6-07.第三層チャレンジ
第五週の無の曜日、実質的な中休みの始まりの日、旧14号パーティは最終確認を行った。
アクヤ・ダンジョン第三層、通称『アンブッシュフォレスト』。
丘陵地帯の森林に無数の経路が走る、洞窟とは違うタイプの迷路型だ。
騎士科ロードマップやベンジャミン兄さんほか、情報を集め、各自で装備も更新してきた。
転生三人組も、貯めていたおカネのほとんどを革の胸当てとフレイルの先端部になる鉄の棒に突っ込んだ。
とげとげ鉄球ことモーニングスターは、まさにそのとげとげ加工ゆえにちょっとお高かったので、涙の見送り。
データの読み合わせ、移動隊列、会敵時の手順。
特に、女の子の日の都合で参加できないケース、今回はマリエルの抜ける穴をどうカバーするかが重点的に話し合われた。
☆
第六週の第三層アタックは、初回なので様子見も兼ねた3泊4日の日程で行われた。
地上から第三層の拠点まで、休憩込みで10時間近くかかり、初日はそこで終了。
ブランク明けで慎重に行ったことと、第二層の通過中、打ち合わせ通りに動けるかの検証をしていたために時間を食っている。
「どうせ初日と最終日は移動で潰れる予定だしな」
地上から第一層最奥の拠点までが道なり10kmで、ここを小走り2時間弱。
第二層拠点間が道なり15km。会敵率が高く、それなりに強くなった現在でも6時間を見込んでいる。
逆方向も同じだけの時間配分。
中日の2日目・3日目が第三層での狩りの予定。
ラッドの初日総括を受けて、わかってはいる話ですが改めてとジュスティーヌは口にした。
「移動時間という枷がある以上、学院生は第四層まで行ければ十分というのも頷けます」
「第三層でもレベル12までいけるようですしね」
一般探索者も、比較的に地上との往復がしやすい第二層・第三層で狩りになれば十分生活できるので、それ以上を目指す者は極端に減る。
学院が、つまりは為政者が求める霊格レベルとは、まさしくそういったボリュームゾーンに対抗できる戦力の基準だ。
十分な仮眠・休養を取り、第三層側拠点を出発。
第四層へのゲートがあるという、マップ中央の神殿っぽい小さな遺跡を目指す。
拠点間の連絡路は道なりで最短6km程度とのことだったが、順調な道のりにはならなかった。
待ち伏せされまくり。
地形的高低差が激しく、粗密入り混じる森林は見通しが悪い。
通路部分のみを行く一行より先に魔物の方が索敵を成功させ、幾度となく斜面の上から下から襲撃を受けた。
事前の取り決め通り、戦える広さのある場所まで戻ろうにも、隊列を分断された場合はそうも言っていられない。
「モッティ戦術かっつーの」
「嫌らしいとこ突いてくるわね!」
「言うなよ。こういうケースを想定して前衛役を分散配置してるんだ」
中衛の役割を担うクリスは、ペア前衛であるラッドのサポートと後衛のガードのどちらに比重を置くかで翻弄された。
遭遇位置的には戻るより進んだ方が広場に近いケースもあるのだが、これまたケースバイケース。
原則は、未踏領域には何が待っているのかわからないので後退なのだが、通路部分の長さによっては戻る方が危険と考えられる場合もある。
「どっちに進んでも追加おかわり挟み撃ちがありうるってのがなあ」
原則は原則として、その場判断は例外多数となった。
通路部分だろうと、個々人の地力でなんとかするのが最善ぽいケースが割とある。
「こればかりは経験をつむしかないわ」
「ですねえ」
役割が後衛にシフトしつつあるヴィオラと、完全に後衛だが攻撃手段は棒杖術なユイにとっても、立ち回りの判断が迫られる難しい戦場になっている。
魔物は傾斜地も巡回エリアにしているようだが、こちらは交戦に適さない傾斜地に深く踏み込みたくはない。
予想通り、通路網と広場の把握がカギになりそうだ。
ようやくたどりついた神殿っぽい小さな遺跡には泉があり、飲める水を採取できる。
簡易的な堀と土塁でゲート周辺は拠点化しているが、第三層の遺跡側も第四層の洞窟側も狭い。
それでも、土塁に寄りかかるように寝ている人もいる。
トラブルは誰にとっても迷惑なので、邪魔にならないように一服したら退去。
「ありゃあ、第四層組かな」
「第三層拠点まで戻るのもキツイのかもね」
とても宿泊場所には使えそうにないが、一時的でも休憩できるだけマシなのだろう。
ルートを変えて第二層ゲートのある拠点に戻り、2日目終了。
3日目も同様、ルートを変えて遺跡を目指し、休憩の後、別ルートで拠点に戻る。
仮眠後に地上に向けて出発。4日目の昼過ぎに帰還した。
☆
第三層には、第二層森林部でおなじみの魔物も顔を出す。
森蜂はスナック感覚で対処。
ユイも慌てずにはたき落としてからの追撃で終了。
遭遇したら、近場の仲間を呼ばせてしまうのも変わらない。
交戦中の余計な乱入なんて一番イヤだからね。お掃除しておくに限る。
吊るし蜘蛛と会敵するのは、通路部分にかかる枝から降りてきたケース。
前衛二人で相手しつつ、ヴィオラとセバスの魔術・魔法でダメージ。終了。
「どうもあたし、【闇弾】のほうが合ってる気がするのよ」
「そういう感覚、大事だって聞きますね」
月輪熊君は、雄叫びを上げてから突進してくるのが致命的。
第二層だとセバスの【坑穴改】で掘られた落とし穴に落ちたところにロー気味のフルスイングをすると、なぜか頭部にジャストミート。スイーツ。
でも第三層では、通路部分に穴あけるのはまずいだろと、搦め手よりも攻撃が優先。
熊さんの進路上にセバスの設置した【地雷爆】でドン。
無属性魔法で【有線制御】と名付けた魔力糸を接続し制御するオプションを用いることで、【地雷撃】も【地雷爆】も安全に運用できるようになった。
任意起爆なら、メンバーが接触してドカンの危険がない。
設置後に不要になった場合の解除処理も安全安心。
強いて言えば、設置後は意識を割き続けないといけないことがデメリット。
新顔筆頭は森林狼。
だが、草原狼とは住処が違うだけ疑惑がどうしてもぬぐえない。ドロップも同じだし。
「微妙に強い気はするが……」
マーダー・テンタクルスは、陸生イソギンチャクのようなもの。
知らないと麻痺毒で大変なことになるのだが、対策済みだと移動しないこともあって射的の的。
むしろ、斜面に見付けてしまったときに殺るか殺らないかで悩ましい。そういう相手。
ほぼ確実にドロップする『よくしなるとげとげの触手』は買取値小銅貨1枚。
乾燥させたものが有刺鉄線的な用途に使われるそうだ。
森林大蛇はデータ的にヤヴァイと思っていたし、実際にヤヴァかった。
鱗が固く、肉も弾力性があり、攻撃が効いているのかどうかすらあやしい。
そんな状況で巻きつかれたヨッシーが苦し紛れの【発勁】。これが効いた。
「固い敵は内側から破壊。基本だったな」
「むう~ん【発勁】」
突撃鹿は叫ばないで突撃してくる。
重量級ボディの奏でる突撃音はすごい。身構えていてもビビる。
ただし、ご立派な角と体格がよろしいのがデメリットになり、移動経路の予測は比較的立てやすい。
となると、ええ、うちのパーティには落とし穴職人兼爆弾魔がいるんですよ。
「突撃を受けちゃいけないのはわかるんですが」
まともに戦わずに倒してしまい、これでいいのかと悩むジュスティーヌ以外はこれでいいのだと思っている。
トレント先生は、マップ探索ついでに探しては見たが、さすがは人気のBOSS(?)。出会うことはなかった。
「探索者稼業も第三層で十分だとなれば、時間管理して独占狙いますね」
「湧き時間の掌握と秘匿はBOSS狩りの鉄則だわなあ」
総じて、第二層森林部の延長、強化版といえる。
「素直な地力が試されるだろう。特効持ちがいれば別だが」
「むう~ん【発勁】」
「ドッカーン」
魔物の密度が濃くドロップもいい。
対応できるのであれば、霊格量もカネも美味しい狩場ではある。
☆
冬季の第三層チャレンジは3回行われた。
第六週と第十一週が様子見3泊4日、第十二週だけ4泊5日。
女の子の日の都合で、どの回も8人全員でのアタックにはならず、ペアの組み換えなど連携に課題を残す結果となった。
「役割に固執せず、高度に柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処するしかないだろ」
「場数と地力だわなあ」
転生三人組はレベル7に。
他メンバーは7、そして8へと上がった。
金銭的にはフル参加の場合でクオルタ銀貨換算42枚。
現金として手にするのは怖い額になってきたので、窓口で見積もり後に、分配分を各自の口座に入金処理。
11~12歳にして、工房を経営するマルク親方の倍くらいの収入になっている。
でもすぐに装備更新で溶けるんだ。
探索者の宿命である。




