7-09.栄光と名誉ある卒院
ヨッシー、ラッド、セバスの転生発覚&再会から丸3年を経過。
足掛け4回目の夏至祭週を経て、学院3年次の夏季が始まった。
第一週の指導面談では毎度のごとく。
「卒院したくないでーす」
「このバカやろー」
講師側も待ち構えていたため、期待に応えなければの芸人魂が言わせたのだ。
実際問題として必須単位の取得は終わっているし、組合情報でレベル10も、何かしらの武術の【Lv.2/未熟者】もクリア認定。
卒院は、もうどうしようもないと諦めている。
後節では闇の曜日に講座を入れられないのは、以前ベンジャミン兄さんに聞いた通り。
「逆に、卒院までにすること、しておくべきことってありますか?」
「うーん、こうなるともう、ケガしないことと、探索科寮での行事準備くらいだろうなあ」
指導室を出がけに慌てて呼び止められた。
「すまん、服を作っておいてくれ。式典で着る、偉いさんの前でも恥ずかしくない華美過ぎない、いい塩梅の感じの礼服だ」
「いい塩梅って」
仕立屋にそのまま伝えりゃ何とかなるとのことだったので、お針子さんなユイの母親経由で元締めの仕立屋を紹介してもらい、9人そろって注文を出す。
ジュスティーヌあたりは式典用の服くらい持っていそうだが、記念ですよお揃いですよと意気込まれては水は差せない。
「なるほどなるほど。卒院式典でご着用の礼服をいい塩梅に、でございますな」
お任せくださいとのことで採寸し、仮縫いが終わったら合わせるのでいついつにまた来てくださいと念押しされる。
「時間はあるようでないのがこの業界。特急料金はお高くつきますのでご注意を」
一人頭クオルタ銀貨14枚。
これでも身内割引込みのお値段でございます。
☆
実家なりへは、祭週で帰った時などに卒院見込みだと言ってあるし、どのみち式典には、ご家族といえど部外者は参列できない。
卒院後に、改めてご挨拶にうかがうことになるだろう。
夏季前節ではベンジャミン兄さんの教えに従い、卒院後の住処探しを行った。
あいにくベン兄さんと同じ宿は空きなし。
似たような下宿を何件か見て回って、間口付近がきれいに掃除されているところで部屋はないかをたずね、無事契約。
三人で一部屋を押さえ、次の秋分祭週明けまでの部屋代クオルタ銀貨2枚を支払う。
ユイとマリエルは、それぞれの実家住みの予定。
「わたしはポーション工房の跡継ぎ確定だから、逆に実家以外に住めないわよ」
「家があるのに宿借りる必要はないし」
クリス、ウィスタリアは同棲を計画中?
ウィスタリアは領主騎士家からアクヤの街の学院にきている。
「卒院したら、まず実家に報告であります。宿探しはアクヤに帰ってきてからでも遅くはないかと」
「祭週あけなら人出も落ち着いているだろうしね」
遠く王都の方から来ているジュスティーヌとヴィオラも節目のため、定期報告と違って一度戻るという。
自ら語らない限り聞かない。
転生三人組自身が脛に瑕を持つ身としての一種の誠実さではあったが、ジュスティーヌも、知られていて当然だと思っているので語らない。
もちろん、ゴシップ的な有名人であり噂は勝手に耳に入ってくる。
王家の連枝、現王弟の愛人の子であり、庶子として認知はされているとかなんとか云々。
「世が世ならお姫様のはずなのに」
「いぇーい!」
「いぇーいじゃないわよ!」
主従の仲は良好です。
☆
マックスたちも春季の後節にレベル10からの追い込みで第四層をチラチラし、無事にレベル12に届いたそうだ。
こちらも礼服作っておくように言われたと、誰の隣にいても違和感のない特徴のないグラムがグチグチ。
「何度も着るようなモンでもないのに銀貨、それも正銀貨で4枚もだぞ」
アズクルもそのカネで鎧下がどーこうと言い出し、ヨッシーが思わず笑みをこぼした。
「ヨルグぅ、なんで笑ってるんだよ」
「いや、銀貨の数枚、愚痴程度で払えるようになったんだなってな」
「……まあ、そうなんだがよ」
オルガは鼻の頭をかきながら、照れくさそうに、だが誇らしそうにそっぽを向いた。
リラとベルナルドは卒院後には衛視隊に入るそうだ。
「あいつらは、仲良くやってくれってな」
官吏科のゴートはこちらも衛視隊の事務局に内定。
リメル男爵家のドゥーレンは実家に戻り内政官になる予定。
それぞれに初志貫徹というところか。
メンバーの去る『鋼の咆哮』は、マックスとオルガたちだけになってしまう。
「大将もなぁ、追い込み終わって気が抜けたのか、先の話はしばらく待ってくれってよ」
「うーん。卒院後に何するか、まだ迷ってるのかもな」
「らしくねぇよなあ。いっちょ気合いれてやっか?」
アズクルが暑苦しく筋肉を誇示した。
後日マックスは、オルガたちに励まされたとさわやかなイケメン笑顔を見せてくれた。
卒院後は探索者として身を立てるそうだ。
☆
第六週が旧14号パーティの学院生時代最後の狩りとなった。
「最後だからね、多少の無理はするわよ」
若干調子悪そうなヴィオラだったが、どうしようもないときは拠点で寝かせてねと9人全員参加。
この回でレベルが上がったのはマリエルのみ。
レベル12は転生三人組とウィスタリア。他は全員レベル13で卒院を迎える。
☆
最後の仕上げと探索科寮での企画と準備で後節が過ぎ、いよいよ第十週・闇の曜日。
今年度の卒院者は大講堂に集められ、偉い人たちが参列の下、式典が行われた。
卒院者を代表し、ジュスティーヌとマックが並んで先頭に立ち、各科の最前列にそれぞれのパーティメンバーがそろう。
来賓のお歴々の目に留まる配置に、礼服はこのためかと得心。
さて、転生三人組の内実を知っているとアレなのだけれど、外面の事実だけ見れば、真面目に、誠実に、勉学と武術の習得・修得に励んだ優等生なのよ。
講座授業において、1年次の初めより静かに話を聞く姿勢ができていただけではなく、安くはない紙束を持ち込んで逐次メモを取る熱心さ。
三年間で465単位を積み上げた者は、探索科では過去に例を見ない。
学び足りないから卒院したくないなどと駄々をこねたのは困りものだったが、その熱意は悪くない。
だいたい講師とは、人に教え導くことを生業にした者たちだ。学びを求める者を嫌う道理はない。
武術においては学院で伝授する9系統を、さらには馬術3系統を、そのいずれも【Lv.1/初心者】以上にまで修めた努力家。
それだけの忙しさのなかでも、同期への支援を惜しまず、後輩の面倒も見ている。
探索科とは隔意を置きがちな官吏科生との仲も良好で、今年度の同科代表のリメル男爵家子息を筆頭に、非公式にだが三人の親派とも呼べるグループが存在する。
さらに挙げよう。
騎士科3年卒のエリート2人を支え…
実は魔術界隈に衝撃を与えた、やけに明るい光の魔術に円環形状という革命をもたらし…
同じく魔術界隈に驚愕を与えた恐怖の魔改造。かえし付きのうえに数カ所に開いた穴が中空状の内部につながっている、それって血抜きの……な、闇魔術【影槍】を殺意マシマシ凶悪シロモノに刷新…
家政科3年卒の高級使用人候補を2人生み出し…
薬剤科3年卒の薬剤師資格試問突破者にして系統外魔術【ポーション製作】の使い手を、無属性魔術士(※表示は【魔法使い】)として覚醒させ…
今年次において、学院教育の輝かしい功績と称されるそのすべてに、三人組の影響があったのではないか、と。
箇条書きマジックすごいですね……全部事実ジャン!
仕上げは騎士科ロードマップとして知られるダンジョン攻略の手引きに、補遺という形で新たな知見を加えたこと。
補助的な道具の製作にも関わっているとの噂もある。
実際に、同期以降には数週間分の底上げ効果が見られている。
かつて『ダンジョン最速理論』を残せし界隈の雄が手放しで褒める姿は、周囲にいかなる影響を与えたか。
なるほど、主催のジュスティーヌの功績ということになっているし、トップに立つ者に栄光が注がれるのは当然。
だが光の陰に、優秀なブレーンが潜んでいることもまた、否定するものでもない。
講師陣文句なしで一代従士爵を申請。
例年でいえば騎士科3年卒はいても1人程度。騎士科4年卒のうちの1人か2人に一代従士爵。
アクヤの街を治める代官様、これを今年はすこし多いのな・優秀な人材が多いのはいいことだ程度の事務手続きとして承認。
かくして転生三人組は、衆人環視の壇上にて従士爵を授かるという、輝かしき栄誉ある晒しものにされたのであった。
☆
王国における爵位制度では、騎士爵、士爵、従士爵は『準貴族』。
うち士爵はもっぱら上級官吏が仕事上与えられる官爵で、在職中のみ有効であり世襲はされない。
一般ピープルからすれば、いずれも十分にお貴族様である。
ともかく、一代とはいえ騎士爵や従士爵を賜った以上、家名が必要になる。
騎士科3年卒のエリートとして一代騎士爵を得た二人は、それぞれに新たな家名を名乗った。
母の名前・ブバリアの花からとって、ジュスティーヌ・シル・ボーヴァルディ。
論理的な・正しいの意味からとって、マクシミリアン・シル・ニヤーストラ。
一代従士爵を得たどっかの転生三人組も頭をひねった末、前世の名前からネタを拾ってもうこれでいいやとした。
ラドクリフ・ティル・タイキャスル、ヨルグ・ティル・グッドマン、セバスチャン・ティル・アローが誕生した。




