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道連れ転生  作者: 凡鳥工房
7章.学院編Ⅴ・卒院へ

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7-08.選ばれし者《エリート》



 春季の定番になりつつあるお誕生日おめでとうの会だが、指導面談の直後という時期が悪く、愚痴や泣き言の発散場になってしまっている。


 そんな中でも明るい話題もある。


「マリエル、薬剤師資格取得おめでとう!」

「「おめでとー」」

「いぇーい!!」


 王国が発行し国王が署名した認定状を高々と掲げ、調子に乗っている女子がいるが、めでたい話なので優しくスルーしておこう。

 冬季の後半は、本当に追い詰められていたからね。


 だが、陽の者あれば陰の者もまたあり。


 クリスは実地研修の結果、すっかり自信を失っていた。


 作法や秘書業務には問題はない。細かいところは実務で磨けばいい。

 家政科で学び修めた使用人、従僕見習いとして文句はないと評価はされた。


 が、執事や家令といったお家を動かす中枢となると、例えば専門的な文書作成能力に計数はどうか。


 研修を行ったのが代官屋敷ということもあり、都市計画や政策立案のための基礎知識、裁判・司法方面、軍事的なことなどなど。


 むろん、自分でできなくともよい。

 しかし少なくとも、どういうものであるかを知り、任せた者が手抜きや不正を行っていないかを判断できなければならない。


「そのためには知識が、もっと知識が……」

「考えすぎでありますよ」


 業務範囲を広くとらえすぎだし、すべてを半人前の時期に修めてしまえという話でもないでしょうと。


 ウィスタリアもクリス同様の家政科・高級使用人課程だが、例えば女中を束ねる女中頭と女主人に仕える侍女とではだいぶ違う。


 前者はそれこそ下級使用人たる女中からの叩き上げが一般ルートで、現場をよく知るおかみさん的な信頼も厚い。


 ウィスタリアの目指す侍女は、現場の働き人(ライン)である女中ではなく、もともとは下位貴族の娘が上位貴族の女性に侍る(スタッフ)立ち位置。


 女主人の秘書業務や交友関係の調整、その範囲での政治的見識は必要だろう。

 場合によっては領地経営に関わることもあるかもしれない。


 だが、網羅的な広い見識が卒院したてで求められるものでもない。


 けれどまあ、これも自負心の裏返しかなと、ウィスタリアはクリスを慰めるにとどめた。



   ☆



 クリスの嘆きにジュスティーヌも応じる。


「やればやるほど足りないというのがわかるんです! だけど時間も理解力も足りてないんですよ!」


 半人前時代で本科生は一区切りにして、必要になったら聴講生制度。

 いわば第二部で職業訓練校をやるという学院運用はともかくとして。


「だから自分たちは6年くらい粘りたかったのに……」


 卒院に向けて追い込まれている三人組は、元来、身体を作る時期だと認識していたのも大きい。


 成長期に伴いガツンと身長が伸び、全体に肉付きが追い付いていない、危なげな細さのあるこの時期に、じっくりと時間をかけて学んで身体づくりに取り組みたかったのに。

 何が悲しゅうて学院を追い出され、みなし一人前の職業探索者などというやくざ稼業にまい進しなければならないのか。


 ……いや、そこまで無理にまい進する必要はないんだけどね。

 それこそ季毎に3~4回もダンジョンアタックすれば、庶民の数倍の年収は手にできるわけで。


 レベル100未達でのペナルティ確約があるとはいえ、転生三人組は、変なところで真面目だからなあ。


「くうぅ、なぜ私は3年卒のエリートなどにこだわってしまったのか」

「ティナぁ」


 いまさら何をとヴィオラはあきれ顔。


 いえね、3年で必要単位を修めて、武術も【Lv.4/練達者ジャーニーマン】まで持っていき、レベル12を達成できるパーティを運営って。

 それ、エリートじゃなくてなんなんですかという話。


 現に、足を引っ張っていた連中にしても納得はしている。

 嫉妬もするけど。人間だもの。


「卒院はもうどうしようもない。次だ次」

「知識に関しては聴講生って制度があるそうですしね」

「聴講生ってあれでしょ? 色違いの学章つけたおじさんおばさん」


 魔術科のヴィオラにはよく見かける人たちだ。


「射爆場が使えるのが大きいですね。ユイやヴィオラ、それにマリエルの訓練、いちいちダンジョンで適当な場所を探すわけにもいかないでしょうし」

「あー、中等以上の階梯を修めるのにね」

「ほえ~」


 ユイちゃんはユイちゃんだった。



   ☆



 秘密基地はロマン。異論は認めない。


 というわけで、大断崖の崖底から40m地点に横穴を掘り、侵入防止扉と『旧14号パーティ』の表札もつけて拠点化した。


 なるべく目立ちたくない開口部は高さ控え目。

 それ以外は崩落を避けるために天井面をアーチ状にして、あまり大きな空間は作らない。


 侵入防止扉はマルク工房でお願いした頑丈優先のシロモノで、ロイヤルサルーン(命名:ヨッシー)の降り立つエントランス奥に設置。

 左右両開きの二枚扉で、格納庫および居住部へと続く。


 その他の通路部分や各部屋の扉は上に通気用のスリットを設けた。

 当初は筵でも掛けておくつもりだったのだが、マルク親方が作ってくれたので。


 家屋全般は大工の領分だが、扉板のような家具の延長線上でコーディネイトが必要なモノの場合はマルク親方も堂々と作れるので張り切っていたみたい。


 トイレや広間などは換気用。

 洗い場には追加で排水用。

 いずれも崖面に向かって細い穴をくりぬき、網を張って小石を詰め、ケイブバットの侵入を防ぐ。


 ダンジョンの掃除屋スカベンジスライムは、土や石の類は消化しない特性がある。

 消化できていたら、ダンジョン自体がなくなってしまうしね。


 なので、深い穴を掘って、土を固めてつくったブロックでふたをすれば逃げられる心配はまずない。

 拾ってきたスカベンジスライム先生を新居にご案内してトイレや生ごみ処理場の完成。


 第六週の狩りで宿泊拠点としての運用を開始した。


「躯体部分だけで、内装はまだまだこれからです」

「ダンジョン内なんですよね?」


「楽に過ごせるにこしたことはないだろ」

「それは、そうね」


 ついでに、広間とは別に寝室が欲しいとの強い強いご要望が女子方面から出された。

 洞窟広間ならいざ知らず、室内にテントを並べるのは、なにか違うと。


 追加施工で女子部屋・男子部屋の掘削を行いスケジュールが玉突きになったが、後には崖底から20m地点の前線陣地も作成。


 前線陣地は狭間めいた間口部と、メンバーが展開する広間を確保。

 秘密基地からは懸垂下降用のシャフト、8mを3本乗り換えるカタチでつないだ。


 掘削で出た土砂の大半は学院のグラウンドで小山を成長させるのに使ったが、両拠点内およびヨッシーの【個人倉庫】内に麻袋俵積みでも残してある。


「土嚢としてバリケードにも使えるしな」


 未使用時の前線陣地の間口部が、まさに土嚢バリケードで塞がれている。



   ☆



 第四層には第一層につながる大断崖とはまた別に、下方向への大断崖も暗い間口をあけている。


「これも、どこかにつながってるのかね?」


 覗き込んでいたラッドが小石を蹴り落とすが、かつんかつんと崖面に当たる反響音はすれど、着底の判断はできなかった。


「洞窟タイプが次に出るのは、第七層か第八層ですけど」

「さすがに今今で確認できる階層じゃないな」


 第四層内で、第三層へのゲートのある小部屋から第五層へのゲートある小部屋へは、幹線的な道なりで4km弱。


 大断崖の底から第三層ゲートへは道なり7km、同じく第五層ゲートへ道なり7km、ついでに下方向大断崖へは2kmくらい。


「近すぎても面倒ですし」


 ゲートから往復5時間くらいの索敵経路範囲から微妙に外れ、獲物に困ることもない。

 ほどよい距離だとラッドも頷いた。


 人目が多ければ、大断崖ショートカットがばれる可能性も上がる。

 いや、組合には何かをしていることはバレているだろうが、何も言ってこないのでヨシ。


 下る際には無属性魔法【空間把握・改】で、マジカル的なエコー探査・魔力波ソナー的に『ピン(PING)を打って』周辺に人がいないことを確認。

 上ってきたときは、明かりの有無で降着するか否かを判断。


 サイキック飛行術なんて属人的な技術、公開するにはデメリットのほうが大きいと口をつぐむ。


 極論、バレるのはいいのだ。

 勤労奉仕を要求されるなどの面倒ごとがイヤなだけで。


 秘密基地建設に活躍した土魔法【坑穴ディグ・改】の可能性も議論された。


 索敵効率を上げるために、新経路の開削も案にはのぼったが、地図問題がある。


 ベンジャミン兄さんたちがチラ見した範囲や旧14号パーティが記録した第四層の地図は、歩測による距離基準でつじつまを合わせたモノだ。

 経路図であって、座標図ではない。


 今後の課題は第四層の地図の更新、そしてベン兄さんに頼れなくなる第五層以降の情報収集。


 卒院絡まりのドタバタが収まったら、そのあたりからやっていくことになる。



   ☆



 春季は第六週、第十一週、第十二週の3回の狩りを行った。

 行きは通常ルート、2日目以降に秘密基地拠点に泊まり、帰りをショートカット。


 1回の収入がクオルタ銀貨68枚前後。

 第四層での滞在時間の伸びに応じて収入も飛び跳ねた。


 装備更新を控えていることもあり、三人の口座には庶民が4年分以上十分に暮らしていけるだけの額が積まれている。


 三人組がレベル12に、3回参加のクリスがレベル13。

 2回参加メンツでは、ジュスティーヌ、ユイ、ヴィオラがレベル13、マリエルとウィスタリアがレベル12となっている。





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― 新着の感想 ―
数日かけて読まさせていただきました。 なんと表現すればいいのか、うーん。異世界転移ものなのに劇的なイベントに巻き込まれるわけでもない、主人公3人のマイペースとも言えるゆったりとした物語展開。とても好…
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