7-01.学院生3年次のはじまり
ラッド、ヨッシー、セバスは異世界からの転生者にして、ダンジョンで魔物と戦う探索者である。
ツテ・コネを求めた学院にて、パーティの仲間と表沙汰にできない秘密を共有。その結束は固い。
だが、順調すぎる実績は周囲の心に嫉妬を生んだ。
☆
秋季からの新年度を間近に控えた夏季の終わりに、転生三人組は2年後輩になるジョゼフ、カール、プリムローズの三人を学院・探索科寮に招いた。
【土属性魔術】を授かったプリムローズだったが、魔術科ではなく探索科を選択。
魔術科は、ざっくりで言って探索科の3倍以上の学費等がかかる。
当人がラッドのお嫁さん狙いなので、親御さんも無理な出費はしないでいいかなぁ、どう? といった感じで決着。
新寮長への紹介と部屋の手配などは1年後輩のアドルフたちに任せた。
「自分たち、来年度で学院を追い出されてしまうかもしれん」
「そうなると、後輩の面倒をみれなくなる」
「順次、引き継いでもらうしかないんです」
転生三人組は在学を粘る予定であったところに3年卒を突きつけられ、口惜しい以外の何物でもない。
しかし、後輩たちには不思議なモノを見る目をされてしまう。
「3年で卒院って、いい話だよね?」
「先輩方は、僕の理解を超えているようだ」
養護院出身のフィアフとカールがささやき合った内容が全てだろう。
☆
暦上の季節が切り替わり、学院も新年度に入る。
秋季・第一週、新1年次の護送をすませば、新3年次には指導面談が待っている。
前回の面談から半年の経緯を踏まえ、この3年次をどう過ごしていくかの話し合いの場だ。
「せめて、せめて4年次を」
「くどい、とっとと出ていけ」
後進のために枠をあけろ、単位もレベルも足りるだろうと、正論方面では歯が立たない。
「いやぁ、うちのパーティ、言いたくないですけど足引っ張られることも多くて、伸び悩んでいますので」
「どこかの節を集中的にダンジョンアタックに使えば、取り返せるだろ」
泣き落とし方面も一蹴。
三人の抱える成長デバフは一般非公開なので、余裕で卒院要件のレベル10に届くと思われている。
集中云々は、レベル12を目指す騎士科ジュスティーヌを念頭においてのことだろう。
「それに、状況にいかに対処するかも学びのうちだ」
『お客様』を入れてノウハウ拡散に協力して見せる姿勢はよかったぞと評価され、さらにと続く。
無視するもよし、はねのけるもよし、叩き潰すもよし。あるいは取り込んで、味方にしてしまうのもよし。
「成功者への僻み妬みなんぞは一生続くんだ」
それはそう。
☆
探索科寮の食堂の隅っこ。
いつものテーブルに集まった面々の表情はさまざまであった。
転生三人組は無念の涙。
現時点で蓄積した単位数は323。
あえて必須単位を残しているが、「強制補習はお互い面倒だろう、んん?」。卒院待ったなしである。
家政科クリスと薬剤科マリエルは達成感を通り越して悟りに到達。
「頑張った。……頑張った」
「偉いよね。わたしたち、偉いよね」
2年間で384と必要な単位は取り終え、余生状態。
今後、クリスはクラン運営で必要になりそうな講座メインで取得予定。
武術方面でも手を広げるつもり。
マリエルは薬剤師の資格試験を控えており、直近で新たに学ぶのは取引先としての組合関連で探索科講座から少々。
あとは気分転換含みの武術訓練と、無属性魔術の修得にあてる。
「夏季にちょこちょこやってみた感じ、わたしって才能あるジャン状態」
「あら、うらやましいこと」
言いつつも、魔術士であるヴィオラは涼しい顔。
いわゆる魔術の才能である魔力認識と体外放出がクリアできている者が、適性のある魔力分野に適切な努力をつっこめば修得は時間の問題になる。
だが、仮に才能があろうとも、各属性に反応する水晶を用いた『魔力適性鑑定』を行わないと適性魔力がわからない。はずであった。
本来なら大金のかかる鑑定を、どこかのすけこましがお腹なでなでで済ませました。
「修得は果てしない自己鍛錬ですから」
「魔術道へようこそ」
ユイとヴィオラは魔術科として、中等階梯の魔術を1つ以上発動できることが卒院条件に入っている。
この道の先輩として、暖かい目でマリエルを見守る二人であった。
ジュスティーヌは頭を抱えて丸くなっている。
「あーうー」
現在302単位。必須分は残り38だが、実際問題としてそれでは足りない。
部隊を率いる士官として現場に立つなら、覚えておくべきことが多いのだ。
もちろん就職先、衛視隊なりで実地研修はする。だが、さわりだけでも習っておけば大分違う。
ジュスティーヌ自身は、このまま転生三人組のつくるクランに横滑りするつもりでいるが、確定した将来ではない。
そうでなくとも3年卒のエリートという評判を得ようというのだから、見合う努力をしないわけにもいかない。
いまさら4年卒にも変えられない。
だって頼みの綱の転生三人組が居なくなってしまう。
「あーうー」
メンバーを失い、集め直し、卒院に5年かかったセバスの兄のベンジャミンの姿を思い出せ。
口の端に浮かぶ自嘲、肩に乗る疲労、背に見えた哀愁……その苦労が今更ながら偲ばれる。
レベル12、この1年で決めるしかないのだ。
どこかで集中的にダンジョンアタックをするように指導も受けた。
武術の要件である【Lv.4/練達者】には、剣術が届くだろう。多分。
加護で得た護剣術よりも、普通に訓練して修得した剣術のほうが伸びがいいのは使用頻度の差。
ああしかし、講座にまわす時間が……
「あーうー」
「もうっ、しっかりしなさいってば」
ジュスティーヌとヴィオラ、仲の良い主従(?)である。
☆
2年次に入ったアドルフたちは、自分たちのパーティのメンバーを官吏科と魔術科から決めた。
「騎士科は要らない!」
「あいつらうるさい、邪魔!」
オルレアとジャルマリスが白と黒の耳を尖らせる。気持ちはアドルフもフィアフも同様。
いささか強引な勧誘にストレスも多かった。
一般にリーダーシップを要求される騎士科生だが、転生三人組の薫陶篤いアドルフたちはパーティの主導権を渡す気はない。
レベル12を目指すのがきついのは、ジュスティーヌの姿を見ているしね。
自分たちは3年でレベル10になって卒院でいいやの方針。
現在は第二層の浅いところで狩りを行い、年次のトップではない、悪目立ちしないポジションを狙っている。
1年次として新たに学院パーティ編成に臨むジョゼフたちにはよい出会いを祈ろう。
彼らは養護院の先輩でもある獣耳の人3人に囲まれ、わちゃわちゃにされている。
「ねーちゃんたちに勝てるわけないだろ」
いや、フィアフ君は男の子です。
☆
いつもなら、転生三人組の部屋の応接スペースで我が物顔にくつろぐオルガたちだが、この日はやけに神妙だった。
「なあ、娼館、行こうぜ」
「いきなりどうした」
一般男性探索者は、魔物との戦闘の昂りを、街の娼館で発散するのが基本となる。
12歳の健康優良児が、そっち方面への関心を持つのはしょうがない。
「いやさあ、アズクルがよぉ」
「待てよオルガ、おめぇも同罪だろうが」
「今日はコーラ無いの? ないかぁ」
特徴のないのが特徴のグラム君はぶれないなあ。
「あいつらさあ、いい歳こいておねしょしたんだぜ。それもべっとべとの」
「……夢精か?」
グラムの密告を受け、ラッドが代表して問いかけた。
「ああ、子種が溢れちまったらしい。んでよ、娼館だ」
身を乗り出すオルガ、アズクルと対照的にヨッシーは身を引く。
この手のことは個人差がね。
転生三人組で精通しているのはラッドだけで、ヨッシーとセバスはまだ。勃起はするが汁が出ない。
【通信販売】で、以前は見送った箱ティッシュは買いましたけど。
「あいにく、そっち方面は未調査です。寮長には?」
「あの人は、お高いところ紹介してキックバック取ってるって噂ジャン」
身についた貧乏性が拒否感を先走らせる。
「下手にケチって病気貰うよりマシかなと」
「そういう話も聞くよなあ」
将来を嘱望されたエリート候補の騎士科生が、全身に発疹や水ぶくれを起こし死んだ話。
あるいは、ひっそり消えていった同年次。
梅毒は、全身に発疹、しこり、腫瘍ができ、果ては死に至る。ペニシリンが発見されるまでは、不治の病だった。
他にもかゆみ痛みの淋病に、水ぶくれ、ただれのヘルペスなどなど。
「寮長も、紹介する以上、どっちにも責任があるからなあ」
「そりゃあ、そうなんだがよぉ」
結局、未知の領域ゆえに実のある話にならなかった。
それはそうと、『鋼の咆哮』ではメンバーを増員し、交代で1人を拠点の荷物番にしたそうだ。
「リラの不参加ってのもちょくちょくあったからよ」
「しょうがねーことだし、人数増やさねーかって話はあったのよ」
「おめーらの太鼓判もあったし、官吏科のゴートとドゥーレン誘ったのよ」
官吏科は卒院のレベル要件が低いため、主力メンバーの半分くらい狩りに参加できれば十分だという点もよかったそうな。




