5-11.1年次夏季①後輩対応
夏至祭週で【祝福の儀】を受け、養護院で新たに1人の少年が探索者を志願した。
狐系の獣耳の人フィアフ。
気質的にはおとなしい子のはずとヨッシーは首をひねるが、やはり獣耳の人は、就職で不利を感じるそうだ。
先行するオルレア、ジャルマリスと合わせ、養護院からの三人はすべて獣耳の人だ。
マルク工房コミュニティは春季生まれの10歳児がいなかったため、今回【祝福の儀】を受けた子はいない。
時間的余裕のあった先行者と違って、フィアフには、夏季の間に見通しをつけないとならない。
転生三人組は、今さっき発見した実は余裕あるんじゃねゾーン、第一週の闇の曜日の午後か無の曜日の1日を後輩対応にあてることにした。
転生が発覚してからこっち、身体を休めるための休養日ないし休養時間は設けるものの、休業週もダンジョン&ダンジョン。
三人がまともにまとまって休むのは、季節ごとの祭週。
実家等への顔出しや、神殿での奉納イベント、屋台制覇といったやるべきことはあるが、原則この週ばかりはダンジョンを切り離した休日になっている。
平素は休日らしい休日をあまり確保できていないが、わりとなんとかなってしまっている。
「要は部活なんだよ。自分たちのダンジョン活動」
「物騒な部活だな、おい」
即座にヨッシーに突っ込まれたが、体育会系の部活動経験者であるラッドが自身の発言を補足する。
平日5時起き朝練、授業後は夕方の施錠まで練習し、休日も練習か遠征か本番か。
「な、今世のほうが楽な気しないか?」
「そう言われると、わりと自由時間は確保できてる、ような気がする?」
「社会全般に、日の出・日の入りベースで健康生活な、ゆったり目の時間感覚だし?」
あれ? これって前世のほうがきつくね? と、ヨッシー、セバスも首をひねった。
☆
祭週の間に当事者たちと予定をすり合わせ、第一週の無の曜日に後輩志願者たちと合流。
養護院からのニューエントリーなフィアフ(金狐)の探索者組合への登録を見届ける。
そのまま先行のオルレア(白猫)、ジャルマリス(黒犬)、アドルフ(ただ耳の人)とご一緒にダンジョン体験へGO。
人間こそが怖いんだぞとか魔物の倒し方とか、先行三人にも改めて言い聞かせる。
「そうだ、ファンガスやったとき、キノコでないなキノコ欲しいなって言ってたよね」
「でたよー、キノコ」
アドルフが腰袋を漁り、差し出された手には、三人にとっては黄金の塊にも近しい『香りのよいキノコ』が握られていた。
オルレア・ジャルマリスとの共同戦果のはずだが、養護院で保管するのは避け、アドルフに持たせていたのだろう。
「アドルフたちがよければ、組合買取値の倍の小銅貨2枚とおまけつきで『交換』するぞ」
「交換?」
ダンジョン産品の買取は探索者組合の利権なので、うかつに『買取』とは言えないことを説明する。
探索者同士の融通は見逃されるというか、組合だって把握しきれないとはいえ、大っぴらにやることでもない。
「うーん?」
「建前は大事ですから」
ダンジョン内でキノコ1本を引き取り、小銅貨2枚に加え4人全員にシリアルバー(チョコ味)をおまけする。
厳密に考えればフィアフに権利はないけれど、仲間外れもなんだしね。
あくまで『おまけ』ってことで。
「にがアマ!」
「これもな、あんまり人様に見せられるものじゃないんで、ここで食べちゃってくれ」
「オルガたちに見つかるとうるさいんだ」
天敵めいた名前に反応した養護院組、ハムハム速度が上がる。つられてアドルフも加速する。
養護院は麦かゆなら腹いっぱい食べられるとはいえ、嗜好品の類はめったに口に入らない。
ヨッシーが手羽先の人と呼ばれるのも已む無しなくらい、肉類などまずあり得ない。
そんな熾烈な争奪戦の中で10歳まで生き延びてきた猛者たちだ。食に対する面構えが違う。
それとは別に、先行三人がフィアフに先輩面しているので、きちんと面倒を見るように頼んでおいた。
「ほんの数週間の差とは言え、先輩は先輩。ケンカはしてもいいが仲良く頼んだぞ」
「「「うん!」」」
ほんの1歳しか違わない大先輩のお言葉に、後輩たちは元気に頷いてくれた。
☆
第六週中休みには、探索科寮の新寮長が選任された。
おひげの育ったヴィルハイム現寮長の卒院(見込み)に伴い、現寮長補から秋季より5年次となるハワードが新寮長となる。
ハワードは、これまた生え始めたアゴヒゲを大事に育てている青年だ。
「寮長にはさ、威厳っていうの必要じゃん」
それがヒゲであるらしい。歴代寮長の伝統なのかもしれない。
なお寮長・寮長補には学院から役職手当が支給されている。
ヴィルハイムやハワードのように、レベルは足りているが学科単位不足で卒院できなかった者が選ばれやすいのは、裏返せば単位取得のために学院にいるから。
生活費はやるから、寮生の面倒をみてねとの意がこめられている。
☆
後輩たちの探索科入学手続きにも付き添った。
広場で待ち合わせ、いざ学内へ。
門衛にビビる姿にオルガたちを思い出して微笑みを浮かべてしまう。
なお、一緒に来たマルク親方は悩まし気。
「おまえ様方へのこんだけの借り、どうやって返すかってことよ」
「僕らより、後輩たちの支援をお願いします」
家具は足りてます。いや、本当に。
そもそも論として持ち物が限られる。
前世みたいに漫画と小説で本棚が床ごと歪みましたとか、押し入れの中はプラモデルの箱で一杯ですとか、そういうのないから。
衣類にしたって、基本は3セットで回している。
紡糸も機織りも縫製も、すべてが手作業ゆえに衣類はけっこうお高いのだ。
庶民は着たきり雀も珍しくない。
頻繁に着替えて洗濯するなんて、潔癖症にもほどがあると思う人もいる。女子受けはいいけど。
セバスは、『すけこまし』も大変だなぁなどと肩を叩かれることもある。
閑話休題。
「うちのアドルフ以外も手回り雑貨くらいはいいがよ、おまえ様方のは土産の対価やらって意味があるからよ。ただでクレてやるのは違うんだよなあ」
「あー……。タダだと勘違いするっすからねえ」
労せず得たものはすぐ失う。
あるいは、苦労して返さねばならぬ時が必ず来る。
先人たちはさまざまな警句を残している。
養護院はね、浄財で運営されているという建前があるからね。
厚意には最大限甘えるのが生業になっちゃっているので、感謝はしても、気持ちや言葉だけ。見返りの実はないのです。
もし実があるとするならば、それは養護院最大の本業である人材供給。
オルガたちはともかく、後輩たちっていう人材を供給していますね。
生かせるかどうかは転生三人組次第でございます。
☆
第十一週には新寮長に後輩たちの部屋斡旋のご相談。
ただし三人が付き添えるのは男子組のみ。
女子組の案内・付き添いはユイに頼んだ。
探索科寮の食堂、いつもの片隅のテーブルで各自を紹介する。
「うちのパーティのユイコニア嬢。愛称はユイ」
「「よろしくー」」
女子寮の責任者への手土産として、手羽先4個を入れた木皿に布巾をかけてユイに渡す。
じゅるっという音とともに、オルレアとジャルマリスの目が木皿をロックオンしている。
「二人で一緒の部屋になるよう頼むだけだけど、先に終わったらここで待っていて」
「……終わったあとでお前たちの分も用意してあるから。それは手土産だかんな」
「「「「「わーい」」」」」
なんでユイちゃんまで……いや、ユイちゃんだものね。
付き添い頼んだんだし、手羽先の2本くらいはね。
え? わたしへの手土産は寮長さんへの半分ですかって?
しょうがないにゃぁ……
男子側の会談では、三人の部屋の隣がいいなあというアドルフとフィアフの希望があっさり通った。
やはり手土産は社会の潤滑油である。
男子の入寮は部屋の空く同週末の無の曜日の昼以降。
女子は部屋が余っているのでいつでもいいとのことだった。
三人は無の曜日なら男子組を手伝える。
女子たちには恨めしそうな目で見られたが、女子寮男子御禁制は絶対の掟故致し方なしにて御座候。
引越し当日、運び込む荷物はほとんどないので、部屋の掃除と、残された家具類の中から粗大ごみを食堂まで運び出し。
配給所から寝藁をとってくるついでに寮の設備を一通り案内。
仕上げに、予備保存していた魔石回収セットの試作品をプレゼント。
売店で売っている量産品は、セットで大銅貨1枚。
こちらはさすがにちょっと、タダであげていい額ではないし、三人にとっても出すのはキツイ額でもある。
「当座はパーティに1つで十分だろうから、女子たちとも相談して」
「わかったー」
男子女子ともに一通りの引っ越し作業の後、食堂のいつものテーブルで、砕いたシリアルをお茶うけに一服する。
同室者と馴染めるといいねえなど雑談をして解散した。




