7-03.第四層の洗礼
ジュスティーヌは、秋季の指導面談で1節4週をまるまるつかったアタックを勧められた。
単位も大事だが、休業週だけでレベル12に間に合うのか、と。
クリスは、冬季後半の第七週から第十一週にかけて特別実地研修に参加が決まった。
従僕見習いとして、アクヤの街の代官屋敷でお勤めだそうだ。
マリエルは、冬の終わりに薬剤師資格取得のための試験・試問が待っている。
資格が取れなければ卒院しても意味がない。
泣きの夏季試験もあるにせよ、ここが勝負と講師側も気合が入る。
若干、いやかなり、ナーバスになっている。取り扱い要注意だ。
ヴィオラとユイは中等魔術階梯の呪文発動に成功しているため、あとは安定させればよし。
さらに手札を増やしてもいい。それが魔術士の修練道だ。
転生三人組は傍目にはなんの問題もない優等生だ。
ラッドがチキン野郎とか、ヨッシーがデブとか、セバスがすけこましとかは、あくまで陰口の類であり公的な評価に影響はない。
そういった事情を踏まえ、3年次の冬季では前半4週を使ってダンジョンアタックを行うこと、その際に第四層のお試しをすることも決めた。
ただし通常ルートでの攻略。
三人組の進めていた自由研究、大断崖ショートカットは、未だ使用に耐えうるとの確信が得られていない。
8人乗りのロイヤルサルーン(命名:ヨッシー)での実験もまだだし、それに、どこまでもセバスのMPに依存するのだ。
「狩りで消耗した後で、さあ帰ろうと言われても多分無理です」
「そういうわけで、あくまで緊急脱出用の手段だと思ってくれ」
セバスとラッドの経過説明に、メンバーは言葉に詰まった。
「えーと……いや、うん。いまさらセブたちの行動に驚いてもって驚くわ!」
「大断崖を使ってショートカットって? なんて?」
「ほぇ~」
ユイちゃんは、たまに何も考えていなかったりするので油断ができない子なのです。
☆
アクヤ・ダンジョン第四層、『ゴブリンの巣穴』。
第一層から第四層につながる大断崖をショートカットしようという試みは、過去から現在まで、実用の範囲では成功していない。
通常ルートでは第三層の遺跡にあるゲートから第四層洞窟の小部屋につながる。
小部屋出入り口にはバリケードを設置し拠点化しているが、決して安全とは言えず、かつ狭い。
休憩するなら水源のある第三層側がまだマシだ。
「ダンジョン内は、気温が安定しているのは助かるわね」
「アタックするなら夏か冬って言いますもんね」
第二層や第三層のような開放型のマップでは多少の季節変動はあるが、地上ほどではない。
ヴィオラとユイは、冬至からの一番寒い時期のダンジョン籠りを、素直に喜ぶことにしたようだ。
日程的には、初日と最終日が移動で潰れるのはいつも通り。
中日において第四層へのお試しアタックを取り入れたのが今回の特徴になる。
具体的には朝の4時ころに第三層拠点を出発し、おおむね8時ころに遺跡拠点に到着。
休憩の後、第四層に入り2時間くらいを目安に様子をみる。問題ないようであれば、休憩後にもう2時間くらい。
18時ころには第三層拠点に戻り、翌4時まで交代で睡眠。
結論から言えば、かなりの苦戦を強いられた。
やはり『ダンジョン最速理論』は参考にとどめるべきもの。
『レベル9から第四層』は、装備も技量も上澄み勢向けだ。
「まるで手が届かないわけでもないんだよなあ」
「私たち、わりといいパーティなんですよ?」
守りに寄った気質に加え、フルメンバーならヒーラーも2枚に攻撃的魔術士も2枚。
セバスの重複カウントに目をつむれば、継戦能力も一撃の能力も備えている。
「ふぉおお! 【影槍】こそ最良。感覚掴んできたわよ」
最近のヴィオラは闇魔術面に落ちている。
【影槍】は影から闇のスパイクを伸ばす攻撃魔術。
中等魔術階梯であり、発動率が高めに安定すれば卒院条件を満たす。
「拘束のために、何カ所か『かえし』をつけたらどうです?」
「あら、いいわね。他にもなにかある?」
闇面に落ちたヴィオラと対照的に、ユイは障害物回避・追尾機能が付いた【照明】を実践中。
こちらも発動率次第で卒院条件を満たせるが、大本命の【治癒】は難航中。
「いいことなんですけど、【小治癒】で足りちゃってますからね」
例えばクリスがゴブリンアーチャーの矢をとっさに腕で受けてしまったケース。
かえしが食い込んで引き抜くのも切開している時間もないと、押し込んで貫通させ、鏃を切り離したうえで引っこ抜いた。
「前世は歴戦の勇者か何かでいらっしゃる?」
「じゃあセブは叡智をきわめし賢者な」
ガンギマリっぷりに驚いたセバスが思わず漏らした言葉に、アドレナリン出まくっているのだろうクリスが軽口で返した。
水で傷口を洗った後に、【小聖光】か【清拭】で前処置し、そのうえでユイが【小治癒】をかければ傷はふさがる。
前処置は、除菌ないし消毒効果があるのではと。
今となっては小魔術階梯の呪文くらい大した負担でもないため念のため。
骨折や切断近くまで行けば【治癒】の出番だが、このパーティではいまだそこまでの大けがはない。
かつて第二層でマリエルが兎に、クリスが狼に、ついでにヨッシーがモグラ穴に受けた傷が、記憶に残る最悪ケースだ。
なので、ユイの【治癒】の練習台はパーティメンバー以外。
実践練習相手の欲しい治癒術士と、少々無茶しがちなやんちゃっ子たちの武術訓練。
Win-Winのコラボが成立する場において、ユイ様はあがめられるお立場だ。
ユイが来た日には無駄に張り切っちゃう男子がいるって?
しょうがないじゃない、男の子なんだから。
☆
第四層の新顔、洞窟猪は、出会いがしらの突撃に注意。
文字通りの猪突猛進。盾越しにガッツリ受け止めたヨッシーが、やりたくねーと嫌がるくらいに強烈だ。
毛皮と脂で刃物の通りも悪い。だが、【発勁】は効いた。
逃げ場のない洞窟という戦場が厄介さを引き上げているが、今のメンバーならなんとかなる。
階層名の由来であるゴブリンたちは、2体から6体の小隊として洞窟内を巡回している。
弓を持っているからアーチャー。
呪術師ぽければシャーマン。
指揮官風ならチーフかリーダー。
それ以外ならウォーリア。
ただしチーフとウォーリアの見分けは付きにくく、リーダーとは多分まだ遭遇していない。
ヒーラーから殺れ、指揮官をつぶせとの鉄則は有効だが、そういう連中は隊列中段か後方に控えているのも定石。
並んで2人がせいぜいの通路での戦闘は、遠隔攻撃を警戒しつつの打撃戦。
当初は泥仕合になった。
反省会にて、猪にしろゴブリン隊にしろ先に見つけること、および戦場設定が第四層の肝と認識。
気持ち広めの空洞で待機する本隊と、通路を先行する斥候とを分ける戦術が採用された。
耐久盾のヨッシーと護剣のジュスティーヌでは、俊敏な斥候役は勤まらない。
ヴィオラはわりと行けそうではあったが、当面は役割を攻撃魔術士に専念したいとの自己申告により除外。
一番もろいマリエルは論外とし、セバスとユイも前に出しちゃダメでしょ人材。
消去法で斥候の役割を与えられたのは、ラッドとクリス。
状況次第では釣り野伏よろしく、セバスの罠ゾーンに魔物を引っ張りこむこともお役目になり、何回かこなすうちにすっかりヒャッハー化。
前述の、クリスが矢をアクセサリにしたのもその一幕のことであった。
「先人の遺物に苦しめられるのも第四層の特徴だね」
魔物固有として生成される武装は、倒せば本体ごと霧になって消える。
残るのはドロップ品なのだが、例外として、他の探索者が残(遺)した品を魔物が使用するケースがある。
第三層までは道具を使う魔物がいなかったため発生しなかったが、第四層の主力たるゴブリンズは人型。各種道具を使いこなす。
☆
クリンチスライムは、天井から落ちてきてまとわりつき、窒息死の原因となる。
付いたあだ名が、『第四層の洗礼』。
「これこそ古典スライムだよ」
ヨッシーもどこか満足そう。
過去には『第四層の暗殺者』と恐れられたが、現在では対処法が広く知られている。
手で引きはがすのは困難だが、水、聖水、ポーションなど、なにかしらの液体を浴びせかけると取り込むようにまるまる性質がある。
鼻口に侵入されないようにスカーフで鼻下をカバーし、頭部・顔面に取りつかれたら水をぶっかけ、スカーフごと投げ捨てる。
おカネのかかる対処法だが、「あなたの命よりは安いでしょう?」が売り子の定番文句だ。
だが旧14号パーティには、ラッドの【通信販売】には、たったの1000ポイントで購入できる、箱入り50枚の不織布マスク様がいる。
立体形状で息苦しくもないうえ、ハウスダストや花粉、ウイルス飛沫などを99%カットすると謳う素敵なお味方様だ。
なお、べっとり洗礼を受けたセバスが腹いせに【保温】で煮殺したところ、ルートしていたと思しきドロップが大量に出土したことから、積極的に狩る方針が採用された。
ついでに、どこにでもいるスカベンジスライムも、これまたルート品狙いで発見次第、殺ることに。
「ボーナスじゃあ!」
「わぁ、わぁ……」
長年放置されたルートモンスターって、実質宝箱だよね?




