7-04.第四層の総括反省会
冬季の前半をまるっとダンジョンアタックに費やした結果、転生三人組を含めメインメンバーは全員がレベル11へと上がった。
1回だけ参加のウィスタリアは、レベル8に。
例によって霊格酔いのため3・4日目を拠点で荷物番。どうみてもパワーレベリングだ。
レベルアップに伴い、素数ということで注目していたヨッシーの【個人倉庫】に動きがあった。
「『在庫表』ってコマンドが追加された。倉庫内物品のリストの作成・更新ができるようだ……できた」
「必要な機能ではあるんですが」
「いまさら感と、でも、もっと早い段階でコマンド追加で容量伸びないのもなあ」
とりあえず、石ころと土くれ、松明の燃えカスに手羽先の小骨は取り出して捨てた。
小銅貨4枚は非常用小銭袋に詰め直して再収納。
「いつ入れたのかも覚えてない」
「おじいちゃん、お昼は三日前に食べたでしょ」
隙あればボケツッコミ。観客のセバスも納得の阿吽の呼吸である。
☆
「アタック5回でレベルが11まで上がるとは思いませんでした」
今回は騎士科校舎の指導室の一つを借りての反省会。
講師の指導による集中アタックだったため、部屋を使う許可が降りた。
騎士科のジュスティーヌは気の抜けた顔をしているが、皆優しくスルーする。
卒院条件、レベル12到達が見えてきたからだ。
ここまでの経験的に、次のレベルに上がるためには前のレベルのほぼ倍の霊格量が必要になる。
レベル8から9になるまで、第三層アタックを3ないし4回、延べ15日から20日を必要とした。
であれば多めの方の単純計算では、レベル9から10までは8回、レベル10から11までは16回。
合わせて24回分以上の霊格量を、第四層チラ見アタック5回で賄えたことになる。
しかも、第三層中央の遺跡拠点で仮眠・再出撃サイクルをまわすのではなく、毎日きっちり宿泊拠点まで戻る慎重な運用でこの成果。
「狩り時間的には、ほぼ第三層メインのはず」
「ドロップからの推定でもそうなるわね」
ラッドの発言を受けてマリエルが補足する。
「第四層は、おそらく第三層の10倍近くの霊格量が得られるんだろう」
「それだけのキツさではあったからなあ」
腕組みクリスが嘆息する。
矢クリス時はアドレナリンで突っ切れたが、落ち着いてみればかなり危ない橋をわたっている。
洞窟猪以外の新顔は、明らかに格上だった。
雑に処理しているクリンチスライムだって対策あればこそで、『暗殺者』の名をほしいままにした時代であれば死人を出していただろう。
ゴブリン兵とタイマンして、勝てると言い切れる者はジュスティーヌだけだ。
当初は、洞窟という地形もあって、前衛が壁となり泥仕合をしている間に後衛がダメージを蓄積して勝った。
先行偵察による状況把握と釣り出し戦術にシフトしてからは、罠はじめ有利な戦場設定を押し付けることで勝利を得てきた。
どれだけ警戒していようが不意の遭遇戦と、バッチこいやーの迎撃戦とでは気の持ちようが違う。
優位感は精神の疲労にもお優しいのだ。
「結論として、第四層が旨いのは間違いない。例の件に関する実験も行いたい。固定メンバーは週末を空けておいてくれ」
☆
ラッドの締めで終了かと思われたが、クリスが挙手。
「あー、ウィスタリアについてどうするか、意見を述べたい」
「どうする、でありますか?」
クリスはウィスタリアではなく、固定メンバー、特に転生三人組に確認するように言葉を続けた。
「僕としては、彼女にこのままこのパーティに参加してもらい、卒院後もクラン運営を支えてほしい」
「それはもしかして愛の告白でしょうか!」
両手をぐっと握りしめたジュスティーヌが身を乗り出す。
普段は抑え役のヴィオラもまた、小さく両手を握って事態の推移を見守る態勢。
「違うっ……いや違くないけど違う?」
「どういうことでありますか」
普段は冷静沈着を絵にかいたようなウィスタリアの声に、微妙にいらだちか戸惑いか、判別しにくい揺らぎが混じる。
「あーえーと、とにかく込み入った事情があって、僕としてはこう。メンバーとしてはどう? そして、ウィスタリアとしては? という話を今はしたいので」
「いやまあ、どうと言われても、まずは当人の意志だろ」
「それはそう」
しどろもどろのクリスに、ラッドとセバスの情けの合いの手が入れられる。
「わたくしは……高級使用人、侍女を目指す者として仕えるべきお方を得たいのは確かであります」
言葉を探しながら自身の納得を得ているのか頷くウィスタリア。
「ジュスティーヌ様を主としてお仕えできるのであれば、わたくしの望みはかなうと言ってもよいかもしれないのであります」
「あー、ごめんなさい。私が主催なのは建前なんです」
両手を合わせて片目を閉じゴメンネのポーズをとるジュスティーヌ。
ウィスタリアが反応するまでに、たっぷり30秒は空白の時間が流れた。
「……はい!?」
イベント・スチル回収と呟いたヨッシー、人生ゲームを楽しんでいるね。
「うんまあ……いろいろ事情があるんだ」
「は、はぁ」
潮時だろうとラッドが改めて締めに入る。
「ま、建前だからってないがしろにするつもりもないし、実際問題、侍女として仕えるならジュスティーヌ相手になるだろう」
「は、はぁ」
「自分たちの事情、パーティの事情、どこまで話すかはクリスに任せる。先に言っておくが、話せないこともあるだろうが、それは恨まないでやってくれ」
「は、はぁ」
「そのうえで、よくよく考えて決めてくれ。とりあえず週末の実験に関わる必要はない」
「あーえー、はい。承知いたしたのであります」
ウィスタリアが立ち直ったの確認し、これにて散会の宣言を行う。
「じゃあ、あとはお若い二人に任せてわたしたちは去りましょうねえ」
「あらやだマリエル奥様、あたくしたちもまだまだ若いですわよ」
「この部屋、夕方まで許可取ってありますのでごゆっくり~」
「ほっほえ~」
部屋を出ていく女子組がツヤッツヤしてますわぁ。
☆
話が前後するが、ドロップアイテムの選別も議題にはあった。
第三層までの魔石(小)を除く、買取が小銅貨1枚のものも廃棄対象、つまりポイント化対象に移行。
「金銭感覚が麻痺してきている自覚はある。だけど、本来ならわざわざ持ち帰らないだろ?」
「まあ、同じ重さや嵩をとるなら、高値の品を残すわな」
「そのうち小銅貨2枚、3枚と、投棄選別レートも上がっていくんでしょうね」
重い荷物を担いで1日がかりの報酬、小銅貨6枚の頃からまだ2年半も経っていない。
転生三人組は遠い目をした。
洞窟猪ドロップは毛皮に肉。どちらも中銅貨1枚での買取。
ゴブリンからドロップする『鉄の腕輪』は中銅貨2枚。
少々重いのが難点だが、ゴブリン鉄と呼ばれる鋼鉄であり、第四層での主要産品になる。
ほかに『銀色の金属メダル』が大銅貨1枚での買取になる。
「これってプラチナなんじゃ?」
「ああ、確かに見た目よりずっしり重い」
この世界でのプラチナは偽銀と呼ばれ、扱いにくい金属として知られる。
銀よりも比重が高く、微妙に硬く、融点も高いためなかなか融けない。
鉛とプラチナを混合させ、偽金をつくる自称錬金術師もいる。
偽銀・偽金の悪いイメージもあり、同じ重量の銀より安く扱われ、主に装飾品や魔道具の素材になる。
ポイント化すると9万なので倍率12.50もあるのだが、第四層のドロップとして定番であり、窓口に出さないわけにもいかないことから現金化。
反対に、クリンチスライムがドロップした『偽銀塊』は、通常だと倒されず手に入らないため、面倒を避けてポイント化。
こちら質量の違いから45万ポイントにもなる。おいしい。
☆
マックスたちとの会話で、クリンチスライムに紙のマスクで対処していることを伝えたところ大いに驚かれた。
「紙でマスクを! 確かに布に比べれば安い。発想だな」
特に口止めもしなかったためか、後日、組合で買取窓口に並んだところ、にこやかに応接室に案内された。
アイデア料として正銀貨4枚もらって終了。
しばらくしたら売店に、紙製の鼻から下を覆うフェイスマスクが並んだ。
両顎付近のでっぱりにあけた細かい穴で、スライムの侵入を防ぎつつ、呼吸を確保しているようだ。
ただまあ、息苦しいので、時々指で隙間を作るんだとか。
「もし自分たちで作って売り出していたら、こうして大手資本に参入されるわけだ」
「うーん、えげつない現実」
「アイデア料貰えただけマシなんでしょうね」
そのアイデア料だって、学院生だから後腐れないようにと支払われたのだとわかる。
ともあれ、これもジュスティーヌ補遺として攻略手引きに加筆された。
☆
諸々含め、冬季前半で転生三人組はクオルタ銀貨にして130枚の収入を得た。
両替すれば金貨2枚以上。庶民の年収をかるぅく超えている。
なお盛大に溶けた。
「念願の、『はがねのつるぎ』を手に入れたぞ!」
剣は主武装ではないが男の子ゆえに。
鋼とはいえ数打ちの小ぶりの剣だから、庶民年収程度で手に入る。
本格的な武具の類なんて、前世における高級車以上の価値と思っておけばだいたい合っている。
あ、とげとげ鉄球も手に入れました。こちらが主武装です。




