6-08.特に理由のある嫉妬《ジェラシー》
冬季の終わり、旧14号パーティに探索者組合から鉄札級への昇格が案内された。
小一時間ほど組合についての説明と簡単な実技試験の後、これまでの木札および登録費と引き換えに正規組合員証の鉄札が渡される。
「演舞だけでいいのか?」
「大体のことはわかる。魔術士以外は【Lv.2/未熟者】、一部【Lv.3/見習者】ってとこだな」
買取窓口による確認で第三層で狩りを成立させていることがわかっており、それで十分だそうだ。
実技試験官の言うように、この冬季でラッドとヨッシーの棒杖術は【Lv.2/未熟者】になっている。
ついでに転生三人組全員が盾術も【Lv.1/初心者】表示されるようになった。
「卒院条件の一つをクリアだな。さあ、3年卒を目指そうな」
「いやだぁ、5年は居座るんだあ」
探索科の卒院条件の一つが、何かしらの武術を【Lv.2/未熟者】以上にすること。
クリスは組合の試験官のお墨付きだと迫るが、転生三人組にとっては学院に滞留するメリットの方が大きく見えている。
この話は平行線だ。
技能でいうと、ユイも【錬気術】がLv.1になった。
「なんだか身体の調子がいいような気がします」
「うぇ~、わたしはまだ表示されないのに」
女子組は、寝起きの瞑想魔力操作にそれなりに取り組んでいる模様。
クリス君は魔力を認識できないので、ただの瞑想。精神安定効果はあるみたい?
☆
このほかで転生三人組に関わる冬季のリザルトは、まず霊格レベル7でヨッシーの【個人倉庫】がLv.4、一辺5mで125立方mと大幅な拡大。
「霊格レベル2、3、5、7……素数か?」
「だとすると、次はレベル11です」
「でもまあ、容量はすでに十分だろ」
面積で25平方mって、京間サイズでも13畳超、団地サイズなら17畳超。
「僕が昔住んでたアパートの倍以上に広い」
ただし、石ころとか土とか、入れたままになっているものがあるかもしれない。
容積的には無視できても、気分的にってヤツだ。
「脳内リスト的なものは?」
「ない。ないんだ……」
マルク工房にコンテナ用木箱の追加発注と、水を入れておく壺と桶もダースで用意する。
放置して口に入れるにはためらう水であっても、身体を拭いたり衣類を洗ったりには使える。
次に、ラッドの【通信販売】はRank.3のママ。
「パターン的に、次は累積500万だからなあ」
「品ぞろえは、すでに十分ではあるんですけどね」
ご近所のスーパーだからね。生鮮食品もいけるよ。
第三層でポイント化する、いわゆるゴミ品に新たに加わったのは森林大蛇の『蛇の皮』。
品名は『皮』だけど、鱗。手のひらにすっぽり収まってしまうサイズで、買取値は粒銅3枚。交換率1.67。
鱗鎧の鱗片に使うらしい。
お財布に入れておくと金運が上がるといわれるが、いわれるだけ。
硬貨同士の擦れ合い摩耗をちょっと抑制する程度の効果しかないし、であれば『蛇の皮』である必要もない。
交換率では突撃鹿の『鹿の毛皮』も1.00倍を超えているのだが、買取が中銅貨2枚。
こちらは現金化。
「というか、買取が高額品だから持ち帰る。それでいいだろう」
「粒銅品はポイント処分でいいわよ?」
クリスとマリエルの言う通り。
第一層のコウモリの『被膜』など、もったいない精神で拾ってしまっているが、移動優先で捨ておいてもおかしくないレベルになっている。
いずれは小銅貨程度なら処分となるのかもしれない。
「実際なるでしょ。本来、持ち帰れる荷には限りがあるんだもの」
「うさうさの尻尾とか、嵩張りますし」
ユイちゃん、率先して拾い集めていたものね。
☆
反省を踏まえ、パーティの運営にも変更が加えられた。
ユイが不参加の場合、治癒役はセバスになる。
光魔法【小癒】および【小癒改】が使えるからだ。
だがセバスには、まともに当たると面倒な敵を魔法攻撃で片づける役割がある。
実際、さっさと倒してしまう方が余計なケガをしない理論も有効だ。
でもMPには限りがある。
ここに至り、保険として個人持ちだったポーションを、パーティで決済することが承認された。
使用後、あるいは期限切れでの廃棄後、清算時に上乗せという後払い方式。
プール資金のような共有財産は扱いが難しいため、このかたちになった。
☆
今回の会合は探索科寮の食堂では話せないことがあるため、カフェテラスの個室を借りた。
ティータイムを挟んでクリスとマリエルについての話題。
「僕の卒院条件レベル8。達成してしまったけれど、ここで抜けても恨まれそうだし」
「あればあるだけ嬉しいのがMP。わたしも、問題にならない範囲で付き合いたいの」
仮に二人が抜けても6人。パーティの標準人数ではある。
空手形含みとはいえ卒院後、クリスは転生三人組の作るクランの運営スタッフ、マリエルは家業のポーション製作でツテツテコネクト。
レベル100なんて夢物語まで付き合う予定はなく、いつかはパーティを離脱する関係だ。
「家政科の、同じく高級使用人目指している子が恨めしそうで……」
「わたしの方はそういうのないけど、レベル上げ必須だといろいろありそうね」
力なく笑うジュスティーヌたちを横目にマリエルは肩をすくめた。
「このパーティでの狩り体験を求める声もあるんですよ。1年次の時のように」
1年次の、学院パーティ編成で配された『お客様』に、第一層の拠点1泊奥地狩り体験。
ノウハウを拡散させることが学院側の狙いでもあったのだろう。
同じ事を第二層以降についても求める声があるという。
「探索科じゃ聞かないが」
「騎士科で、『こういう噂があるよ』とご親切に話してくださる方がいらっしゃるんです」
ジュスティーヌは長いため息をついた。
「噂の出どころが、どこか、誰かなのかは、言わぬ調べぬのが花でしょうね」
「ハハッ」
何事も、うまくいけば嫉妬される。
圧ならまだしも嫌がらせや積極的に足を引っ張られてはたまらない。
「嫉妬は面倒なんだよなあ」
「放置は危険か」
少々迂遠な話になるが、街の衛視・衛兵隊や近隣の騎士などもレベル上げのためにダンジョンに入る。
暴力という背景が必要な職業ゆえに、一般探索者よりも高レベルを揃えないといけないからだ。
隊単位で使う狩場が第二層から第四層。
戦地野営の実践も兼ねて、長いときは10日前後のアタックになる。
学院生の事情を知っているので、休業週はローテーションから外しているが、裏を返せば通常週はプロ集団が滞在しているかもしれない環境なのだ。
第二層に進出した2年次パーティを襲う手痛い停滞。
狩り方はわかった。
だが、タイミングが悪いと十分な獲物にありつけない。
学院生活3年のうち、すでに半分をすごしてしまったというのに!
旧14号パーティは休業週に特化し、そのへんの事情に関わっていないので意識から漏れている。
マックス・オルガ組連合も、通常週はコンディション維持が目的なので影響が薄く、実感として理解していない。
他パーティがなんでそこまで焦るのか、情報が無いのでさっぱりわからない。
実際、他パーティにしても旧14号パーティなんてものがいなければ、例年と比較してこんなもんだと思えただろう。
☆
「……といった事情があるらしいよ」
「初耳だわぁ」
クリスの語る裏事情に、一同は驚いた。
クリス自身、恨めしそうな家政科の同期から聞かされた時に同様だったので気持ちはわかる。
「ウィスタリアっていうんだけど、彼女もレベル上げに苦労していてね。いろいろと、愚痴を聞かされたよ」
「えーと、赤というか紫っぽい髪の人だったっけ?」
幼年科あがりなのでセバスも見かけたことはある。
「調整の意味で、彼女なりを『お客様』にするのはアリかなとは思う」
クリスのいう「調整」とは、パーティ内の霊格レベルの均衡。
何もしないと、デバフ盛り盛りの三人とのレベル差が開くからね。
「それでティナへの圧力が減るなら、あたしは反対しないけど。でも、その子は家政科なのよね?」
「あー、圧力源は騎士科かあ」
どうせ女の子の日がある。
どこかで誰かが不参加の可能性は高い。
だから各回で1人、『お客様』を受け入れることはできるというのがヴィオラの判断。
「ポーズにはなるだろ。ノウハウを独り占めする気はないってな」
「誰を入れるのかは俺たちの判断。他所が口出しする問題じゃないしな」
メンバーの相性問題を押し出せばいいとヨッシー。
「問題は、どこまで情報開示できるかです」
「狩りのノウハウではなく、例の、皆さんの秘密ですね?」
ラッドの【通信販売】は絶対秘匿。
野営食に彩が欠けるが我慢はできる。
だが、ヨッシーの【個人倉庫】なくして3泊4日以上の狩りはかなり厳しいものになる。
「……私にいい考えがあります」
ジュスティーヌさん、そのセリフ、ものすごく不安になるんですけど?




