことを言うな」
「私の胃袋はもうメロメロなんですよ!」
「ごめんね、ティナがポンコツで本当にごめんね」
なお、週の配給品として、生菓子・ポテチ・コーラの背徳三点セットはヴィオラもご愛用。
似たもの主従ではあるのだ。
☆
旅立つ各自への餞別や手土産などで【通信販売】の出費も嵩み、累計500万を超えてRank.4になった。
「このタイミングかあ」
「前回から2年近い? でもなあ、どれだけポイントを使うか勝負となると」
「浪費してたらポイント枯渇のほうが問題になりますし」
Rank.4の特徴は、酒・タバコ類の解禁、雑貨類・工具類もホームセンター級に拡張。
「って、やっぱり近場のホームセンターじゃないか」
プライベートブランドならぬ、オリジナル商品群のプロダクトブランドで判別した。
「ホムセン立てこもりはゾンビパニックの定番。これで物に困るってことは、まずなくなったな」
「なんにしても入手できるモノが増えるのはいいことのはずです」
「それはそう」
直接的なモノがなくても、DIY的に作ればいいじゃないができるのがホームセンターの魅力。
これで街にゾンビがあふれても安心だね。
☆
ジュスティーヌとヴィオラを見送ったあと、ゾンビなど出る気配もない平和な街を歩きながら飯どころを散策。
同じように散策中のオルガとグラムに出会った。
「うぃっす」
「よう」
そのまま近くの飯屋に突入。
パーティの頭であるマックスと、従者的についていったアズクルが不在で、留守番中の暇に困っているという。
「それなあ。俺たちも急にやることなくなってぽっかり感ていうのか」
「だよなあ。俺ら、学院で突っ走ってきたもんなあ」
それでも三人組には、明後日の土の曜日から4泊5日でアドルフたちの狩りに付き合う予定が入っている。
「アドルフって、フィアフんとこのリーダーか。今の時期って第三層だっけ?」
「レベル8で、第四層、小一時間でも見てみたいってご要望だな」
「おいおい無茶するなあ。無理させるんじゃねーぞ」
「そりゃまあ、僕たちも無理ききませんし」
ウィスタリアの経験より、レベル8での第四層は霊格酔いが発生する。
あの『最速理論』でもレベル9から。明かに適正狩場ではないのだ。
ゲート付近で釣りだして、一戦して戻るつもりだと説明する。
「ヨルグたちがフィアフの面倒見るなら、俺らは生意気なジョゼの世話してやっか」
「1年次の夏ってと、第二層に入ったあたりか。ならなんとでもなるな」
ジョゼことジョゼフ君、三人組の部屋でよく会っていたし、オルガたちにとって養護院の後輩でもあるから気にはしているのだろう。
ジョゼフたちのパーティには騎士科のリーダーがいるが、実態はジョゼフが操る黒幕体制。
ジョゼフとカール、ついでにプリムローズに話を通せば意思決定はされる。
オルガとグラムは、善は急げとばかりに学院に向かって行った。
☆
アドルフたちにゲート部屋先の通路で待機させ、ラッドがゴブリン小隊を釣ってくる。
準備万端整えていたはずが、明らかな力負けを実感させられて、アドルフたちは目に見えてへこんだ。
第三層でつけた自信、膨らみすぎた空気は抜けたかもしれない。
「遠距離交じりが厄介」
「連携も、狼たちとは別物」
予定通り、一戦して第三層遺跡拠点に戻り軽い反省会。
「とまあ、単純に強い。『最速理論』のレベル9からも、諸々の前提条件コミでの話だからな」
アドルフたちのパーティは、魔術士一人だけで他全部前衛という、魔術士がいるだけマシな脳筋編成。
贅沢は言えないが、役割の分担を意識するだけでも大分違うのではないかと指摘する。
「例えばフィアフは気配を消すのがうまいだろ。斥候向きかもしれない」
自衛のために身についたワザ、ですかねぇ。フィアフは可愛いからなあ。
「僕が斥候で、さっきのラッドみたいに敵を釣りだしたり様子を見たり?」
「斥候はパーティの目。先の状況がわかっていればどう対応するか決められるからな」
オルレアは素早いから、避け前衛か中衛で手が欲しいところをサポート。
ジャルマリスは敵をしとめるダメージソース。
アドルフは過不足ない攻撃前衛。
他のメンバーは、付き合いがなくてよくわからない。
落胆されてしまったが、だってしょうがないじゃない。
「一般論でいえば、官吏科さんは全体を見てサポートに、魔術科さんはダメージソース?」
「性格やスキル、加護なんかも絡むから、知らない相手だとなあ」
「それは、そうなんですが……」
あとはパーティの中で話し合うようにと、なんだか指導めいた事を言って締め。
さすがに第四層は無理と納得したので、第三層での狩りを邪魔をしないよう保険役の2人だけ同行し、順繰りで第三層拠点で荷物番。
ケガ無く日程を消化して地上に戻った。




