5-12.1年次夏季②学院パーティ
1年次の夏季、第13回から第16回までを行い、学院パーティ編成は終了となる。
14号パーティは内部の人数調整の結果、転生三人組とジュスティーヌとユイに編成で配された1人の計6人でのアタックを行った。
いつも通りにこなしたが、拠点泊のパーティが増え始め、第一層奥地では獲物の希薄化がはっきりと感じられた。
☆
学院パーティ編成の終了を前に、どのパーティでもメンバーの固定化が進んでいる。
関連して、トレードや引き抜きなどの話も聞くようになった。
学院内ダンジョン人材市場の風物詩、夏の嵐のはしりである。
だがしかし、同年次に大小さまざまな影響をあたえている第14号台風パーティは、嵐と無縁の平穏を謳歌していた。
ジュスティーヌ主催のパーティという建前が、引き抜きなどのちょっかいからメンバーを守っているためだ。
ただし、役に立っているから目立たず、本当に効いているのかわかりにくい。
事を起こさせない予防の成果というのは、玄人でも評価・判断に困るもの。
「んで費用分の効果がないって廃止すると、しばらくしてから困ったことになるのが予防や検査、保全あるあるだわな」
何か前世での嫌なことでも思い出してしまったのだろう、ラッドが吐き捨てた。
「効果はともかく、都合のいいお神輿でいてくれるってんだ。担いどきゃいいだろ」
「当面、Win-Winでいられそうですしね」
『神託みたいなもの』という表沙汰にできない秘密の共有により、メンバーの結束は強くなっている。
転生三人組から現状を壊す理由もない。
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第六週の身内狩りは、第二層3泊4日を試してみる。
2泊3日から1日増えるだけだが、各自の荷物は3~5kgの増となり、そのぶん嵩も張る。
拠点キャンプで水だけでも購入すれば2kgは減らせるが、お代が必要になる。
第二層には水源もあるはずなのだが、まだその場所を確認していない。
逆に言えば未踏領域にあるということで、あてにすることはできない。
また、重量のある嵩張る荷物を抱えたまま戦うことは厳しい。
レベルも上がり慣れてはきたが、まだルーティンの仕事としてこなす狩りとは呼べない、命のかかった戦闘なのだ。
自ら重しを加算しセルフ・デバフを盛るのは愚かと言い切れる。
拠点で預かり屋に任せる手もあるが、ここは手札を切ろうとなった。
「俺の【個人倉庫】も成長している。みんなの数日分くらいは収納できる」
用意したミカン箱くらいの木箱に全員分の水や食糧を詰め込む。
ヨッシーの【個人倉庫】への出し入れにかかる魔力は、重さ大きさに拠らず個数で一定なので、まとめて1個扱いのコンテナ的な運用。
「……これがハズレ加護? とんだ節穴じゃないか」
容量が育てば便利すぎるし、悪用もできるからね。
仮に、過去に【個人倉庫】持ちが存在したとして、その人も隠していたか、その人を確保した者・組織が隠していたか。
「それは……そうかも」
手ぶらでポンは怪しすぎるし、万が一を考え1日分以上の水・食糧に食器等の手回り品は各自が背負い袋にまとめる。
「各自の手回りは、これまで通りということですね」
騎士科のロードマップ『最速理論』では、レベル4から森林部へGO。
『最速理論』の示すレベルはかなりキツメの目安だが、メンバー各自が狼に問題なく対処できるようになれば草原は卒業という解釈は他のロードマップも同様。
装備もアップグレードしているから、多分、大丈夫。
これまでだって狼に勝ててはいる。楽勝ではないだけで。
☆
第二層森林部の魔物たちのうち、森蜂は群れタイプ。
だけど、草原部の狼と違い会敵時は1匹のケースも珍しくない。
飛行する動きにトリッキーさはあるものの、飛行タイプゆえのもろさもあり、一対多にならないように注意を払えば十分に対処可能だった。
警戒していた毒針攻撃は小楯で十分防げた。
力任せのシールドバッシュで弾き、体勢を崩したところに追撃で終了。
「貫通力がない分、兎よりやりやすい」
「防御力も狼以下」
「モグラより大きいから、かえって当てやすい」
むしろそこら辺のスズメバチ程度のサイズのほうが、危険でやりにくかっただろう。
「ていうか、わざと倒さないで仲間を呼ばせるって、なかなかえぐいわね」
ヴィオラは呆れ気味だが、ゲーマー的効率思考なら当然。
索敵に歩き回らなくても向こうからきてくれるってラクでいいですよね?
吊るし蜘蛛は森林部で最も苦労した相手。
巣を張って待ち構えるのではなく、頭上からツツーっと降りてきて獲物を吊り上げる子牛くらいの大きさの蜘蛛。
「知らなきゃ引っかかってたろうなあ」
「先人の皆さんに感謝」
データがあってなお苦戦した。
移動時にペアのどちらかが頭上警戒することで不意打ちを受けることはなかったが、それなりにタフなこと、足の長さことリーチで負けていることが苦戦の理由。
視界もやたら広い。後ろにまわっても不意はつけないし、糸攻撃もある。
3つのペアのうち男子組2つで、蜘蛛の注意・攻撃を分散させるために左右に別れて攻撃を重ね、魔術・魔法攻撃で削るパターンが安定。
「大きいし、交戦中は胴体部がほとんど動かないから当てやすいのはいいんだけど」
「単純に威力不足っぽいよね」
マリエルの指摘にヴィオラが苦虫を噛む。
ただし、安全位置からの有効なダメージソースなので魔術射的は継続。
セバスはMP温存のため、基本はヨッシーとのペアで前衛戦闘参加。
ユイちゃんは一生懸命見守っている。
月輪熊は、単体では第二層最強の魔物のはず。
初遭遇では落とし穴にはまり、第二次接近では石礫で風穴を開けられ、三匹目には「ちゃんと戦いましょう」とジュスティーヌが言い出した。
そして単体ではペア3組の攻撃をさばききれなかった。
「数で押す、囲んで殴る。実に王道戦術ではある」
「しかしまあ、クマ相手に殺ってやると思えるんだから、ずいぶん慣れたものです」
「わたしたちも強くなってるからね!」
セバスの前世的感覚での感想に、マリエルの今世的常識で応えられる。
微妙にすれ違っているのだが、それがわかるのが転生三人組だけなので、笑ってごまかした。
結果、三人組以外はレベル5に。
霊格量がうまい。
ドロップもなかなか。
森蜂は『毒針』と『蜂蜜玉』。
吊るし蜘蛛は『紡績腺(粘着)』、『紡績腺(蜘蛛絹)』。
いずれも小銅貨2枚か3枚での買取になる。
月輪熊は、初の魔石(中)をドロップ。中銅貨1枚になる。
今回はご縁がなかったが、他にも『熊の手』『熊の毛皮』『熊の胆』と、いずれも中銅貨から大銅貨で買取な高額ドロップを抱えている。
「熊さんは、MPに余裕あるときはセバス任せでサクっといこう」
「さんせー」
ラッドの通達にマリエルはもろ手を挙げて賛成した。
「それでいいのでしょうか……」
一人だけ悩むジュスティーヌだけど、いいんじゃないかなあ。
効率って、そういうものでしょ?
☆
ヨッシーの【個人倉庫】への荷物収容を解禁したため、第十一週・第十二週の4泊5日狩りも物資の不安なく進行。
身体かかゆいとか汗臭いとか、女子力捨てているのはやむを得ないのであります。
三人組はレベル5、他はレベル6に上がった。
ヴィオラでいえば、【風弾】を連続19発放てるのがレベル6。
ここまでくれば魔術士は置物とは言われない、言わせない。
射的の練習とばかりに蜘蛛相手に3連射を決めて、見栄を切った。
「普段は物理、面倒な相手に魔術。あたしの戦闘スタイルは“ダブル”でいくわ」
金銭面でも夏季の収入は合計してクオルタ銀貨10枚に到達。
ほぼ一人前の稼ぎにジャンプアップである。
なおヨッシーの【個人倉庫】もLv.3になり、予想通り1辺1mに容量が拡大している。
「やっぱり霊格レベルと一緒のタイミングであがった。法則わかんね」
夏季の3回、足掛け14日間にわたる第二層狩りで倒した魔物は、一人頭で900弱をマークした。
「群れや仲間を呼ぶ習性を利用できたのが大きいな」
「ただ、本格的に狩ったのは今季からなのに、すでに適性狩場ではなくなってきたなの感覚」
不遜な物言いだが、メンバーにも自覚があったらしい。
「面倒はあっても、慣れの問題でしょってだけでたおせちゃってるもんね」
「命が危ないって場面もほとんどなくなったしなあ」
「例の『最速理論』では、レベル5から第三層なんですよね……」
記載されていない前提条件に注意を払えば参考にはなる。
第三層を視野に入れるが、まずは情報収集が鉄板。
全員納得し、夏季の総括を終えた。
後はいつもなら履修計画を練るのだが、年度末のため学院、講師陣もわたついており開講予定もまだ未定。
時間割だけ用意しておいて、発表後にどの講座で埋めるのかを考えることになった。
「ではみなさん、1年間お疲れさまでした。また来年度もよろしくお願いします」
建前とはいえパーティの主催者。
ジュスティーヌの締めで閉会。




