6-06.情報の拡散
カツアゲ事件に端を発するマツリ騒動に振り回された冬季の第一週、無の曜日。
一般寮の相談室を確保できた旧14号パーティは、重要案件を話し合うために集合した。
「一説によれば、ジャカルディアの地よりもたらされたがゆえにジャカルダイモ。
現在の王国でも馴染みの食材です。
それを薄切りにし、油で揚げ、塩をまぶす。
材料も調理法も素朴な、ある意味では一切のごまかしのきかない一品。
歯ざわりはパリッと、舌には油と塩の豊かなハーモニーが奏でられます。
そして軽い。あまりにも軽い。
手が止まらない、やめられない。
……あれ、なんでもうないんですか?」
「ちょっとティナ!」
「はっ」
空の木皿を前にして不思議そうに首をかしげるジュスティーヌはともかく。
ポテチのほか、前世日本だとディスカウントストアで税別398円で売っていそうな丸い缶入りのクッキーもお出ししてある。
こちらもユイを筆頭にハムハムしている。
「とまあ、自分の【通信販売】ではこういう品も手に入る」
ガタッ!
両手で抑制ポーズをしながらラッドは続けた。
「ただなあ、味の好みってわりと差がでかいだろ」
「う、うーん……」
地域差や時代差など、手に入るモノからして違い、調理法も踏まえ、さまざまな味が生じる。
「慣れていない味というのは、それだけで『まずい』になりがちですから」
「それは、そうですね……」
スーパーの特売肉に慣れている人間が、人生初の高級和牛なA5肉食っても、脂っこいだけじゃねとなるみたいな。
しかも、食材・調理法的な忌避もある。
宗教的に豚肉がダメとか、砂糖を使ったタレで煮た肉なんて気持ち悪いとか。
知らないときは「うまいうまい」と食べていたのに、急に憎しみのこもった目で睨まれることもあるからね。
「例えば、豆を煮るのに砂糖を加える、なんてのはどうですか?」
「え、砂糖を!? もったいない!」
「……ごめん、想像もできない」
この分だと、餡子はダメかなあ。
「それに、手に入るのは食べ物だけじゃないぞ」
「う、うーん……」
いずれにせよ、転生三人組だけでは今世基準のセーフ・アウト判定できないものが多く、うかつにゲンブツをお出しできない。
他のメンバーの知恵や意見が欲しいのだが、オープンな場では話もできない。
例えば、と存在を明かした白砂糖を前にマリエルは過呼吸に陥りジュスティーヌ主従も目が怖い。
「こういうわけで、話、相談自体をなかなかできなかった」
「理解、できてしまうなあ」
クリスが腕組みをして天井を見上げた。
☆
クリスが天井から目を下ろして参加者一同を見渡した。
「例のポイント、ゴミ品の引き取りだけじゃ足りないよね?」
狩場での、いわゆるゴミ品のポイント化は宿営時に手羽先の1本も配布すればヨシ、細かい清算はしないとなっている。
「これまでは持ち出しだな」
キノコ様のポイントがでかいことを告げ、手に入れられそうなら入手して譲ってほしいと伝える。
「キノコがおいしいって、そういう……」
ただし、余計な耳目を集めたくもないのでそこは注意。
【通信販売】の効果を大っぴらにしたくない事情は、メンバーも理解できる。
「なかなか難しい塩梅ですね」
「ほぇ~」
そのうえで、共犯関係の強化を目的に、キノコ1本分を目安に、各自に週5000ポイントくらいのおすそ分けを考えた。
「うん、まあ。わかりやすい利は大事だよね」
「釣られますよ~。全力で釣られますよ~」
「ティナぁ」
メンバーが欲しいものを、使用目的なども聞き取って、品物を探す。
「まあ、欲しいといわれたものが手に入るか、お出しして大丈夫かはまた別の問題なんだが」
「手羽先やポテチなら無問題なんですよね!」
「ティナぁ」
消えものが一番安全なのはそう。
☆
さて、本日集まった理由はもう一つある。
ジュスティーヌが、騎士科のロードマップのブラッシュアップを依頼されたのだ。
「私たちは先人の足跡をたどっているだけと申し上げたところ、ではその先人に名を連ねろと」
あの理論を書いたのは私ですが、新しい知見で更新してもらいたいですね、と。
初老の講師の穏やかな笑みを前に、ジュスティーヌは全身がこわばり嫌な汗が噴き出したという。
「それに、ただでさえみんな生情報に飢えているのよ。書かれていないノウハウよこせってね」
年次内でトップグループに位置し、第二層での狩りでも先行。
同期を筆頭に、他者からすればいろいろ思うところもあるだろう。
第二層の情報は調べたが、実際にどういうカタチで狩りをするのか。何に注意すればいいのか。
転生三人組も覚えがあるが、不安の種は尽きぬもの。
かつ、余計な試行錯誤を排し、最適解を求めてしまう気持ちもわかる。
「自分としては粛々と是々非々ってヤツだな」
オルガたちがいきなり部屋に押しかけてきて教えろくださいが許されるのは、付き合いもあるし学院に、探索科に引き込んだ責任からのしょうがないなあ感。
だが、赤の他人に同じ態度をされたら何様だとなる。
マックス・パーティとの情報提供協定だって、建前上はあくまで相互にだ。
一方的なご奉仕を前提とした関係ではない。
「僕の中の『身にならないぞおじさん』としては、自分で考え苦労したからこそ身につくと思うところはあるものの……」
「俺たち自身がベン兄さんなりの情報で、事前の心構えと対策してから階層を進めているからなあ」
まさしく先人のおかげであり、独占しようがないものでもある。
ならば、ジュスティーヌの功績にしてしまうのもアリだろう。
「攻略情報、拡散することになるけどいいのね?」
「どうせまだ第二層だ」
「ハハッ、確かにそうね。まだ第二層なのよね」
なにかツボに入ったのかマリエルが笑い声を上げる。
第二層では防御重点、特に膝下と首と指を守れ。
ポーション必携。
この情報だけでも多くの学院生の危機を未然に防ぐことになるだろう。
先人の集積への補遺として、『ダンジョン最速理論』などの注意点や所感を補足するカタチでいこうと決まった。
☆
翌第二週の週末には、転生三人組は約束通り、後輩たち新14号パーティの拠点1泊の狩りに『たまたま』経路がかぶって同行するカタチになった。
この時、歩きファンガスの倒し方をレクチャーしてやらせてみたらキノコがドロップした。
後輩たち以外のメンバーの手前もあり、小銅貨2枚でキノコ様を譲ってもらおうとしたのだが……
「もしかして、ファンガスのキノコが大好物な先輩って?」
「え?」
なんと魔術科で、キノコ魔人がキノコぉキノコぉ言いながらキノコ欲しがってるという噂話が流れているとかいないとか。
いったいなにヴィオラの策略なんだ!
余計な耳目を集めたくないってあれほど!
「ダンジョンの中には、怪しい笑顔でキノコと美味しい何かを交換するキノコ魔人がいるって」
……ファンガス農園での取引かな?
直接三人につながる情報ではないね。
多分。
「あー、確かになあ。怪しい笑顔だな、セバス」
「うさんくさーい」
矢面に立つセバスを隠れ蓑に、後方でラッドが袋から取り出すふりをしながらシリアルバー(チョコ味)を購入&包装剥き。
「一応、こういうモノと『交換』しているんだが」
「「これすきー」」
『おまけ』されたことのある後輩たち4人がサクラ……じゃなく素でシリアルバーに歓声をあげる。
残る2人も、分配すれば粒銅1枚程度だしと『交換』に応じた。
「……本当に、美味しい何かだ」
「これが本当に怪しい笑顔です。フッフッフ」
「やーん」
フィアフ君に逃げられたが、笑いは取れたのでヨシ!
☆
夜、寮の自室にマックスが訪ねてきた。
「ファンガスのキノコが大好物だというのは君たちかなと」
「おおマックス、心の友よ! ありがとうな。自分たちはこれに目がないんだ」
騎士科では、ファンガスのキノコが大好物なキノコ魔人がキノコぉキノコぉ言いながらキノコ欲しがってるという噂話が流れているとかいないとか。
いったいなにジュスティーヌの陰謀なんだ!
なおヴィオラもジュスティーヌも、自分の流した噂とはなんか違うと犯行を否定。
少なくとも『キノコ魔人』は家政科で、『キノコぉキノコぉ』は薬剤科で流れた噂が先のはずと言う。
いったいなにクリスとマリエルの計略なんだ!
噂には尾ひれがつくもの。悪魔合体もお手のもの。怖いですね。
ちなみにユイちゃんは「ファンガスのキノコ、手に入るなら欲しいです」とド直球。
「いつもその、オルガたちがすまない。こんなことでしか返せないが」
「俺と同じ養護院出身だし、マックスに紹介したのも俺たちだ。むしろあいつらのことを頼む」
「まあまあ、せっかくだ、コーラでも決めていけよ」
「!」
奇跡のポーション『呼ばわる者』とはマックスの評。
カフェインと糖分をしこたまぶち込まれたマックスは、元気いっぱいで帰っていった。




