6-11.重しからの解放
春の指導面談により、転生三人組は強制3年卒の可能性が出てきた。
そのため夏季では取り残しの武術を組み込み、その分、単位講座を減らす履修計画とした。
知識はもちろん大事だが、手札を広く持っておくための武術修練。
バランスの中での判断になる。
探索者家業でレベル100到達という、一般的には伝説上の領域を目指しているものの、武の道を極めるようなつもりはない。
修道者というのは、ちょっと、自分たちとは違うだろうと。
三人にとって武術は、魔物を倒す必要が満たせればいい、手段、道具なのだ。
☆
夏至祭週での【祝福の儀】を経て、マルク工房コミュニティからプリムローズという女の子が学院生への道にエントリーした。
「プリムローズです、よろしく。双子っていうけど、あんまり似てないのね」
ピンクの髪をリボンでまとめているプリムローズの探索者登録後、養護院のジョゼフとカールの双子の兄弟に引き合わせる。
「なんであれ私たちが双子で、かけがえのない兄弟だというのはまぎれもない事実さ」
「そうだね兄さん」
兄ジョゼフがやけに大人ぶって見えるというのも、似ていない判定の原因かもしれない。
「カール君もお兄ちゃん大好きなのね。そこは気が合いそう」
「ほう。だがジョゼフ兄さんは僕の兄さんだぞ」
「私のお兄ちゃんはこっち。私はお兄ちゃんのお嫁さんになるの!」
プリムローズは付き添い的ポジションで隣に立っていたラッドの手を引っ張った。
ヨッシーとセバスのなまあったかい視線がラッドに集中したが、次の瞬間には舌打ちに変わる。
「お、そうか」とか言いながら頭なでられりゃそうもなる。
「うーんこの。いっそ櫛でも買ってやれ」
「あ、俺、オルレアとジャルマリスに買っちゃったが、なんかあんのか?」
ヨッシー、祭りのノリで後輩っ娘たちにねだられて、ほいほいプレゼントしたらしい。
「……男性から女性に贈る場合、プロポーズの意味がないこともないみたい?」
「マジかぁ」
わりと人間社会にありがちな風習なのよね。
実用品としての櫛やかんざし、装飾品としてはブローチ、ネックレス、指輪など。
いやまあ、どんな品であれ男女間で下心一切なしでプレゼントするかと言われると、それはそうねとしか。
「ふん、先輩の女を一人くらい面倒みるのはいいさ。魔術士様なんだろ」
「【土魔術士】ってのを授かったけど、うーん」
ある程度レベルが上がってMPが増えないと、魔術は使い物にならない。
そのあたりの事情も、露店で買い食いしながら説明する。
「俺たちも、買い食いでおごりなんてできるようになったんだなあ」
「生きていくだけなら第二層でも十分なんですよねえ」
転生三人組はレベル100を達成しないとペナルティ確約だから立ち止まれないけれど、一般探索者が第二層あるいは第三層で満足してしまうのも納得はできる。
「僕たちは探索科だけど、プリムは魔術科だろ?」
「私は探索科でいいと思うんだけど、お父さんたちが魔術科にも入れるんだしって迷ってる」
ただし、学費等が一気に跳ね上がる。
プリムローズの親と懐事情が似たりなユイの母親も、当初はかなりの無理をして魔術科に送り出したはずだ。
「お兄ちゃんのおすすめは?」
「衛視隊を狙うなら魔術科らしいが……」
魔術士の加護だからといって、入るのは魔術科でないといけないという法はない。
実例として、セバスの母は土魔術師の加護を得たが家政科に進んだ。
良妻賢母なお嫁さん狙いならコチラのコースがオススメですよ、お嬢さん。
さておき、探索科在籍で魔術科の講義を受けられないということもない。
射爆場も、肩身は狭いが使える。
あと、魔術科のほうが見た目の卒院条件が緩い。
探索科は、魔術科より必要単位数が多く、何かしらの武術を【Lv.2/未熟者】以上にしないといけない。
ただし、どこまでも自己研鑽で中等魔術を使えるようにならないといけない魔術科が一番厳しいという人もいる。
第三者としては、親御さんともどもじっくり考えてとしか言えないのだ。
☆
嫉妬圧力を減らすための『お客様』対応は、春季に霊格酔い問題が露呈したため、最低でもレベル5、できれば6と足切り基準を設定。
『最速理論』でレベル5からと謳っていても、現在の旧14号パーティは狩れる数が違う。
こればかりは自身の命にも関わる問題のため、ジュスティーヌが何かを言われることはなかったという。
第六週には、この話が出た時から誘っていたマックスが参加。
日程を合わせてMO連合、いや『鋼の咆哮』との、半ば合同パーティとして進行した。
クリスが『鋼の咆哮』に加勢し第二層で、マックス込みの旧14号パーティは第三層での活動となる。
初日の移動と第二層・森林部での連携すり合わせを終え、拠点キャンプにて温かいスープを啜る。
「君たちに倣ってね。温かいスープは必需品だよ」
探索者にとって食事は大事だ。
単なる栄養補給ではなく、体を温めることも重要。
燃料の問題はあるがとマックスは笑うが、第二層・第三層でなら、1回分の煮炊き程度の落ち枝拾いは片手間にできる。
むしろ大変だったのは、完全持ち込みの第一層時代。
『鋼の咆哮』では、以前の旧14号パーティに倣い、折りたためて嵩を取らない革の鍋を使用している。
中に水が入っていれば温度が100℃以上に上がらないため燃えず、紙だって鍋にできる。
理屈の上ではビニール袋も火にかけられるが、焚き火だと局所的高温で溶けるのでオススメはしない。
現在の旧14号パーティは鉄の寸胴鍋。
本来であれば重く嵩張るが、1日分セットのコンテナ箱に、途中まで処理済みの具材と一緒に入れて持ち込み。
仕上げにコンソメキューブをぽんと投入。あら美味しい。
「魔法鞄、いいなあ。大将よぉ、なんとかならんか」
「オルガ、無茶を言わないでくれ。カネもツテも全然さ。いっそ自分たちで取りに行く方が早い気もするよ」
「ま、そうよねえ」
「リラぁ、あんたもこっちいらっしゃい。お湯が冷めちゃうわよ」
天幕の中からヴィオラが『鋼の咆哮』の魔術士リラを呼んだ。
レディファーストということで、まず女子組から身体を拭いている。
「お湯が使えるなんて贅沢ねえ」
「第三層で水は補充できるし、うちにはほら、湯沸かしが得意なアレがいるから」
第二層にも水源はあるが、巡回路から外れている。
第三層は、中央遺跡の泉で汲めるので、そこまでカツカツに管理しなくともよい。
「身綺麗にしているのは好感持てるけど、すけこましはなあ」
「ほんと、すけこましよねえ」
一方の男子組は拠点での荷物番の話で盛り上がり。
以前、官吏科のゴートとドゥーレンが霊格酔いで動けず、結果的に荷物番をしてもらったのだが、思った以上に快適だったと。
「荷物ってのは重しなんだよ」
「荷物番を商売にしている預かり屋がいるくらいだからな」
「ふむ。だがいろいろとよくない話も聞くのだ」
ラッドとヨッシーの力説に、マックスは眉根を寄せた。
信用できないうえにぼったくり価格だとオルガたちも難しい顔になる。
「邪魔なのは確かだがよぉ」
「5日分でも無理すれば持ち運べるし、水が何とかなるならもっといける」
そうじゃないとセバスは首を振った。
「自前で信用できる人間を連れくる。それがこのあたりの階層での『荷運びメンバー』なんでしょう」
「拠点で荷物番をしてもらい、我々は身軽になって……なるほど」
マックス君、気づいた模様。
☆
第十一週にはジュスティーヌが断り切れず、との事情で騎士科のジャークスが参加した。
2回目の学院パーティ編成の運営でトラブルを起こし、はからずも旧14号パーティのメンバーの多くと因縁を持ってしまった少年だ。
当事者であったユイは露骨に顔をしかめたが、ジャークス自身も『よそ者』として必要以上の関わりを避けた。
聞かれれば答える、聞かれなければ答えない。互いに事務的なやり取りに終始する。
日程途中では霊格酔いに耐えながら拠点での荷物番を大過なく過ごされた。
第十二週では、クリスが抜け家政科のウィスタリア再び。
「クリス君、だいぶあなたのことを気にしているようですね?」
「……わたくしは、クリス様のご趣味にドンピシャでございますので」
「えっ、クリスっちってそういうヤツだったんだ!」
女子組は大盛り上がりで、不参加で後に話を聞いたユイが無念そうだった。
なお転生三人組は空気に徹していました。
後でクリスを自室に呼び出すんですけど、閑話休題ってことで。
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夏季3回の狩りで、転生三人組はレベル8のママだったが、他のメンバーは全員レベル9に上がった。
予想できていたことなので驚きはない。
スキル面では、【発勁】連発中の転生三人組の錬気術が【Lv.3/見習者】になったなどの変化はあるが、情勢に大きく影響するものではないので割愛する。




