7-06.ロイヤルサルーンと秘密基地計画
冬季第六週、週末の無の曜日。
クリスの想い人、ウィスタリアの精神と味覚への容赦のない攻撃でお昼を回ってしまったが、この日に旧14号パーティのメンバーが集まった本来の理由は別にある。
マルク工房において作成してもらった8人乗りのロイヤルサルーン(命名:ヨッシー)での実験だ。
まず3人用の試作品、スーパーサルーン(命名:ヨッシー)に乗り込み空中浮遊をして見せる。
「う、浮いているであります」
「すごいすごいすごい!」
「ねえねえねえねえねえねえ、これって無属性の【見えざる手】からの応用発展って、わたしにもできる可能性あるってことだよねよねよね」
「近い、近い!」
降りてきたセバスにマリエルがすごい勢いでかぶりつき、ユイが引きはがす。
念力で空を飛ぶ。
大断崖を用いた第四層へのショートカットについて、転生三人組がひねり出したのがこの方法。
そのために開発されたのが無属性魔法【念動手】であり、【念動手】によって動かされる箱、スーパーサルーンである。
ロイヤルサルーンは、3人乗りのスーパーサルーンを引き延ばした幅120cm・長さ240cm。手すり高さは変わらず80cm。
軽自動車の荷台よりちょっと狭くて長いくらい。
まず、9人全員乗って強度に問題はないか確認。
特に指示をしなかった結果、全員が手すりを掴む、外向きの姿勢を取った。
短辺・操縦席にセバス1人で反対側にクリスとウィスタリア。残りは長辺に3人ずつお尻合いの姿勢。
「割と広いのね?」
「装備や荷物コミだとどうだろう」
「装備は外せないからな」
負荷の問題から、荷物は極力ヨッシーの【個人倉庫】に収納する方針となっている。
各自が携行するのは手回り品と非常用の食糧。
たとえ拠点に荷物番と一緒に置いておく運用でも、まるっきり手ぶらってことはないからね。
乗車(?)確認の次は【念動手】の最大負荷設定。
全員、装備着用状態の臨戦態勢を想定しているため、安全係数もかけて1500kgを確保。
「MP35。感覚的に、MP30で1200kgくらいなので、これは決め打ちします」
仕上げが稼働時間。重しを追加し、最大負荷で実際に浮遊移動させる。
10分のケースと、5分のケースを確認したところでMP残量が限界となった。
「MP55の10分と、MP45の5分と思ってください。軽くなれば稼働時間は伸びますが、見込みで動かすものでもないので」
前者が通常、後者が緊急用。
重量余裕分の稼働時間の伸びと分速80m以上の速度で、第四層から第一層まで脱出する分には問題ないだろう。
先頭に砂時計をセットして操縦席めいた雰囲気も醸し出し、ロイヤルサルーンの完成となった。
お代?
ちょっと大き目だけど、スーパーもロイヤルもただの箱枠だしね。
追加のコンテナ箱ともども、折々の手土産と相殺にしてくれないかと親方が言っています。
なんだかむしろごめんなさいな転生三人組なのですが、手羽先持ってこないとそれはそれで周囲がうるさいのです。
三人への対価を考えないといけないマルク親方も板挟みなのよ。
検収としてヨッシーが【個人倉庫】に収納しても何も言わない。
明らかに偽・魔法鞄の容量を超えていると思ったとしても、マルク親方の口は堅いのです。
☆
再び親方邸の応接室に場を移し、大断崖を用いたショートカットについて、もう一つの計画を説明する。
「ショートカットできること自体は、スーパーサルーンで確認済みだ」
メンバーの気分的なもの以外の問題は、実験時に崖底にゴブリンズがいて、あわててひき逃げアタックをかまして飛び回った苦い思い出。
「当面は、行きは通常ルートを使うしかないから、あくまでも将来の計画な」
「もう動かせるのに、なんで今すぐじゃなくて将来なの?」
「ゴブリンズが待ち構えていた場合、強行か、時間切れ墜落の危険を抱えたまま引き返せって?」
「ああ、いや、そうだね。そうなるのか」
問題があった場合に、時間的に余裕をもって移動できる範囲に避難場所が欲しい。
ついでに、そこをそのまま拠点化すればいい。
転生三人組は、成功状況を具体的にしたうえで失敗ケースから入る。
トラブルの芽を事前にどこまで摘み取れるかが勝負だと思っているので。
「崖底から少し上に発着場兼休憩所、あるいは拠点を設けたいと思っています」
「理解はできた」
クリスがテーブルに肘を乗せ、額に手を当てている。
いや、ウィスタリアも、ヴィオラもマリエルもだ。
したり顔で頷いているのはユイとジュスティーヌしかいない。
「秘密基地というものですね。その言葉には憧れがあります」
もちろん、この計画にも問題はある。
セバスのMPだ。
2段階で【念動手】を発動すると、10分版(MP55)と5分版(MP45)でMP100を消耗。
さらに緊急脱出用にMPを残すとなると、もはや魔法は使えない。
これでは後衛として戦力にならないし、前衛に出すのも万が一が怖い。
「安全にはかえられんから、極論、拠点で1泊回復待ちも視野なんだ」
「そのための崖底よりの崖面拠点、秘密基地の準備をこれから進めるつもりです」
「んで、拠点できるまでは、行きは通常ルートを使う」
慎重に、安全を確保して。それが旧14号パーティの方針だ。
「手伝いはいりますか?」
ユイの申し出にセバスは首を振った。
「スーパーサルーン、4人乗れないことはないが」
「除けた土砂の袋詰めって、わりと力仕事だからなあ」
まして物事には順番がある。
まずセバスが一人で足場を確保して、スーパーサルーンの発着場を造ったうえで、三人でロイヤルサルーンの発着場を掘削。
MPに限りはあるものの、穴掘りに土魔法【坑穴改】が使えることは幸いだ。
第一層で気持ち隠蔽発着場をつくる際にも活躍した。
およそ20m刻みの足場なら、命綱降下実験のときにつくってあるので、底面から40mのところを拡張していこうと目論んでいる。
ついでに、秘密基地周辺に直接ロープ下降してこれないよう、作った足場を壊しておく。
魔物がロッククライミングするかどうかは知らないが、秘密基地にも鍵付き扉などで最低限の対策はとる。
「崖底に魔物がいて、秘密基地に退避した場合。打ち下ろしで40mは厳しいと思うのであります」
「だが、ゴブリンズの弓矢・魔法の射程を考えると、そのくらいの高度は確保したい」
倒さないと、降りられない。
どこかに行くまで待ってもいいのだが、受動的すぎる姿勢は望ましくない。
崖底から20mのところにも、前線陣地的な展開場をつくってほしいと逆に要望される。
秘密基地拠点から前線陣地まではシャフトを通せばいいと言う。
「20mの懸垂下降は可能であります。拠点間移動にセバス様のMPは使わずに済むのであります」
「あ、はい」
ヨッシーがガタガタ震えているので、直通20mシャフトは止めておこうとセバスは思った。
前線陣地から崖底までの懸垂下降については考えない。
そこはあくまでも崖底に魔物がいた場合の攻撃拠点。
下手に降下設備など備えて、逆に登ってこられても困るという判断だ。
☆
中休みも明けて第七週。
前節をダンジョンアタックにあてたため、秋季末の休業から数えると実に中9週間をあけての講座授業は、率直に言ってきつかった。
レベル12が見えてきて、あとは単位に専念ですとか言っていたジュスティーヌが、死んだ魚のような目で彷徨っていたのでそっとヴィオラを押しやる。
「ちょっと」
「ごめん、僕たちにも余裕はない」
授業復帰に苦しんでいるのはジュスティーヌだけではない。
アタック中は休日2日じゃ疲れが残るなあなどと思っていたものの、身体や頭がすっかり蛮族モードに切り替わっていたのだ。
転生三人組もまた、頭脳労働を営む文明人への復帰を要した。
「ジュスティーヌの面倒を見るのはお姉ちゃんの役目でしょ」
「あたしはティナの姉じゃないのに」
パーティ全体のお姉ちゃん?
☆
なんとか後節をやり過ごし、季末休業に入った。
ダンジョン活動でのメンバー構成は流動的。
クリスは従僕見習いとして、アクヤの街の代官屋敷での特別実地研修に参加中のため第十一週が不在。
マリエルは薬剤師資格取得のため、第十一週・第十二週ともに不参加。
ユイとヴィオラが交互に、それぞれ1回ずつ不参加。
行きは通常ルートで、中日も第三層拠点泊の無理をしない日程、帰りを第四層を抜けてショートカット。
収入は2回参加でクオルタ銀貨77枚超。帰り行程分でおまけがついている。
そろそろ卒院後も考え、装備に突っ込むのは控え目に。
不参加のマリエル、両方参加だけど霊格徴収デバフのきつい転生三人組はレベル11のママ。
1回参加のクリス、ユイ、ヴィオラと、2回参加のジュスティーヌ、そろってレベル12に到達。
ウィスタリアはレベル8から9、そして10となった。
どちらの回も中日の1日は霊格酔いで拠点荷物番。
「わたくしの技量がみなさまより劣るのは承知。斥候役に志願したいのであります」
パワーレベリングの弊害、積むべき修練を積まないままに霊格レベルだけが上がっている。
しかし、レベルアップ後に修練を積んではいけないという法もない。
ウィスタリアはあえて厳しい道に自ら志願して見せた。
もちろん転生三人組は、やる気のある子が大好きである。




