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道連れ転生  作者: 凡鳥工房
7章.学院編Ⅴ・卒院へ

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7-05.ジュスティーヌ・ラブラブセンサー(自称)



 冬季第六週、週末の無の曜日。


「おはようございますであります」


 この日の実験にウィスタリアは無関係の予定であったのだが、集合場所の探索科寮の食堂の隅っこに、誰よりも早くクリスとともに現れた。


 冷静沈着なウィスタリアに珍しく、表情と、そして髪のハネに明らかに緊張が見て取れた。


 やはりネームドは、髪の情報量が違うんだよとはヨッシー談。

 ヨッシー自身は相変わらず雑な短髪で、その論で行けばモブの中のモブってことになる。


 三人とクリスだけで聞いた方がいいのか皆を待つかと問うたところ、皆様を待ちたいとのことだったので、全員がそろうまで雑談で雰囲気を和ます。


「以前もいただきましたが、よいクッキーであります。雑味のない甘さ、バターを練りこまれた高級品、美味しゅうございます」

「あ、うん」


 まさか前世日本だと、量販店で税別398円で売ってそうな缶入りのクッキーとは言えぬ三人組は、あいまいな笑顔を浮かべるしかなかった。



   ☆



 そろった皆を前に、クリスとウィスタリアは立ち上がった。


「クリスから聞くところによると、知ってしまうと足抜けのできない秘密であるとか」

「もちろん、悪事の類ではないとも伝えたよ」


 並んで立つクリスとウィスタリアの微妙な距離感に、ジュスティーヌ・ラブラブセンサー(自称)の感度は高まっている。


「この感じ(フィール)……もしかして、特に波乱なくクリス君とウィスタリアのカップリング成立とみなしてよろしいですか!?」

「だって、レベル上げの件とかクリスに愚痴っていたんでしょ? 仲の悪い相手、気のない相手にそんなことする?」

「……しないわねぇ」


 ユイちゃんの言が正しい。


 で、愚痴った相手が最高の環境を用意してくれました。

 自分は彼の好みドンピシャです。

 同じパーティ、そして将来的にはクランに誘われています。

 なにやら事情はあるようですが、悪事の類ではないと力説しています。


「これはもう、逃げられないということでありましょう」

「逃げるって、どこへですか?」

「わたくしの定めた未来から、であります」


 いささか回りくどい言い回しだが、二人で手を握り合っていれば意味するところはわかる。


「けっ、おめでとうと言ってやる」

「いや待ってよラッド、君にはお嫁さんになるって後輩がいるよね?」


 それはそれ、これはこれなのだ。


 今がまさに世界の広がるプリムローズが、数年後も同じ事を言っているとは限らないではないか。

 将来には振られたとしても、そんなもんだろうと考えるラッドである。


「その無関心さはプリムちゃんがかわいそう」

「いえ、自分への自信の揺らぎがそっけない態度をとらせていると見ました」


 女子たちの実況解説に、やめやめとラッドが割って入り話を元に戻す。


「それで、わたくしは、表向きジュスティーヌ様にお仕えするということでよろしいのでありましょうか」


 ジュスティーヌと三人組の間でさまよう視線。


「実際、表向きのママが大半なんだけどな。根本的な意思決定を自分たちが握るというだけで」

「なるほど、であります」


 ちなみに転生三人組の感覚としては、クランとして雇用するならお給金はクランが持つけど、個人に仕えるのならその相手、ジュスティーヌからもらってねとなる。


 が、これは通じない。

 あくまでも、ジュスティーヌが主催するクラン、ジュスティーヌが雇用する使用人という扱いになるのだ。


 意思決定を行うのは人。

 組織は人に隷属するものというのが考え方の根っこにある。


 実際の運用上は、組織、クランとして資金をプールし、雇用費などもそこからの支出になるが、どこまでいっても責任主体は人にあるということ。


 なんとなくの擬制人格運用はあるけど、法人格という概念がないのだ。

 なくても何とかなっているから、概念が生まれないし発展しない。



   ☆



 場所を移し、実験に使わせていただくマルク工房に。

 親方に手土産の手羽先盛りを渡しながら頼んで、一室をお借りする。


 親方という仕事柄、工房に隣接する邸宅には工房製家具の展示もかねて、それなりのグレードの応接室や客室も備えられている。


「では、現在開示可能な情報を伝える」


 建前の主催者ジュスティーヌをさしおき、お誕生日席に陣取った三人の中央で、ラッドが口を開いた。


 知ってしまうと足抜けのできない秘密とやらに警戒するウィスタリアは、なぜかメンバー全員が身構えるのに怪訝な目を向けるが、事情を聞くうちに顔面蒼白になった。


 情報開示を受けたウィスタリアは、表情が抜け落ちたまま硬直。

 ヨッシーのイベント・スチル回収もはかどっています。


「『神託みたいなもの』……」

「うんうん、こうなりますよね。わかります」


 ジュスティーヌはじめ既存メンバー、後方理解者面で新たなる犠牲者……仲間を歓迎している。


「英雄級、しかもレベル100って……」


 伝説の建国王しかり、戦国時代の英雄王しかり。

 レベル100とはそういう領域。


 なお一般には、物語を彩るキリの良い数字と受け止められている。


 現代の人間にとって、実際のところはわからない。

 なんなら当時の人たちにだって、本当のところはわからなかったかもしれない。


 ただ、強い。

 勝利者。敵に敗北を強いる者。偉大なる指導者。輝ける英雄。栄光みつる我らの王。


 それだけで十分なのだから。


「さすがに今の時代だと『なんとか王』は……『傭兵王』くらい? でも傭兵じゃないですし、うーん、『大迷宮踏破者』とか、あるいは騎士爵を賜って『自由騎士』とでもなるんでしょうか」

「ティナぁ、気が早いっていうか、まあ、いんんだけどさぁ」


「もしも最後まで付き合えたのなら、ユイだって『聖女』くらいは呼ばれるんじゃない?」

「マリエルだって、そうだなあ、『金色こんじきの魔女』とか?」


 マリエルの髪はうっすい金色。

 でも英雄譚になれば、まばゆく輝く黄金の太陽とか言われるようになるんだ。


「わたしは家業があるのよ。それに、魔女って言われても、まだキャントリップを1つ2つ程度だし」

「じゃあセバスが『銀色の魔王』?」


 セバスの髪色は灰銀色。光の当たり具合で微妙に色合いが変化する。


「魔王ってガラ? 男でも魔女ウィッチでいいんだし、『灰色の魔女』とか」


 そんな伝承残ったら、後世に女性にされてそう。



   ☆



 きゃいきゃい盛り上がる女子組はあっちにおいて。


「……本気なのでありますな」

「そらまあな」


 だって、達成しないとペナルティ確約なんだもん。

 まだ開示していない情報だけど、得たものへの『対価』というあたりからうっすら気づかれてもいる。


 現在のアクヤ・ダンジョンでご活躍中の探索者のトップはレベル60台であるという。


 過去にさかのぼっても、おおむね60台、時に50台が最前線、トップを張っている。


 もちろん理由はあって、第四層に片鱗が表れていたように、深層に潜れば潜るほどマップが広くなる傾向がある。

 ぶっちゃけ停滞するのだ。物理的距離に阻まれて。


 レベル50台に至るまでにも、さまざまな停滞要因が現れる。

 生活のための探索者稼業なら、第二層で十分。


 だが転生三人組は、レベル100を目指す。覚悟を決めている。


「そんなこと、今はどうでもいいでしょう」


 ウィスタリアと三人の対話はユイちゃんにぶった切られた。


「そんなことって……」

「いいですか、ラッドさんの【通信販売】の恩恵、週に5000ポイント目安でさまざまなモノを手に入れられるんですよ!」

「といっても、何を貰えばいいのかわからないでしょう。そこでオススメなのがこれ!」


 マリエルが取り出して見せたのはハンドタオル。


「同室の方々にお配りする用も入れてまず6枚、これは確定ですね」

「容器が必要だけど、髪を洗うための香り液体石鹸もいいわよ!」

「あ、はい」


 熱心すぎる売り子というか、押し売りに近い攻勢にたじろぐウィスタリア。


「すいませ~ん。この話は少々長くなりますので、お昼の間食になにかお願いします」

「ラッドのギフトの実演にもなるし、ちょうどいいわね」

「あ、はい」


 こちらはジュスティーヌにせっつかれ、毒気もなにも飛んでしまったラッド。


 せっかくなのでジュスティーヌが好きな洋菓子系の生菓子として、Yマザキの2個入りのケーキを5セット。

 9人なので1つ余るが、そこにうるうるお目目のダメな子がいるので問題ない。


 栄養バランス的な意味も考えて、いつものシリアルバー(チョコ味)も出しておく。

 余ったら回収ものなのだが、余ったためしがないので問題ない。


 ヨッシーの【個人倉庫】から野営セットを取り出し、セバスがお湯を沸かしてお茶も淹れる。


 今回はウィスタリアに見せる意味もあり、テーバッグの紅茶をチョイス。

 壺に移し替えた危険物、白い砂糖も添えておく。問題はあるけど問題ない。


 情報と味の洪水に、ウィスタリアはすっかり漂白されてしまった。


「そういえば、人為的にオーバーフローをおこすって洗脳の手法だったような気もする」

思考力を奪った(オーバーフロー)後に、何を刷り込むかがキモなんだから、そこはクリスの責任だろ」

「え?」


 いやだって、後でウィスタリアをフォローするのは君だよね。

 このパーティに、わかっていて連れ込んだのも君だよね。

 ラブラブしやがってよぉ。


「最後が酷い」


 でもまあ、そういうことだよね。




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