7-02.チャレンジ自由研究
『お客様』が霊格酔いを起こしていることが周知され、ジュスティーヌへの圧は消えていった。
悪く言えば、半年近くトップの足を引っ張って溜飲を下げたのだ。
そうでなくとも、順当に狩りをしていれば相応に成長を実感できる頃合いでもある。
旧14号パーティがおかしいだけで、全般に例年並みか、むしろやや進んでいる。
ダンジョン攻略ロードマップにジュスティーヌ補遺として追加された知見。
いわゆるプール・メンバーを拡充し、ローテーションによる拠点での荷物番運用が公開されたことも影響を及ぼしただろう。
パーティの分裂・再編にまで至る夏の嵐の開幕と、3年次に入っても収まらない延長戦。
人材獲得戦、お忙しいことでしょう。
かくして『お客様』対応は終了となった。
☆
秋季の末には、魔法使いマリエルも爆誕した。
「【魔術士】じゃないのね?」
「【自己認識】で【無属性魔法使い】なんだけど」
修得を目指していたのは小魔術階梯の無属性魔術だが、無属性の【生活魔法】もまったく同一のもの。
連携訓練の休憩中、ヴィオラとユイの前で、マリエルは詠唱を始めた。
「魔力よ、我が指先に集い礫となれ。【力弾】」
近くの地面でパンッと土煙があがる。
魔力塊を射出し、デコピンくらいの威力になる、セバスの【力弾】そのもの。
「見本が【生活魔法使い】のセバスだったから?」
いわゆる師匠なりの見本を真似てひたすら訓練は魔術修得のセオリー。
「でもわたし、【光魔術士】のままですよ?」
ごめんねユイちゃん。
すでに【魔術士】ならそのままでいいかなって。
他の呪文だと、【空間把握】は魔力を「場に広げる」ができずに頓挫中。
「すごく危ないって、ダメな感じがするの」
「その感覚が壊れてると、放出しすぎちゃって死ぬそうです」
訓練で「ここまでは大丈夫」を感覚的に掴んでいくしかない。
ヴィオラが疲労感を醸しながら肩を回す。
「魔術士の壁よ。初等から中等、高等、さらにその先に。一度に放出する魔力が増えるけど、感覚が拒否しちゃうと扱えない」
このときに補助輪としての魔力の焦点具があると、半ば強制的に一定の魔力放出ができるので、「あ、ここまでなら大丈夫なんだ」と感覚を納得させるのが早くなるという。
学院でも保有しているが、魔術科生の卒院追い込み時のみ、講師立ち合いのもとでの使用。危険だからね。
【魔力感知】は魔力のあるなしがうっすらわかる程度。
「わたし、センスないみたい」
本来はそれで正常。
自身に適性のない属性の魔力については、認識自体ができないか極端にしづらいの。
ぼろっちい魔法鞄から魔力が感じられない?
よわよわ魔法鞄なんでしょう、で済んでしまうくらいに。
いや、ヨッシー預かりの鞄はそもそも偽物ですけどね。
☆
転生三人組による休日を使った自由研究、第四層ショートカットチャレンジも継続中。
無属性魔術【見えざる手】を参考に開発した【念動手】。
これを用いた空中移動には成功。ワイヤーアクションよろしく謎の空中機動も一応は可能だ。
『手』で掴む、摘まみ上げるという性質上、身体にかかる負荷の分散と姿勢の安定のため、ハーネスベルトを縄で試作した。
探索科内でセバスが、縄で身体を縛る特殊な趣味の人として敬して遠ざけられたことは言うまでもない。
「縛り方が、ぜんぜん、違うだろ!」
「いや、亀甲縛りとかわかる方も問題だがな」
ゲラゲラ笑った代償として、ヨッシーは試作ハーネス装着後、【念動手】の『手』で持ち上げられ空中移動の刑に処された。
「俺は猫の子じゃない」
「目的には十分だろ」
ラッドの判定が全てである。
見る人が見ればわかるものなのか、試作品を装着したヨッシーの姿に革職人は良い吊り具だと評価。
全身に負荷を分散するだけでなく、各所にモノを吊るのにも便利なのは事実。
当然、三人分の製作を依頼した。
これにより三人は、新たなボンテージファッション分野の開拓者として、特殊な趣味の人たちからひそかに注目されたのである。
☆
果たして、テレキネシス空中浮遊で第四層まで行けるのか。
第一層の大断崖を前に、30mロープを命綱に試験飛行を実施した。
「じゃ、行ってきます」
ざっくり20mを目安に適当な岩棚があればよし。
なければ【坑穴改】で崖面に穴を掘って足場を作成。
くさびを打ち込んで次の命綱を結わえ……と、最終的には20余回繰り返して崖底、第四層に到着。
高低差約400m。
理屈では、この試行ルートに縄梯子を敷設、乗り継いで登り降りできなくもない。
ただし、常設で登りにも対応しようとすると、ロープを切られたら終わり問題、第四層からのゴブリン移住問題がね。
「ロープを回収しながら降りるだけなら、できなくはないか」
「無理、絶対無理!」
ガタガタ震えるヨッシー。
心情的なものを無視しても、400mの岩壁降下って、それだけで大冒険だもん。
ところで第一層の大断崖部分には、幹線として吊り橋もかけられている。
なるべく外れの方で実験したが、それでも多くの人目に晒されていた。
中にはわざわざ「ああ、第四層な。届いたらすごいぞ」と、けなしているのか煽っているのか、そういう者も現れた。
☆
次の段階で、ハーネス装着の複数人を浮遊させる計画は頓挫。
「無理、絶対無理!」
いや、持ち上げて動かすことはできる。
でも、複数対象を同時にコントロールだなんて脳が焼けますことよ。
訓練と慣れ、動作のパターン化で対象を増やせるとしても、どれだけ時間がかかるかわからない。
「んじゃあ、全員をひとくくりにしちまえばよくね?」
「あっ、……そうか、そうね?」
ヨッシーの言が採用され、個々人ではなく、全員が乗る箱を対象と定めて、三人用の試作品設計。
肩幅は身長の4分の1。装備等も考慮し、一人の横幅を60cm。
厚みはキツキツのお尻合いを避けるために余裕をみて50cm。二人が背中合わせで100cm以上。
よって幅・長さ120cmで、手すり高さは腰高以上で80cmと決めた。
「なるべく軽い方がいいんですが、余裕や強度がないのも問題ですしね」
シルエットは箱型だが、極力軽くするため、強度確保の枠組みに床は簀の子で周囲は細網。
スーパーサルーン(命名:ヨッシー)はマルク工房で作ってもらい、工房内で実際に乗って消費MPを調整。
400mは不動産広告の分速80m基準で5分だが、余裕こみで最低10分を確保し、さほどMP消費も増えないということで15分の稼働時間とした。
目安用に5分の砂時計を購入。
負荷も600kg設定。
これでMP35。
【念動手】ってば超お得。
☆
ダンジョン内での実験や本番で他人に絡まれるのも面倒だ。
そこで、第四層からゴブリンたちが登ってくる可能性を考慮し捨てた階段案を流用、幹線から直接視認できない発着場をつくることにした。
【坑穴改】を駆使し、まず崖面と反対方向に掘って、踊り場をつくってから断崖に向かう。
最後に水平横穴を開け、崖に出られるようにする。
休日ごとに、麻袋とスコップ、ついでにつるはしも担いでダンジョンに通う。
捨てた土砂で学院グラウンドの片隅に小山ができた。
ダンジョン内での採掘は認められている。
第一層では鉄鉱石に石炭、岩塩なんかが入手できる。アクヤの街における割と重要な産業だったりする。
それこそ探索者なりたて10歳児だろうが、即戦力な鉱山労働者。
今日もどこかで枝道が伸び、崩落して埋まる。アクヤ・ダンジョン第一層の闇は深い。
当然のように絡まれた。
「無謀と願望の区別もつかないたぁ、若さだねえ」
「第四層まで届いたらありがたく使わせてもらうぜ、プップー」
深さにすれば10mくらいか。
対岸からの視界対策は開口部をやや斜めにするのが限界だったが、横穴の上面に庇めいたでっぱりを残したり、吊り橋方向は完全に視線が通らなくしたり。
三人の行動には、組合からも調査が入っていたらしい。
買取窓口でお姉さんに揶揄られた。
「第四層までロープ降下も、階段掘るのも諦められたんですか」
「無理。どんだけ深いのか」
カバーストーリーの都合だけではなく、うんざり答えるラッドだった。
☆
パーティ全体の活動としては、3年次の秋季も第三層で3回の狩りを行った。
クリスが抜ける回にウィスタリアが入るのも定番になってきた。
転生三人組はレベル9にあがり、他のメンバーは全員レベル9のママ。
ウィスタリアはレベル7。霊格酔いの間の荷物番も慣れたものだ。
旧14号パーティと絡んでおりレベル的な問題もないだろうと、鉄札級探索者に昇格したという。
「お引上げいただき、まことに感謝に堪えないのであります」
「クリス君のこともありますしね。ところで、卒院後のお勤め先って決まってます?」
ガールズトークで盛り上がるあっちはともかく、転生三人組には第三層での限界が見えてきた。
※テレキネシスとサイコキネシス/サイキック
(tele + kinesis)と(psico + kinesis)なので厳密なところのニュアンスは違うようですが、特段区別せず用いています。




